CG業界で働く者ならば一度は聞いたことがあるであろう「インディーゲーム」というジャンル。小規模・低価格と侮ることなかれ、特徴的なグラフィクスやシステムで勝負する日本のスタジオは数多く存在する。本紙に掲載した「2018年の日本のインディーゲームをとりまく状況」から2年。同特集を執筆した株式会社ヘッドハイの一條貴彰氏から、あらためて日本のゲーム産業におけるインディーゲームの最新情報を解説してもらった。

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TEXT_一條貴彰 / Takaaki Ichijo
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
メイン画像:『黄昏ニ眠ル街』 開発:Orbital Express

  • 一條貴彰/Takaaki Ichijo
    株式会社ヘッドハイ ゲーム作家。代表作はPS4 / Nintendo Switch『Back in 1995』、『デモリッション ロボッツ K.K.』(throwthewarpedcodeout.com)。自社で小規模ゲームの開発を行いつつ、インディーゲーム開発者に向けた各種ツールのコンサルティング事業を展開。複数企業のゲーム開発ツール・サービスをクリエイターへ届けるDeveloper Relationsとして活動している。また、ゲーム開発者のためのメディア「IndieGamesJp.dev」を運営中
    head-high.com

<1>コロナ禍に対する国内インディーゲームイベントの対応

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。インドアなエンタメであるゲームにおいては、ゲームソフト自体の売上げ販売実績こそ大きくなったものの、開発の現場では様々な影響が出ています。特に小規模なクリエイターにおいては、今後じわじわと苦しい状況になる可能性があります。コロナ状況はインディーゲームクリエイターにどのような影響があるのでしょうか。また、クリエイターは変化にどのように適応していくべきでしょうか。

新型コロナウイルスの影響を最も受けているのは、イベントの主催団体です。この数年で日本でも様々なインディーゲームの展示会やコンテストが開かれるようになりましたが、中止や延期が相次いでいます。

ゲーム産業全体では、イベントはオンラインでの開催に移行する対応が大多数です。しかしながら、実地開催とノウハウが大きく異なる動画配信型の開催に、全てのイベントがすぐに転向できるというわけではありません。なにより、オンライン化したとしても、多くのイベントの機能は失われてしまいます。インディーゲームクリエイターにとって実地開催のイベントは、自身の作品を発展させるチャンスをつかむための数少ない機会なのです。

東京ゲームショウは、毎年「インディーゲームコーナー」としてインディーのための専用スペースを設けています。任天堂ソニー・インタラクティブエンタテインメントの協賛により、審査に通れば無償でブースを利用できるなど、国内の開発者にとって大きな機会でした。しかし、今年は幕張メッセでの実地開催を断念し、オンラインへの移行を発表しています。

オンライン版でもインディーコーナーは継続されます。すでに募集はしめきっているのですが、webサイト上や公式動画で作品が展示されるとはいえ、実地開催同等のビジネスチャンスを得ることは難しいと予想しています。

変わって、毎年11月に開催されている「デジゲー博」は、ブース間隔の見直しなど様々な感染症防止策をを盛り込んで、実地での開催が予告されています。

digigame-expo.org

京都で開催されている「BitSummit」は5月にオンライン版が開催されました。また、「Tokyo Sandbox」については中止が発表されました。



<2>新興オンラインイベント「INDIE Live Expo」

そんな中、新しいインディーイベントとして「INDIE Live Expo」が2020年6月6日に放映されました。新型コロナウイルスの影響の中、自分の作品の発表の場所が減ってしまったインディーゲームクリエイターのために、新しく登場した配信番組です。

特徴は、とにかく日本のゲーム作品の紹介数が多いことと、YouTube / Twitch / ニコニコ動画 / ビリビリ動画といった様々な動画チャネルでの放送、英語・中国語の同時通訳、という3点です。急速に立ち上がったイベントであったため応募期間は短かったものの、放送時間を延長してまでゲームを全て紹介しきり、非常に内容の濃い番組となりました。

INDIE Live Expo 2020

既存のイベントがオンライン開催に移行した例もいくつかありましたが、実地開催と配信動画のノウハウは全く異なります。「INDIE Live Expo」実行委員の主体である株式会社リュウズオフィスは、ゲーム向けのマーケティングやオンラインイベントを事業とした企業です。こうした動画配信のノウハウをもつ会社が新しくインディーゲームのイベントに参入し、ゲームファンやクリエイターに、新たな機会として受け入れられています。第二回である「INDIE Live Expo II」は、2020年11月7日に予定されています。

<3>オンラインイベント特有の難しさ

世界最大級のゲーム開発者向けカンファレンス「Game Developers Conference(GDC)」は、2020年3月に開催予定でしたが、中止となりました。ここで新しいチャンスを求めてGDCに参加しようとしていた世界中のインディゲームクリエイターは、航空券や宿泊の予約をキャンセルせざるを得ず、しかも返金がないケースも多くありました。遠方地では100万円単位でお金を失ったクリエイターもいたことでしょう。

こうしたクリエイターを救うために始まった救済基金が「GDC Relief Fund」です。

この基金はGoogle、Facebookをはじめとした業界団体や企業が参加し、飛行機や宿泊費用のキャンセルの返金が受けられなかったインディーゲームクリエイターに対して、その金額分のお金が支給されます(筆者の株式会社ヘッドハイも微力ながら寄付を行いました)。



オンラインイベントでは、来場者と参加者の間で対面の会話ができないことが一番の問題です。例えば、家庭用ゲーム機へのリリースをサポートするパブリッシャーは、展示会に参加することで次なるパートナーを探しています。また、翻訳やマーケティング、開発支援などの企業も参加しますし、開発者同士の仲間を見つけ、そこで技術などの情報交換をする場でもありました。

大きな広報予算をもたないインディーにとって、メディアに見つけてもらうという重要な機能もイベントにはあります。オンラインイベントではどうしても大型のタイトルや知名度のあるタイトルに注目が集まりがちで、実地会場ならではのランダムな出会いが起きにくい状態です。そうした機会が激減した今、インディーゲームクリエイターは実地開催を決めたイベントに期待するか、メディアへのアピールの方法を自ら模索するなど、対策を打っていかなければならないと考えています。



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<4>まずは、ゲームエンジンをさわってみよう~インディーゲーム開発に興味がある人へ~

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<4>まずは、ゲームエンジンをさわってみよう~インディーゲーム開発に興味がある人へ~

このシリーズの最後に、インディーゲームの開発に興味をもった方へ、どうやったらゲームがつくれるのか、そのながれを簡単に説明します。

3DCGの制作をされている方がゲーム開発にチャレンジする際は、UnityまたはUnreal Engine 4いずれかのゲームエンジンを使って挑戦することをお勧めします。理由としてはBlenderMayaZbrushなどのツールから、これらのゲームエンジンへデータをエクスポートする方法がWeb上に多くまとまっているからです。

Unreal Engine 4には、様々なゲームプロジェクトの「テンプレート」がエンジンに含まれており、すぐに自作の3DCGモデルをゲームに組み入れて試すことができます。



Unityの場合は、公式チュートリアルで各種サンプルが配布されています。

store.unity.com/ja/download-nuo



これらサンプルを開いて、ゲーム内のオブジェクトやキャラクターを自作のモデルに差し替えてみる、というのが最初のステップになるでしょう。自作のモデルを自由に動かすだけでも、大変楽しいものです。

次に、ゲームエンジンの各操作について学んでいきましょう。Unityは、公式の解説動画をYouTubeにアップロードしています。特に、最近公開された「【初心者向け】3D飛行機ゲームでUnityの基本操作を学ぼう!」については、本当にゲーム開発が初めての方にお勧めの動画です。

【初心者向け】3D飛行機ゲームでUnityの基本操作を学ぼう! (7月29日号) - Unityステーション



Unreal Engine 4を使う場合は、「猫でも分かる UE4を使ったゲーム開発 超初級編」シリーズがオススメです。タイトル通り、誰でもわかるレベルでツールの使い方を丁寧に解説している動画です。

そのほか、YouTubeにはたくさんの解説動画がアップロードされていますが、ゲームエンジンやツールのメーカー自身による動画が正確で早いソースと言えます。初心者の方は、まずは公式動画から始めて見ることが重要です。

<5>小さなゲームから始めよう

ゲームの開発には想像の数十倍時間がかかります。しかも、悲しいことにゲームの価格や販売数は、かかった時間と比例しません。これからインディーゲームづくりに取り組みたいと考えている方は、まずは余暇の時間を使って、小さな規模のゲームづくりから始めるとよいです。いきなり全ての仕事を辞めてゲームづくりに入ろうとすると、完成するまで収入がありませんから、体力が尽きてしまいます。

最初のゲームは、とにかく1プレイが短いゲームをつくることをお勧めします。キャラクターがアイテムを集めるだけですとか、弾を避けるだけといったワンアクション・ワンボタンのゲームをつくります。そのかわりに、タイトル→ゲーム→スコア表示などといった、ゲームとしての一連のながれをつくりきると良いでしょう。

次に、オンライン開催のミニゲームコンテストに参加して、たくさんの人に自分の作品を遊んでもらいましょう。出されたお題に対して1週間でミニゲームをつくる「Unity1週間ゲームジャム」というイベントや、「UE4ぷちコン」というコンテストが開催されています。

そうした経験を積んだら、小さなプロジェクトを少し発展させて、PCやスマートフォン向けのゲームをストアへリリースするか、イベントに出展してPCゲームを販売するなどで、「ゲームの対価を得る」ことを試してみましょう。ゲームをプレイヤーの手に届けるまでには、やることはたくさんあります。プロジェクトが小さいうちに販売や宣伝の経験を積んでおくことが重要です。

小さな作品をリリースしきった次に、クリアに数時間かかる規模のゲーム制作に取りかかかりましょう。そして、もしもその作品がメディアに紹介され、家庭用ゲーム機展開のためのパブリッシャーが見つかったら、インディーゲームクリエイターとして独立を検討してもいい時期かもしれません。

当然ながら、発売したゲームの売上が次の作品を発売するまで生きられるほどの収入になるかは誰にもわかりません。受託の仕事も並行して続けていくなど、ゲーム販売が上手くいかなかった場合のサブプランを常に用意しておくことが肝心です。

実は、今回の連載の中で紹介している3つの「日本のインディーゲーム作例」は、全て2D/3Dのアーティストが中心となって進めているプロジェクトです。彼らは自分自身でゲームエンジンを学習したり、開発の仲間を見つけることで、「ゲーム」という新しい表現力を手に入れています。ぜひ、みなさんも自らの世界観を「ゲーム」というインタラクティブなコンテンツで表現してみてもらえればと思っています。

日本のインディーゲーム作例紹介③『黄昏ニ眠ル街』

この作品は、前回記事で紹介したEpic Gamesのクリエイター支援プログラム「Epic MegaGrants」を取得したタイトルです。

美しい東洋風の町並みを散策する本作は、コミックマーケットなどで体験版が配布されていましたがつい先日パブリッシャー「Playism」からの発売が発表されました。Steamでのダウンロード販売が予定されています。

『黄昏ニ眠ル街』
開発:Orbital Express(nocras.wixsite.com/tasomachi
発売日:2021年
プラットフォーム:PC
store.steampowered.com/app/1015890/TASOMACHI/?l=japanese