感染対策に留意しつつ、4月14日(水)から16日(金)まで東京ビッグサイトで開催された「コンテンツ東京 2021」(主催:リード エグジビジョン ジャパン)。1年ぶりの開催となった本イベントは、久々の大型展示会の開催とあって多くの業界人でにぎわった。中でも注目を集めたのが、初開催となった「XR総合展」だ。VR、AR、MRコンテンツ制作、ヘッドマウントディスプレイ、バーチャル空間、遠隔操作体験など、XRに関する様々な企業が自慢の技術や製品とともに出展。本稿では、本展示会の中でも目を惹いたブースについてレポートしていく。
TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)
明電システムソリューション
明電システムソリューションのブースでは製造業を対象に、異なる教育VRコンテンツを最大30人まで同時に配信できる「VR集合教育」のデモを実施。併せてAdvanced Virtual Reality(AVR)を用いた「工場・作業現場の実機訓練VR」と、HoloLens 2を用いた「MR設備点検教育」のデモが参考出展されていた。
AVRはACW-DEEPが開発したソリューションで、VR HMDとステレオカメラとグリーンバック合成を組み合わせ、VR空間上で体験者自身の手足が見られるしくみだ。会場ではこのデバイスを活用し、手元を見ながら床上操作式クレーンの訓練ができるデモが行なわれていた。HoloLens 2向けでは、空の棚に複数の操作パネルの映像を順次投影し、シナリオに即して操作訓練をさせるデモを披露。いずれも社内で使用しながら、製品化に向けてブラッシュアップを続けている最中だという。
▲最大30名まで体感可能なVR集合教育のデモ。3軸VRシミュレータ(左奥)と通常のVR HMD(右)のように、1台の管理用PCから異なるデバイス向けに異なる教育コンテンツをWi-Fiで一斉配信できる。3軸VRシミュレータでは、14種類のVRコンテンツの中から「はしごからの墜落体験」のデモを披露。あまりのリアルな仮想体験に、体験者は悲鳴と共に腰が砕けていた
▲AVRを活用した「工場・作業現場の実機訓練VR」(左)と、HoloLens 2を用いた「MR設備点検教育」(右)のデモ。AVRにはデバイスにHTC VIVE ProとZED miniが使用されている。クレーン操作のほか、溶接技術について学ぶコンテンツなども検討中とのことだ。MR設備点検教育では、特定のシナリオに沿って受電盤、変圧器盤、MCCB盤、フィーダ盤などの操作を学ぶことができる
コーンズ テクノロジー
来場者で終始にぎわい、もっとも活況を呈していたのが、コーンズ テクノロジーのブースだ。中でも、超音波を使用して非接触で触感を提示するフィードバックシステム「ウルトラリープ」の前には長い行列ができ、筆者が体験した際も40分待ちという状態。他にも様々なデバイスやソフトウェアが展示されていた。
▲ウルトラリープ:Ultraleap(英)が開発した、超音波を利用して空中で「触れる」感覚をつくり出すデバイス。トラッキングセンサとの組み合わせで、手やジェスチャのトラッキングもできるため「触れるジェスチャ操作」という新しいUIが実現。展示では片手のみだったが、両手の認識も可能とのこと。XRとの親和性も高く、非接触の強みを生かして、WithコロナやAfterコロナでの活用も期待できるように感じられた
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▲Leia Display(ポーランド)が開発した、霧を利用した空間ディスプレイ。映像を観るだけでなく、表示されたオブジェクトに仮想的に触って動かすこともできる
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▲Motion Gestures(カナダ)が開発した、AIベースのハンドジェスチャ認識プラットフォーム。ほぼ100%の精度を維持しながら、ジェスチャ認識の開発時間を従来の1/10に短縮できるという。特別なハードウェアを必要とせず、カメラ搭載デバイスにアドオンで組み込める。評価用SDKも無料提供中だ
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▲Dimenco(オランダ)が開発した、8K解像度の裸眼3Dディスプレイ。レンチキュラー方式を採用しており、アイトラッキングシステムとの組み合わせで、リアルタイムに視線を追従して、様々な角度から鮮明な立体映像を投影する。ハンドトラッキング機能も内蔵しており、3Dオブジェクトを仮想的に触って動かすことも可能だ
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▲Pufferfish(英)が開発した、4Kタッチスクリーン対応の360度球面ディスプレイ。直径数十センチから、最大数メートルの大型ディスプレイに対応。展示では太陽系の映像が表示され、タッチして操作した
コニカミノルタプラネタリウム
コニカミノルタの子会社で、プラネタリウム機器を製造・販売するコニカミノルタプラネタリウム。同社では、2021年秋に名古屋、2022年春に横浜に日本初のドーム型のLEDディスプレイを用いたプラネタリウムを開設する予定だ。同社のブースでは、このLEDパネルを半円系に組み合わせた巨大パネルを前面に押し出しつつ、LEDドームシステム「DYNAVISION-LED」をアピール。プラネタリウムに留まらず、ショッピングセンターのアーケードや空港コンコース、アミューズメント施設など様々な提案が行われていた。
▲A4サイズのLEDパネルの組み合わせで構成されたDYNAVISION-LEDパネル。長方形だけでなく、自由な形状のシアターを構築できる
▲DYNAVISION-LEDパネルによって構成されたドーム型シアター(左)と、プラネタリウム用の内製ソフト(右)。DYNAVISION-LEDパネルを使用することで、現在主流のプロジェクタ方式よりも高輝度・高色域を備えた映像体験が提供できる。夜空だけでなく様々な映像表現が可能だ
チェコバビリオン
チェコバビリオンではVRgineers製のVR HMD「XTAL」の最新モデルを用いたデモが行われていた。XTALは、両眼8K(7,680✕2,160)で視野角180度を誇るプロフェッショナル向けのVR HMDで、米空軍での採用も予定されている。自動IPD(瞳孔間距離)調整機能、アイトラッキング、音声とジェスチャでの制御、世界初の高視野複合現実モジュールなどを備える一方で、NVIDIA RTXカードと1本のケーブルで接続できる利便性も特徴。ブースでは自動車のバーチャル展示が行われており、ハンドトラッキング機能を用いて「ハンドルを握る」、「ギアチェンジ」、「ハンドブレーキ」などが体験できた。
Pico
4K対応のVR HMDを販売するPico。一般向けに販売されている「Pico Neo 2」と「Pico G2 4K」に加えて、法人向けの「Pico G2 4K S」と「Pico Neo 2 Eye」も展示されていた。中身はAndroid端末でアプリの開発が容易に行え、特別なアカウント取得なども不要なため、法人用途で引き合いが高いという。中でも「Pico Neo 2 Eye」はTobiiのアイトラッキング機能を搭載したフラグシップモデルで、ブースでは自動車教習用の映像コンテンツをデモ。自動車が住宅街の道路を進む際、ドライバーが画面のどこを中止しているかリアルタイムでトラッキングできる内容で、4K映像の高解像度と相まって高い可能性を感じさせた。
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▲Tobiiのアイトラッキングシステムを搭載しつつ、価格を抑えた「Pico Neo 2 Eye」。視線による遅延も10ms以下に抑えている
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▲「第3世代Inside-Outシステム」を使用し、スタンドアロン機でヘッドセットとコントローラの完全な6DOFを実現した「Pico Neo 2」。PCと無線で接続し、PCVRとしても使用できる
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▲16M AF RGB cameraを搭載し、シースルーカメラにも対応した「Pico G2」。G2シリーズで唯一となる6GBのROMを搭載し、各部にレザー素材を採用している。
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▲従来の4K高画質はそのままに、内部ストレージを4倍に増強した「Pico G2 S」。バッテリー性能も向上させると共に、バッテリー交換機能を加えた上位モデルだ
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WIZAPPLY
アミューズメント施設やテーマパークだけでなく、大学等の研究施設でも高い納品実績を誇るWIZAPPLY。会場では2軸のエントリーモデル「ANTSEAT」、4軸の遊戯施設向けスタンダードモデル「SIMVR(シンバ)」、6軸の研究開発向けハイエンドモデル「SIMVR 6DOF」がデモされていた。中でも「SIMVR」とVR HMD、そしてCM Labsが提供する機械システム操作のリアルタイムシミュレータ「Vortex Studio」の組み合わせは秀逸で、左右2本のジョイスティックでパワーシャベルを操作すると、まるでその場にいるかのような高い臨場感が得られた。
▲「SIMVR」+VR HMD+「Vortex Studio」による、パワーシャベルの訓練シミュレータ。椅子が軽く左右に振れるだけで、グルグルと回っているように錯覚させられる
ハートコア
実写素材を使用することで、3DCGよりもコストパフォーマンスの高いVRコンテンツ開発を提唱していたのがハートコアだ。4K3DカメラのMatterportで撮影した実写素材を基にWebコンテンツを作成し、デジタルショールームなどに活用するというもので、新卒採用、オープンキャンパス、展示会など幅広い用途を提案。Web上でバーチャルツアーを行うだけでなく、「文字や音声で空間の案内を行なう」、「画面上に全体マップを表示させる」、「宝探しなどミニゲームが遊べる」など、同社ならではの付加価値をアピールしていた。
▲VR360で表現されたハートコアのオフィス(左/同社サイトより)と、4K3DカメラのMatterport(右)
バーチャルウインドウ
視線認識とスクリーン投影を組み合わせ、フィットネス向けに「被らない」VRシステム「vFit」を提供するバーチャルウインドウ。トレーニングマシンの前方に、前面と側面を覆うようなかたちでスクリーンが設置される。頭部の位置に合わせて映像が最適な場所に表示されるしくみもあり、これによって高い没入感で衛生的にトレーニングができる。表示部にはカシオ計算機製の「水銀ゼロ・プロジェクター」が3機使用されている。ブースではトレッドミル型の「vFit/Run」と、フィットネスバイク型の「vFit/Cycle」に加えて、バーチャルボートレースのデモも行われていた。
▲トレッドミル型の「vFit/Run」(左)と、フィットネスバイク型の「vFit/Cycle」(右)。後者では曲面スクリーンが採用され、よりコンパクトになっている
TIS
システムインテグレータ大手のTISブースでは、ガイドの案内を聞きながら、現地で撮影された360度動画内に入り込み、ツアーやコミュニケーションサービスが楽しめる「XR Campus ツアー」と、ブラウザなどを別途起ち上げることなく、VR空間上で決済ができる「XR Pay Wallet」サービスのデモが行われていた。「XR Campus ツアー」では、PCやスマートフォンなどでログインし、アバターを活用して遠隔地によるコミュニケーションが楽しめる。「XR Pay Wallet」は、VRの没入感を損なうことなくスマートな決済が可能だ。他にも様々な研究開発を進展中だと語っていた。
Life is Style
Life is Styleのブースでは、3Dホログラムファンディスプレイ「3D Phantom」の展示が行われていた。複数の3D Phantomを同期させて、大型の映像を投影することもできる。映像だけでなく、ボタン操作などでインタラクティブに映像を操作するためのソフトウェアも開発中で、今秋に公開予定とのこと。円形ディスプレイといえば、世界初のビデオゲームとされる『Space War!』が開発されたDEC PDP-1などが知られており、時代が1周して回ってきたようにも感じられた。
▲複数の3D Phantomを同期させて、大型の映像を投影するデモ
シネ・フォーカス
床面に投影された映像を歩くだけで、映像がインタラクティブに反応する「グラウンドFX」の展示を行なっていたのが、シネ・フォーカスのブースだ。必要なシステムが一体化され、床に置くだけで楽しめる「Cube」と併せて紹介されていた。床に置くだけで、すぐに約80種類のゲームやコンテンツが楽しめるというもので、催事用などで引き合いが高いという。他に3Dホログラム映像で実際の商品の魅力を引き立たせる「Dreamoc」シリーズの展示もあった。
▲「グラウンドFX」のデモ風景(左)と、PCとプロジェクタなどが一体化された専用システム「Cube」(右)。床の上に置くだけですぐに約80種類のゲームやコンテンツが楽しめる
▲Realfiction(デンマーク)が開発した、実物の商品とからめた3Dホログラムが投影できる「Dreamoc」シリーズ
XR総合展をふり返って
他にも様々な展示が行われていた「XR総合展」。中でも多かったのが、VR HMDとゲームエンジンの組み合わせだ。ゲームやホビー用途から始まったVR HMDがB2B用途に拡大し、様々なサービスやプロダクトを生み出しており、PCの進化の歴史が再現されているようで興味深かった。その上で、こうした普及を促している要素にコロナ禍があることは言うまでもない。今後も5Gの普及や社会のDX化の流れに伴い、さらなる活用が期待されているように感じられた。