2021年3月5日(金)、オンラインで「CGWORLD デザインビズカンファレンス」が開催された。本稿ではその中から三菱商事ファッション株式会社が取り組むアパレル業界のDXについて取り上げる。3DCGを用いて在庫削減などに取り組む三菱商事ファッションの試みは、サステナビリティが求められるこれからの時代にとって大いに参考になるだろう。
TEXT_江連良介 / Ryosuke Edure
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
デジタル化が進まなかったアパレル業界の課題を3DCGで解決する
▲ アパレル業界の主要商社
本セッションでは、三菱商事ファッション株式会社の谷本広幸氏(デジタル事業推進本部 デジタル事業開発部長)が登壇した。自己紹介の後、日本や海外の衣料品市場の現状、三菱商事ファッションの事業規模などが紹介された。同社は総合商社の中でも最大手の2,000億円規模の売上を出しており、業界をリードしている。
実際に3DCGを利用した事業は2017年の「3D・CGデジタルスキーム」からスタートした。百貨店のオンラインブランドを一社に絞り込み、思考錯誤を繰り返した後、2020年に一般ローンチをするに至った。
本スキームの目的は、拡大しているオンラインビジネスに適用できるデジタルスキームをつくる必要があったこと、大量生産や大量在庫、破棄など業界が抱える課題を解決し、サステナブルなモノづくりができる環境をつくることの2つだ。
▲ アパレル事業を通じてデジタル化とサステナビリティの実現を目指す
「アパレル業界では25年くらい前からCADを導入してデジタル化が進みましたが、結局はアナログで、何も変わっていないというのが現状です」。このような課題の中、三菱商事ファッションは2Dパターンを3Dで確認修正できる技術や、生地情報を正確にスキャンできる技術を向上させ、デジタル化に取り組んでいった。
これらの技術を使うことで、2Dパターンを引用した3Dモデリングをつくり、EC用のCGとして活用できるようになったという。
▲ 3D・CGデジタルスキームの制作フロー
▲生地伸長度やフィット感など詳細も確認可能
特殊なスキームで制作する3DCG
次に、CAD起点の3DCGデジタルスキームについて解説がなされた。これまでの大量生産・大量在庫・大量消費型のスキームでは、CADパターンをつくった後にファーストサンプル、セカンドサンプルとサンプル作成を重ね、グレーディングというサイズ変更や縫製を経てECへアップロードが行われる。
一方で、三菱商事ファッションでは、サンプルをつくる回数を1回に減らし、サンプル作成後すぐにEC掲載用のCGが完成する。「ささげ」と呼ばれる、撮影・採寸・原稿作成の過程もスキップすることが可能だ。これにより、販売開始までのかかる時間が短縮される。
▲ 標準的なスキーム(上段)と「3D・CGデジタルスキーム」(下段)のちがい
「販売期間がかなり早くなるので、場合によっては先行受注が可能になります。先行受注が可能になると在庫軽減ができるので、かなりのコスト改善になります。また、撮影のためのロケと採寸をCADパターンによる引用で省くことができるため、この部分も改善できます」(谷本氏)。
▲ 独自のスキームによってコストを大幅に減らすことができる
従来のスキームと三菱商事ファッションのコストイメージを比較すると、生地サンプルと「ささげ」に関するコストが極端に減っていることがわかる。この理由について谷本氏は次にように説明した。「アパレル業界はプレスに向けて色ごとにサンプルをつくります。この記事のミニマムが50メートルとか100メートル最低必要になる。しかし実際に使う記事は3メートル程度なので、多くは無駄になってしまう。この部分を3DCG化することで、生地サンプルにかけるコストを大幅に削減できるのです」(谷本氏)。
3DCGを企画開発・展示・販売分野に応用
三菱商事ファッションでは、アパレル業界の企画開発・展示会・販売それぞれの領域で3DCGを活用している。
▲ それぞれの分野で活用される3DCG
例えば、衣服の着用シーンを想定してどの部分に負荷がかかっているかシミュレーションする「フィッティングマップ」は、スポーツアパレル業界向けの企画だ。
▲ フィッティングマップ(アニメーション)
また、展示会の領域でも3DCG技術が用いられている。3Dデータを用いてモデルの服を着せ替え可能な「デジタルフィッティング」を利用すれば、すぐにコーディネートを確認できる。
▲ デジタルフィッティング
このように、ファッションの領域に3DCGを活用することで、今まではイメージすることが難しかった衣服の組み合わせを視覚的に、高い再現度で確認することができるようになった。
展示会デジタルツールを利用して開催されるオンライン展示会
アパレル業界もコロナ禍で展示会の開催が難しくなるなど、リアルイベントへの影響が見られる。そこで、三菱商事ではアパレル業者向けのオンライン展示会ツールを提案している。オンライン展示会では3DCGにより360度衣服の状態を確認できるほか、アニメーションによる展示も行われている。
▲ アニメーションを用いた展示会
「生地の重量なども全て計算してつくっているので、リアルな状態で演出ができています」と谷本氏が語る通り、アニメーションでは衣服の繊細な動きまで細かく再現されている。
最後に谷本氏はアパレル業界にデジタル技術が浸透していくことについて次のように語った。「デジタルはシステムなのかカルチャーなのかというところですが、私はカルチャーなのではないかと感じています。デジタル技術を会社に導入するリスクを考えるよりも、手段としてどんどん浸透させていく方が良いのではないかと思っています」。