CG業界で働く者ならば一度は聞いたことがあるであろう「インディーゲーム」というジャンル。小規模・低価格と侮ることなかれ、特徴的なグラフィクスやシステムで勝負する日本のスタジオは数多く存在する。本紙に掲載した「2018年の日本のインディーゲームをとりまく状況」から2年。同特集を執筆した株式会社ヘッドハイの一條貴彰氏に、あらためて日本のゲーム産業におけるインディーゲームの最新情報を解説してもらった。
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過去2年で何が変わったのか? 2020年の日本のインディーゲームをとりまく状況<1>
TEXT_一條貴彰 / Takaaki Ichijo
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
メイン画像:『水瓶上のフェルマータ』 作:休符
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一條貴彰/Takaaki Ichijo
株式会社ヘッドハイ ゲーム作家。代表作はPS4 / Nintendo Switch『Back in 1995』、『デモリッション ロボッツ K.K.』(throwthewarpedcodeout.com/)。自社で小規模ゲームの開発を行いつつ、インディーゲーム開発者に向けた各種ツールのコンサルティング事業を展開。複数企業のゲーム開発ツール・サービスをクリエイターへ届けるDeveloper Relationsとして活動している。また、ゲーム開発者のためのメディア「IndieGamesJp.dev」を運営中
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<1>ゲームエンジン提供社のエバンジェリストが活躍
日本では80年代後半から「同人ゲーム」と呼ばれる小規模ゲーム開発の豊かな文化があったことは以前の記事で述べたとおりです。そこに、インディーゲームと呼ばれるスタイルが海外から流入し、双方が反応し合って日本独自の発展が続いています。
しかしながら、日本には優秀な若手ゲームクリエイターが多くいるにもかかわらず、産業団体や政府の支援が非常に少ない状況です。日本はかつてコンソールゲームの黄金時代を築きましたが、こうした新しい才能の支援については腰が重い状況が続いています。そんな中で、新しいクリエイター同士の支え合いのシステムが生まれ、また業界の中でもインディーを支えるしくみづくりが徐々に始まっています。
インディーゲーム開発者は、「ゲームエンジン」と呼ばれる統合型の開発ツールを利用することが多いです。ゼロからすべてをつくる開発者も勿論いますが、チームの規模の小ささから、UnityやUnreal Engine 4などの汎用ゲームエンジンを使って開発を行うケースが多数です。
これらゲームエンジンの提供形態について2年の間には大きな変化はありませんでしたが、機能面は日々進歩し、さまざまな最新技術が小規模ゲームクリエイターの手にもわたりやすくなっています。インディークリエイターがとくに恩恵を受けているのは、家庭用ゲーム機をはじめとする各種プラットフォームへの対応です。
ゲームエンジンの力によって、PCゲームからPS4やNintendo Switchといったゲーム機への移植のハードルは大きく下がりました。さすがにPC用のプログラムがそのまま動くわけではないので、ゲーム機のハードウェア特性に合わせた最適化が必須ではあります。しかしながら、多くのリソースを流用できますので、移植作業の期間は大幅に短縮したと言えるでしょう。
またこの2年間で、こうしたゲームエンジンを有する会社による、日本国内のインディークリエイターに向けた支援が広がっています。Unityは「Made With Unity」という作品発信の場を継続しており、日本で活躍するインディークリエイターへのインタビューシリーズを展開しています。高校生を対象とした「Unityインターハイ」については、前回記事で述べたとおりです。
Unreal Engine 4を提供するエピック・ゲームズ・ジャパンも、自社で開催している開発者向けカンファレンス「Unreal Fest」において、インディータイトルの大々的なフィーチャーを行いにました。
"有翼のフロイライン Wing of Darkness"と歩むUE4の世界
本社であるエピック・ゲームズでは「Epic MegaGrants」というクリエイターサポートプログラムが行われています。Unreal Engineを使ったインディークリエイターに直接資金面の支援を行う同プログラムは、日本においても『ジラフとアンニカ』が採択されています。現在では、1億ドルという巨大な原資から様々なクリエイターを支援しています。
<2>インディークリエイターコミュニティ「asobu」の誕生
「asobu」は渋谷にあるインディーゲームクリエイター向けのコミュニティです。個人や小規模でゲーム開発をしているチームに対し、相互扶助の形で開発を盛り上げていけるようなコミュニティの構築を行っています。このコミュニティスペースは2019年の後半からプレオープンという形ではじまったばかりです。
asobuは優れたゲームを開発しているインディークリエイターに対して門戸が開かれています。ホビイスト向けではなく、自身のつくった作品を世界で販売したいクリエイターのための場所です。
こうしたインディーゲームクリエイターが集まって切磋琢磨する場所は世界中に存在しており、このasobuでもアメリカや韓国などの同様のコミュニティとつながりをもっています。特に英語情報にアクセスしづらい側面をもつ日本のインディーゲーム開発者にとって、さまざまなビジネス機会とのハブになるでしょう。
[[SplitPage]]<3>インディーゲームレーベル「ヨカゼ」の登場
音楽の世界には、パブリッシングの枠組みとして「レーベル」が存在します。レーベルは一種のブランディングであり、近いスタイルのアーティストを取り扱うことでファンは自分の趣向にあった音楽を見つけやすくなります。
インディーゲームにおいては、パブリッシャー単位ではこうした「作品のジャンル傾向」というものはほとんどないのが現状です。そんな中、株式会社room6が立ち上げたレーベル『ヨカゼ』はレーベルの概念をインディーゲームに輸入し、雰囲気の近い作風のクリエイターをフィーチャーすることでファン層の拡大をねらっています。
パブリッシャーの垣根を超えて、クリエイター同士の情報交換や、ブランディング、マーケティングの一環として一緒に動いていくレーベルになるそうです。
<4>家庭用ゲーム機メーカーのインディーサポート体制が整う
任天堂では以前から、インディーゲームクリエイターの専任サポーター2名が日本で活躍しています。ゲームファンへのインディータイトル紹介も担う彼らは、国内クリエイターからの信頼も厚く、Nintendo Switchにおける日本発のインディータイトルの拡充に大きく貢献していると言えます。マイクロソフトも「ID@Xbox」プロジェクトのもと、各種インディーイベントに専任の担当が赴き、作品のXbox Oneへのリリースを促進しています。
PS4を有するソニー・インタラクティブエンタテインメントは、今年に入って日本を含むアジア地域の担当があらたに就任しました。上海におけるPS4開発者コミュニティ醸成に携わっていた人物であり、日本におけるインディークリエイターの誘致策に期待がかかっています。
家庭用ゲーム機において、インディータイトルの拡充とクリエイターのサポートはビジネス面においても重要な要素です。日本から世界に羽ばたくタイトルをいち早く獲得するため、プラットフォーム各社は様々なサポートを展開していくことでしょう。
日本のインディーゲーム作例紹介②『水瓶上のフェルマータ』
独特のローファイ・グラフィックを特徴とした本作はUnreal Engine 4で開発されているゲーム作品です。単純なレトロポリゴンではない、新しい表現としてのグラフィック表現からはどことなく哀愁を感じます。
作者の休符氏は、前回紹介の『狐ト蛙ノ旅』にはシナリオ担当として開発に参加しています。こちらの作品も「Pixiv Fanbox」にてパトロンを募集しています。
『水瓶上のフェルマータ』
開発:休符(twitter.com/kyu_fu)
発売日:未定
プラットフォーム:未定
www.fanbox.cc/@kyu-fu
<3>に続く