全3回にわたって『進撃の巨人』The Final Seasonのメイキングを紹介。第2回目となる本稿では「撮影」について解説していく。林 祐一郎監督がこだわる戦場の空気感をはじめ、最終的なルックの鍵を握るのがこの撮影工程だ。制作初期に行われた画面設計に基づき、各シーンの演出意図に応じて丁寧な撮影処理が施されている本作の撮影ワークを紐解く。

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※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 272(2021年4月号)からの転載となります。

TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamda


©諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会

作品制作の「最後の砦」ねらったのは映画的なルック

撮影を担当するのは、レアトリック。本作では画面設計も担当するCGIプロデューサーの淡輪雄介氏が厚い信頼を寄せる同社代表取締役の浅川茂輝氏が撮影監督を務めている。レアトリックの撮影チームは9〜10名で一連の撮影処理を行なっているという。まずは、PV制作を通じて、MAPPA内で基本的なルックが開発された。なお、淡輪氏はCG要素が多い作品にて画面設計を務めることが多いそうだ。

  • 撮影監督 浅川茂輝氏(レアトリック)

淡輪氏からレアトリックに本作のオファーがあったのは2019年の終わりのこと。「大きな作品で、しかも撮影監督まで担当させていただけるとのことで嬉しかったです。一方で、これまでのシリーズが素晴らしい出来だったので、後を引き継ぐ立場としてのプレッシャーもありました」(浅川氏)。デジタル化により、撮影が行う業務は格段に増えており、「撮影は最後の砦」だと淡輪氏は語る。エフェクト表現の場合、作画(芝居がかったエフェクト)、3DCG(物理的に正確、複雑なエフェクト)、撮影(土埃や光など、撮影で仕上がりを見ながら演出するもの)といった具合に、複数の工程で分担しているが、その全てを取りまとめ、最終的に品質を上げるという、まさに作品の質を決める部署が撮影なのだ。「だからこそ、初期から画づくりの指針が明確になっていることが重要にもなってきています」(淡輪氏)。

本作は巨人たちが3DCGベースで表現されており、その意味では過去シリーズよりも写実性が高められている。それは本作のルックについても同様であり、実写映画を彷彿とさせる画づくりを随所に見ることができる。戦場シーンであれば、爆発や埃の舞う空気感をリアルに出し、まるでそこにカメラマンがいて撮影しているかのような臨場感を目指した。画ブレでも、その揺れが列車によるものか、逃げ惑う人々によるものか、それぞれのシチュエーションに合わせて手法を使い分けるといった具合に、きめ細やかな撮影処理が施されている。「実際にエレンや巨人たちがいて、それを本当にカメラマンが撮っているような画を目指しています。ですが、あくまでもアニメの表現としてのリアリティを出すことが目的であり、撮影が悪目立ちしてはいけません。縁の下の力持ちとして、観返してもらったときに気づいてもらえるような画づくりを心がけています。チャンスがあれば写実的な雨の表現にもトライしたいですね」(浅川氏)。

陰影部分のタッチ線表現

原作特有の表現である、目もとなどに入るタッチ線。これらは動画で中割りするのが難しく、撮影で描画することになった。最初に作画の2影部分をタッチに差し替えるテストを行なったがしっくりこなかったため、2影とは別にタッチ部分のマスクを作画して処理した



  • ▲処理前



  • ▲タッチマスク



  • ▲線+タッチ処理



  • ▲最終処理後

煙が立ち込める戦場の雰囲気

戦場シーンには実写の煙素材を合成して、煙の立ち込める戦場のリアルな雰囲気を表現した



  • ▲処理前



  • ▲処理後



  • ▲処理前



  • ▲処理後

作画エフェクトと3Dセルに撮影エフェクトを追加

すでに作画でエフェクトが描かれているシーンや3Dセルに対しても、撮影エフェクトを合成して奥行きのある撮影処理に仕上げた。飛び散る血や破片、飛沫などは、指示がない場合でも撮影で追加するケースが多い



  • ▲処理前



  • ▲処理後



  • ▲処理前



  • ▲処理後



  • ▲処理前



  • ▲処理後

新聞の2D素材の貼り込み

新聞に記事の2D素材を貼り込むのも撮影の工程。なお、このシーンでは路地上部を光源としてエッジにハイライトを足してある



  • ▲処理前



  • ▲処理後

3Dセルのカラー処理とフレア追加

3Dセルは納品時には全てノーマルカラーであり、撮影時にシーンカラーを適用する。水晶体内部のキャラクターは3D内で貼り込んで出力。強く光る箇所は横に伸びるフレアを加味している



  • ▲処理前



  • ▲処理後

3Dモブキャラのスモーク処理

前面を3Dモブキャラが走り抜けるシーンでは、フットスモークを撮影で加味した



  • ▲処理前



  • ▲処理後

充血した目の血管の追加

目のクローズアップショットでは、血管を撮影で追加した



  • ▲処理前



  • ▲処理後

巨人体内の質感表現

巨人体内シーンでは、水中のように浮遊物が漂い、肉壁がゆったりうごめきながら光が変化する様子を撮影で処理している



  • ▲処理前



  • ▲処理後

いかがでしたか? アニメシリーズ「『進撃の巨人』The Final Season」メイキング【2Dワークス】編を明日(4月21日)公開予定です。



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.272(2021年4月号)
    特集:大解剖『進撃の巨人』The Final Season

    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2021年3月10日