ゲーム開発者向け大規模カンファレンスCEDEC 2020が、9月2日(水)から4日(金)の3日間にわたりオンラインにて開催された。近年では、ゲーム分野における大量の3DCG制作を日本から諸外国へアウトソーシングする傾向にある。ラクシャデジタルはキーワーズインターナショナルを親会社とし、インド(グルガオン、プネー)を中心にシアトルや東京にも拠点を置き、500名以上の従業員を有するアートアセットおよびアニメーション制作サービスを提供する企業だ(東京オフィスは営業拠点のみ)。同社は2004年の創業以来、多くのAAAタイトルの開発にも関わってきた。本講演では、ラクシャデジタルのアカウントマネージャーである成田憲司氏より、インドにおけるゲーム市場とCG制作の現状が語られた。

TEXT_安藤幸央(エクサ)/Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)



<1>名だたるタイトルのアセット制作に携わるラクシャデジタル

2004年に創立したラクシャデジタルはインドのグルガオンとプネーを本拠地とし、500人を超えるスタッフを擁するアセット制作会社だ。米国や英国、そして2014年からは東京・九段下のキーワーズインターナショナル内にも拠点を置き、AAAクラスのタイトルを含む150件以上のゲームプロジェクトに携わる。最近では『FINAL FANTASY VII REMAKE』『バイオハザード RE:3』『キングダムハーツ HD2.8 ファイナルチャプタープロローグ』『 キングダム ハーツIII』』のキャラクター・プロップ制作を担当。現在はPS5対応タイトルのアート制作にも数多く関わっている。親会社であるキーワーズインターナショナルは世界24ヶ国に50ものスタジオをもち、ゲームのローカライズを数多く手がけることで知られる企業だ。


▲ラクシャデジタルの紹介

▲キャラクターの制作

▲3Dプロップや乗り物の制作

▲アセット制作

▲3D背景、環境構築


クライアントの細かな要望にも対応するプロップ制作、背景や環境構築、2Dのイラスト制作などもこなす同社。海外向けのリッチなアセットだけでなく、日本のアニメーション案件やIP案件にも対応する。スタッフの数は、2D専門のスタッフが約15名から30名、3D専門のスタッフは約300名から350名、手付けのモーションやモーションキャプチャのクリーンアップ作業に対応できるアニメーション専門スタッフは約25名から30名が所属している(いずれもインド本社)。利用している主要3Dツールは、Maya、3ds Max、Blender、ZBrush、Mudbox、Substance Painter、Substance Designer、Marvelous Designer、ゲームエンジンはUnreal Engine、Unity、またインハウスの独自ゲームエンジンにも対応する。業務で使用するコミュニケーションツールは、主にMicrosoft Outlook、Microsoft Teams、Skype、Basecamp、Slack、Chatwork(翻訳仲介を前提とする)を利用し、クライアントの要望に応じて様々なツールに対応しているとのことだ。


▲ ラクシャデジタルのデモリール

▲ラクシャデジタル、アニメーション関連のデモリール


<2>万全のカスタマーサービス体制

ラクシャデジタルへのアセットやアニメーション、背景等の発注メリットとして成田氏は以下の項目を挙げた。

●シニアレベルアーティストによる徹底した品質管理
●ハイクオリティなアセットを他社に負けない価格で提供
●500名以上の経験豊富なスタッフと納期を守る工程管理

同社では、各種制作物においてシニアレベルアーティストが必ず品質管理を担当し、クオリティを保証すると共に、もう1名ファイナルレビュアーが設置され、納品時にクライアントのフィードバックへの対応状況等を確認している。

日本のクライアントからは、「安価な東南アジアのベンダーに依頼したときはフィードバックを理解してもらえず対応もままならなかったが、ラクシャデジタルでは納得がいくまで誠心誠意対応してくれた」、「インドとのやりとりに不安があったが、トライアルを含め国内ベンダーよりもコミュニケーションが円滑だった」といった声が寄せられているという。社内での公用語は英語だが、日本語翻訳者が細かいニュアンスも含めコミュニケーションは全て仲介してくれる。インドと日本では3〜4時間の時差があるが、時差のストレスをさほど感じさせないほどにスムーズなコミュニケーションが取れているとのこと。日本から質問を投げかけても、それほど時間をかけずにレスポンスがあり、返答に24時間待たされる......といったことはないようだ。

製作総責任者はゲーム業界で20年以上の経験をもつロブ・オルソン氏。アートディレクターは、過去に任天堂にも勤め、数多くのAAAタイトルに関わってきた辻本 純氏(シアトルオフィス)が担当している。


▲ロブ・オルソン氏(上)と辻本 純氏(下)の紹介


<3>人口約13億人にのぼる、インドの最新ゲーム市場

インドのゲーム市場の規模は現在11億ドルから16億ドルと推測されており、そのほとんどが携帯ゲームで、急激に成長している。主要なゲーム利用者層は12歳から24歳の若者で、特に男性においては1日平均42分間ゲームに時間を費やしているとのことだ。インドのゲーム市場での大きな課題はゲームの収益化であり、ダウンロード数は多くてもゲームアプリの販売や、アプリ内課金の業績は芳しくない様子。目下、広告コンテンツによる収益化を試みているようだ。

成功しているのはオンラインカードゲーム、オンラインボードゲーム、そしてお金そのものを扱うゲーム。インド独自のコンテンツである「ボリウッド(インド映画産業、アメリカのハリウッドに相当)」や神話を題材にしたコンテンツを扱ったゲームなどもあるが、大きな成功はみられない。また、世界的にヒットしているゲームを好む傾向もあり、バトルロイヤルゲーム『プレイヤーアンノウンズ バトルグラウンズ』(PUBG) はインドでも相当の収益を上げた。このことから、正しいマーケティングとPRができれば、インドでも世界的タイトルがヒットすることがわかった。インドには現在、世界的規模のゲームデベロッパーが構えるブランチスタジオを含め300社以上の開発会社が存在し、各社がしのぎを削っているとのこと。



<4>常に新しいアーティストを雇用し育成にも注力

ラクシャデジタルで働くにあたり、インドとの作業やコミュニケーションに英語力はどの程度必要なのか気になるところだが、全て日本語でOKとのこと。また、トライアルとして15人日まで試用が可能。社内仕様にないツールを使いたい場合も相談に応じてくれる。ちなみに、契約はインドのラクシャデジタルでも日本法人のキーワーズインターナショナルでも、どちらでも可能だ。

同社で働くメンバーは、担当しているプロジェクトとアセットに誇りと責任を持ち、クライアントのニーズに応えられるよう日々努めている。コミュニケーションも翻訳者を介してはいるものの、誠心誠意を尽くして対応。インドでは「ラクシャデジタルに就職すると安泰」と言われるほどの人気企業となった。常に新しいアーティストを雇用しながら育成にも力を入れている。成田氏の印象として、インドのスタッフはとてもポジティブで仕事熱心なスタッフたちとのことだ。