全3回にわたって『進撃の巨人』The Final Seasonのメイキングを紹介。第3回目となる本稿では「2Dワークス」について解説していく。「2Dワークス」という役職は、アニメ制作に馴染みのない読者にとってはイメージがつかないかもしれない。劇中に登場する小物を中心に、様々な画素材をデザインするのが、2Dワークス。本作における取り組みを紹介する。
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※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 272(2021年4月号)からの転載となります。
TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamda
©諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会
作品を一段上に押し上げる丁寧で緻密なデザインワーク
作中に頻繁に出てくるグラフィックデザインをはじめとした2Dワークを担当するのが岩淵 恵氏だ。2019年にMAPPAへ入社し、CGI部所属の専任スタッフとして2Dワークを一手に引き受けている。
アニメ作品に2Dワークは欠かせないが、作品や制作会社によって、誰が、どの部署が担当するかは異なるのが現状だという。そこでMAPPAでは、専任を立てることでより良いデザイン、より効率的な制作を目指しているわけだ。「私の役割は新聞や手紙、兵団のエンブレム、3Dモデル用テクスチャなど、グラフィック要素のなんでも屋です」(岩淵氏)。基本的には、コンテが上がってきたタイミングで岩淵氏の下に相談が舞い込むという。1話あたりに手がけるデザインの点数は多いときで20~30点、少ないときで5点ほどとのこと。第61話『闇夜の列車』冒頭のマーレ軍の会議シーンでは、卓上に並べられた資料や新聞を大量にデザインする必要があった。また、撮影チームとの連携も多い役回りだという。第63話『手から手へ』では、林監督からのリクエストを受け、林監督が描いた平面用の瞳素材を参考に、角度のあるアングル用の虹彩素材(エレンの祖父の目に使用)を描いた。「今回は、『進撃の巨人』という歴史のある大作に携わることができて嬉しいです。とにかく原作や資料を読み込んで、原作に寄り添った上でファンのみなさんに喜んでもらえるデザインを心がけています」(岩淵氏)。本作の2Dデザインでユニークなものとして時計の文字盤(数字)用のフォントが挙げられる。原作者サイドの「漢数字を取り入れてほしい」というオーダーを受け、漢数字を反転して45度傾けたものをベースにデザイン。これだけで商品化できそうな印象だ。また、第61話のブラウン家の食事シーンには、カメラがじわりとライナーに寄っていくカットが登場する。ここでは3DCGでつくられた食器のテクスチャを担当。一見すると、カメラのアングルが大きく変わらず、3Dにする意味があまりなさそうなカットだが、実写カメラ的なカメラワークを使いたいという演出の強いこだわりに応えるべく、この手法が採られた。第61話は、巨人の戦闘シーンは登場しない静かなエピソードだが、このカットのようによく見ると複雑な処理や、ロトスコープをベースにした動画枚数の多い難易度の高いカットが多く、作画の総数は8,000枚に達したという。そうした手の込んだカットでも2Dワークスが重要な役割を担っているのだ。
国や文化のちがいをデザインに込める
▲各国の新聞を前に会議をしているシーンに使用した素材。様々な言語で書かれているという想定で、それぞれ書体やレイアウト、組み方向などを変えてデザインした
漢数字をベースにデザインした文字盤
これまで原作では算用数字が登場したことはなかった。今回、時計と時間の経過を示す必要があるカットが発生したため、原作サイドより「漢数字を逆さにして傾けたものを使用する」という文字の運用ルールが提供された。そのルールに沿って、1から12までの数字をデザインした。時間の経過を示すいくつかのカットでは、秒針をそれぞれの位置で合わせた画像を用意した。なお、第68話『義勇兵』に登場するサシャの墓石などにも同ルールでデザインした文字を使用している
▲時計の2Dワーク
▲作成した数字。上が途中経過、下が完成形
現実味のある各種資料とスケッチ
第62話『希望の扉』で、戦士隊のテオ・マガト隊長(CV:斉藤次郎)が巨人たちの説明するシーンでは、各キャラの紹介がモーショングラフィックスで表現される。岩淵氏は一連のグラフィック素材をデザイン。オーダー「軍の資料」「研究者のスケッチ」。素材は主に設定を流用し、足りない部分を新規で起こしてもらった
▲女型の巨人のファイル
▲鎧の巨人ファイル。【右】の実験写真は作画の素材に処理をして仕上げている
▲獣の巨人のファイル
▲超大型巨人のファイル
使用されたカット
3DCGで作成した食器のテクスチャ素材
▲2話に登場するブラウン家の食事シーンに登場する、パラディ島の話をするライナーにカメラが寄っていくカット【画像】は、一見大判の画で2Dズームしているように見えるが、実写映画のドリーイン的なカメラワークが用いられ た。これを実現するために、キャラをはじめ作画(2D)主体のカットだがテーブル上の食器は全て3DCGで作成。そこで岩淵氏が、食器の模様をデザインした。静かなカットだが、このカメラワークによってライナーの苦悩と不安定さが効果的に描かれている
▲岩淵氏が描いた皿のテクスチャ