昨年12月15日(日)に開催された「UE4 Enviroment Art Dive」Epic Gamesが主催する背景アート制作にフォーカスしたこの勉強会は、昨今のUE4と同社の勢いを示すように定員をはるかに超える申し込みがあり、大変な盛況となった。4つの講演の概要をレポートする。

TEXT&PHOTO_岸本ひろゆき / Hiroyuki Kishimoto
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

UE4を活用した様々な背景制作のアイデアに"Dive"する4時間

2019年はUE4製AAAタイトルのリリースも相次ぎ、日々勢いに乗るEpic GamesとUnreal Engine。Joseph Alterのヘア・ファープラグイン「Shave and a Haircut」、Quixelの膨大なアセットライブラリ「Quixel Megascans」といった買収したプロダクトの無償提供、世界中の開発者に1,300万ドルもの資金援助を贈るEpic MegaGrants(受賞者は200名を越え、日本人クリエイターも含む)を発表、Blender Development Fundへの「Patron」レベルでの出資など、開発者・制作者のコミュニティを支える動きにも余念がない。年に2回開催される「Unreal Fest(East / West)」などをはじめ、登壇のあるイベントの講演資料・動画は一部を除きほぼ共有されるなど、情報公開の精神が徹底しており、UE4無償化発表とともにソースコード公開に踏み切った頃から通底するミッションめいたものを感じさせる。

「UE4 Environment Art Dive」はそんなEpic Gamesの主催により、2019年12月15日(日)に開催されたUE4での背景(Environment)アート制作にフォーカスしたイベントだ。イベントの名称的に、ライセンス契約を結んだユーザー向けに開催されている「Deep Dive」シリーズ(Localization / Material Management / Lightmass / MultiPlayer Online)との関連を感じさせるが、こちらはより間口を広げ誰でも参加可能。定員の倍にも及ぶ申し込みがあり、急遽壁際や通路などへ席の追加が行われる盛況ぶりだった。

当日は講演の画面がライブ配信され、資料はすでに動画・スライドともに公開されている。いずれも実践的な内容が豊富に語られ、ぜひそれぞれの詳細を確認していただきたいが、動画は各コマ1時間程度、スライドは平均約170枚と確認するだけでも一苦労だ。ここでは各登壇内容のアウトラインをなぞりつつ、当日の空気をレポートしたい。

01:UE4で学ぶ水中表現

1コマ目はEpic Games Japan(以下EGJ)Technical Artistの小林浩之(はのば)氏による作例「UE4で学ぶ水中表現」

小林浩之氏(Epic Games Japan)
www.epicgames.com/site/ja/home

先行してTwitterに投稿された8秒のデモ動画は11.6万再生、1,200を超えるRTと大きな注目を集めた。メキシコ・ユカタン半島の水没した鍾乳洞地帯に点在する天然の井戸「セノーテ」を題材にしたリアルタイム作品で、目指した画づくりは「水上、水中の両方から見ても破綻しない」、「リアルな水中表現」の2点。

Twitter投稿時点では水中が撮影されているが、そこからカメラを上に動かしてちょうど水中と水上の境目に来たとき、どちらもが同時に高い水準で表示されるよう調整されていた。具体的には「水面(面)」、「水面(裏)」、「水中(断面)」、「境界線」という4つのメッシュとそれぞれのマテリアル、ポストプロセスによるフェイク表現だが、特に境界線メッシュをはじめとする工夫は大変興味深く、アイデアが画を良くする様子を目の当たりにできる講演となった。

セノーテを題材に選んだ理由としては、かねてから注目しており、つくりたかったことと、岩・砂地・水没した木など構成要素が限られる、という点が挙げられた。これらの表現にはMegascansを利用したため、よりしくみや画づくりに時間を配分することができたとのこと。

なお、今回は水中を題材とした小林氏だが、月刊CGWORLD vol.242(2018年10月号)の第1特集「UE4プロフェッショナルへの道」では植栽豊かなサンルームを制作している。セノーテはルック優先で処理負荷対策などはされていないが、サンルームは各種処理負荷対策への言及もあり、併せてご覧いただきたい。

02:ファンタジー背景グラフィック制作事例

2コマ目はプラチナゲームズ 背景アーティスト 橋本 竜氏「ファンタジー背景グラフィック制作事例」。個人の趣味として制作していたというファンタジー背景のメイキングだが、こちらもTwitterでの投稿時には、まるで一枚絵のような見事な景観とそこを歩くプレイ動画が大きく注目された。

橋本 竜氏(プラチナゲームズ)
www.platinumgames.co.jp

橋本氏は仕事とは関係なく「表現の検証」を目的にUE4を使用。今回の作例も、ボリューメトリックフォグが使用できればOKということでバージョン4.20で制作されている。強力な機能が矢継ぎ早に追加される昨今の制作ツールは情報を追いかけるだけでも一苦労だが、橋本氏も「UE4の進歩が早すぎてついていけていない状況です(苦笑)」と心情を吐露する場面もあった。ユーザーとしてはうれしい悲鳴かもしれない。

制作は、ベースとなる起伏をWorld Machineで作成するところからスタート。ハイトマップでUE4へもち込み、UE4上でも追加でスカルプトしている。ここで歩き回りながら画になりそうなアングルを決め、その場所をベースに作り込み始めるという。地面のマテリアルはSubstance Designerで作成。

メインの岩山は、印象的な地形だが専用で作成しておらず、岩アセットを拡大縮小しながら組み合わせて構成している。「本来は専用でつくった方が良いかなと思うんですが、今回は基本的にあまり順光で光を当てないでシルエットで見せるようなつもりだったので」との橋本氏の発言に端的に表れているが、完成イメージからアート的な要件を把握しアセット制作量を見切る、という簡単そうでなかなかできないことが随所で語られた。特に終盤の画づくりについての話題では、UE4に関するスキル云々を逸脱して普遍的に大事な構図、ライティングの方針、フォグによる空間感の分離など、なかなか言語化される機会に出会うことが少ない知見が披露された。

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03:UE4でプロシージャル田植え 〜MegascansとHoudiniEngineを添えて

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03:UE4でプロシージャル田植え 〜MegascansとHoudiniEngineを添えて

休憩を挟んで3コマ目。Epic Games JapanのDeveloper Relation Technical Artist 斎藤 修(ずし)氏による「UE4でプロシージャル田植え 〜MegascansとHoudini Engineを添えて」は、一見シェフの気まぐれフレンチ風ながら、小気味良い関西弁トークが笑いを誘う楽しい一コマとなった。

斎藤 修氏(Epic Games Japan)
www.epicgames.com/site/ja/home

MegascansアセットをHoudini上で分解・仕分けして再構成し「稲ではない植物で田植えをする」(あえて言い方を選ばなければ、"稲を捏造する")アプローチ、また実際の完成画像は実に田んぼらしく見えるあたりも含めて非常に興味深い。稲だけでなく浮草も別の植物の転用とのことだが、何を元にしたかはぜひトークが軽妙な動画の方でご確認いただきたい。

主軸となっているのはタイトルの通り「Megascans」、「Houdini Engine」によるプロシージャルなアセット生成、素材生成(Houdiniでのフローマップ生成やHoudini版Pivot Painterの紹介など。ちなみにメダカはNiagara製魚群の応用)だが、後半UE4がメインになってくると、自身のアドベントカレンダーのダイレクトマーケティングを小出しに挟みつつ様々なTipsが披露された。便利なHue Shiftの座標変換による内部処理に言及した「色ズレ問題」 などは、考えればその通りだが多くの人が膝を打ったのではないだろうか。

マシンパワーの関係で実現しなかったというプロシージャル棚田へのプロシージャル田植えだが、いつかその状態での完成版も拝見したいところである。

04:UE4をレンダラとした 趣味的スピード背景ルックデブ

最終4コマ目は 車高短ゲームス 西下誠哲氏による「UE4をレンダラとした 趣味的スピード背景ルックデブ」。毎週日曜の午後に自主制作を重ねる中で培ったという、UE4のレンダリング周りの知見が大小惜しげもなく開陳された。ここ数年の成果物が対象となるため、使用バージョンは4.8〜4.23と幅広い。

西下誠哲氏(車高短ゲームス)

「UE4をレンダラとした」というタイトルの通りライティング・レンダリング以降により比重が割かれており、実際にコーネルボックスを作成するところから始まり基準となるライティング環境の追求、Sunny16Ruleに基づいた露出の決定などの研究成果が次から次へと共有された。

半透明風不透明のテスト動画

趣味の制作では特に「屈折」、「反射」、「コースティクス」、「GI」にこだわっているという西下氏。不透明ながら向こうが透けているように見えるフェイク表現の検証について、抜粋版がTwitterに投稿されており仕上がりを確認できる。フェイクなので実際のゲームに使うには破綻が懸念されるが、処理的には実際に投下しているわけではないので軽量となっており、角度が限定されるなどの条件次第では実用の見込みもあるかもしれないとのこと。

さらに登壇後に投稿されたテスト動画

このほか時間も迫ってきた終盤は、様々なTipsが駆け足で紹介されるかたちとなった。多岐にわたる内容が高密度に記載されているため、スライドをじっくり読んでみていただきたい。

今回は背景アートを題材に開催された「Art Dive」だが、2020年は他の切り口での開催も企画中だという。公式からの発表に目を光らせつつ、興味のある題材の際にはぜひ席が埋まる前に参加登録していただければと思う。