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連続するTV本編シリーズとして、東映アニメーションでは初となる"フルデジタル"ワークフローの導入に踏み切った作品が、『正解するカド』だ。実際にこの週1回放送の連続作品を作り上げながら、現場ではいまも最適なデジタルフローのかたちを求め、試行錯誤が続けられている。そのいま最もホットといえる制作現場から、デジタルワークフローの標準化に向けて共同で取り組みを進める東映アニメーションと同作品でも活躍するフリー演出家のりょーちも氏、そして現場でも活用されている「CLIP STUDIO PAINT」のアプリケーションベンダー、セルシスという3者の視点による"デジタルワークフローの現在と未来"を考える座談会をお届けする。

TEXT & EDIT_髙木貞武 / Sadamu Takagi
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

CLIP STUDIO PAINTは『正解するカド』の現場でも導入されている

データ管理は、ほぼフルデジタル化

CGWORLD(以下、C):東映アニメーションでは、2015年ごろより積極的にフルデジタルワークフローを推進されていると聞いています。動画から撮影編集までの後工程においてはほぼデジタル化がなされたといって久しいですが、現在推進されているのはどのようなことになるのでしょうか?

今村幸也氏(以下、今):まさにこの『正解するカド』における話になりますが、絵コンテや作画まで含め、基本的に"紙出しをすることなく全工程をデジタル化"して実際にTVシリーズをまわすということですね。わかりやすい話でいえば、発注した作画(紙)をクルマで回収してまわる、といったことはほぼなくなっています。膨大な紙の束の管理やコピーといった物理的な事務作業も大幅に削減されました。これらは、アセット管理ツールのSHOTGUNと連動する自社開発の管理ツール「Toei Draw Data Manager」【下画像】を用いることで実現しています。データフォルダをいわゆる"カット袋"に見立てて、必要なアセット、タイムシートや原画などを一元管理する。カットの担当者は、このToei Draw DataManager上での操作だけで、発注された内容を確認して納品までができるようになっています。カットごとの進捗確認や日報管理なども行えるので、進行管理側もより集中的、効率的に業務が行えますし、作業者側としても個別にメールやサーバ経由などでデータのやり取りをしなくて済むため、制作に集中できるはずです。

Toei Draw Data Managerは、アニメ制作における全てのアセットを一元管理し、発注、指示出し、データ送受信、修正とその履歴データ保存などといったことを、サーバの存在を意識せずともこのツールのみで行えるようにする

C:かなりいいことづくめに感じますね。ですが、それでもさらなる進化が求められている、とも聞いています。

:ですね。「アセットの管理・収集」についてはお話したように環境が整いつつありますが、そのアセットを受け取った後の扱い、つまりデータの中の内容(タイムシートに記載された数値等)の"読み取り"側にまだ課題がありまして。

高橋裕哉氏(以下、高):データアップされた作画の「絵」はデジタル化されているけれど、その「絵」をどう扱うかといった数値情報や後工程への指示などの取り扱いが、基本的にまだ人間依存なんですよ。ゆえに、それらのアセットを受け取る進行管理や演出・修正といった側において、指示の抜け漏れや読み間違いといったヒューマンエラーが生じたり、そのデータ構造によっては工程に遅延も発生してしまうんです。

りょーちも氏(以下、り):ではその上がってきたデータの主な"読み取り"側である自分が......。実は現状では、デジタル化とはいえ、カット袋での物理的なやりとりよりもわかりにくい部分も発生してしまっていて。例えばカット袋なら、開いたら何が入っているかどういう内容か、ひと目で確認できるわけです。が、それがデータフォルダに置き換わると、中に入っているのがPSDファイルとコンテ画像、サウンドといったものになる。たとえばPSDだったら開いてみなければ、レイヤーがどうなっていて何が描いてあるのかわからない。もしレイヤーが非表示になっていたりしたら指示漏れしてしまう危険もある。

C:現状では、逐一そうしたファイルの構造を確認して把握しなければ現場がまわらず、データ仕様の統一と運用にもっと皆が慣れていく必要がある、と?

:かといって、ガチガチに仕様・ルールを固めて自由指示の利かないかたちにしてしまうと、クリエイターサイドとしては「デジタルって面倒くさいね」で終わってしまうんです。そこが、ずっとアナログで続けられてきたアニメ原画という作業をデジタル化するときの、大きな障壁になっている。自分は、デジタル化することで作業者にこそメリットがあるような、汎用性のある環境をつくりたい。それでこそ業界全体としてデジタル化を推進する意義がある。

横塚智明氏ほか(以下、セルシス所属者の発言は全てセ):それはセルシスとしてもまさしく同意見です。絵を描く実作業以外の、アニメ制作というグループワークにおけるワークフローとしての部分でも、クリエイターさんにはデジタルのメリットを感じてもらいたいし、それを提供していきたい。そのコアの思想部分が東映アニメーションさんと合致して、かつお互いにできることをそれぞれで模索し始めていたからこそ、いま問題となっている画像・タイムシート情報の入出力部分をより最適化するためのプロジェクトについて連携の相談をさせてもらっています。

「場所を問わず、作品に集中できる環境を整えて、埋もれたクリエイターを発掘していく」
ー今村幸也氏(東映アニメーション プロダクションマネージメント室長)

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"デジタルタイムシート"で次世代のフローへ

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"デジタルタイムシート"で次世代のフローへ

「タイムシートの情報をデジタルで取り扱うために開発した"Toei DigitalTimeSheet"は、すでに試験運用できるところまできています」
ー高橋裕哉氏(東映アニメーション プロダクションマネージャー兼アシスタントディレクター)

C:それは、どういったプロジェクトなのでしょう?

:基本的には、まずいまアナログ的に読み取っている情報はなんでしょう、という定義をしっかり検証していくことですよね。それらの情報をデータとして管理して、汎用的にインプット/アウトプットができるようになれば、作業効率もヒューマンエラー頻度も、劇的に改善されるはず。話数、シーン番号、カット番号、幅高さ解像度などのフレーム情報、その余白やレイヤーの重なりについてのオーダーとタイミング情報、台詞タイミング、カメラフレームの前後左右の移動値など......といった情報。それらのデータを全て管理しているのはといえば......。そう、求められているのは"タイムシートのデジタル化"です。

:アニメの出来、というか演出は、タイムシートに大きく依存しています。ですがこれまで、一応データという存在にはなっているものの、実際にはただビットマップデータとしてPSDに手描きの指示や数字を次々に描き込みつつ運用する、みたいな"デジタル化されたアナログ"的状態でやってきていたんです。それを、クリエイターにとって使い勝手の良い一定のフリーハンドな部分を残しつつ、できるところはデータ管理していこうよ、と。

:そのタイムシートで表現されている情報をデジタルで取り扱うために東映で開発している「Toei DigitalTimeSheet」【下画像】も、すでに試験運用できるところまできていて。原画、動画が揃い、タイムシート上で演出が指示したものを、After Effectsによる撮影にデジタルデータとして読み込める、というところまではきました。

開発中のToei Digital TimeSheet。原画から撮影までの指示や修正を履歴として全て残しながら、データとして格納していく。自由筆記などの遊びを残しながらも、各アプリケーション間で数値情報を共通使用する(入出力する)ための重要な役割を担う

C:そこが自動化されるだけでもすごいことのように思います。ヒューマンエラーも大きく減りそうです。

:ですが......デジタルデータの定義がある程度できて、その出力ができるようになったとしても、タイムシートへの"入力"については、作画アプリケーション側で必要となる数値を書き出してくれないと、結局別途手入力になる。これだと"覚えるデジタル作業が1つ増えた"だけで、作業者のメリットにはならないんですよね。かといって、後で補うから適当でいいよ、にしてしまうと、また制作進行や演出が大変な目に......。

:そこにはわれわれツールベンダーも関わっていかないといけません。今までも様々な現場での要望を聞いて、タイムシート情報の入出力が必要とされていることはわかっていました。ですが逆にベンダー側としては、"どのように使われる情報を、どのようなかたちで書き出せばよいか"が正確にはわからなかったのです。そこは制作の現場の人にしか把握できない様々な事情もありますし、制作現場それぞれによっても、必要とされる仕様が異なります。

C:それが今回、東映アニメーションさんでは独自に"デジタルタイムシート"という受け皿を開発されていて、まさしく出力するデータの仕様が固まりつつあった、というわけですね。

:はい。ですので、われわれとしてもぜひ一緒に考えさせてください、と。

「何よりも"作業者にメリット"のあるデジタル作画環境を実現したい。それでこそ、デジタルワークフローを広げる意義がある」
ーりょーちも氏(アニメーター・イラストレーター・演出家)

:東映アニメーション側ではデータの入出力方法を探っていて、セルシスさん側では入出力の仕様を探っていた。それぞれ業界的な課題を日頃から感じて模索しているなかで、どちらからともなく自然発生的にできた協力体制ですね。

:コンテ用紙や作画用紙、そしてタイムシートももちろんですが、業界として規格や仕様が統一されているものではなく、どこでも同じっていう標準フォーマットは、実はないんですよね。それが、デジタル化に伴う汎用の仕様づくりを行う上で難しいところですね。

:だったら、まずやってみて「これでシリーズ作品できたよ!」って実績で示すのが早いのかな、と。上手くいってそれをオープンなかたちで広められれば、業界全体としてデジタルワークフローを前進させることもできるかもしれない。まぁシリーズ作品の実工程を実際にまわしながら試験を行なっているわけなので、正直つらいところもありますが(苦笑)。でも誰かが開拓して実績で示さないことには、この中途半端な状態からいつまでも脱却できない。

:われわれとしても、デジタル的な制作管理環境を整えることで、進行管理側としての単純な作業効率の追求やローコスト化といったことだけではなく、優秀な人材の確保と新人の効率的な育成・登用、そしてその上での作画品質の担保、加えてそれらのクリエイターたちの負担軽減、といったことを実現していきたい。一度セットアップされたマシンごと送ってしまえば、どこにいても負担を感じることなくプロジェクトに参加できるわけなので、たとえば物理的な距離が離れている地方のクリエイターたちも発掘していきたいですね。

:そういったデジタルワークフロー導入の必要性は、日本動画協会などでも語られていますし、なによりクリエイターの利便性を上げるためにも、今回の"CLIP STUDIO PAINTからのタイムシート情報の入出力"については検討段階から情報公開を進め、関係先からの意見反映を検討していく予定です。Toon Boomなどのベンダーともすでに話をしています。形式はテキストベースとし、各現場で使っている作画ソフトや管理ツールと柔軟に連携できればと。RETASも例外ではありません。各ツールと相互の入出力の検証を進め、逐次、状況を公開していければと思っています。ご興味のある企業様にはぜひご連絡いただきたいと思います。

「この取り組みが、柔軟でオープンなデジタルフローのフォーマットを業界全体で考えていくきっかけになれば」
ー横塚智明氏(セルシス 開発担当役員)



問い合わせ 株式会社セルシス CLIP STUDIOソリューション
URL:www.celsys.co.jp/clipsolution
mail:clipsolution@artspark.co.jp

TVアニメ『正解するカド』Blu-ray Disc BOX&DVD BOX
全2巻にて発売決定! 第1巻は7月26日(水)、第2巻は9月27日(水)発売! 詳しくはTVアニメ『正解するカド』公式サイトにて!
seikaisuru-kado.com
Twitter:@Seikaisuru_Kado
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