2017年に創立30周年をむかえるのを機に、今年からブランドネームを"SideFX"へと一新させた、Side Effects Software社。ハリウッドではエフェクト表現を得意とする必須のVFXツールであるHoudiniの開発・販売を手がける同社だが、近年は日本でのHoudiniユーザーも着実に増やしている。そうした中、6月下旬に商談のため来日した同社CEOキム・デビッドソン氏へのインタビューが実現したのでここにお届けする。

※本記事は2016年6月下旬に実施された取材内容に基づきます

TEXT_安藤幸央(エクサ) / Yukio Ando(EXA CORPORATION
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_蟹 由美 / Yumi Kani



<1>日本市場のさらなる開拓を

ーー今回来日された主な目的をうかがってもよろしいでしょうか?

Side Effects Software社CEO/キム・デビッドソン氏(以下、デビッドソン氏):2016年の7月1日(金)から、ボーンデジタルにもHoudiniをはじめとする当社製品の販売およびサポート業務を担当してもらうことにしました。そのためのミーティングが大きな目的ですね。

ーー日本の販売代理店を2つに増したわけですね。

Side Effects Software社CEO/キム・デビッドソン氏(以下、デビッドソン氏):2007年11月から代理店を務めてもらっているインディゾーンにも、ひき続き日本の市場を開拓してもらうことを期待しています。日本のリセラーを2社へ増やす理由は、日本のマーケットがさらなる需要が見込めるためです。特にボーンデジタルには、ゲーム開発会社や教育機関といった、新たな分野の開拓です。つい先日、Allegorithmic社のSubstanceとHoudini間のパイプラインがかなり整備されたのですが、そのAllegorithmicの日本代理店もボーンデジタルが務めていることも背景にあります。同社はソフトウェア事業と並行して、メディア事業や出版事業を通じて、教育分野にも力を注いでいることにも感銘を受けました。Houdini は世界的にもシェアを伸ばしていますが、その中でも日本の成長率が目を見張るものがあるので、販売・サポートの体制を拡充することでより幅広いユーザーニーズに応えていきたいと考えています。

  • より多くの人へ......。ブランドイメージを一新させたHoudiniベンダー、SideFXの次なる展望とは?
  • キム・デビッドソン/Kim Davidson(SideFX)
    Side Effects Software, Inc.共同創業者ならびにCEO(最高経営責任者)。SideFX公式サイトにて「FROM THE PRESIDENT」を不定期配信中。
    www.sidefx.com
    www.sidefx.jp

ーー今年5月にHoudini 15.5がリリースされました。

デビッドソン氏:はい。Houdini Indieではサードパーティ製レンダラに対応しました。従来Indieでは標準レンダラMantoraのみの対応でしたが、本バージョンからRenderMan、Octane Render、Arnoldに対応し、さらにV-Ray、Redshiftへの対応も予定しています。そのほかにもHoudini 15.5では群衆機能の強化をはじめ、全体的に機能強化を施しました。ワークフロー面では、従来まではFBXファイルで読み込んだキャラクタデータを、一度Houdini専用フォーマットに変換しなければならなかったのですが、FBX形式を直接扱えるようにしました。これにより、例えば外部ツールで作成したキャラクタアニメーションをそのままHoudini上で利用できるわけです。

Houdini 15.5 | What's New from Go Procedural on Vimeo.

ーー世界的に注目をあつめるVR関連の機能も強化したそうですね。

デビッドソン氏:15.5で実装したVRシェーダのことですね。新たにVR HMDに対応しました。この機能自体は以前から存在するのですが、最新版ではよりわかりやすく、使いやすくなったと自負しています。UIの中で、簡単にプリセットで、使えるようになっています。Mantraレンダラで、3x2のキューブマップに展開して扱うことが可能です。

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ーー近年はHoudini ENGINE、そしてHoudini Indieと、ラインナップの多角化が印象的です。

SideFX日本担当シニアマネージャー/多喜建一氏:私がSideFXに入社して3年ちょっとなのですが、その当時は、日本ではHoudini以前と変わらず知る人ぞ知るツールという感じでした。そのため、「Houdiniでこんなことできますか?」や「あのツールとのちがいを教えてほしい」といった、根本的な問い合わせが大半でした。それが最近は、そうした質問だけでなく、Houdini独自の機能やより高度な質問が着実に増えてきましたね。Houdininの場合、複数のツールを使い分けなくても、ひとつの統合環境の中で、水も、火もRDB(リジッドボディダイナミックス)も1つのツール上で作業を完結できます。 ツール間の行き来がないというのは、アーティストにとっては大きな魅力のはず。特にハリウッドをはじめ海外のVFX現場では大きな支持をもつエフェクト表現については、日本でもHoudiniの認知度は着実に高まっていますね。

Houdini Customer Reel 2016 from Go Procedural on Vimeo.

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<2>創立30周年をむかえた今、新たに目指すものとは

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<2>創立30周年をむかえる今、新たに目指すものとは

ーー2017年にHoudiniは誕生30周年をむかえるとうかがいました。

デビッドソン氏:先日、VFX-JAPANで講演する機会がありました。そのときにSideFX社の歴史と、創業間もない頃の話をする際に日本のCG先駆者として知られるポリゴン・ピクチュアズやオムニバス・ジャパンが当時からのユーザーであり、今なお愛用してくれていることにもふれさせてもらいました。3DCG表現は数学的な面と、芸術的な面を上手く融合させることが必須ですが、世界的なCG黎明期から日本のプロダクションが活躍し続けていることは素晴らしいことだと思います。そして、SideFXは2017年6月26日(月)に、創立30周年をむかえます。30年ちかくも継続して、Houdiniという3DCGソフトウェアをつくりつつ、どこにも買収されることなく独立独歩を保っています。企業として独立性を保っていることは、市場で正当な評価を得られるソフトウェアをつくれる理由でもあります。当社の従業員第1号は、今でも現役エンジニアとして働いているんですよ!

ーーHoudiniは、多種多様な映像制作の現場で活用されていると思うのですが、最近の導入事例のなかでベンダーの立場から印象的だったものを教えてください。

デビッドソン氏:『GE : Raining Octopusses』というGEのCMに登場する、ソフトボディで作られたタコの表現が印象的でした。SideFX公式サイトにユーザー事例(英文)を掲載させていただいています。そのほかにもゲームシネマティクス『SMITE: To Hell and Back』や、テイラー・スウィフト『Out of the Woods』MVなども興味深かったです(両作品の事例記事もSideFX公式サイトで公開中)。映画VFXでは、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』『ベイマックス』などでも活躍しています。数え上げたらキリがありません(笑)。

『GE : Raining Octopusses』(制作:Method Studios)

Taylor Swift『Out Of The Woods』MV

SideFXならびにHoudini、今後の展望

ーークラウドコンピューティングや4K、HDRといった新たな技法や規格への取り組みを教えてください。

デビッドソン氏:現行バージョンでも4KやHDRによるレンダリングをサポートしていますし、HQueue(レンダリング・ジョブ・マネージャー)による分散レンダリングにも対応しています。もちろん今後もレンダラを改良して、より速く、より綺麗に使えるよう常に考えています。最近ではHoudini の中から、AmazonのAWSで直接レンダリングできるようにもしました。レンダラはHQueueから、クラウドというオプションを選び、そこからAmazonを選び、データセンターの選択で、東京リージョンを選んで、プリセットされたマシン構成を選んでレンダリングに使えるようになっています。そのほかにも例えば、GoogleのGCE(Google Compute Engine)も使えます。Mantraレンダラは基本無料ですので、Houdini ENGINEなどの有効なグローバルライセンスが最低1本あれば、クラウド上のマシンが何台であってもMantraによるレンダリングを実行することができますよ。

ーーHoudini Indieの位置づけを改めて教えてください。

デビッドソン氏:Houdini Indieは、収益、利益的にも、Houdini をユーザー層を厚くするという意味でも相乗効果があると考えています。また、従来までの3DCG的なアプローチとはちがったことをやってみたい、一般的な映画VFXとはまた別の表現に取り組んでみたいといった芸術的なプロジェクトもそこから生まれています。例えばKevin Mack/ケビン・マックさんは、Digital Domainで映画『ファイトクラブ』のVFXにも関わり、アカデミー賞も獲得する一方で彫刻家としても活躍する人物です。そんな彼の彫刻作品にはHoudiniが活用されているんですよ。最近ネットで話題になったパーティクルを駆使したモーションキャプチャの作品『AICP Showreel』でもHoudiniが利用されました。また『Nimbus Knights』など、VRゲームの領域で活躍中のMike Murdock/マイク・マードック氏もHoudiniユーザーなんですよ。これからもHoudiniを使いこなす新しいアーティストが出てくるのが楽しみですね。

2016 AICP Sponsor Reel - Dir Cut from Method Studios on Vimeo

Houdini Connect - GDC - Mike Murdock from Go Procedural on Vimeo.

  • より多くの人へ......。ブランドイメージを一新させたHoudiniベンダー、SideFXの次なる展望とは?


ーー最後に日本の Houdiniユーザーへ、そして今後ユーザーになってくれるだろうと思われる方々へのメッセージをお願いします。

デビッドソン氏:何事にも常に"変化"がつきものです。それが30年間SideFXという会社をやってきてわかったことでもあります。これからもSideFXは、常に世間に習い、常に変化してきます。この記事をご覧になった方にもぜひわれわれの変化にご期待ください。