2023年9月29日(※現地時間)のオープン以降、その圧倒的なイマーシブ体験によってライブエンターテインメントの既成概念を超越し続けているラスベガスの「Sphere」。2024年12月27日から開催中の『Afterlife presents Anyma ‘The End of Genesys’』は、同施設初のエレクトロニック・ミュージック・ショーである。そして本公演の映像演出に登場するデジタルヒューマンの制作をハイパーリアルなデジタルポートレートで知られるイアン・スプリグス氏が自身のInstagram投稿で発表した。

本公演のラストを飾った『HUMAN NOW』アクト模様

ダンスミュージックシーンを中心にデジタルアーティストからも注目を集めていた、AnymaのラスベガスSphereにおけるレジデンシー公演『The End of Genesys』が2024年12月27日から好評開催中だ。

当初は大晦日の一夜限りの予定だった本イベントは、Sphereの外壁を覆うLEDディスプレイ(その面積は、54,000平方メートル!)を使ったインパクト大のティザー動画の効果もあり、会期が6日間に延長された。しかし、用意された10万枚のチケットが予約開始から数時間で完売したことを受け、1月10日(金)と11日(土)に追加公演が実施されることが決まった。

10月9日に投稿されたAnyma『End of Genesys』ティザー動画。現地ではどのような見え方だったのか、気になって仕方がない

Sphereやアーティスト自身による公演の様子を収めたムービーなどのSNS投稿に続き、LEDスクリーンに映し出される映像制作を手がけたクリエイターたちによるSNS投稿が昨日から続々と始まっている。

そのひとつが、ハイパーリアルなデジタルポートレートで知られるイアン・スプリグス氏のInstagram投稿。スプリグス氏はVolumetric Camera Systems Inc.(以下、VCS)のチームスタッフとして、ショーに登場するデジタルヒューマンの制作を担当したという。

イアン・スプリグス氏のInstagram投稿

VCSチームが制作を担当したのは、3番目に登場する『Horizon』と、ラストを飾る『Human Now』。

VCS創業者であり、今回の映像制作ではプロデューサーを務めたトビアス・チェン/Tobias Chen氏のSNS投稿によると、制作期間は1.5ヶ月だったという。Sphereが誇る16K解像度のLEDスクリーン(2億6,843万5,456画素!)向け映像の制作期間としてはかなりタイトな印象を受けるが、スプリグス氏らをはじめとする優れたアーティストが参加したことによって、素のモーキャプデータを洗練されたアニメーションに仕上げ、3D環境とデジタルヒューマンを融合させたイマーシブなコンテンツに仕上げることができたそうだ。

VCSが独自開発したボリュメトリックキャプチャシステムについては、これまでにニール・ブロムカンプ監督・脚本作品『Demonic』(2021)のデジタルダブル制作に採用されたり、キヤノンUSAが開発中のVRソフトウェアプラットフォーム「Kokomo」への技術協力などが公表されてはいるものの、その具体的な仕様については謎が多い。今後の動向も気になるところだ。

【スプリグス氏が参加したチームのスタッフリスト】
Creative Direction by Alessio De Vecchi and Matteo Milleri @alessiodevecchi & @anyma

Show producer & director Elia Bertolaso @eliabertolaso

Character Art by Ian Spriggs @ianspriggs

Direction by Han Yang, Abhishek Joshi and Aleesio De Vecchi @unreal_hany @hishimaru @alessiodevecchi

Producer Tobias Chan @hologramtobias

Rigging by David Jiang @5555gui

Production by Volumetric Camera Systems @volumetriccamerasystems

Compositor Patrick Conaty @patrick_conaty

Lead td/cg Artur Gadzhiev @art.gadzhiev

実制作では、Meta Quest 3とApple Vision Proを用いてVR空間上にSphereの本番環境を再現して、その見え方を確認しながら画づくりを進めたという。また、レンダリングリソースについてはAMDとHPからハードウェア提供の協力を得ているとのこと。

そのほかにもベルギーに本社をかまえる国際的なアニメーションスタジオ「Woodblock」が30以上のビジュアル開発を担当。Sphere独自の環境への最適化にあたっては、Sphereのカメラ・システム「Big Sky」アーキテクトリーダーであるディアナン・ダシルヴァ/Deanan DaSilva氏のサポートを得たそうだ。

リアルベースかVRベースかを問わず、テクノロジーの進化と相まって急成長を続けるイマーシブコンテンツは、2025年も要注目である。

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デジタル・ポートレート・アーティストのイアン・スプリグス(Ian Spriggs)氏は6月5日(水)、Xに新作ポートレートを投稿した。今回の題材は7歳になったばかりの姪、テア(Thea)ちゃん。2021年にテアちゃんと同年代の弟ジャスパー(Jasper)くんのポートレートを制作したスプリグス氏だが、「7年ごとに彼らのポートレートをつくり、成長と変化を捉えようという計画です」と話す。
https://cgworld.jp/flashnews/202406-IanSpriggs.html

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