ゲーム開発者向け大規模カンファレンスCEDEC 2021が、8月24日(火)から26日(木)の3日間にわたり、昨年に引き続きオンラインにて開催された。8月25日(水)の講演「モーションアクターによる、より質の高い人の動きを表現するためのノウハウ共有」では、株式会社モーションアクター代表取締役の杉口秀樹氏が、3Dアニメーターやモーションキャプチャデータを扱うモーションデザイナーがより質の高い説得力のある動きを表現するために知っておくべきポイントを、自身のアクション(体の動き)とともに体系化した知見が紹介された。普段モーション収録の現場で、モーションアクターたちがどのような考えで躍動感のある動きをしているのか、格闘技の動きとは異なるモーションアクターならではの動きとは何なのか、仔細な解説がなされた。

TEXT_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

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<1>モーションアクターの位置付けと役割

【応用例⑤】大ジャンプ回転斬りモーション/本講演での解説の集大成(5つのポイントを応用したもの)

杉口氏はモーションアクター歴20年、実写作品のスタントマンとしてキャリアをスタートした。本場ハリウッドの映像制作の現場よりXMA(エクストリームマーシャルアーツ)やトリッキングの技術・文化を日本国内に持ち込み普及させてきたという。最近では『仮面ライダーウィザード』(2012)のスーツアクターを担当したことでXMA・トリッキングシーンの認知度を上げた。

自身の経験を通して得たノウハウをクリエイターと共有するため2020年法人化し、株式会社モーションアクターを設立。現在はゲーム中心にモーションを提供し、最前線のアクター・コーディネーターとしても活動中だ。

本講演では人の動きに関する物理的な事柄に始まり、動きに関する演技、キャラクターの表現など、モーション撮影済みのデータからだけでは読み取りづらい理屈が仔細に解説された。さらに3Dアニメーションで利用した際に、演出として考えているとおりの印象に落とし込むためのポイントがわかりやすく言語化され、自身の体を使った動きとともに解説がなされた。撮影現場で多数の収録リストのオーダーに応えているモーションアクターが、どのような苦労や工夫がなされているかについても圧倒的な実績と、多くの人を育ててきた経験に裏打ちされたポイントが惜しげもなく紹介された。

<2>動きに説得力を出すための5つのポイント

▲より動きに説得力を出すために絶対押さえておきたい5つのポイント

動きに説得力を出すための5つのポイントとして、「加速」「ジャンプ」「切り返し」「インパクト」「着地」が体系化されており、それらが順を追って紹介された。通常3Dアニメーターやモーションデザイナーは、キーポーズを切り出して、これらをガイドに動きをつくることが多いが、そのキーポーズを切り取る際のヒント、特に通常の器械体操にはない「切り返し」がポイントとのこと。


POINT 1:加速は爆発を生む

加速は「爆発を生む」、それによって視聴者を「びっくりさせる」ことが重要。加速とは、0から100までいきなり動きを変化させること。操作している人が気持ちよくなったり、レスポンス速く操作できるということで、視聴者を巻き込んでいくために最初の加速がとても大切になってくる。

●意識するポイント
・傾斜を意識する
・傾斜速度を調整すると加速を強調できる
・傾斜させる箇所で演出の幅を広げられる

歩き出す動きに対して、身体が前に傾かないと、足は前に出ない。足をただ挙げるだけでは前に進むことはできない。立っている状態からつま先の力を抜くと、支点がかかとに移動することによって少し傾斜が生まれ、その傾斜によって身体が倒れていき、ようやく身体が動き始める。直立不動の状態から瞬発的な動きは難しい。そのため、動きを速くするために最初から少し前後に足を開いておき、重心からかかとまで大きな傾斜ができていると、前の足の力を抜くだけで素早くダッシュでき、一緒に足を踏み込むとさらに素早い動きができるという理屈とのこと。

▲加速例1:踏み込みモーション

傾斜が強ければ強いほど、強力で爆発的な動きを生むことができる。ゲームモーションの場合、待機ポーズから動き出さないといけないため、足が広がっている方向に対しては素早く動けるが、そのほかの方向はすぐに加速できない。そのためにどうしているかというと、一瞬身体を浮かして、地面から浮いている状態のときに、行きたい方向とは逆の方向に支点を設置して素早く動くのがゲームでの表現。

ゲーム中の動きであれば、この無駄な動きを消してしまうが、素早い加速を目指すのであれば、現実世界では上記のような動きが必要となる。強力な加速を生むためには体幹の筋力が必要で、筋力が負けてしまうと、上半身が遅れていってしまう。

▲加速例2:呼びつけられたときのモーション


POINT 2:ジャンプは高揚感

ジャンプとは「飛び上がる」こと、ジャンプにおける高揚感とは「滞空時間が長い」こと。つまり高揚感を生むには説得力のある滞空時間にしなければいけない。超常的な力で動くキャラクターではなく、プレイヤーに感情移入させたい主人公キャラクターであれば、こういうジャンプをするのであれば高く飛べるよね! という説得力のあるジャンプの方法をアプローチできれば良い。

●意識するポイント
・「四肢」の使い方と「方向」を意識する
・ジャンプする方向に身体が傾いていること
・両腕でジャンプのベクトルにリードすること
・空中でも四肢で方向をリードすること

上に飛ぶためには、支点の真上に重心がないといけない。横に向いていたら、そちらにジャンプしてしまう。重心が後ろに傾いていれば、当然後ろの方にジャンプする。これはどんなに複雑なアクロバットな飛び方でも同じ。

▲ジャンプ例1:飛び越えモーション

回転しながらジャンプするようなときでも、支点の上に重心が乗っている状態であれば、人間は高く飛べる。重心が支点の上ではなく、飛ぶ瞬間に前に流れてしまっている場合は、距離は飛べるが高さは出ない。高いジャンプをするときは、どんな体勢だったとしても、支点の上に重心がある。支点と重心の延長線上に飛べるように設定しておくと、動きに嘘がなくなる。

▲ジャンプ例2:垂直ジャンプモーション


POINT 3:切り返しはキレ味

▲切り返しとは「反作用」を利用すること。対反射と対反発

切り返しは、キレ味となる。切り返しとは「反作用」を利用すること。身体の演技において対(つい)反射と対(つい)反発の2種類ある(※造語であり、一般的な用語ではない)。※切り返しを「テイクバック」や「ブロッキング」と表現することもある

反作用その1:対反射(ついはんしゃ)

事前に加速させたある部位を「急ブレーキ」させることで目的とする部位にもっと大きなエネルギーを発生させる。

●意識するポイント
・ある部位を先に加速させる。急ブレーキさせる
・対となる部位に生じたエネルギーを利用する
 ※実際に動かしてみて「対になる部位」がどこなのかを探る

●練習
・試しに両腕を振り上げてみる

「対反射」は、ジャンプのときにすでに使っていた方法。ジャンプするときに腕を振り上げる。ただ腕を振り上げるだけでは上向きのエネルギーにはならないが、事前に加速させた腕を急ブレーキさせることで、勢い余った余剰エネルギーで身体が浮く。身体が上方に上がろうとしているときに、Y軸に対してちょうどよくなったときに切り返し(対反射)しないと上に上がることはできない。通常のジャンプよりもタイミングを良くすることで、高く飛ぶことができる。事前に加速させて、本来のエネルギー以上のエネルギーを得るのが対反射の考え方だという。

▲切り返し(対反射)例1:回し蹴りモーション

回し蹴りの事例では、事前に実は上半身、特に右手を加速させている。加速させたものを後ろに引く、反発させることで、本来の目的である、足を強力に飛ばすことが行われている。もし切り返しを行わずに蹴ろうとすると上半身と下半身が一緒に入るので、相手を倒すような説得力は生まれない。しっかり事前に加速させておいて「切り返す」、これによってパワーのある説得力のある動きが表現ができる。

反作用その2:対反発(ついはんぱつ)

目的としている部位と引っ張り合うように反対にエネルギーを放出して、より強いパワーを確保し、動きに説得力を持たせる。

●意識するポイント
・加速させる箇所を確認する
・対になる箇所を確認する
・同時に逆方向に動かしてみる
※実際に動かしてみて「対になる部位」がどこなのかを探る

●練習
試しにパンチしてみる

「対反発」は引っ張り合いの力によって、本来の力をもっと大きくしようという考え方だ。

▲ 切り返し(対反発)例1:ストレートパンチモーション

地面でジャンプするとき、足と腕で引っ張り合いを起こすようなことをして、勢いと躍動感を増している。これを床との間ではなく、自分の体だけでも行うことができる。ボクシングの右パンチは片腕だけ動かしてもパンチとして成立するが、当たる瞬間に左手を引く。ボクサーはダメージを与えようとするとき、左腕を後ろに引っ張る。本来の力だけでなく逆の方向にエネルギーを放出することで、実際の迫力や勢いを増すことができるという理屈だ。パンチや空手の場合、引き手の方が対反射し、引っ張り合うエネルギーになっている。

一番わかりやすい例は八極拳。八極拳の手の動きは本来、向こう側(片側)だけでいいはずだが、逆の方も一緒に反発させることによって、本来以上の力を得ようとしている。

▲八極拳で、両手を広げて引っ張り合う様子。片手だけでも成立するが八極拳では両手でエネルギーを得ている


POINT 4:インパクトを制するものは重さを制する

インパクトとは「シルエット(決めポーズ)」を意識すること。適切な決めポーズを意識することで、重さや強い印象を与える。

▲インパクト例1:ストレートパンチモーション

ここまでの各ポイントの解説は、エネルギーが大きくなる瞬間であったが、インパクトに関しては、ブレないように、体を絞めているシルエットの表現だ。シルエット表現の決定者はクリエイター次第だが、現場で意識しているシルエットのポイントは、目標に対して、骨を一致させること。エネルギーが向かう方向に対して、力が逃げないように、体がブレないように、骨をコントロールすること。

▲骨をコントロールしてブレのないシルエット

では、「骨を一致させる」とは何か。パンチの例を取り上げると、目標に対して、拳、肘、肩、逆肩がまっすぐになっている状態。よく脇が開いている、腰が入っていないといった表現をスポーツなどで耳にするが、これこそが骨が一致していない状態だという。骨が一致していないパンチでは衝撃に負けてしまうが、目標に対してまっすぐになっていれば、少々のことでは、衝撃に負けない。

▲腕を伸ばすポーズ、拳と肘、肩、反対側の方がブレていない

骨を一致させるということをまず理解した上で、後はクリエイターがカッコ良いと思えるポーズに誇張していけば、嘘っぽさもなくなり、物理的な力強さを保ったまま、シルエットをカッコよくしていけるとのこと。


POINT 5:優れた着地はエロスになる

エロスといっても、要するに、しなやかさ、余韻、外連(ケレン)味と呼ばれる部分だ。激しいアクションや、体の情報量がいっぱいになったところから、ビタっと止まると落ち着く。それまで思考をかき回されていたところから、ビタっと止まり、やっと人の思考が始まるので印象に残る。シルエットと顔、力の逃がし方をちゃんと表現することで、カッコ良い、エロスな外連味が表現できると考えている。ジャンプするときと同じで、重心と視点の位置をしっかりと意識することでねらった演出に近づけることができる。

●着地とは
・着地とは「空中から地面に接触したときにエネルギーを逃がす」こと
・エネルギーの逃がし方を工夫することでエロス(しなやかさ、余韻、外連味など)が生まれる
・逆に意図的にエロスを失わせる演出もできる

支点の真下に重心がこないと着地できない。支点が前にいったり横にずれたりしたら、着地もずれてしまう。

▲その場で軽く飛び上がり、高いところから飛び降りているような表現をしている様子

高いところからのジャンプを表現する際、本当に高いところから飛ぶ撮影方法を採る場合もあるが、実際は低いところから飛ぶ方が表現が豊かになることが多い。高いところから飛び降りると、踏ん張るのにいっぱいいっぱいで、外連味のある着地が表現できなくなってしまう。実際は、低めのところから、高いところから降りたようにジャンプをした方が表現をコントロールしやすいので、その場で飛び上がる素飛びをオススメしているという。

▲着地例1:前方跳躍モーション

人間が止まるとき、加速させたものを止めないといけないため、重心よりも少し前に支点を設置しないと、ちょうど上手く止まれないのだという。もし前の方に体重があると、前のめりで勢い余ったような、つんのめったような着地になる。逆に後傾させ、支点よりも腰が後ろにある状態だと、余裕のある状態を演出できる。必死感を出すときは重心を前、余裕がある感じを出すには、重心を後ろに置くと良いとのこと。

<3>5つのポイントを組み合わせた応用編

▲ここまで紹介した5つのポイントを組み合わせる

●動きをスムーズにする場合は、基本5点を1つの動きに組み込む

ここまでの5つのポイントを1つ1つ使った動きの場合、動きは成立はしているけれど、ぎこちなく、スムーズさに欠ける。そういった場合、5つの要素で組み合わせられるところは一気に動作してしまうと良いという。加速やジャンプの後に切り返しを同時に行う、足を振り上げながらジャンプと切り返しを同時に行うなど。そうすると5つのポイントの1つを省略することができ、スムーズに見えてくるとのこと。

●動きをダイナミックにする場合は、基本5点を分断して強調する

逆に動きを大げさに見せたい場合は、5つのポイント全部を丁寧に見せていくことをすると、動きがダイナミックになっていく。わざわざ大きく切り返して、刀を振り終わってから着地するなど。5つのポイントをそれぞれにできるだけ見せようとすると、全体としてダイナミックな動きになる。

これらの理屈を応用すると、武道の達人の動きは、頭に本を乗せていてもブレないような、そのまま平行移動して攻撃するような動きになる。達人のキャラクターではなく、必死になっている動きをする場合や重いものを持っているような表現をしたい場合は、上半身のブレや頭のブレを気にすることで、必死感や勢いあまった感を演出することができる。例えば達人だったら、流れるように動いて止まれるような動きも、腕が持っていかれるとか、ブレながらもなんとか止めようとしている動きが入るなど、様々な表現をすることができるという。

アニメーターが自分が作った動きがぎこちないときや、モーションアクターの動きを見ていてスムーズさに欠けると思ったときには、この動きとこの動きを一緒にできないか? または、この動きとこの動きを分けてできないか? という目で見ると、アクターに適切な指示を出せるようになる。動きをダイナミックに見せて、必殺技感、キメた感を出したい場合は、5つのポイントをひとつひとつを大きく見せ、演出していくことで、派手でオーバーな演出が可能になるとのこと。



株式会社モーションアクターでは、公式YouTubeチャンネルにて本講演で解説された各ポイントの動画をまとめたもの、そのほかにも多数のモーションを仔細な解説とともに公開している。

●株式会社モーションアクターの公式YouTubeチャンネル
https:/youtube.com/c/MotionActorInc
●本講演で解説された各ポイントの動画
https://www.youtube.com/playlist?list=PLyww4TfI-q2eSwAeruZmHjebPpB5do0HU

「ハリウッドの映像専門学校であれば、アクティング、演技の授業も組み込まれており、自分の体を自然に動かせる人が作るカットやアニメーションの方が質が良いものになりやすい。モーションアクターもそういうところをお手伝いできればと考えている。器械体操やアクションができるようになる必要はないのですが、アクターがどういう感覚で動いているのか、正解の感覚を体で理解しておけば、今までとは違った質の高いアニメーション制作ができます」と杉口氏は締めくくった。

▲応用編や体験会も実施。例えば「試し斬り」体験会の場合、「斬る」理論から、試し斬り体験、動きに関するフィードバックと段階を追って解説がなされるそうだ。体験会の詳細はこちらから