いよいよ2012年6月21日(木)から、人型入力デバイス QUMARION(クーマリオン) の予約販売がスタートする。実際にフィギュアをポージングさせて、三次元情報を 3DCG キャラクターモデルへ反映させるという、そのユニークな手法から大きな話題を集めている本製品。なんと、Autodesk 3ds Max ならびに Maya 上で直接 QUMARION の操作が可能になるプラグイン も同時にリリース(※詳しくは、こちら )。しかも初回出荷限定パッケージへ無償で同梱されるという。
普段から 3ds Max を映像制作のメインツールとして使っている筆者であるが、それ以上に幼少の頃からプラモデルやフィギュアに慣れ親しんでいることもあり QUMARION には以前から興味を抱いていた。そこで今回は、その触り心地は? 3ds Maxプラグインはどこまで対応するのか? など、気になる点を探ってみた。

《今回のレビュー環境》
キャプチャ用
OS:Windows 7 Home Premium 64bit
CPU:AMD Athlon X2 64(1.8GHz)
GPU:AMD Mobility Radeon HD シリーズ

フィニッシング用
OS:Windows 7 Professional 64bit
CPU:Intel Core i7 3600K(3.4GHz)
GPU:NVIDIA Quadro 600

QUMARION(クーマリオン)とは

実際に QUMARION を動かしてみると、本当によく動くことに驚いた。一般的な市販の可動フィギュアの場合、可動範囲とプロポーションを両立させるためにどうしても可動範囲が犠牲となりがちだが、QUMARION では可動させることに重点を置いているので、正座や前屈から、膝を立てて銃を構えるといったポーズまでとることができる。それでいて、ロボットっぽいが流線的でスタイリッシュなプロポーションに仕上げられている。
腰周りの機構などよく考えられており、各関節が多重関節で構成されているのが確認できる。16個の関節に回転を検出するセンサーが仕込まれており、それを 3DCG ソフトウェアへフィードバックするしくみだ。また、本体には加速度センサーが内蔵されているので全身の傾きも検出される。可動に関しては非常に良くできているので、デッサン人形やフィギュアを触ったことのある方はその自由な可動範囲に驚くと思う。

ポーズ例1 ポーズ例2 ポーズ例3 ポーズ例4

この驚異的な可動範囲を見よ! 前屈では足の先まで手が届くので、自分より体柔らかいやないかぃ! と、ツッコミたくなる。セクシーなポーズから、いかついポーズまで多彩なポージングが可能だ

背中にある USB ポートと PC を USB ケーブルで繋ぐと自動的にドライバがインストールされ、QUMARION が USB デバイスとして認識される。付属の CLIP STUDIO ACTION を起ち上げると、難しいセットアップなしに、CLIP STUDIO ACTION 上のキャラクターモデル が QUMARION 本体のポーズに応じて動き出す。各部位を動かすとリアルタイムで CG キャラクターモデルに反映されるのだが、UI にはタイムラインも用意されているのでアニメーション作成も可能だ。

作例

CLIP STUDIO ACTION(奥)とQUMARION(手前)。今回は、CLIP STUDIO ACTION については割愛させてもらったが、基本的な操作に関してはアニュアルを読む必要がないほど簡単であった

3ds Max 版プラグインのセットアップ

それでは、セルシスより貸し出しいただいた美少女モデル 「水泳部部長」 を使って、3ds Max プラグインとしてどのように動くのか見ていきたい。

セットアップは非常に簡単だ。プラグインをインストール後、ユーティリティパネルから [QUMARION Motion Capture] を起ち上げ、[Bone Setting] をクリック。後は、画面の指示に従ってボーンを指定するだけでセットアップ(ボーンのマッピング)が完了してしまう。[Capture Start] のボタンが点灯すれば成功だ。
[Capture Start] を押すと、QUMARION と 3ds Max 内のキャラクターの動きがリンクし、キャプチャが開始される。ポーズを付けた後、[Capture Stop] をクリックするとポーズが固定される。キャプチャ時はキーフレームを打つこともできるのでアニメーション作成に利用できるだろう(実際に試してみたので詳しくは後述する)。


3ds Max 上での QUMARION セットアップ例。頭、左腕、右腕、左足、右足の 5 箇所の関節を指定(ボーンマッピング)するだけと、いたってシンプル。T スタンスでなくても認識するが、誤認することもあったのでTスタンスにしておく方が無難かもしれない。なお、美少女モデルを動かす際にニヤけていると、周りのスタッフから白い目で見られるので要注意

それでは最も気になる、「"ボーンの数が異なる" 自作のキャラクターを QUMARION で動かせるか?」 という点を見ていこう。3ds Maxユーザーであれば Biped(CharacterStudio)や CAT でリグを組んでいる方も多いと思う。そこで筆者自作の Biped ベースのカスタムリグを使ったキャラクターモデルで機能するか試してみた。
セットアップ時に追加ボーンが重なって表示されるが、基本となるボーンをきちんと指定すれば仕込んである IK も含めて動き出した。他にもいくつか自前のキャラクターで試してみたところ、逆関節のリグなど QUMARION と大きく構造が異なるモデルはやはり思ったように動かなかった。
さらに、最近 CAT を愛用しているのでこちらでも使えるか試してみたところ、ひと工夫すれば非公式ながら動かすことができるようだ。ボーンオブジェクトであれば認識するようなので、QUMARION の構造をベースにしたリグをラッパーにすれば、複雑なカスタムリグでも動かすことができるので応用範囲は広い。


カスタムリグの適用例。自作のモデルが半分手に取ったような感覚で動き出すのは感動的だ。この感覚は実際にやってみないとわからないので是非試して頂きたい。QUMARION にプロポーションが近い方が違和感は少ないが、このように足の長さが違っていたりディフォルメされたキャラクターでも操作可能だ

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ポージングツールとしての使い勝手

ここからは QUMARION を使って、実際にコンテンツを制作していく。活用方法として真っ先に思い浮かぶのが、作画用のポージングツールとしてだろう。漫画やイラストを描く時などデッサン人形を持ちながら描くことがあるが、QUMARION はまさにその進化形と言える。
先ほどキャラクターをセットアップしたシーンを読み込む。シーンデータにセットアップ情報も保存されるので一度セットアップしたキャラクターはすぐに動かすことができる。あとは画面を見ながら QUMARION を動かしてポーズを決めるだけだ。なお、QUMARION 自身は常にワールドスペース正面を向いているので、カメラの位置は 3ds Max 側で制御する。


プラグインを用いて 3ds Max 上でポージングをさせてみた。通常のマウスによるポージング操作とちがい、全体の量感を掴みながらポーズを直感的に付けられる。デッサン人形を手元において試行錯誤するような感覚でいじることができ、これが非常に楽しい

QUMARION でポージングさせた CG キャラをレンダリング、あるいはスクリーンショットを撮り、それを下絵にしてイラストを描くというのが一般的な利用法だと思うが、今回はレンダリングした 3DCG イメージに対して、そのままレタッチする形でイラストを描いてみた。
レンダリングする前に、QUMARION 単体では指先やアタッチされたオブジェクトの操作はできないので、ポーズを組んだ後、指先やフンドシのボーンを整えていく。その上でレンダリング後、付属の CLIP STUDIO PAINT PRO に画像を読み込む。実は筆者は日頃から PAINT PRO を愛用しているのだが、描き味が素晴らしく、イラストや漫画制作にはうってつけのペントツールだ。PAINT PRO を利用すれば 3DCG ペースのイラスト制作がより快適に行えること請け合いなので、ぜひ試していただきたい。なお、QUMARION パッケージに同梱される PAINT PRO には、セットアップした自作のキャラクターモデルを読み込める機能も追加されるようだ。

レタッチBefore/After

3ds Max から書き出したレタッチ前(左)と、PAINT PRO でレタッチ中の UI(右)。3DCG を手軽にイラスト制作に使うことができる。制作前にフィギュア遊びにのめり込んでしまいそうだ

完成イラスト

一連のレタッチ処理を施した完成形。3DCG ならではのディテールと、2D 独特の風合いを併せ持つイラストを効率よく作成することができた

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モーションキャプチャツールにもなる?

QUMARION システムはタイムライン機能を有しているのでアニメーション作成も行えると先述した。そこで、モーションキャプチャシステムとして利用できないか試してみた。現時点ではリアルタイムレコーディングに対応していないので、コマを送りながら各キーフレームのポーズを記録(キャプチャ)していくことになる。

ここでいくつか問題が見えてきた。アニメーションを作成する上では、足の接地や重心移動といった次の画への繋がりなくして成立しないが、QUMARION は腰の回転は認識できるものの、地面への接地や移動距離、腰の上下運動を認識できない。つまり、常時キャラクターが空中の定点に浮いた状態なので、例えば歩行モーションを作る場合は腰の高さで固定された状態で手足を動かす必要がある。移動距離、腰の高さ、接地などを後処理しないといけないので、きちんと歩かせようとすると、これがなかなか大変なのだ。

QUMARION を複数人で操演してモーションキャプチャに挑戦

人形浄瑠璃のように複数人で操作してキャプチャするという荒業を、実際に仲間 4 人で試してみた。キー打ち、胴体、上半身、下半身に分かれて操作してみたのだが、ちょっとしたお祭り騒ぎである(苦笑)


実際に 4 人がかりで歩かせてみたアニメーションがこれ(敢えて手付けによるモーション修正を施していない)。いうまでもなく全員初めての体験なのでこんなものだろうか、修行が必要である

また、ポーズそのものは作り易いがキー入力をする際に手を離さなければならず、難しいポーズを維持しながらキーを押すのがなかなか大変なので、フットスイッチを用意するか 2 人以上で操作した方がよさそうだ。背中にボタンがあるので、ここにショートカットを割り振れるようになるともう少し楽かもしれない。

QUMARION 背面ヨリ

QUMARIONの背中には、ボタンが配置されている。現在は、CLIP STUDIO ACTION の[QUMARIONからの入力 ON/OFF]設定切り替えに用いるものだが、その他用途にも流用できそうなので期待したい(※製品版では、加速度センサーのON/OFF できるようになる予定)

QUMARION でキーポーズを作り、中割りを 3ds Max で行うというのが順当な使い方ではないだろうか。通常の使い方では現状はこんな感じだが、ひとつの使い方に捕らわれずに色んな使い方にトライすると思いもしなかった面白い使い方が見つかるかもしれない。


気を取り直して、「水泳部部長」モデルを用いてモーションキャプチャしてみたのがこちら。タブレットなど直感的なデバイスも慣れることで本来の性能を引き出せるので慣れは必要だ。なお、修正すると判断材料にならないので、こちらも敢えて後処理は施してしていない

今後への期待

今回は、実質 3 日間という非常に限られたレビュー期間であったが、コーヒーブレイクにちょっとフィギュアをいじるのに近い遊び感覚で気軽に 3D モデルを動かせた。マウスを握って画面と向き合うのとは確かに感覚が違い、常にデスク脇に QUMARION がある環境が構築できれば、クリエイティブワークにもまた色々と変化があるかもしれない。
タブレットデバイスが台頭し、感触のないスクリーンをタッチするタイプのコントローラーが増える中、こういった物理的なデバイスが登場したことの存在意義は大きい。研究室インハウスのツールは色々あるが、それを製品化してしまったのはひとつの事件だ。フィギュアを動かすことで画面内のキャラクターを動かすという方法自体が日本人的であり、なかなか面白いものが出てきたと思う。

新しいデバイスというものはこれまでの感覚の下で導入しようとすると面食らうこともある反面、既成概念に捕らわれない新たな制作ができる可能性も秘めている。もし、SDK が公開されれば、3DCG 制作に限らず、ゲームやインタラクティブコンテンツへの応用もできる。そうなれば今までになかったキャラクターコンテンツやアート作品が出てくるのではないだろうか。また、フィギュアの構造上改造もできそうなので、QUMARION 自体をカスタマイズする猛者も現れるにちがいない。そういったプラモデルやフィギュアの文化も取り入れて新たなムーブメントが起こることに期待したい。
開発元のセルシスはユーザーの声を次々に反映させて改良していく開発姿勢に定評あるベンダーだ。まだ産声を上げたばかりの QUMARION であるが、ユーザーの声と共にどのように発展していくのか今から楽しみである。

※今回のレビュー執筆時点では、プラグインはベータ版であり、実装されていない機能もある点をご了承いただきたい。また筆者のメインマシン(フィニッシング用)ではエラーが出て上手く動作しなかったため、チップセットの異なるラップトップに入れてみたところ正常に機能した。製品版では一連の不具合が解消されていることを期待したい

TEXT_高橋哲人(TETSUJIN Audio Visual)
2009年にもらい事故にあって以来、色んなことが変わりました。TETSUJIN も 2 人体制になり、アーティスト作品をはじめ、新たな仕事を拡大中です。今後も世の中をワクワクさせることをしかけていければと思っております。

QUMARION

CELSYS|QUMARION

2012年6月21日(木)15時から予約受付開始!
Autodesk Maya/3ds Max 用 QUMARION プラグイン(Windows版)を無償同梱
価格:67,800円(初回出荷限定価格、送料別)
対応OS:Windows/Mac OS X
※より詳細な情報は、QUMARION 公式サイト を参照のこと