1900年の創業、東京タワーや東京スカイツリーなど、日本を代表するランドマークを数多く手がけてきた日建設計のビジュアライゼーション専門家集団「CGスタジオ」の事例を紹介しよう。その多彩な表現技法は、さらなる広がりをみせている。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 258(2020年2月号)からの転載となります。
TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン)
EDIT_沼倉有人 / Numakura Arihito(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
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表現に応じた技法の使い分けと、習作によるR&D ~ 日建設計 CGスタジオ
日建設計CGスタジオ展『Visualize+ 建築を伝えるちから』
会期:2019年9月30日(月)~2019年11月29日(金)
入場:無料
会場:日建設計 東京ビル 1階ギャラリー(東京都千代田区飯田橋2-18-3)
問:日建設計 広報室 webmaster@nikken.jp
表現技法だけでなく、活動領域も拡張している
日建設計は社内にビジュアライゼーション専門の部署「CGスタジオ」を擁している。そのルーツとなるプレゼンテーション専門部署は、なんと50年ほど前に誕生。近年では、表現手法がCGイメージ/アニメーション(プリレンダー)だけでなく、VR等のインタラクティブコンテンツ(リアルタイムCG)にまで広がりをみせていることを受け、3年前に「CGスタジオ」へと改められた。
「以前は、その名の通りCG表現を求められていましたが、最近ではプロモーション要素の大きなコンテンツを制作する機会も増えてきました。その意味では社内における広告代理店、制作プロダクション的な役割も高まっています」と、CGスタジオ室長代理の澤良木公一氏は語る。
左から、内田信隆氏、松枝大貴氏、渡邊和明氏、西川史朗氏、浅井千恵氏、二階智子氏、古山篤志氏、吉田 哲氏、山賀孝裕氏、北嶋嘉子氏、小松篤人氏、濵野智明氏、田中雅広氏、長橋孝一氏、澤良木公一氏、山村陽子氏、中川一晃氏、山崎正登氏、青山晴香氏、太田琢也氏、小林周平氏、和田浩平太氏、中尾寿利氏、宮川健太氏。以上、日建設計 CGスタジオ
www.nikken.co.jp
現在、東京、大阪、名古屋の3拠点に20名のクリエイターが在籍しているとのこと。全メンバーが画づくりだけでなく、プロジェクトの進行管理も兼任でき、小規模案件ではひとりで完結することもあるそうだ。
そんなCGスタジオのモットーは「どんな難問にも果敢にチャレンジする」である。その背景には、BIMの浸透により設計者自身がCGによる可視化をある程度は行えるようになったこともあるそうだが、映像表現のエキスパートであるCGスタジオとしては、実写も取り入れたより幅広い表現を、クオリティとスピードの両面において追求しているとのこと。
「われわれは設計部門内の組織なので、設計者とのコミュニケーションが密にとれて、彼らの思いを的確にビジュアライゼーションできることも強みです。世間に公開されないものが大半ですが、先日開催したCGスタジオ展『Visualize+』のように、今後も自分たちの取り組みを発信していきたいですね」(濵野智明氏)。
<1>欧米の最先端ビジュアルを意識した画づくり、某複合ビルコンペティション(濵野智明、宮川健太、小林周平)
設計デザインの仕様をビジュアル向けに最適化する
ここからは先日開催された『Visualize+』にて披露された作品から本誌が注目したものを紹介していく。まずは、某複合ビルのデザイン提案向けに制作されたCGイメージとCGアニメーションだ。本プロジェクトは、今回の取材に応じてくれた濵野氏と、宮川健太氏に小林周平氏を加えた3名で担当。まずはキービジュアルとなる静止画を数枚作成し、それらを指針として動画制作を進めたという。ここに掲載しているものは濵野氏が制作したもの。洗練されたビジュアルが印象的だが、設計者からのリクエストは「カッコイイ外装アップのカットがほしい。カッコよければそれでいい。細かいことは何も言いません」と、非常にシンプルだったという。こうした抽象的な依頼は一歩まちがえればリテイクを重ねる恐れもあるが、CGスタジオは設計部門内にあり、設計者と密なコミュニケーションがとれるため、高いモチベーションの下、作業を進めることができたそうだ。「ファサードの色がシルバー系の金属色だったので、光のギラギラ感を強めることで格好良さを追求しました。また、目地や面取りなどは実際のスケールよりも少し大げさに設定することで反射の効果や精密感、密度感を強調しています」(濵野氏)。静止画制作では、後に続く動画制作も考慮しながら進めているいるため、CG工程にてマテリアル設定やライティング等の質感調整もつくり込んだという。
低層階の静止画を担当した宮川氏は、短期間で制作をするためのコツとして「今回はCGを簡単にレンダリングしてPhotoshopで手を加えていく手法を用いました」と語る。レンダリングへの戻りをなるべく少なくするため、3ds MaxによるCGワークでは複雑な設定は避け、ライティングも極力少なくし、1つの要素(このときはガラスの反射具合)にフォーカスしてレンダリングを行い、Photoshopによる2Dワークで画づくりを行なったそうだ。
動画展開を見すえた3DCGワーク
先行して制作された静止画のキービジュアル。プロモーション動画にも展開することを考慮し、この段階でモデリング、レンダリングの設定を詰めたという
ワイヤーフレーム
外装金属面のモデル。目地はリアルな寸法だと視認性が悪くディテール感が伝わらないことがあるため、実際よりも大きめに表現。また、ノイズモディファイヤで面の揺らぎも加えている
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素のレンダリングイメージ(カラーパス)。外装金属面のマテリアル設定では、リフレクショングロッシネスの値を変えた2つのマテリアルをフォールオフでブレンドし、法線方向によって反射の表情が変わるように工夫している
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アトモスフィア、もしくはZdepthを用いて空気感を強調
AEプラグインTrapcode Starglowで発光エフェクトを作成。これらの素材を組み合わせてレタッチ作業を行い完成となる。「完成形を予測して設定、作業を進めているため、レタッチ作業は実質2時間弱で済みました」(濵野氏)
3DCGの用途を限定して短納期に対応
低層アングルを捉えた静止画のキービジュアル。このアートは、納品前に必要となったため、制作期間は1日という非常に限られた時間で完成する必要があった。「そこで3DCGの用途はガラスの反射具合に絞り込みました。レンダリングの設定をできるだけシンプルにし、ライティングも最小限に止め、画づくりはPhotoshopによる2Dワーク主体で行いました」(宮川氏)
デザイン面の特徴をアップショットで演出
完成したプロモーション動画より
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スケッチ、絵コンテを作成して動画で伝えられること、伝えたいこと、ストーリーを整理
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建築のファサードがどう光を受けるかをVraySunで動かしてつくる。太陽や光の動きはHDRIも用いることもあるそうだが、VraySunの方が細かな調整が行えるとのこと
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内観の影、光を入れた空間の動画は人を入れることで、スケール感をもたせる。人が入ると空間がリアルに伝えられる。あくまで影が主役なので足下だけのシーンに
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