総タレント75名、YouTubeチャンネル登録数7,600万(2023年4末時点)。2017年から始動し、今インターネットの最前線で活躍するVTuberグループ「ホロライブプロダクション」を手掛けるカバー株式会社

そんな同社が手掛ける現在開発中の新規プロジェクト『ホロアース』内で、サーバー負荷などの検証を目的としたバーチャルライブイベント プロトライブ リプレイが5月25日に行われた。

さらに、同イベント終了後、新たなバーチャルライブイベント「Protolive#2 〜ヤマトファンタジア〜」が2023年7月15日に開催されることも発表され、ホロアースがますます活気を帯びることが予想される。

正式サービス開始に向け注目が集まるホロアース。今回はプロジェクトを統括するプロデューサー大岡祐輝氏、テクニカルアーティスト井藤駆氏、3DCGモデラー奈良早也香氏の3人にホロアースプロジェクトのきっかけやこだわった技術開発についてお話を伺った。

「VTuberが生きる世界を作りたい」 ホロアースプロジェクトのきっかけ

CGWORLD編集部 (以下CGW):プロジェクトが始まった時期やきっかけを教えてください。

大岡祐輝氏(以下、大岡):ホロアースプロジェクトの構想は4年前から始まりました。弊社のVTuberが実際に生きているような世界をもっと詳しく掘り下げたい、そんな想いから独自の世界観を表現したアートブックを製作し、2019年冬のコミックマーケットで頒布しました。なので、実際に初めて世に形として出たのは2019年ですね。そして2021年の春からメタバースプロジェクトの開発が始まり、現在に至ります。

ホロアースの構想を描いた『HOLOEARTH CHRONICLES』。2019年冬に開催されたコミックマーケット97で頒布された

CGW:一冊のアートブックから始まったとは驚きです。

大岡:そうですね、弊社のVTuberが実際に生きていそうな世界を作り出すことがはじまりでした。それに加えてホロアースでは、アニメルックな肉体で異世界のような舞台を歩き回りたい、そんな想いを持ったアニメファンの方々全体にも楽しめるような世界づくりを目指していきたいと考えています。

CGW:正式なサービス開始はいつ頃を予定していますか?

大岡:来年を予定しています。オープンワールドで自由に楽しめるサンドボックスゲーム機能、バーチャルライブやユーザー同士で交流が楽しめるコミュニケーションロビー機能、ユーザーが自分自身のキャラを作り出せるアバタークリエイト機能。この3つの機能の準備が完了してから、正式なサービスとしてホロアースを開始できればと考えています。

バーチャルライブ機能は昨年冬のプロトライブで既にユーザー体験してもらったりと、既に一部機能はお楽しみいただけるようになっています。その中でホロアースというサービス全体が成長していくプロセスもユーザーの皆さんと一緒に楽しみたいですね。

背景とキャラクター、それぞれを最大限引き立たせた技術

CGW:次はプロジェクト全体のルック開発を担当されている井藤さんにご質問します。ルック開発の部分でどの点にこだわりましたか?

井藤 駆氏(以下、井藤):ホロアースのルック開発では主にUnityを利用しています。そこでこだわった点を2つご紹介します。まず1つ目は、存在感を感じさせるアニメルックの追求です。ホロアースのキャラクター『謎の少女』を例に説明します。

コミュニケーションロビーの宙に浮かぶ謎の少女。少女が乗る三角錐のポータルオブェクトからの発光感を演出するために、Bloomに加えLens Frareを使用

こちらでは、宇宙的な空間でキャラクターにあたる光を印象的に見せたいという意図がありました。なので、キャラクターの基本色のうちマスクで指定した部分のみエミッションを強めるようシェーダー側で対応し、アバターにあたる光が印象的になるように工夫を施しました。

ホロアースでは、創作物の世界でありながらまるで現実に存在しているかのように錯覚するルック開発に取り組んでいます。

2つ目はリッチな背景を作り出すための工夫です。ホロアースのルックのコンセプトとして、背景は物理ベースレンダリングを用いた写実的な演出をしつつ、キャラクターはアニメルックに表現することを目指しています。

よりリッチな背景を映し出すために、光の表現を重視しました。まずTonemapをかけコントラストを出してからFogを追加。そしてBloomとGodrayを加え、最終的にLens Flareを描写することで光が印象的な背景を作り出しました。

全体的にTonemapをかけてしまうとキャラクターにもTonemapがかかってしまい、アニメルックなビビッドな色が出ないという課題がありましたが、アバターシェーダー側でTonemapの疑似的な逆変換を実装することで、リッチな背景とアニメルックなキャラクターを両立させました。

Tonemapのみ
Tonemap + Fog + Bloom + Godray + Lens Flareを加えた背景。近景、中景、遠景を分けてFogを描写するために、URPをベースとしたレンダリングパイプラインを自社でカスタマイズし利用した。
同じくTonemapのみ
同じくTonemap + Fog + Bloom + Godray + Lens Flareを加えた背景。

CGW:次はアバターの3DCGモデルを担当されている奈良さんにお聞きします。アバター開発においてこだわっているポイントを教えてください。

奈良 早也香氏(以下、奈良):Mayaを利用してモデル開発をしています。こだわったポイントとして、まず1つはリッチな背景になじむ、アニメルック調なキャラ表現です。具体的には、キャラクターのモデルにかかっている光側をあえて単調化し、影側の情報量を増やすことで、アニメルックながらも絵のディティールが高まっているような表現を追求しました。

光側の単調化と陰影側のディティールの向上を反映させたアバター。光側はbloomで色調を飛ばし、陰側は光側よりもグラデーション階調を強調した。

もともと光側と影側の情報量を同じくらいにしていたところ、どうしても単調さが現れてしまっていましたが、アニメやイラストなどを参考に研究を重ねた結果、光側と影側のコントラスト差を強めることで、リッチな背景にを強めることで、リッチな背景に馴染むキャラクター表現を作り上げることができました。

また、アバターのプロポーションにもこだわりました。もともと設定画のプロポーションバランスに合わせて、モデル製作を進めていたのですが、衣装の着せ替えを想定したときに、似合わない服がどうしても出てきてしまうという課題がありました。ユーザーが色んな衣装の着せ替えを楽しめるように、衣装の特徴を残しつつアバターのプロポーションを調整していきました。

設定画段階と比較して、 腰位置を上げて足を長くする、上半身を小さくして肩幅を小さくするなどの対応を行っています。そのうえで、なで肩のシルエット、腰から太ももにかけてのシルエットといった、キャラクターデザインの特徴的な部分は強調することを意識して調整を行いました。

アバター設定画
プロポーション調整後のアバター3Dモデル

CGW:貴重なお話をありがとうございました。リッチな背景、アニメルックなキャラクター表現、そしてそれらを両立させるために様々な技術と工夫が施されているのですね。

最後に、『ホロアース』を待ち望んでいるユーザーに向けて一言ずつお願いします。

井藤:これまで日本が生み出してきた洗練されたアニメーションや、アニメルックに挑戦している他の作品を最大限リスペクトしつつ、より高品質なルック開発をしたいと考えています。そして作り上げたルックを通じてユーザーの方たちにホロアースを楽しんでほしいですね。

奈良:ユーザーの皆さんに夢中になってもらえるような世界観を届けられるよう頑張っていきます。キャラクターをカスタマイズしていく過程で、どうしても形状に違和感を感じてしまうことがあるのですが、これを限りなく0に近づけ、世界観に没入できるキャラ表現を目指していきます。

大岡:成長していくコンテンツ、これを皆さんに体験してほしいと考えています。将来的には、10年、またそれ以上の長いスパンで続いていくメタバースプロジェクトになってほしいですね。そして、ホロアースが成長していく過程をユーザーさんと一緒に楽しみながら、常にベストのクオリティを追求していきます。

CGW:ありがとうございました。現在ホロアースでは積極的にテクニカルアーティストなどクリエイターを積極採用募集中とのこと。ますます勢いづくホロアースに目が離せませんね。

画像はすべて開発中のものです。

左から井藤 駆氏(テクニカルアーティスト)大岡祐輝氏(プロデューサー)奈良 早也香氏(3Dモデラー)

EDIT_山下一貴 / Itsuki Yamashita(CGWORLD)