AMDのワークステーション向けグラフィックスボード「Radeon Pro WX9100」。 ウルトラハイエンド(最上位)モデルであり、GPUアクセラレーション対応のOpenCLレンダリングはもちろん、リアルタイムCGコンテンツ制作にも確かな恩恵をもたらすという。ハイエンドなCGに定評のあるマーザ・アニメーションプラネットがその実力を検証した。
TEXT_小野憲史
PHOTO_弘田 充
その圧倒的なスペックで4Kや VR制作に確かな恩恵をもたらす
AMDの最新「Vega」GPUアーキテクチャを採用したワークステーショングラフィックスボード「Radeon Pro WX9100(以下、WX9100)」。最大12.29TFLOPSのピーク単精度浮動小数点パフォーマンスを誇るウルトラハイエンドモデルだ。本製品がもたらす圧倒的なパワーが3DCG制作にもたらす影響について、ゲームエンジンを用いた高品質映像作品で注目を集めるマーザ・アニメーションプラネットに検証を依頼した。
同社でモデリングやサーフェイシングを手がけている高橋 聡氏は、「Unityを活用して作成した映像作品『THE GIFT』、『Ultimate Bowl 2017』の実データで検証したが、『Ultimate〜』はプロジェクト公開を前提にデータの軽量化を追求したため、まったくストレスを感じなかった」とコメント。リアルタイム性を考慮せず、プリレンダーCGなみの映像品質を追求したがスムーズに行えたと評価し、この製品が当時あれば作業効率が3〜5倍は向上したとふり返った。
一連の検証結果からプロダクションエンジニアの松成隆正氏は「メモリ容量がパフォーマンスに与える影響が大きいモデリングやテクスチャリング、リライティングやディープコンポジットなどの作業で特に恩恵が大きいのではないか」と指摘。機会があれば、そうした検証も行なってみたいと意欲を示した。また、Substance Painterなどによるルックデベロップメント作業においても、ハイスペックの恩恵が期待できそうだという。両氏が共に指摘したのは、4K/8K映像コンテンツ制作に対する準備だ。2020年の東京オリンピックに合わせて8K対応テレビの発売が予定されており、コンテンツ需要が高まることは必須。VRヘッドセットでは、すでに片眼4K、両眼で8Kの製品投入が年内に予定されている。これらのコンテンツ制作においては、現状の2K解像度を前提とした制作環境では限界があるのは明白だ。さらなる高解像度化の流れに伴い、3DCGスタジオに対して未来に向けた投資と技術検証が求められている。
検証 1:『THE GIFT』
最大で32億もの三角ポリゴンで構成された大ボリュームのシーンも軽快に扱える
GDC 2016でトレイラーが公開され、大きな注目を集めた短編作品『THE GIFT』。マーザ・アニメーションプラネットの既存ワークフローをベースに、レンダラにUnityを使用することでプリレンダーCG相当の映像クオリティ実現を追求した技術デモだ。中でも負荷が高かったのが、「大量のボールが大波のように流れる大波シーン」と「無数の草がたなびく草原シーン」で、前者ではピーク時で32億トライアングルにも達したほど(完成版では4億トライアングルにまで削減)。当時社内で主力だった1世代前の競合ミドルレンジGPU搭載マシンでは、カメラビューを切り替えただけでマシンがフリーズしかねず、1グレード上のGPU搭載マシンでもかろうじて表示できたほど。そのためGameViewの描画内容をキャプチャして、連番ファイルに出力するツールが制作され、静止画上でチェックが行なわれていた。
「これに対してWX9100では、どちらのシーンもスムーズにスクラブやカメラビューの変更が行えました。そのため、当時WX9100があれば直接エディタ上で確認ができたため、3〜5倍はイテレーションの速度が向上したと思います」(高橋氏)。このほか草原シーンにおける草のたなびきはランダムではなく、MaskShaderに対応させるため、全て動きが決め打ちで表現されている。そのため、開発中はテッセレーションシェーダを作成する必要があったが、WX9100ではこのシェーダに対して特別な設定を行うことなく、通常のパフォーマンスが発揮された。「このことから、Unity 2017のシェーダ最適化では、Radeonの方がシンプルなのではないかという印象を得ました」(松成氏)という。
ピーク時で約32億トライアングルという、膨大なボールで構成された大波エフェクトシーン(ポストエフェクトあり)をリアルタイム再生してみた。30fpsで33ms、60fpsでも16msものパフォーマンスを発揮
本プロジェクト向けに開発されたGrassShaderを用いた草原シーンのゲームビュー(左)とスクラブ再生の検証(右)。いずれもスムーズに描画された。
検証 2:『ULTIMATE BOWL 2017』
急拡大中のリアルタイムCGベースのアニメーション制作における効果と、導入のポイント
Unity 2017で導入されたTimeline機能を活用し、リアルタイムCGでプリレンダーCG並みの映像品質を達成することを目的に制作された『Ultimate Bowl 2017』。Unite 2017 Tokyoで発表され、イベント後にUnityプロジェクトがユーザーに無償公開されたことでも注目された。本技術デモをWX9100搭載マシンで検証したところ、もともとリアルタイム再生可能な仕様で作られたこともあり、特段にストレスを感じることもなかったという。一度イニシャライズを済ませれば常時30fps以上のパフォーマンスでエディタを操作でき、処理が重くなりがちな花火のシーンでも特にストレスは感じられなかった。「本作では6灯のライトを使用し、Unityのネイティブ機能であるShurikenを使用してパーティクルを発生させ、花火を表現しています。この際にライトマップを事前にベイクせずグローバルイルミネーションのみで間接光を表現していますが、特段ストレスを感じることはありませんでした」(松成氏)。
余談ながら『Ultimate〜』と『GIFT』の2シーン(ボール・草原)という、合計3件のUnityプロジェクトを同時起動させても、問題なく作業ができたとのこと。このことから多数の案件を兼務するゼネラリストや、チェック作業を主とするディレクター向けのPCにも向くとされた。ただし、内蔵ストレージにハードディスクを搭載したマシンで検証が行われたため、総じてデータの転送速度がボトルネックになった可能性はあるという。「実際の作業ではグラフィックスボードだけでなく、マシン全体のバランスが重要です。その意味でもモンスターマシンに必携でしょう」(松成氏)。
ムービーをリアルタイム再生した例(上)と、シーンファイルをスクラブ再生した例(下)。プロジェクト自体がリアルタイム再生を目標のひとつに掲げていたこともあり、非常に軽快だ。『Ultimate Bowl 2017』は、Unity公式サイトからプロジェクトデータがダウンロードできるので、ぜひお手元の環境でも試してもらいたい。
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