「アクションVコン(ビデオコンテ)」をご存じだろうか? 実写VFXやモーションキャプチャを用いたリアル系フルCG案件では定着しつつあるが、アニメ『モンスターストライク』(以下、モンストアニメ)のようなキーフレームアニメ作品への導入は珍しい。その導入のねらいと効果は? 心情描写におけるフェイシャルへのこだわりと併せてアニメーション制作の舞台裏にせまる。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 253(2019年9月号)からの転載となります。
TEXT_大河原浩一 / Hirokazu Okawara(ビットプランクス)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
【PV】モンストアニメ 『ノア 方舟の救世主』【モンストアニメTV】
YouTubeにて全話無料配信中。モンストアニメ最新話は、毎週土曜19時にアニメ『モンスターストライク』公式YouTube公式チャンネル(モンストアニメTV)にて公開
モンストアニメTV
アクションVコンは、参考ではなく"正解"である。
モンストアニメの『ノア 方舟の救世主』(以下、ノア編)では、実写アクションの醍醐味あふれる戦闘描写が特色となっている。ドラマシーンではモーションキャプチャをベースとしたアニメーションのワークフローが採用されているが、この戦闘シーンではモーションキャプチャを原則使用しないワークフローになっており、アクション監督を務めるユーデンフレームワークス(以下、ユーデン)/園村健介氏による「アクションVコン」と呼ばれる映像がアニメーション作業の指針となっている。園村氏はこれまで多くの作品のアクション監督を務め、自らVコンの撮影から編集まで手がけているが、モーションキャプチャを使わないシーンでのVコン制作は初めてだという。「アクションVコンは、監督やスタッフたちにどんなアクションシーンを描こうとしているのかより効率的に伝えるためのコミュニケーションツールとしてつくり始めたものです。自分がユーデンに入ったとき(2003年頃)にはすでに導入済みでした。実写作品だけでなく、CGアニメーション作品の制作にも活用しているのですが、Vコンを参考にCGアニメーションを作成してもらうと、"綺麗すぎる動き"になりがちで、自分たちがVコンに込めた熱量や生身のアクションならではの粗さといった、"雑味"がどうして失われてしまうのだろう? という疑問をずっと抱いていました」と、園村氏は語る。
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左から、本橋啓太氏、篠原昂太氏、青柳友恵氏、藤本 澪氏、渡辺このみ氏(アニメーションSV)、松木紫葵氏、園村健介氏(アクション監督、ユーデンフレームワークス)、松本佳奈氏、太田杏奈氏(リードアニメーター)、久保市和氏、小井土趣華氏、片平汰生氏、樋口菜穂子氏
ユーデンフレームワークス
udenflameworks.com
@udenfw
そこで本作では、そのアクションVコンを雑味まで含めて忠実にCGアニメーションに反映させることがテーマになったと、CG監督の斎藤氏は語る。
「アニメーションを作成するリファレンスとしてはまず絵コンテがあるわけですが、絵コンテにはパンチするようなアクションが描かれてても、どのようなパンチなのか、強さや速さなど演技プラン的な情報をそこから読み解くのは困難です。モーションキャプチャについても動作自体はデータ化できますが、カメラワークやアングルの情報は含まれないため、情報変化量の制御が難しいCGでアクションレイアウトを完成させるにはそれなりの経験が必要とされます。それに対して、園村さん(ユーデンフレームワークスさん)のVコンは、画として仕上がっており、動きのタメツメやスピードといった動きの情報だけではなく、カメラワークや構図、カット割りのタイミングまでつくり込まれています。監督、レイアウター、アニメーターによる細かな情報交換が必要とされる条件を全て網羅された状態で提案されているので、アサインされるのがアニメーターだけでも迷わず演出意図を汲み取ることができました」。
アクションVコンを忠実に再現する
アクションVコンと完成映像を比較したもの。斎藤CG監督が掲げた「アクションVコンは、参考ではなく正解」という方針の下、Vコンに込められたエッセンスが、忠実に反映されたことがわかる。アクションパートのアニメーションでは、いかにVコンテのケレン味をCGアニメーションで再現できるかということが目標となったが、アニメーションSVを務めた渡辺このみ氏とリードアニメーターの太田杏奈氏の両氏は、特撮アクションに馴染みがなかったので、まず特撮の格好良さはどこにあるのか研究を重ね、特撮アクションの醍醐味(園村氏いわく"雑味")を活かしたビジュアルを目指したという
人間ならではの動きにCGならではのダイナミズムを
第1話序盤の見せ場となる、子猫を助けようとするノア(CV:斉藤壮馬)が敵キャラ「アダプター」と戦うシーン向けアクションVコンの場合は、事前のプランニングに1日、撮影に1日、そして編集作業に3日を費やしたという。
「ノア編のアクション演出では、ノアが敵にやられながらも必死に立ち向かっていく。ジャッキー・チェンのカンフー映画を彷彿とさせる滑稽な演技も織り交ぜたアクションを目指しました」(園村氏)。
アクションチームがVコンを制作することは、国内でもかなり浸透していると思うが、ユーデンのVコンはつくり込みの度合いが素晴らしい。アダプターは複数の触手をもった植物のようなキャラクターだが、その造形を段ボールで的確に再現。さらにキーとなる攻撃や破壊エフェクトもしっかりと加えられているのだ。
「ユーデンには、特撮作品の造形を手がけていたというユニークなキャリアのアクターも在籍しているので、わりと凝った小道具やミニチュアも自作できるのです。撮影カメラは自分のiPhoneだし、使っているソフトは、Adobe Premiere Proだけです。Vコンテは基本的に人間が行える範囲の演技で撮影したものなので、CGアニメーション制作では、アクション演出の意図を汲み取っていただいた上で、ライブアクションでは不可能な動きはCGで存分に拡張してもらっています」(園村氏)。
例えばノアが攻撃をかわしながら、アダプターの周りをぐるりと回り込むアクションでは、可変の度合いや移動距離がVコンよりも強調された。逆に、ユーモラスさを併せ持ったノアが必死に攻撃をかわす動きやポーズなど、"雑味"についてはアクターの演技を忠実に再現することが目指された。
「今回のワークフローには手応えを感じたので、将来的にはアクション部とCG部、実写部が、互いの持ち味をさらに発揮できるかたちで一体化できるようなワークフローを構築していければと思っています」(園村氏)。
「1話・序盤の戦闘シーンでは、ノアが触手に巻き付かれる芝居を入れたいと園村さんから相談を受けました。めり込み解消などCG的には高コストの芝居になるため、園村さんには『そのコストに見合う意味のある表現にしてください』とお願いさせていただいたところ、園村さんは素晴らしい描写に仕上げてくださいました。このように、動き、カメラワーク、そしてカット割り。最終的なビジュアルとしての正解が、園村さんのVコンテには込められているのです」(斎藤氏)。
センス・オブ・ワンダーならぬ、"センス・オブ・アクション"を導き出す
アクションVコンの作業UI。園村氏の場合、編集/合成作業はPremiere Proで完結しているとのこと。「撮影も編集も完全に独学ですが、デザイン系の高校で学んだことが役立っているのかもしれません」(園村氏)。アクションシーンの前後は絵コンテが描かれているため、入りは絵コンテに合わせるが、中身についてはシナリオのト書きをふまえつつ、自由にプランニングしているそうだ
第1話・序盤の戦闘シーンで、斎藤氏が特に気に入っているのが、図のアクション。ジャンプしたノアを捕食しようとするアダプターの攻撃を危機一髪のところでかわしたノア。そのピーンと伸びた両脚やアオリの構図などCG側では思いつかないような演技プランや格好良い構図が本アクションVコンの醍醐味と言える。本文でふれたとおり、ノア編のアクションシーンのキャラクターアニメーションは全てキーフレーム(手付けで)作成されている。近年、キャプチャやスキャン技術の発展により現実世界の事象のデータ化が盛んだが、ことセンスについては、人間による手作業に一日の長があると言えそうだ。なお、本作のキャラクターリグ&セットアップはStudioGOONEYS自作リグが用いられている
『ノア 方舟の救世主』第1話・アクションVコン(冒頭の戦闘シーン)
ノア 方舟の救世主 第1話【モンストアニメTV/シリーズ第45話】
先ほど紹介したアクションVコンに該当するシーンは、3:53過ぎから
"熱量"を損なわないワークフローを求めて
言うまでもなくフルCGで物語を描く上ではアクションだけでは成り立たない。ドラマ、つまりはキャラクターたちの心情を効果的に描く必要がある。フェイシャルには特にこだわっているという、StudioGOONEYSアニメーションチームの取り組みを紹介しよう。
全カットのステータスを明確に定める
アニメーションのワークフローは、まずアクションとアクティング(ドラマ部分のキャラクターアニメーション)に分類される。アクションパートについては、Vコンテを基にレイアウトが作成され、同時にアニメーションの作業に入る。こちらのレイアウトはワークフロー内では「レイアウトB」と呼ばれるもので、すでにアクションVコンテで提示されているため、それに合わせてアニメーターがシーンを構築してCGアニメーションを作成していくというながれだ。
一方のアクティングパートは、絵コンテを基にしてモーションキャプチャでアニメーションデータが作成され、絵コンテに合わせてシーンが構築された「レイアウトA」と呼ばれるレイアウト工程を基に、キャプチャデータを利用したアニメーション作業が行われるというワークフローが採られている。
アクティングパートのワークフローで特徴的なのは、カットごとにステータス管理を行い詳細なコスト見積もりが試みられている点だ。ステータスは「モーションキャプチャのリダクションだけでOKなカット(ステータスA)」、「コンストレイン+タイミング+αの修正が必要(ステータスB)」、「モーションキャプチャの演技プランだけを採用(ステータスC)」、「キャプチャデータが使えない・使わない(ステータスD)」の4つに分類されている。ステータスの判断はキャプチャ収録時に斎藤氏がジャッジしている。
「今回カットごとにステータス管理をしたのは、スケジュールがタイトであることに加え、規模が大きく、多くのデザイナーが関わっていくことを想定した施策になります。なお、キャプチャ現場でのステータスと絵コンテの情報のどちらが正しいのかについても、ここで補足します。作業時の演出変更を未然に防ぎつつ、クライアントへのクオリティ保証を考えてのことでした。ステータスは香盤表で管理していますが、修正の範囲は担当者に委ねている部分もあるので、アニメーターが自発的にリテイクを行なっているカットもあります」(斎藤氏)。
StudioGOONEYSのアニメーション班は約10名。アクションシーンについてはVコンという確かな指針があるため、ドラマシーン、特にフェイシャルをいかに効率良く作成していくのかが主題になったという。「半数以上がキャリア3年以内だったので、まずはフェイシャル作業と仕事を進める上での心がまえについてのレクチャーを行ました。技術的なことだけではなく、アニメーターとしての課題や監督などからのフィードバックへの対応の仕方など、仕事への向き合い方なども説明していきました。各自がもっている知識や技術を出し合い、チームとしての総合力を高めていくなかで、ツール機能について先輩が1年目のスタッフに助けられているといった場面もあり、とても良いチームだと思います」と、アニメーションSVを務める渡辺このみ氏。
ステータス管理に基づいたアニメーション作業
ステータスA〜Dごとの、絵コンテ、レイアウト、完成形の比較図
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ステータスC。ケセド(CV:千葉 繁)は頭身が低いキャラのため、キャプチャデータとしては演技プランのみを使う想定であったが、細かな動きまでは拾うことができずほぼ手付けのアニメーションとなった
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オペコ(CV:田所あずさ)は、キャプチャ収録後にキャラクター性の修正が入ったため、演技自体が手付けでつくり直された
フェイシャルライブラリ
ターゲット作成に先立ち、XFLAG PICTURESから提供されたデザイン画や絵コンテから、必要な表情を精査するために作成したリストの例
太田氏が作成したフィシャルアニメーション用ライブラリ(ブレンドシェイプとコントローラで作成)。このライブラリを基に、リップシンクの合わせ方やカメラワークに応じたポーズの見せ方、歯の見せ方や目線の動かし方など、実演を伴ったレクチャー会が実施された
アニメーションメイキング
フェイシャル作成の例。(左図)ターゲットモデルのみ使用/(右図)リグで位置調整などを加えてブラッシュアップした状態
フェイシャル作成ルールの例。女性キャラ、特にパンドラ(CV:小倉 唯)などのような若い年齢の場合は下の歯よりも上の歯を見せた方がかわいさが増すため、このルールに基づき作成されている
オペコの見え方の調整例
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