ゲーム開発者向け大規模カンファレンスCEDEC 2021が、8月24日(火)から26日(木)の3日間にわたり、昨年に引き続きオンラインにて開催された。コロナ禍により急激にライフスタイルが変わって1年半が経つ。前例のないリモートワーク下での育児において、ゲーム業界のワーキングペアレントたちはどのような悩みを抱え、どのように乗り越えてきたのだろうか。本稿では、「リモートワークでどうなった?!ワーキングペアレントの働き方と悩み」セッションで提示されたワーキングペアレントや経営者が直面している問題の解決への取り組みをレポートする。


TEXT_武田かおり / Kaori Takeda
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)、小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)




リモートワーク環境における "ワーペアあるある" が続出!

本セッションでは、ワーキングペアレントの「扱ってほしい議題」、「悩み」、「相談したいこと」を事前に募集し、その結果を基にラウンドテーブル形式で議論が行われた。登壇者はセガサミーホールディングスの茂呂真由美氏、セガの竹内公紀氏、そして経営者という立場からヒストリア代表取締役の佐々木 瞬氏。事前申し込み制のZoom参加者は十数名で大半が子育て経験者、3名が経営者という構成。途中からZoomに参加したいという閲覧者が続出するほどの盛況となった。

▲登壇者 左から
茂呂真由美氏(セガサミーホールディングス):小5、高2の姉妹の母。セガサミーホールディングス コミュニケーションサービス部にて、グループ会社全体のコミュニケーション推進活動を企画・実践をしている、セガ コンシューマ開発出身のワーママ最年長
竹内公紀氏(セガ):スマートフォン向けゲームのデータ分析を担当しているデータアナリスト。社内のデータと分析の標準化活動にも力を入れる。8ヶ月間の育休取得経験あり
佐々木 瞬氏(ヒストリア代表取締役):プロデューサー・ディレクターとして家庭用ゲーム、アーケードゲーム、VRコンテンツ、ノンゲームコンテンツの開発を中心に活動中。開発者コミュニティ活動にも力を入れる

▲事前アンケートで寄せられた議題の数々。オンラインホワイトボードMiroを使って色分け、分類されている

最初のディスカッションでは、多くのワーキングペアレントが抱えているであろう悩み、いわゆる「ワーペアあるある」について議論された。「子供に話しかけられたらどう対処するか」、「仕事モードと育児モードの切り替えが難しい」などなど。N氏(3児の母)は、当事者として「緊急事態宣言が発令された当初は子供部屋の端っこに机を置かせてもらっていたのですが、ミーティング中も下の子がガンガンに乱入してくるんですよね」と悩みを打ち明けた上で、今では部屋を紙のカーテンで仕切ることで、子供に遠慮が生まれて以前よりも仕事しやすくなったと話す。

社内でウォーキング大会をやっていた、と話すのはH氏(小3の母)。出勤というフェーズはなくなったが、「朝早くにいったん外に出るというのが仕事のスイッチになったようです」と、会社独自の取り組みが結果的にONとOFFの切り替えに役立ったと説明する。

さて、仕事のゴールデンタイムは夕方になりがちだが、育児もその時間にゴールデンタイムが来てしまうため、チームのメンバーとの作業時間がズレやすい。そんな悩みに対してはS氏が「うちの今のプロジェクトは裁量労働制なので、夜に仕事に戻って溜まったメールにレスを返しています」と、フォローの工夫を語る。

育休復帰後、限られた時間をいかに有効に使う?

ディスカッションの内容は「育休・復帰後の悩み」に移っていく。プログラマーのW氏は「僕も半年くらいは試行錯誤していたんですけど、あらかじめスケジュールを出して、その通りにやる方が大事だなと考えを改めました」と語る。具体的には、実装項目を1時間で終わるもの、30分で終わるものまで細分化していき、それを1日の勤務時間の中に当てはめて自分の作業を「見える化」しつつ、チームメンバーに状況を伝えて理解してもらう。

「自分で設計して最後までやること」をポリシーとしているプログラマーのT氏は、「自分で何でもやりたい病」を抑えて、チームのメンバーに任せられる仕事は任せることが重要だと語る。「他のメンバーに任せるために、メンバーそれぞれの得意分野を知ろうとするようなり、メンバーとコミュニケーションが取れるようになった」と、仕事を任せることの利点を挙げる。

参加者の話で共通して言えることは、物理的な時間は限定されるが、だからこそ作業効率を上げてメンバーとコミュニケーションを取ることで乗り越えられる、ということだ。仕事をフルスペックでできないタイミングは何も育児中だけではない。介護や入院など、誰もが当事者になり得るのだから、普段から協力し合うことは恥ずかしいことではない。M氏は上司の立場から「子育てという環境にいるからこそ効率を上げる働き方をしている。そういう意識が職場に浸透するなら、1つの証、成果になるのではないか」と評価する。

他にも「家事の比重が女性側に偏りがち」といった悩みも届いていたのだが、本セッションに参加している男性陣はさすがに意識が高く、「日曜のお昼など、料理は私が作っています。冷蔵庫の中身も把握していて、何も言われなくても買い出しに行っていますよ」(G氏)、「うちは自分に偏りがちで、炊事と洗濯は全て自分なんですよ」(S氏)といった発言が相次いだ。ただしS氏は、「『偏りがち』という悩みが出る時点で、恐らくコミュニケーション不足なんだろうな」とも語る。そこをないがしろにしては、夫婦関係に不平不満が溜まりストレスにもなり、仕事への集中力が削がれるかもしれない。登壇者の竹内氏は「男性の方から『これやるね』と言えたらもっといいのかな」と提案する。

経営者はワーキングペアレントをどうフォローする?

セッションの後半では、ヒストリアの佐々木 瞬氏が中心となってワーキングペアレントと経営者との相互理解を深めるための議論が行われた。佐々木氏が取り上げたテーマは「育児で対応できなくなった業務に対する、組織の取り組み」について。経営者・マネージャーはどうワーキングペアレントをフォローできるのか。2児の母であり経営者でもあるF氏からは、事例を挙げつつ語られた。「弊社で社員が産休育休を取ったときは、一部は私が受け取り一部はテンポラリスタッフ、一部はアウトソーシングで逃げ切ったという感じです」(F氏)。

▲寄せられた議題はざっくりと色分けされている。黄色は育児、黄緑色は育児に直接関係しないリモートワークの悩み。オレンジが機材持ち出しに関する悩み。濃い緑色が育児介護の就業規則、制度について

「育児だけではなく介護もそうですよね。本当に代わりがいないというのは悩みでした。人を増やすなら仕事を増やさなければならないし。答えはない」と同意するのは、同じく経営者のG氏。中小企業でよりプロフェッショナルな職種になれば、代打要員は簡単には見つからない。求人・面談・確定まで、最短でも3ヶ月程度かかる。加えて女性は産休の予定日まで出勤を続けられるかわからないというリスクがあるため、自分だけでなく会社のためにも、早く相談するに越したことはないようだ。

最近では産休育休を設けている企業も多く、昔と比べるとワーキングペアレントが働きやすい土壌が形成されてきている。後はチームのメンバーや経営者に希望と現状を伝え、どのような制度が活用できるかを相談することが重要になっていきそうだ。このレポートが皆様のより良い「育児×仕事」の忙しない毎日を乗り切る一助となれば幸いだ。