>   >  バレンシアガの世界観をゲームに。Streamline Media Groupの新たな挑戦~UNREAL FEST EXTREME 2021 SUMMER(2)~
バレンシアガの世界観をゲームに。Streamline Media Groupの新たな挑戦~UNREAL FEST EXTREME 2021 SUMMER(2)~

バレンシアガの世界観をゲームに。Streamline Media Groupの新たな挑戦~UNREAL FEST EXTREME 2021 SUMMER(2)~

Epic Games Japanが主催するUnreal Engineの公式大型勉強会「UNREAL FEST EXTREME 2021 SUMMER」が、5月17日(月)~22日(土)にかけて開催された。本稿では、Streamline Media Groupによる5月17日(月)のNON-GAME講演「バレンシアガ『Afterworld : The Age of Tomorrow』の舞台裏」の模様をレポートする。

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TEXT_楳園麻美 / Asami Umezono(Playce)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

ファッション業界とコラボした革新的なゲームの誕生

17日のNON-GAME講演は、2020年12月にリリースされた『Afterworld : The Age of Tomorrow』について語られた。本ゲームは、高級ファッションブランドであるバレンシアガが、2021年秋のコレクションを発表するため特別に開発されたもの。舞台はバレンシアガが創造した2031年の近未来で、プレイヤーが主人公となり、制限時間内にゴールを目指すというアドベンチャーゲームだ。

▲『Afterworld : The Age of Tomorrow』のプレイ画面。プレイヤーがキャラクターを自在に操作でき、バレンシアガのストアやシークレットレイブといったゾーンで繰り広げられる5つのステージをクリアしていくと、最後に用意されているサプライズまでたどり着くことができる。ゲームを満喫すると同時に、主人公のアバターやNPCたちが着用しているバレンシアガの最新コレクションを楽しめるようになっているのも大きな特徴

本ゲームの開発プロジェクトは、複数のスタジオと、世界各地のアーティストによるコラボレーションで実現。そのなかで、ゲームの開発を全面的に担ったのが、マレーシアに拠点を置き、ゲームの企画開発などを手がけるStreamline Media Groupだ。

講演の最初に登壇したのは、同社の日本マーケット本部長である和田隼人氏。本ゲームの開発にあたっては、技術とクリエイティブの仕様に関する研究調査を行い、その結果UE4をの採用を決定したと説明。納期は3ヶ月と非常に短い期間であったが、何とかマスターアップすることができたと開発時をふり返った。

また、「本プロジェクトでは、現実の空間や人物を三次元デジタルデータとして撮影するボリュメトリックビデオキャプチャによるデータの制作、実装という新たな試みにも挑んだ」と和田氏。データ実装にあたっては、Microsoft製のプラグインを使用したことにより、時間短縮を実現することができたとも語った。

▲データ制作は、ボリュメトリックビデオキャプチャの専門会社であるDimension Studiosと協力。例えばキャラクターの場合、50点の2021秋コレクションを実際のアパレルモデルが着用し、その映像からボリュメトリックビデオキャプチャでデータを作成したという

バレンシアガの求めるビジュアルワールド実現のカギは

続いて、本プロジェクトのマネージャーを務めたサビナ・オン/Sabine Ong氏より、アート制作に関する紹介が行われた。「プログラミングからアート・VFXまでの開発期間が2ヶ月もない中で、各ゾーンの象徴となるバレンシアガのクリエイティブコンセプトを理解し、ゲームのビジュアルワールドを表現するのが難しかった」とサビナ氏。

その困難を乗り越えるために、関係者、特に本ゲームのクリエイティブコンサルタントを務めたSubstance & Inhaltと緊密なコミュニケーション機会を設けたことや、アセンブル担当、プロップやアセットの制作担当、キャラクターの制作担当といったように、アートチームをグループに分けたことを紹介した。

また、Quixel MegascansやUEマーケットプレイスのアセットを活用したことで、その他のアート制作作業に集中して取り組むことができ、短期間でバレンシアガの求めるビジュアルワールドを実現することができたとも語った。

▲ゲームに対応していない現実世界のアセットはStreamline Media Groupが自社で制作。「Quixel MegascansやUEマーケットプレイスから入手したゲーム用アセットをもっていたため、他のカスタマーアートを制作するための余裕が生まれた」とサビナ氏

▲ゲームの世界により説得力をもたせるために置かれたNPC。「開発時、UEにはまだMetaHumanが導入されておらず、複数の異なるNPCをゼロから制作する時間がなかった」とサビーヌ氏。そこで、リアル感のあるキャラクターを複数制作できるキャラクタークリエイションツールを使用。モデルをマーケットプレイスからのゲーム用のアニメーションと組み合わせ、ゲームに実装した

ボリュメトリックキャプチャの活用や複数企業との協力

次に登壇したのは、ゲームデザイナーのマンソワ・アンワル/Mansoor Anwar氏。非常に短期間のプロジェクトだったこともあり、ゲームデザインについて、まずは開発過程で今後起こり得る問題について検討したと説明。なかでも最初に検討したのは、新たなテクノロジーであるボリュメトリックキャプチャを上手く動かすための制限定義だったとし、そこでデザインの方向性を確立できたことが非常に役立ったと語った。

▲画面に表示できるボリュメトリックキャプチャの数とクオリティの最低ラインを設定するため、サンプルを基にプロトタイプを制作し、レベルデザインを早期に決定。ボリュメトリックモデルを表示/非表示させるためのレベルデザインで使用するツールも同時に決定した

また、各ステージやボリュメトリックキャプチャを自然な動きにしたり、どのようにエンジンに実装したりするかといった点も考慮する必要があり、苦労したものの、「多くのボリュメトリックキャプチャを使ったことで、シームレスなゲーム体験や没入感を生み出し、神秘的な雰囲気を出すことができた」と話した。

ここで話し手は和田氏にバトンタッチ。レベルデザインについては、レベルのゾーン分けの段階でクリエイティブの方針を決定したことや、ステージに使用した車アセットは、自動車メーカーのポールスターが本プロジェクト専用にカスタム制作したCADデータからアセットデータを作成したこと、また、カスタマーアセットが自然に背景に溶け込むよう、交通シミュレーションシステムを追加したことや、歩行者や動物といったNPCにAI機能を実装し、ナチュラルな背景を実現したことが説明された。

さらに、プレイヤーがどんなスペックのPCやモバイルでもプレイできるよう、クラウドストリーミングプラットフォームを使用したことも解説。配信には、Ubitusのプラットフォームを使用しているとした。

続いて、アートや開発段階で行われた様々な最適化プロセスについて、リードプログラマーのラメッシュ・バラチャンドラン/Ramesh Balachandran氏から話があった。

「最適化には、Alembicファイルとしてボリュメトリックスを試すなど、いくつか選択肢があったものの、時間の制約などを考慮した結果、UEでビデオを使用する方法しかないと判断した」とラメッシュ氏。

また、ボリュメトリックキャプチャ以外にも、レベルによってはビルボード用の動画がかなり使われていることが発覚したため、GPU上、ビデオのデコーディングに多くの時間が使えるよう、UEに搭載されているCSVプロファイラを使用。それを、ガントレットオートメーションフレームワークと組み合わせ、開発中、継続的にゲームのテストを行い、最適化と改善が必要なエリアをチェックするために使用したと説明した。

▲CSVプロファイラで生成されたグラフから、処理落ちが起きている修正が必要な箇所を正確に把握することが可能に

次の登壇者は、プロダクション部長のイザール・アマーニ/Izzal Amaani氏だ。本プロジェクトは、世界各国の様々な企業とコラボレーションして制作が進められたこともあり、「プロジェクトの初期段階で、各パートナーに業務を分割した」とイザール氏。

プロジェクトの初期段階でミーティングを設け、早期に定義や技術的な仕様を決定したことがプロジェクト成功の鍵だったと言う。「こんなに多くのボリュメトリックキャプチャを行ったのは初めての経験であり、すごいことをやり遂げたと全員が感じている」と語り、世界中の様々な才能あるスタッフとプロジェクトを進める機会を得たことに対する感謝を述べた。

UE4が様々な業界の未来を切り拓く

こうして、短い制作期間の中で完成した『Afterworld : The Age of Tomorrow』。リリース後、ゲーム雑誌はもちろん、BAZAARやNYLON、VOGUEなどの有名ファッション誌や、Forbes、BBCといったビジネス誌やメディアなどでも取り上げられ、非常に反響が大きかったと和田氏。「これは、ゲームが将来的に他業界にもインパクトを与えられるということの証明だと感じている」と語った。

最後に、同社COOのステファン・バイヤー/Stefan Baier氏が登壇。「既に私たちのスタジオで起きていることだが、今日ゲームをつくっていた人が、次の日はVFXプロジェクトや今回のバレンシアガのようなプロジェクトにあたっている。それを可能にしているのはUEであり、この技術を活用することが、多くの人にとって素晴らしい世界をつくり上げることにつながっていくにちがいない」と述べ、セッションを締めくくった。

「バレンシアガ『Afterworld: The Age of Tomorrow』の舞台裏」講演動画

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