株式会社ジェットスタジオでエフェクトを中心に担当しつつ、本誌で「JET STUDIO Effect Lab.」を連載中の近藤啓太氏。「学生時代は、ほとんどエフェクトを勉強しませんでした」と語る近藤氏が、どのようにエフェクトの腕を磨いていったのか語ってもらった。

INFORMATION
CGWORLDゼミ「CGエフェクトセミナー」開講!
ジェットスタジオ近藤啓太氏によるCGエフェクトについての特別ゼミを開講します!
理系でも美術系でもない文系出身だった近藤啓太氏ならではの分かりやすいCG技術の解説で、今最も熱いCGエフェクトの最先端テクニックが学べます。 エフェクトアーティスト志望者は、ぜひご参加ください!

【東京会場】
■日時:2015年7月12日(日)13:00 ~ 15:00(受付開始:12:30~)
■会場:ヒューマンアカデミー東京校

【大阪会場】
■日時:2015年9月13日(日)13:00 ~ 15:00(受付開始:12:30~)
■会場:ヒューマンアカデミー大阪校

【名古屋会場】
■日時:2015年11月22日(日)13:00 ~ 15:00(受付開始:12:30~)
■会場:ヒューマンアカデミー名古屋校
■主催:総合学園ヒューマンアカデミー
■申込み:こちらから

最も大切なのは
"画づくりができること"

近藤氏は専門学校を卒業後、ジェットスタジオに入社した。「学校では3DCGの工程をひと通り学びましたが、エフェクトはほとんど経験しませんでした」。近藤氏の時代と同様、今も最初からエフェクトをやりたがる新卒は少ないという。「入社後、徐々にエフェクトの楽しさに目覚めていきました。2年目に、とあるプロジェクトのエフェクトを全部任せていただき、そこで認められたことが自信につながりましたね」。品質に加え、納期も守れたことが評価されたと近藤氏はふり返る。エフェクトをやるなら、スクリプトなどの理系の素養が必要だという印象があるが、近藤氏自身は"バリバリの文系"だという。「最も大切なのは"画づくりができること"ですね。終盤工程であるエフェクトは、最終的な画づくりに大きく影響する仕事です。絵コンテやディレクターの意図を解釈して、自分なりの画づくりができる楽しさがあります。一方で、画づくりのアイデアが思い浮かばなければ、何もつくれなくなってしまう怖さもありますね(苦笑)」。そのため近藤氏は、自分のなかの"引き出し"を増やすことを常に心がけているという。「まずは実物の自然現象や映像作品のエフェクトを山ほど見て、分析して、自分で再現してみる習慣を身に付けてほしいですね」。

01
現実世界の自然現象を
3DCGで模写する

前述の「JET STUDIO Effect Lab.」は、"実物の動画を見ながら完全な模写を目指すエフェクト制作"を中心とした連載だ。現実世界に存在する炎や水の動画を見ながら、それらを3DCGで模写することで、観察力が養われると近藤氏は語る。「例えば炎なら、形・質感・動き・色・火花などをじっくり観察、模写することで、今まで見過ごしてきた要素に気づけるでしょう」。想像だけで作り続けるのではなく、まずは本物を見て、真似て、何が綺麗なのかを認識してほしいと近藤氏は続ける。さらに、作品として世の中に発表されたものを見るだけでは不十分だともいう。「どうしても3DCGになった時点で情報量は減ってしまうので、既存の作品だけを見続けていると、表現できるものが限られてしまうのです」。そうやって身に付けた自然現象の知識は、現実にはありえない派手な光の乱舞や、ドラゴンの口から吐き出される炎を作る際にも有用だという。「例えばクリーチャーをモデリングする場合には、実在する動物を組み合わせたり、変形させたりしますよね。エフェクトの場合も同様です。現実の自然現象の知識を応用することで、説得力のあるエフェクトを生み出せるのです」。
※以下、CGWORLD192号掲載の『焚き火』より転載


1 は「JET STUDIO Effect Lab.」の連載第1回目に近藤氏が制作した、焚き火のエフェクトだ。2 では、火の形が三角形になるよう調整している。「火は燃焼する際に酸素を必要とするので、周囲の酸素を取り込もうとする空気のながれが発生し、三角形になりやすいのです」。こういった現象のしくみを理解することも重要だという

3 では火の部位を「内側」「境界線」「外側」に分け、色の変化の度合いや、色幅を観察している。3 の観察後に火の色を調整した結果、4 から 5 へと改善された。燃焼量に応じて細かく色幅を調整し、色つぶれを極力減らしたことで、より自然な表現になっている

02
エフェクト映像をコマ送りし、
発生と消失を研究する

映像をコマ送りで見て、どういうしくみでエフェクトが成り立っているのかを理解することも大切だと近藤氏は語る。「特に注目してほしいのは、エフェクトの発生と消失です」。映像のテイストに合わせた自然なエフェクト、格好良く見映えのするエフェクトを実現するためには、どこで、どんなギミックで、どんなタイミングで発生させ、消失させるかを、よく研究する必要があるという。「既存の映像作品を見ながら、1コマずつ分析し、理解していくと良いですね。もちろん、実物の自然現象の動画をコマ送りすることも勉強になります。例えば爆発の瞬間に何が起きているかといったことは、実写でなければ理解しきれません」。実物の動画、実写の映画、ゲーム、アニメなど、ジャンルを問わず、多様な映像に触れてほしいと近藤氏は続ける。「色々なテイストの映像を見るほど、色々なテイストの案件に対応できるようになります」。実際、近藤氏の場合には、3DCG、コンポジット処理、手描き素材を組み合わせ、多様なテイストの案件に対応しているという。「案件の内容に合わせて、最適のクオリティで、なるべく迅速に結果を出せる方法を選択しています」。
※以下、CGWORLD196号『戦車砲』より転載






連載第5回目に近藤氏が制作した、戦車砲のエフェクト。「そのエフェクトが、映像のなかの他の要素とどう関わるかにも注目してほしいです。例えば戦車砲であれば、発射時に周囲の色がどう変化するのか、大気にどんな影響が出るのか......といったことの観察も重要です」

03
Webサイトを巡回し、
チュートリアルを実践する

CGPRESS、DIGITAL-TUTORSなどのWebサイトを、近藤氏は毎日巡回しているという。「これらのWebサイトでは、エフェクトのチュートリアルが数多く公開されています。例えば週1本のペースで実践していけば、色々な制作方法を知ることができるでしょう」。高価なプラグインがなくても、3DCGソフトの基本機能だけで実践できるチュートリアルもあるので、自分にできるものから始めることが大切だと近藤氏は語る。「エフェクトには決まった制作方法がありません。それが、エフェクト制作の敷居を上げている要因のひとつだと思います」。例えば炎ひとつとっても、多様な制作方法がある。テクスチャで作っても良いし、シミュレーションでも、パーティクルでも、オブジェクトでもかまわない。結果として画づくりができるなら、何をやっても正解だと近藤氏は語る。「だからこそ、初心者は"何から始めれば良いのだろう"と悩んでしまいます。私自身、かつては途方に暮れたこともありました。チュートリアルを通して色々な制作方法に触れていけば、徐々に自分の引き出しが充実し、案件に合わせた方法を提案できるようになります」。

TEXT_尾形美幸(EduCat)