NVIDIAユタ大学からなる研究チームは10月4日(土)、新しいコンタクトモデルに関する論文「Offset Geometric Contact(OGC)」を発表した。布や髪の毛のシミュレーションにおいて、オブジェクト同士が貫通しないことを保証しつつ、計算のオーバーヘッドを最小限に抑えることを目的とする。ソースコードはNewtonGaiaの2種が公開され、どちらもオープンソース(Apache-2.0ライセンス)。

新しい接触ハンドリング手法である「Offset Geometric Contact(OGC)」は、従来の代表的な手法「Incremental Potential Contact(IPC)」と比較して、IPCが衝突の可能性がある場合に全頂点の動きを小さく制限してしまうのに対し、OGCは衝突から遠い頂点はより大きく動かすことができる。このことから収束が速くなり、2桁以上高速なパフォーマンスを実現する。

▲50枚の布の束(頂点数50万)をシリンダオブジェクトの上に落下させた様子

布などのオブジェクトの三角形メッシュを構成する「三角形」「辺」「頂点」の各要素は、それぞれのノーマル(法線)方向にオフセットして膨らませることで、各オブジェクトが体積を持つビルディングブロックとなる。ある頂点が他のオブジェクトと接触しているかどうかは、このビルディングブロックの内部に入っているかどうかで判定し、入っている場合はノーマル方向に押し出す力を加える。これにより、接触力が常にサーフェスに対して直交するようになる。

▲糸レベルでの布のねじれシミュレーション

このようなOGCの手法は、従来のIPCの問題や収束の遅さを改善し、リアルタイムでの大規模なシミュレーションを可能にする。特に連続衝突検出のコストを回避できる点が大きな利点とのことだ。

■Offset Geometric Contact(プロジェクトページ、英語)
https://ankachan.github.io/Projects/OGC/index.html

ソースコードはPythonとC++の2種がオープンソースで公開

「Offset Geometric Contact(OGC)」のソースコードはPython実装の「Newton」とC++実装の「Gaia」の2種類が、Apache-2.0ライセンスのオープンソースとして公開されている。

Newtonは、NVIDIAのGPUベースの物理シミュレーションライブラリ「Warp」上に構築された、GPUアクセラレーション物理シミュレーションエンジン。ロボット工学やシミュレーションの研究者を対象とし、リジッドボディと布の連携シミュレーションや、布のねじれといった物理シミュレーションのデモや研究に用いることができる。

■Newton(GitHub)
https://github.com/newton-physics/newton

Gaiaは、物理ベースのシミュレーション用に設計されたC++のコードベース(Gaia Physics Engine)。スタンドアロンのシミュレータ、または他のアプリケーションに組み込むサードパーティモジュールとして利用できる。提供されているパラメータファイルを使って、論文で示した実験の再現や検証に用いることができる。

■Gaia(GitHub)
https://github.com/AnkaChan/Gaia

CGWORLD関連情報

●NVIDIAら、モーキャプデータのアーティファクトを自動修正する新手法「StableMotion」をオープンソースで公開!

サイモンフレーザー大学、エレクトロニック・アーツ、カナダ国立研究機構、NVIDIAからなる研究チームが、モーションキャプチャデータに含まれるアーティファクト(不自然な動き)を自動で修正する新しい手法「StableMotion」を発表。オープンソース(MITライセンス)で公開した。
https://cgworld.jp/flashnews/01-202509-StableMotion.html

●NVIDIAの新AIモデル「LuxDiT」発表! 単一画像・動画から高品質なHDR環境マップを生成できる拡散トランスフォーマー

NVIDIA、トロント大学、ベクター人工知能研究所からなる研究チームが、1枚の画像・動画からその場所のリアルなライティングを推定し、高精度なHDR環境マップを生成できるDiT(Diffusion Transformer、拡散トランスフォーマー)、「LuxDiT」を発表。コードは近日公開される予定。
https://cgworld.jp/flashnews/01-202509-LuxDiT.html

●NVIDIAが3DGS技術「LongSplat」発表! スマホで撮影したカジュアルな動画から空間の3DGSモデルを生成し、自由な視点の映像をつくり出す

国立陽明交通大学とNVIDIAの研究チームが、スマートフォンなどで気軽に撮影した長尺かつ複雑な動きを含む動画から3D Gaussian Splattingモデルを生成し、新しい視点の画像を生成するフレームワーク「LongSplat」を発表。GitHubではNVIDIAライセンスでコードが公開されている。
https://cgworld.jp/flashnews/01-202509-LongSplat.html