優れたコンピュータエンターテインメントソフトウェア作品を選考し、表彰する「日本ゲーム大賞」。その中でも、18歳以下のクリエイター発掘を目的として設立されたのが 日本ゲーム大賞U18部門だ(主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA))。第二回大会となる今回も、多数のエントリー作品の中から、選りすぐりの十三作品が予選大会に出場し、決勝大会への切符を争った。本稿では、その予選大会の模様をお届けする。



PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota




今回、クリエイターの卵たちが作り上げた作品を審査したのは、以下の四名。 下田翔大(グリー株式会社)、麓一博(株式会社セガゲームス)、山口誠(株式会社ディー・エヌ・エー)、星野健一(株式会社Cygames)(敬称略)。いずれもゲーム業界の第一線で活躍する、一流のクリエイターたちだ。多数のヒット作を手掛けるプロの視点から、若き才能たちの作品を審査していただくこととなった。 今回は予選大会に参加した十三組の中から、見事決勝大会への切符を勝ち取った七作品について紹介する。



『朝を知らぬ星』







  • 梅村時空さん(N高等学校)



N高等学校在籍の梅村時空さんは小学生の頃からゲーム開発に親しみ、過去には「おてんば少女と学校の迷宮」という作品を制作し、Unityインターハイ2018の本戦にも出場した実力派だ。そんな梅村さんが今回制作したのは、3Dアクションゲーム「朝を知らぬ星」。 太陽が昇らなくなり、人間は地下へと避難し、地上を怪物たちが跋扈する世界で、主人公が地上を人間の手に取り戻すために怪物たちと戦う3Dアクションゲームだ。

「戦闘は比較的難易度が高く設定されていて、敵を倒す毎に爽快感や達成感を強く感じられるようにレベルデザインしています。難易度を高くすると爽快感が感じられにくくなるので、それを防ぐために静と動の対比を大切にしました。敵の攻撃を避けながら、タイミングを見計らって一気に爽快なアクションをきめるというサイクルを作るよう心がけています。」(梅村さん) こだわっているのはシステムだけではない。キャラクターの3Dモデルは全て「blender」で自作し、背景も、植物のように匿名性の高い素材以外はキャラと同じく自作したものだという。さらに、今後はマルチプレイ機能の完成を目標に、ネットワークマルチプレイへの対応や、プレイヤーキャラクターの着せ替えシステムの実装、シナリオの追加など、さらなるブラッシュアップについても考えているという。

「プレイする中で、アクションゲームの基礎の部分がわかっている人が作っているなとわかりました。作品の内容にも期待できるプレゼンの内容だと思いまして、今回選出させていただきました」(下田氏)

『KAISENDOOOON!!!』





田染颯野さん 水上嵩大さん(ヒューマンキャンパス高等学校)

開発者の田染颯野さんと水上嵩大さんは、高校の入学時から一緒にゲームを作っているという二人組のチームだ。田染さんはCG担当、水上さんはプログラム担当と、役割分担をしながらゲーム制作に取り組んでいる。そんな二人が今回開発した作品は『KAISENDOOOON!!!』。ユニークなタイトル通り、海鮮丼をモチーフにした本作は「狙って釣って盛り付けて」をコンセプトに、まずキャスティングパートで狙いを付け、フィッシングパートで海から海産物を釣り上げ、盛りつけパートで丼へと盛りつける。この三つのパートをテンポ良く繰り返していきながら、思い思いの海鮮丼を作り上げてゆくのが本作の主な流れとなる。

「プログラムでこだわった点は、下の海の画面から上の丼の画面に向かって直接魚が飛んでいきますが、この3Dならではの奥行きのある表現を取り入れることによって、「釣っている感」と「作っている感」を表現できるようにしたところです」(水上さん) 「グラフィックにもこだわりまして、メインオブジェクトにはフィジカルベースのテクスチャを使用することで、産地直送感のあるリアルな表現を可能にしました」(田染さん)そう二人が語るように、本作は役割分担をしつつ、それぞれがこだわるべきところにこだわることで、共同作業ならではの完成度を持つ作品となっている。

「壮大なゲーム作りが多くなっていく中、コンセプトがわかりやすくシンプルないい作品だったと思います。一方で、コンセプトに合わせて釣りの快感だったりとか、(丼に魚の種類を)いっぱい乗っけたいという部分とか、そういうところがブラッシュアップされていくことを期待しています」(山口氏)

『Overturn』







  • 松田活さん(函館ラ・サール高等学校)



普段からUnityでゲームを作ったり、モバイルアプリを開発したり、競技プログラミングに参加したりと精力的にプログラミングに取り組んでいる松田活さん。そんな松田さんが今回開発したのは「Overturn」というパズルゲームだ。ルールは非常にシンプル、オレンジ色の三角形を捜査して、青い丸のゴールまで導くという簡潔なものだ。全体がブロックで構成されたステージの中で、自機となる三角形は、ブロックにくっついて右回りか左回りかで移動していく。ステージを構成するブロックにはいくつか種類があり、茶色のブロックは完全に固定されているが、灰色のブロックにプレイヤーが接している場合、それを押して移動させることができる。また、氷ブロックの上では静止することができず、上を滑っていってしまう。さらにゴール条件もポイントで、単にゴールとなる青い丸に触れるだけではなく、青い丸の上で静止する必要がある。シンプルなゲーム内容ながらも、これらの要素がアクセントとなって、奥深いパズル性を生み出している。

「タイトルシーンからゲームシーンへ遷移するときなど、シーン間を移動するときは、単にシーンを切り替えるだけでなく、現在表示されているブロックが落ちたり、新しいブロックが上から落ちてきたりして、新しいシーンを構築します。このブロックが落ちる動きは物理エンジンなどを使わず、自作のプログラムで表現しています」と松田さんが語るとおり、ゲームシステムだけでなく、演出面にもこだわりがみられる。

「非常にシンプルではありますが、完成度が高くて、細かい演出の部分も手を抜かずに完成させていこうという気持ちが伝わってくる作品でした。現状に甘んじず、さらに先を目指しているというところもプレゼンで伝わってきたので、本戦に進んでもらいたいなと思いました」 (星野氏)

『ふにゃごん』

宮崎章太さん、西岡明矢斗さん(神戸市立科学技術高等学校)

プログラミング担当の宮崎さんと、アイデア・デザイン担当の西岡さんは、同じ高校のコンピュータ部の二年生。そんな二人の二人三脚でが制作されたのが、「ふにゃごん」だ。本作は怪獣ふにゃごんを操作し、巨大化させていくことが目的の3Dアクションゲームだ。ふにゃごんは怪獣と言っても、その名のとおりふにゃふにゃした怪獣。操作感も独特で、全てのアクションをスティック一本で実現している。スティックを左右交互に倒してゆくと、ふにゃごんを前進させることができる。広い街を自由に破壊して進み、木や建物を蹴り飛ばしたり、炎で街を焼き尽くすということも可能だ。その度にふにゃごんは色んなものを吸い込んで巨大化していく。クリアしたときの大きさや時間などがスコアになる。また、様々なところにトレジャーアイテムが隠してあり、真っ直ぐゴールを目指す以外にも、アイテム探しの楽しみもある。

「独特な操作なので最初は難しい、でも慣れると楽しい、そんな感覚を目指しました。またスティックをふにゃごんの体に見立てているので、火炎放射などのアクションも自然に実装しています。自由に行動してストレス発散するもよし、ハイスコアを目指すもよし、自由に遊ぶことができるゲームです」と西岡さんは語る。本作では、ふにゃごんの独特なふにゃふにゃ感を出すために、一切アニメーションを使用せず、全ての動きを物理演算に任せるラグドール物理という方法が使われている。ふにゃごんの特徴的な動きを表現するために、細かなこだわりがあるというわけだ。

「(キーの)左、右、左、右、で前進するという操作性が斬新で、最初は難しいと思いつつも、慣れてくると段々動かせるようになっていく快感が、ゲームのすごく基本的なところなので、それがうまく表現できているなと。もうちょっと調整していくと、もっと楽しくなるんだろうなという期待値も込めて、決勝大会進出とさせてもらいました」(麓氏)

『幽体離脱』







  • 伊豫冬馬さん(茨城県立竹園高等学校)



伊豫冬馬さんが発表した作品は『幽体離脱』。タイトル通り、幽体離脱をゲームシステムの核に据えたアクションパズルゲームだ。謎の館に閉じ込められた主人公が、幽体離脱を駆使し、肉体と幽体を切り替えながら「鍵」を手に入れ、館からの脱出を目指すことがゲームの目標となる。肉体はこのゲームにおける障害物である「ランプの光」に弱いため、幽体離脱してそれを回避することが必要である。しかし一方で、幽体離脱には時間制限があり、際限なく幽体のままで居続けることはできない上に、幽体離脱中の肉体は無防備になってしまう。このように、肉体と幽体にはそれぞれ長所と短所があり、状況に応じてそれらの特性を切り替えながら進んでいくというパズル要素がこのゲームの面白さの肝になっている。「幽体と肉体には良いところと悪いところがあり、それらを補い合いながらゲームをクリアしていく、頭と手を同時に動かすゲームになっているんです」と伊豫さんは語った。

さらにゲームシステムだけでなく、世界観にもこだわりがあるという。「幽体と肉体、どちらが自分の本体なのか、そういった混乱をそのままストーリーに落とし込みました。また、それ表現するために、ゲームのBGMにもこだわっています。ストーリーのゆく先を暗示する旋律をこころがけました」と伊豫さんが語るように、BGMの中にも肉体を表すフレーズと幽体を表すフレーズが交互に織り込まれている。

「テーマ性がすばらしいと思ったというのと、お客さんのことを考えながら作られているというのが素晴らしいと思いました。これからさらに幽体離脱というもののプレイ感を突き詰めていってもらえればと思います」(下田氏)

『手裏剣 Jump』







  • 池上颯人(横浜市立美しが丘小学校)



今回の予選出場者の中で最年少の池上颯人さんは、小学五年生にしてunity歴二年。さらに昨年度開催された2018「U18部門」でも銀賞に輝いた実績を持つ実力派だ。そんな池上さんが今回制作したのは「手裏剣 Jump」という、忍者を主人公に、手裏剣をアクションの要とした爽快感あふれる3Dアクションゲームだ。

「手裏剣を投げてできることは三つあります。一つ目は当てた敵を倒せること。二つ目は、跳ね返ってきた手裏剣に当たってジャンプすること。三つ目は、アイテムを取って技を発動できることです」と池上さんが語るように、「手裏剣を投げる」というひとつのアクションに複数の役割を持たせることで、手裏剣を投げるボタンひとつと移動する方向を決めるスティックだけで操作が完結する、シンプルな操作方法と幅広いアクションを両立させることに成功している。このようにアクション内容はシンプルな一方で、ステージ内には様々なギミックや敵キャラが配置されており、「分身の術」や「隠れ身の術」など、忍術を駆使しながらステージを駆け抜けていくアクションゲームとしての楽しさは十分。また、シナリオにもこだわりがある。ステージの合間にキャラ同士の掛け合いが挟まることで、息抜きとともにコミカルな世界観を楽しむことができる。

「去年に引き続き二度目の決勝大会進出おめでとうございます。ゲーム内容ももちろんのこと、プレゼンも含め全体的にレベルが上がっていて、評価させていただきました。ゲーム内容がすごく面白いぶん、さらにブラッシュアップできると思います」(山口氏)

『shotlix』

鎌谷天馬さん、池田逸水さん、改野由尚さん(N高等学校)



シューティングゲーム「shotlix」を開発したのは、同じN高等学校に通う鎌谷さん、池田さん、改野さんの三人組。これまでも三人でプログラミングコンテストに出場するなど、このチームでの活動を続けてきた。鎌谷さんがリーダーでゲームシステムを担当、池田さんがゲーム設計やUIデザインを担当、改野さんがマネジメントやインフラを担当と、それぞれ役割分担がなされている。 本作「shotlix」は、自動で進んでいく自機を十字キーで操作しながら、おじゃまブロックを銃弾で消したり避けたりしつつ、数字を集めてハイスコアを狙うというゲーム性となっている。

「shotlixの魅力としては、まず十字キーとスペースキーで操作が完結しているので、直感的な操作ができます。さらにゲーム性もシンプルでありながら奥が深く、銃弾というリソースを上手く管理したり、おじゃまブロックを消すか消さないかの判断もスコアに影響してきます」更にはランキング機能やSNSでの共有機能も実装しており、他のプレイヤーとスコアを競うこともできる。また、平均プレイ時間が一分もないくらいと、手軽に遊べるのも魅力となっている。

「試遊の段階でも非常に完成度の高い作品だと思っていたんですけど、今回プレゼンで改めて、チームで作っていて、しかもしっかりと完成させて、沢山の人に遊んで貰うということを見据えて作っているんだなあということが伝わってきました。まだやりたいことが沢山あると思うので、決勝大会に向けてしっかりとブラッシュアップさせてください」(星野氏)

こうして、予選大会に出場した十三作品の中から、厳正な審査によって、上記の七作品が次なる決勝大会へと進出することが決定した 最後に、審査員の方々の、本予選大会を振り返ってのコメントを紹介して締めくくりたい。



「去年と比較しても全体的なレベルが上がっていて、本当に凄いと思いました。去年の大会で発表された作品をみんなが見て、これを超えなければいけないと思った結果ではないかと思います。U18部門か゛どんどん育っていくことを、非常に嬉しく思っています。ゲームを作るというのは自分の独善的なところだけでは成り立たないところがあります。友達にプレイしてもらうとか、周囲の人たちの言葉を謙虚に聞きながら、どういうものがみんなに受け容れられるんだろうということを考えながら試行錯誤していくプロセスというのは、この先人生において物凄く大事なことだと思います。この機会に、周囲の意見を聞いてブラッシュアップするということに眼を向けていただければ嬉しく思います」(下田氏)

「今回試遊しててもゲームの完成度が高いなと思う一方で、完成してなくても出てきてる作品もありまして、U18部門の敷居というのはそんなに高くないんだよというのは改めて思いました。チームの構成も、一人で作る方から、マネージメントも入れるようなチーム構成まで幅広かったというのは、U18部門としても意義があったかと思います」(山口氏)

「今回決勝大会に進むことができなかった人たちも来年チャレンジして欲しいですし、賞レース以外でも世の中に出していくという方法はいくらでもあります。今回悔しい思いをした人も、これからも作品作りをやっていってもらいたいと思います」(星野氏)

「私は今年から初めて審査をさせていただいたんですが、本当に大変ですね笑。今回は残念だった方も、諦めずに作品を完成させて欲しいですね。何かしらの形で作品を完成させて、世に出して、フィードバックをもらって、また新しい作品を作っていくという、いい感じのスパイラルに乗っかっていければ、これだけ完成度の高いゲームを作れる若い世代がいるいうのは、日本のゲーム業界も将来は明るいなと、期待しております」(麓氏)



審査員の方々が語ったように、今回の予選大会に選出された作品はどれもハイレベルなものばかりだった。激戦となった予選大会を見事勝ち抜き決勝大会へと駒を進める七作品は、どれも決勝大会までの間に更なるブラッシュアップが期待される。若き才能たちの更なる飛躍を期待しつつ、来たる決勝大会にもぜひとも注目していただきたい。