2020年11月17日(火)からの2日間、ワコムによりコネクテッド・インク2020が開催された。本稿では、11月18日(水)に行われたワコム社長兼CEO井出信孝氏による基調講演部分についてレポートする。
TEXT&EDIT_江連良介 / Ryosuke Edure
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
コネクテッド・インクは活動の中で存在意義が見出されてきた
▲ワコム社長兼CEO井出信孝氏
コネクテッド・インクは、クリエイティビティ、アート、音楽が、最新のデジタルトランスフォーメーション、インク・テクノロジーと掛け合わされる、オープン・イノベーション・プラットフォームだ。
井出氏はまず、コロナ禍において同イベントを開催する意義について、「新しいビジネスをつくりたいだとか、ワコムのブランドを輝かせたいというのではなく、少しでも希望を届けられたらなという思いで開催したんです」と話した。
▲「このイベントを通して祈りを届けたい」(井出氏)
次に井出氏は、同イベントの軌跡について振り返る。コネクテッド・インクは5年とまだ歴史は浅いが、第1回目として行われたラスベガスの会場には、わずか20人ほどのオーディエンスしかいなかったという。
その後ベルリン、上海、東京でイベントを開催し、イベントの目的そのものが変化していった。「当初はワコムのテクノロジーを使ってもらう仲間を増やそうと考えていましたが、次第にワコムだけのイベントではなくなっていったように感じます」と井出氏は語る。
▲「第1回目は、大きな会場を借りたのに誰もいなくてどうしようと思った」(井出氏)
昨年行われたコネクテッド・インク2019では、たくさんのオーディエンスが会場に集まった。会場の熱気を感じたとき、同イベントの使命について改めて考えるようになったという。「ワコムはペンと紙の役割を担う道具屋です。道具屋として、クリエイティブな人たちの活動をどう支えていけるかというのが、僕らの使命だと思います」と井手氏は語る。
▲「ワコムとしての使命とコネクテッド・インクとしての使命の両方が生まれてきてると感じる」(井手氏)
基調講演では、同イベントを裏から支える関係者たちへのインタビューがビデオクリップとして放送された。
ビデオクリエーターであり、広島の伝統文化を題材にしたフォトブックも制作するヨハン・マンツ氏は、同イベントに参加することでよりクリエイティブな考え方に導いてくれたと語る。
▲「コネクテッド・インクで今まで誰も知らなかったものを見つけることができると思っています」(ヨハン・マンツ氏)
また、普段見ることができないアートの制作過程を競技化するプロジェクト「リミッツ」を運営する株式会社ピーエイアイエヌティのCOO池田輝和氏は、「コネクテッド・インクがこの先何十年と続いていくような種がどんどん生まれてきて、参加者のみんなが貢献できるようなイベントになることを期待しています」と語る。
▲コネクテッド・インクの将来への期待を語る池田氏
井手氏によれば、コネクテッド・インクには成功や失敗という発想は存在しない。「イベント自体に成功や失敗という考え方はしていません。でも、参加者の皆さんは何かしらの勝負をしている。うまくいけばいいな、という考えだけじゃなくて、個人としても会社としても勝負をかけてる。皆さんの本気がコネクテッド・インクの渦を加速させているのだと感じます」と井手氏は言う。
基調講演では、最後に今後のコネクテッド・インクの方針について語られた。コネクテッド・インクは資本主義のルールに必ずしも縛られない活動を前提としている。ビジネス的な観点だけでなく、ときには社会にとって必要だと思う活動を支えることが使命だ。
▲「コネクテッド・インクに使命がないなら集う意味はない。これからも私たちが集まる意味を考えていきたい」(井手氏)
次回のコネクテッド・インクはすでに予定が決まっており、2021年11月16日と17日の2日間で行われる。井手氏は、「僕個人の思いとしては、自然に向き合いたいと思っています。IT技術を突き詰めるほど、原点である自然に戻らなければならないのではないかという思いに駆られています」と直近の展望を語り、講演を終えた。
▲「コネクテッド・インク2021ではもう一度自然に向き合わなければならないと思っている」(井手氏)