9月28日(土)、秋葉原のUDX GALLERY NEXTにて、アニメ制作技術に関する総合イベント「あにつく 2019」が開催された。「イラストレーターのウラバナ!出張スペシャル」と題されたセッションには人気イラストレーターの米山 舞氏、PALOW.氏、BUNBUN氏、abec氏らが登壇し、彼らが所属するクリエイティブスタジオ「SSS by applibot」の様子やこれまで手がけた作品の解説、仕事への心得などの話題が展開された。

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TEXT&PHOTO_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

スタジオで共同作業する人気イラストレーター集団

この講演はクリエイターユニット「COJIRASE LUNCH BOX」のクリエイティブディレクター宮本祐輔氏がMCを務める動画配信番組『イラストレーターのウラバナ!あにつく2019出張SP』の公開配信として行われた。

宮本祐輔氏

登壇した米山 舞氏、PALOW.氏、BUNBUN氏、abec氏ら4名のイラストレーターが所属する「SSS by applibot」は、サイバーエージェントグループのapplibotが2019年に設立したクリエイティブスタジオで、彼らの他に『ポケモンカードゲーム』、『ポケットモンスター サン・ムーン』キャラクターデザインの7ZEL氏らゲーム・アニメ・ライトノベルなどで活躍するイラストレーターが集い、スマートフォンゲームの世界観構築、キャラクターデザインやコンセプトアートなどのデザインを手がける。実際の作業もスタジオ内で机を並べて行い、全員で話をしながら進められていくという。

自己紹介につづいては登壇者それぞれが、自らの代表的な仕事について解説を行なった。米山氏は2013年に放送されたTVアニメ『キルラキル』。彼女が初めてシリーズを通して作画監督を務めた作品だ。今石洋之監督、キャラクターデザイン・すしお氏という強力な体制で作られた本作には凄腕のアニメーターが続々集結していた。自分よりも上手い人たちの絵を活かして修正作業を行うことに対するプレッシャーを日々感じており、ときには帰宅して涙を流した日もあったという。

米山 舞(ヨネヤママイ)
2007年に株式会社ガイナックスに入社し、アニメーターとして活動。2017年からイラストレーターとしても活動の幅を広げる。代表作は、アニメ『ダーリン・イン・ザ・フランキス』ED演出、『キルラキル』作画監督や、ファミ通文庫『海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと』装画など

本作では「頭を柔らかくして作画をする」ことが求められ、実際の人体の曲がり方は気にせず画面の勢いを優先して描いていた。そんな米山氏はabec氏が原作イラストレーションを手がけた『ソードアート・オンライン』(第8話『黒と白の剣舞』)の作画監督を務めた経験をもつ。後に「SSS by applibot」に所属した際に、スタジオでabec氏が彼女のイラストを参考に版権イラストを描いていたという逸話も披露された。

abec氏は「アニメーターさんは画的表現の頂点のひとつ」というリスペクトがあり、アニメ化ではキャラクターデザイナーらにまかせ、求められた質問に答えることを除いて意見を述べないというスタンスだ。これは「原作サイドの要望が通ってしまいすぎても良くない」という意図もあるという。結果、同作のアニメ化では「自分が想定していなかったものが出来上がって、あとで描くときに参考にしている。これがメディアミックスの良いところ」と話す。

abec(アベシ)
フリーランスのイラストレーターとして、ライトノベルの挿絵やゲームのキャラクターデザインを行う。代表作は『ソードアート・オンライン』、『ブレイブリーセカンド』キャラクター原案など。今回はぬいぐるみとして登場

BUNBUN氏は原作でのイラストレーションを「表紙と口絵は映画の予告編のようなもの」と、まずはイラストで魅力を与え小説に興味をもってもらうためのものとして考え、整合性よりもイラストとしての完成度や勢いを重視していると語る。

アニメオリジナル企画のキャラクターデザイナーとしても活躍するBUNBUN氏は、キャラクターデザインの仕方も企画によって様々であると話す。『終末のイゼッタ』では脚本を受け取ってからデザインするというライトノベルに近い方法だったが、『結城友奈は勇者である』の場合は、キャラクター名と性別ほか4行程度の設定しかなく、魔法少女が変身するシーンまで氏が考えたという。これは岸(誠二)監督らによるBUNBUN氏のクリエイティビティを引き出し作品に落とし込むための発注の仕方だった。

BUNBUN(ブンブン)
フリーランスのイラストレーターとして、ライトノベルの挿絵やゲームやアニメのキャラクターデザインを行う。代表作は『サクラクエスト』、『結城友奈は勇者である』、『終末のイゼッタ』キャラクター原案など

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短期制作のTVCM仕事に対応するイラストレーターの仕事術

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短期制作のTVCM仕事に対応するイラストレーターの仕事術

つづいてPALOW.氏は「専門学校HAL」の2016年度TVCM『嫌い、でも、好き』篇での仕事をふり返った。氏の代表作である「虫メカ少女」がきっかけで依頼されたこの仕事。一般的に制作期間が短いCM仕事とあって、吉崎 響監督(スタジオカラー)の絵コンテを受け取って1週間ほどで三面図を描き上げた。これはもともと「虫メカ少女」の際にキャラクター図面を描いていたからこそ実現できたことだった。

PALOW.(パロウ)
高校卒業後、フリーランスとして、キャラクターデザインやコンセプトアートを中心に制作を行う。代表作はHAL東京の2016年度TVCM『嫌い、でも、好き』篇や、『League of Legends』2018 animation PVのキャラクターデザイン、「虫メカ少女」シリーズ、VTuber 花譜(KAFU)など

「虫メカ少女」

吉崎 響監督による絵コンテ

PALOW.氏による三面図

さらにPALOW.氏は作中の蜘蛛の巣をデザインした。これはこのCMで音楽を担当するTeddyLoidのアイコンを基にした三角の蜘蛛の巣という独特の仕上がりに。さらにモデリングのラフが仕上がって来た際には監修も行なっており、エフェクトや環境光などの修正提案も披露された。

スタートから3週間ほどという驚きのスピードで仕上げられた本作についてPALOW.氏は「映像制作会社のTRICK BLOCKさんと吉崎監督がお互いに勘どころをわかっていたおかげで、短時間で素晴らしい効果を発揮したプロジェクトに」と語る。MCの宮本氏から監修の的確さの理由を聞かれたPALOW.氏は、自身がアニメ好きであることに加え、アニメーターの永江彰浩氏(『ペンギンハイウェイ』作画監督)が高校時代からの親友でアニメの仕事への理解度が高かったことも挙げた。さらにPALOW.氏は「ゲーム制作を通じて3DCGへの知識があったことも大きい」と話した。

「SSS by applibot」では企画側に回ることも多いというPALOW.氏は「米山さんやBUNBUNさんみたいに多くの人に親しまれて納得させられる絵を描く方がいると無茶な作戦が通る」と話す。米山氏は「PALOW.さんは脚本も書けるし企画もできる特殊なイラストレーター」、「お互いに特性を知った上で企画を形にすることでスムーズに行える」と話し、「お互いに学ぶことが多い」と、イラストレーターが集まって共同で仕事をすることのメリットを挙げた。

4者の話題は尽きないが、この日の講演は50分と限られた枠であったため、「延長戦」の配信が11月8日(金)にニコニコチャンネル「COJIRASE LUNCH BOX」で行われる予定。配信開始時間は「COJIRASE LUNCH BOX」公式Twitterにて発表される。