映画とは、映像表現によって物語を語る芸術様式。その意味においては、下流工程のメインテーマは「ビジュアルによるストーリーテリング」であるという方針の下、画づくりに専念できる環境を追求。本格的なカラーグレーディングのワークフロー構築も実践された映画『バイオハザード:ヴェンデッタ』のショットワークを紹介する。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 226(2017年6月号)からの転載記事になります
TEXT_ 村上 浩(夢幻PICTURES)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
映画『バイオハザード:ヴェンデッタ』
絶賛公開中
biohazard-vendetta.com/
© 2017 CAPCOM / VENDETTA FILM PARTNERS. ALL RIGHTS RESERVED.
戦略的に画づくりの的を広げ、
追い込みはグレーディングに集約
本プロジェクトでは、エフェクト、ライティング、レンダリング、コンポジットといういわゆる下流工程を1つのセクションに集約したシンプルでコンパクトなワークフローにすることで少数精鋭による作業の効率化が図られた。このセクションを率いた波田琢也Senior ShotSVがプロジェクトに合流したのは、2015年9月。まずは本作で求められる画づくりを把握すべくシナリオの読み込みからはじめたという。「作品の前半は重厚でシリアスなドラマ、後半はエンターテイメント性の高い爽快なアクションの2つを楽しめる作品にしたいと考え、それらを本作の軸としました」(波田氏)。さらに目指すべき画の方向性やストーリーテリング(個々のシーンやショットだけでなく、作品全体としてのカラーキーの策定)をビジュアルで共有するために「Big Picture」と名付けた資料を作成。カラーキー、時間軸に応じたキャラクターの感情(表情)変化などが図示されておりセクション内ならびに辻本監督とのイメージ共有に活用された。「Big Pictureによって各シーンで何を見せるべきかが明確になり作業の無駄も軽減されましたし、リソースを注ぎ込むポイントも見定めることができました」(波田氏)。
映画『バイオハザード:ヴェンデッタ』主要スタッフ
<前列>右から、冨山竜徳Layout Artist、中村 翼Lead Character Artist、中井 翼CG Director、岩井敬祐Animator、安部 清Effect Artist、波田琢也Senior Shot SV、小泉薫央FX Artist、/<中列>右から、堺井洋介Layout SV、児玉真生子Animator、貫薗健剛CharacterFX Artist、塙 智洋Lead Rigging Artist、福田裕也Character Artist、秋山佳子Production Assistant、金 ソルLead TD、高原聡史Sets & Props Designer、戸松 聡Lighting/Composite SV、羽山実里Production Assistant、荒川孝宏Senior Asset SV、上出彩加PM、亀井清明Matte Paint Artist/<後列>右から、川崎広貴CharacterFX SV、坂本知万Senior Animation SV、吉沢康晴Lighting/Composite Artist、早川一繁Environment & Props Artist、笹谷周生Lighting/Composite Artist、永田浩司Environment & Props SV、木村宜真Animator、山岸次郎Animator、木下秀幸Animator、中森達也Lighting/Composite Artist、里吉大介FX Artist。以上、マーザ・アニメーションプラネット
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
波田氏が作成した多くの資料を元にアセットチームと連携を取りながらロケーションごとにライティング作業が進められたが、最終的な画づくりはグレーディングで行うといった方針が採られたためライティングはシーンごとに形式化することになった。「ショット担当者ごとにバラつきが出ないようにシンプルなライティングに留め、ライトのコントロールにも制限をもたせました。もちろん、キャラクターの見え方が重要な作品なのでキャラクターが映えるようなライティングを常に心がけています」(戸松 聡Lighting / Composite SV)。実作業については台湾のNext Animation Studio(以下、NAS)との全面的な協業体制を構築し、ショットワークの約8割をレンダリングを含めてNASが担当。NASが手がけた画はノイズも少なく想定よりも綺麗に仕上がっていたため、逆にマーザ内製分をブラッシュアップしなければいけないという嬉しい悲鳴も聞こえたそうだ。「映像の細部にまでこだわり独特の色をもった辻本監督が想い描くイメージを具現化できたことはスタッフの自信にもつながりましたし、試写後には『アクションシーンに見応えがあった』という声も多く制作当初に掲げたねらい通りの仕上がりに満足しています。限られたバジェットの中で成果を得るためには初期段階から最終的な仕上がりを想定し、それに向けて戦略と戦術を組むことが重要だと改めて再認識させられました」(波田氏)。
Big Picture
後半に登場するハイウェイでくり広げられるバイクに乗ったレオンとゾンビ犬たちのバトルシーンでは、1分以上の長尺のため、プリビズを作成。演技やカメラワークのプランニングだけでなく、必要となる背景セットやプロップの見積もりにも活用された
今回のプロジェクトの映像のルールをまとめたシート
主人公クリスの表情(感情)の変化をサムネールにまとめたもの。ストーリーの展開に応じて、喜怒哀楽に合わせた画づくり、そしてキャラクターの成長がしっかりと描かれていることがわかる
ショットワークのデータフロー
下流工程のワークフローならびにデータフローを図示したもの。特筆すべきは、エフェクト。従来はエフェクト素材は個別にレンダリングを行なっていたが、今回は各パートナーにベイクしたアニメーションのキャッシュデータをAlembic形式で出荷してもらい、ライティング工程で一括してAnorldによるレンダリングを行う方針が採られた。これによりエフェクトアーティストはより画づくりに注力することが可能になったという
カラープランニング
『バイオハザード:ヴェンデッタ』のシーンならびにショットごとのカラーリングを時系列でまとめたもの(2016年9月13日時点)。キーカラーをひと目で確認できるほか、進捗状況や優先度も併記されている
次ページ:
アーティストが画づくりに
専念できるワークフロー
アーティストが画づくりに
専念できるワークフロー
ガンアクションの多い本作では血飛沫や着弾、マズルフラッシュなど膨大な数のエフェクトが必要となる。これらの作成と管理を担当したのは岡崎頌平EffectsSV(現Megalis取締役)。内部でエフェクトを作成するのは、大半の期間は岡崎氏ひとりだったため外部パートナーとの協業が大前提となった。DCCツールはHoudini、レンダラにはArnoldで99.9%完結させたという(ごく一部でMayaを併用)。汎用性の高いエフェクトは岡崎氏が自身で作成したものをアセット化したものを外部パートナーへ提供するながれが組まれ、さらにAlembicデータの受け渡しの効率化とヒューマンエラーを軽減させるために新たなツールも開発された。「辻本監督にはリテイクの回数も3回までとさせていただき、無理なことはハッキリと伝え代替案を提示し信頼を得られるよう作業を進めました。限られた期間や予算の中でベストを発揮するにはSVの的確なディレクションが必須だと思っています」と語る岡崎氏は外注への修正指示も曖昧な言葉ではなく具体的な数字やイメージを伝えることでスタッフの迷いを徹底的に排除した効率良く作業が行える環境づくりも心がけたという。
- 岡崎頌平Effects SV(Megalis)
本作では前半のドラマシーンでコントラストも高く青や緑で恐怖心を煽り、アクションシーンでは赤をベースに高揚感を高めるような画づくりが設計され、コンポジットについても担当者による仕上がりのバラつきを抑えるためベースとなるNUKEファイルが作成されたのだが、全てのシークエンスに対応可能なプリセットを作成するには想像以上に苦労したという。また本作ではコンポジットでは必要以上に画づくりを行わず最終的なグレーディングで追い込む手法が模索された。「ビジュアルでストーリーを伝えるためにはいかに視線誘導を行うかが重要で、これらの作業はシークエンス全体で調整しなければならないのでショット単位で担当するコンポジターには難しいんです。東映デジタルセンターのカラリストの相馬さんが画づくりを含めたグレーディングをしてくださったのでクオリティが格段に向上しました」と語る吉沢康晴Lighting / CompositeArtist。DIはOpenEXRフォーマットによるリニアカラースペースで作業が行われた。もちろん、DI作業には時間的制限があるため、吉沢氏によるDaVinciを用いたプリグレーディングも行われている。さらに本作のトーンマッピングはホラー映画のルックに最適化されておりで暗いシーンでも暗部の階調が潰れず血飛沫については派手にみえるように設計されている。
エフェクトワークをHoudiniに集約
後半に登場するクリスとレオンが大量のゾンビをガンアクションで倒すCQCシーンより。「Houdiniに銃のモデルとアニメーションを読み込み、事前に用意したスクリプトをShelfから走らせることによって、アニメーターが付けた発砲のタイミングで薬莢、硝煙、マズルフラッシュが一度にセットアップすることができました。硝煙の方向、薬莢の飛び方なども調整可能です」(岡崎氏)
Houdiniで作成した血飛沫のアセットをMayaにAlembic形式で読み込みレイアウト
アリアスの結婚式会場が爆撃され焼け野原になるという回想シーンより。「Houdiniで煙と炎のVDBキャッシュを様々なバリエーションで用意したものをMayaに読み込みレイアウトしています」(岡崎氏)。Mayaでは、VDBキャッシュはBoudingBoxの状態で表示される
NUKEによるコンポジットワーク
本プロジェクトのコンポジット作業におけるルールをまとめたもの
グレーディング
吉沢氏が設計した本作のカラーグレーディング概念図。最終的にルックを決定するDIで最大限の調整を可能とするため、データの損失が生じないようにシーンリファードであるOpenEXRを用いることを主眼としたワークフローが策定された。また、異なるDCCツール上でトーンマッピングによるルックを統一するためにOCIOを用いている
観客に見せたいものを、より効果的に見せる
左列から順に、元素材(コンポジットから出荷した状態)、DaVinciによるプリグレーディング、最終イメージの比較図。ショットごとの色味のバラツキを解消させつつ、"ビジュアルによるストーリーテリング"がさらに高められた
-
映画『バイオハザード:ヴェンデッタ』
大ヒット上映中!
エグゼクティブ・プロデューサー:清水 崇
監督:辻本貴則
脚本:深見 真
音楽:川井憲次
原作監修:小林裕幸(カプコン)
プロデューサー:篠原宏康
CGプロデューサー:宮本 佳
CGディレクター:中井 翼
製作:マーザ・アニメーションプラネット
配給:KADOKAWA
biohazard-vendetta.com
© 2017 CAPCOM / VENDETTA FILM PARTNERS. ALL RIGHTS RESERVED.