トンコハウスが現在制作中のNetflixオリジナルアニメ『ONI』のCG制作担当として注目を集めているプロダクション、Megalis VFX。2017年の設立以来、日本に拠点を置きながら海外のVFX案件を積極的に手がけ、圧倒的なクオリティを生み出し続けている。本誌280号のMegalis VFX特集から、『ザ・ネバーズ』の事例を一部紹介する。超能力を身につけたスーパーヒロインをシリアスかつリアルに描いたSFドラマシリーズでもその手腕を遺憾なく発揮したMegalis。ファンタジックでインパクト十分な炎のVFXが作品への没入感を高めている。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 280(2021年12月号)掲載記事の一部を再構成して転載したものです。
TEXT_草皆健太郎 / Kentaro Kusakai(BOW)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
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『ザ・ネバーズ』
企画/製作総指揮:ジョス・ウェドン
U-NEXTにて独占配信中
www.video.unext.jp/title_k/the_nevers
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様々なシチュエーションで炎を操るMegalisの挑戦
『ザ・ネバーズ』はU-NEXTで2021年6月24日(木)より独占配信中のSFドラマシリーズ。アメリカにおいてオリジナルテレビドラマの品質に定評のあるHBOが配給し、エミー賞の最優秀視覚効果賞にもノミネートされた作品だ。舞台は19世紀ヴィクトリア朝時代末期。ある出来事をきっかけに超能力を身につけた多様なスーパーヒロインたち「タッチト」(神様に触られたというイメージの言葉)を描いている。筆者は第1話を拝見し、シリアスな物語の中にややコミカルさを含んだ、日本の漫画に相通ずる雰囲気を感じた。
Megalisは全編を通じて主に炎を操るアニー・カービー(ボンファイヤー・アニー。以下、ボンファイヤー)のエフェクトを担当。さらにアニー以外のVFXにも多く関わったそうだ。
「20年ほど前、SPIで『スパイダーマン3』(2007)に関わっていたときにジュニアエフェクトアーティストが1名入ってきたんですが、それがJohnny Han/ジョニー・ハンでした。その彼が『ザ・ネバーズ』のVFXスーパーバイザーです。2019年11月頃ジョニーから連絡があり、この作品を手伝ってくれる会社を探していたんです。監督はJoss Whedon/ジョス・ウェドンですが、僕は以前彼と『アベンジャーズ』(2012)の仕事をしていまして、その頃から彼の仕事のやり方が好きでした。ですので、ぜひ打ち合わせをしましょうと返事をしました。この作品は、『バフィー ~恋する十字架~』(1997~2003)や『ファイヤーフライ 宇宙大戦争』(2012)などの象徴的な番組を10年以上続けてきたウェドン氏がテレビに復帰する作品でもありました。VFXとしては、様々な状況下で火を操るというもので、僕が知っている火のワークフローを更新するための大きなチャレンジでもありました」とMegalisのCEO/VFXスーパーバイザー、Daniel P. Ferreira/ダニエル・フェレイラ氏は語る。
担当したのは約200カット。炎のほかにもテレキネシスのシーンからカップの蓋まで、多種多様なVFXをMegalisで制作したという。
ボンファイヤーが生み出す様々な炎
ボンファイヤーは炎を自在に扱う能力をもつ。扱う炎は様々なパターンがあり、パターンごとにHoudiniでアセット化してあるほか、Mantra用のカスタムシェーダも用意。各アーティストは用意したアセットを基にショット内での炎を作成していく。頻出するのは火球だが、そのほかにも放射される炎、炎の壁、爆発などがある。
▲ストーリー上重要な、人びとを導くためのたいまつをつくるシーン。穏やかに希望を感じるような炎に仕上げた
Nukeでつくり込んだ炎の照り返し
Nukeでの作業は多岐にわたるが、Houdiniで作成された炎の合成にあたり、苦労があった。「撮影時に、炎の照り返しをインタラクティブ・ライティングで足してもらっていましたが、どうしても光量が足りず、多数のロトスコープを切ったり、インタラクティブ・ライティングの光をキーイングしてマスクを切ったりして対応しました。結局のところ、Nuke上でかなりの照り返し部分をつくり込んだことになります」とフェレイラ氏はふり返った。
ここで言うインタラクティブ・ライティングの例としては、炎の出現ポイントとなる役者の手のひらにLED装置を仕込み、別の人間がスイッチを操作して光らせるというものがある。この方法による撮影は当初ワイヤーを使っていたため、ワイヤーの消し込み作業などでかなり手間がかかった。その問題点をフィードバックしたところ、シーズン2からはWi-Fi接続でON/OFFできるLEDシステムを取り入れることができ、ワイヤー消しからは解放されたという。ただし、Wi-Fiのシステムやバッテリーの問題から、何とシーズン2からはキャラクターの服装自体が変わってしまったという。
また、セット自体にもインタラクティブ・ライティングが仕込まれており、発光によりある程度の照り返しをつくることができたが、カットによってタイミングがズレてしまったり、スイッチの押し忘れがあったりと苦労した。結果的に、LEDシステムによる光量の追加には限界があるため、システムがあれば使うが、Nukeで光量を足していく工程は必須となった。
撮影時にLEDリグを仕込んで照り返しを表現
撮影時に役者の手のひらにLEDリグをセットし、炎の照り返しを表現することが試みられた。炎の出現位置は手と手の間の空間であることと、LEDだけでは光量が足りないことから、あくまで補助的なリグとして活用した。なお、セットではセキュリティ上の理由で現実の炎は使えないが、安全な状態で小さな火をつけ、それによるオクルージョンや照り返しなどはリファレンスとした。
▲火球発射前のボンファイヤーのクローズアップ。手のひらにあるLEDにより顔が照らされている
▲LEDによる発光が確認できる実写プレート。発光はごくわずかなため、Nukeによる光量の大幅な追加が必要となった
Nuke上で炎の照り返しを追加
Nukeでの主な作業は炎を合成するにあたって、光の照り返しを表現すること。また、塵の素材やレンズフレアなども重ねてリッチな画に仕上げている。なお、光の明滅を表現するため、Multiplyにアニメーションカーブをセットしているのも面白い。ここに掲載しているのはあくまでノードツリーの一部だが、これだけでもなかなかの作業量だ。
その他、詳しいメイキングはCGWORLD vol.280のほか、下記アーカイブ動画でも観ることができます!