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東京と福岡で若手社員を3ヶ月交換~過去に例がないModelingCafe福岡とフォトン・アーツの若手研修プロジェクトとは?

東京と福岡で若手社員を3ヶ月交換~過去に例がないModelingCafe福岡とフォトン・アーツの若手研修プロジェクトとは?

ModelingCafe福岡支社代表の北田栄二氏と、フォトン・アーツでスーパーバイザーを務める鈴木卓矢氏。ともにスクウェア・エニックス出身で、海外での勤務経験もあるCGアーティストだ。もっとも、前者はモデリング専門の特化型スタジオで、後者は映像制作全般を手がける汎用スタジオ。さらには福岡と東京で勤務地も異なるなど、対照的な存在でもある。この両社で若手スタッフを3ヶ月間、互いに出向研修させるという前代未聞の取り組みが行われた。そのねらいや成果とは?

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono、西原紀雅 / Norimasa Nishihara(CGWORLD)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

「海外でスーパーバイザーになれる人材を育てたい」という思いから実現した交換研修

CGWORLD(以下、CGW):若手同士を交換して研修するというのは、過去になかなか例がないと思うのですが、どういった経緯で始まったのでしょうか?

北田栄二氏(以下、北田):最初に話が出たのは飲み会の席だったよね。

鈴木卓矢氏(以下、鈴木):もともとは、お互いのスタジオで何か一緒にプロジェクトをやりたいね、という話でした。受けられるプロジェクトの規模って、会社の規模で決まってくるじゃないですか。それが次第に「若手を交換して研修しよう」という風になっていって。

北田:それ自体は良いアイデアだと思いました。ただ、会社対会社の関係になるので、法務的な処理も含めて調整に1~2年かかったよね。

  • 北田栄二/Eiji Kitada
    コンピュータ総合学園HAL 大阪校を卒業。大阪の映像プロダクションを経て上京、Modeler/Texture Artistとしてスクウェア・エニックス ヴィジュアルワークスへ移籍。2009年10月に同社を退社し、以降フリーランスのDigital Artistとして国内外で活動を開始。2010年から活動の場をオーストラリアに移し、シドニーのAnimal Logic、Dr. D StudiosでSurfacing Artistとして勤務。2011年11月よりシンガポールのDouble Negative Visual Effectsへ移籍し、2014年11月に帰国。2015年1月からModelingCafe福岡支社代表に就任。幸せな家庭を築くため、世界に通用するDigital Artistを目指して武者修行中
    cafegroup.net/modelingcafe/ja/index.php
    eijikitada.blogspot.com/

鈴木:時間がかかってもやるべきだと思っていたんです。というのも、弊社に新卒で入って僕の知識や技術しか学べていない若手が、社内で増えてきたんですよ。最近では積極的に他の企業に出向させたりもしているんですが、言われたことだけをこなして帰ってきちゃう例が多いんです。もっと先方のアートディレクターから、いろいろと吸収してもらえれば良いんですが、もじもじしちゃって......。だったら、お互いの企業間で一度、人材を交換してみてもいいかなと。

北田:それに、僕も鈴木君も海外での勤務経験はありますが、どちらもシニア止まりで、スーパーバイザーになったわけではありません。実際、言語や文化的な面も含めて、「スーパーバイザーの壁」ってあるんですよ。だからこそ、海外でスーパーバイザーになれる人材を育てたいという目標があって。今回の若手交換プロジェクトも、そこが最大のねらいでした。

鈴木:そういうことをいざやろうと思って周りを見たら、僕にとっては北田さんしかいなかったんですよね。同じ背景モデラー出身の海外経験組でも、自分はBlizzard Entertainmentでゲームシネマティクスを担当し、北田さんはDouble NegativeなどでVFXを手がけてこられた。同じ山手線でも上野と品川くらい方向性がちがうので、若手にとっても学ぶことが多いと思いました。

  • 鈴木卓矢/Takuya Suzuki
    1980年生。大学卒業後スクウェア・エニックス ヴィジュアルワークスに入社。その後、アメリカに渡りBlizzard EntertainmentのCinematics Divisionでシニアアーティストとして背景のデザインからモデリングまでを担当。2014年に活動の場を日本に移し、現在は都内のCG制作会社フォトン・アーツにてEnvironment&Propsのモデリングスーパーバイザーとして勤務。自身のさらなるスキルアップのためにフリーランスの背景モデラーとして、実写、フルCG、アニメなど幅広く活動中
    photonarts.co.jp/

CGW:今回は1名ずつ、3ヶ月間の出向でしたが、これは最初から決まっていましたか?

鈴木:最初は「1年間で3人ずつ交換」とか言ってましたよね。

北田:ただ、ModelingCafe福岡は12人いるけど、鈴木君のところは6人しかいないから、半分が入れ替わっちゃったら通常業務に差し支えてしまう。最終的に希望者の中からスキルとキャリアが近しい人を選び、1人で3ヶ月になりました。3月から5月まで、1案件をこなして帰るというイメージですね。

鈴木:こういうのはタイミングもあるじゃないですか。面白い案件がある時期とそうでない時期というのは、どうしてもありますし。今回はたまたま、お互いの利害が一致する案件が揃って、実現に漕ぎ着けた感じです。

CGW:お互いにどういった作業をさせましたか?

鈴木:いきなり実務をやってもらいました。逆に言えば実務しかしていないというか。

北田:それはうちも同じですね。今日からこのプロジェクトをやってね、という。

鈴木:けっこう、最初からすっと馴染んでくれて。

北田:僕も違和感はなかったです。ただ、終わった後で鈴木君と2人で話し合ったんですが、どちらも「もう少しやらせてあげられたし、やらせてあげたかった」という反省点がありました。最初はやはり、どのくらいのスキルのもち主か、わからないじゃないですか。

鈴木:お互いのスタジオで業務を調整して、3ヶ月で収まるような仕事をお願いしたんですが、もう少し踏み込めたな、という部分はありましたね。

データ納品と映像納品、それぞれの会社の事情によるちがい

CGW:それぞれ難しかったところは、どんなところでしたか?

鈴木:これはお互い同じだと思いますが、北田さんのところでは若い子をどんな風に扱っているのか、最初は見えませんでした。褒めて伸ばすべきか、厳しく指導するべきか......。実際、1回仕事をしてみなければ見えてこないところって、あるじゃないですか。

北田:うちも同じところで迷いました。「鈴木君のところでは、これってどうやってるの?」とか、ヒアリングしたりして。

鈴木:これは会社の業務のちがいもあったと思うんですよ。研修が終わった後で、2人で総評を書いて共有したんですが、まさに綺麗に指摘されていて。うちはクライアントから絵コンテをもらって、CGで映像をつくり、フィニッシュまでもっていって、映像で納品する。だから1本のムービーを同じチームで丸々手がけるんですよね。そのためにはアニメーション、エフェクト、キャラクターなど、各チームで密接なコミュニケーションが必要になる。密接なコミュニケーションを取るには、パイプラインの理解が必須になる。

三ヶ月見てきて気づいたこと。これからやったほうがいい事を教えます。

まず前東君は映像を作るパイプラインの経験が浅いなと思いました。自分のモデルがどのように映像化されていくのかについて、自分の前後の作業工程をふまえた上で、どういった点に配慮すると、他の工程がスムーズに行くのか、もう少し経験したほうが良いかなと。

学生のころに卒業制作で映像を作ると、レイアウト、モデリング、アニメーション、リギング、エフェクト、ライティング、コンポまで自分でやることになるので、どういうモデルを作ればほかの工程で楽なのかを知ることができ、そこをステップに現場でも生きてくるんだと思うけど。静止画しか作ってないと、流れに対する知識がピンポイントでしか理解できないのかもしれない。

それと他のセクションとの密なコミュニケーションをとるという経験も必要。(とくに今回のプロジェクトでは他セクションのケアをしないといけない部分があったかなと思う)

モデリング以外のセクションで、この場面ではどういったモデルが必要になるかについて、もっとコミュニケーションをとり、スムーズなワークフローに必要なモデルは何かを知るのが良い。

実際に海外ではもっとシステマチックなパイプラインになっていて、そこの経験がないとでは理解度が違う。基本的な流れは一緒だから、その流れがわかっていたほうが良い。

鈴木:実際に弊社ではModelingCafeとちがって、究極までモデルを詰める必要がないんです。実際にモデルにはエフェクトが乗り、ライティングが当たるわけだから、演出に合わせて力を入れるところと抜くところが出てくる。ここは70%で良い、逆にここは100%、あそこは120%までつくり込む、といった具合ですね。だから、どこか物足りなく感じる背景ショットがあったかもしれません。そんな風に作業を進めるにあたり、シーンに合わせたペース配分について、最初に教える必要がありました。

北田:うちはModelingCafeらしい案件を任せたので、真逆でした。どこまで技量があるのか、コミュニケーションを取るところからはじめました。その結果、究極までモデルを詰めた経験がないことがわかりました。そのため実務の上で、対象に対する観察力不足を感じたところはありました。

僕も鈴木くんも背景モデラーを育てたいのではなくて、背景アーティストの育成をめざして、今回の研修を行っています(モデリング含めた背景デザイン、演出的な構図、デザイン、シルエット作成、ライティング含めた絵作りができる背景屋の育成)

そういうプロセスの中で山下くんに足りないのは「観察力」です。これは山下くんに限った話だけじゃなくて、うちのスタッフにも言えることなんだけど、絵やコンセプトアートからモデリングすることが多いので、どうしても自分の頭の中にあるイメージ「思い込み」で作ってしまう点。

観察力って一言で言っても、「見た物をそのまま再現する観察力」と「見た物から構造や仕組みを読み取る観察力」があって、山下くんに不足しているのは前者の方の観察力です。ちなみに後者は絵やコンセプトアートからアセットを起こす際に必要な観察力です。

絵やコンセプトアートから形状を起こすのではなく、実際にある写真や素材データから形状を起こす場合は、逆のアプローチが必要になってきます。リファレンスや写真を見て作っているつもりでも、やはり細かい部分で似せ切れていない点は、経験不足という点もあるけど、主な理由としては観察力不足、思い込みでモデリングをしてしまっている点です。

芸大出身の子は、デッサンで鍛えられているので、この辺が思い込みで形状を作らない。クライアント側のアーティストは芸大出身者が多いので、特にバランスや形状のちがいにすぐ気が付きます。これは観察力が高いからです。

鈴木:結局、ModelingCafeはデータ納品、フォトン・アーツは映像納品というちがいなんですよね。

北田:まさにそうで、映像制作だと前後のセクションで吸収してくれる部分があると思うんですが、うちはデータ納品だからデータに非常に気を遣っているんですよね。実際、「ここまで細かくやったことがない」という話も出ました。ただ、そこは慣れの問題だから、もう一度同じ人同士で交換研修をしたら、もっと踏み込んでいけると思います。

CGW:他に仕事の進め方や、社風などでちがいを感じたところはありましたか?

北田:ModelingCafe福岡では周りの先輩に聞きながら作業を進めていく感じで、僕が作業途中で直接口出しすることはあまりないんですよ。途中、「チェックなしで進めて良いんですか?」と驚かれました。いやいや、最後にしっかりチェックしますよと。

鈴木:ModelingCafe福岡は間に先輩社員が挟まるツリー構造ですよね。逆にうちは全て僕が直接チェックするフラット構造で、そこも大きくちがうところだと思います。いわば縦社会と横社会というか。実際、ModelingCafe福岡はお互いが切磋琢磨している感じですよね。うちはその点、ハングリー精神に乏しいかもしれない。

北田:実際、鈴木君がすごく丁寧にアートディレクションをしていることが伝わってきました。だからこそ、早く「師匠離れ」した方が良いともアドバイスしましたね。

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両社で異なる自主制作の位置づけ

Profileプロフィール

鈴木卓矢(フォトン・アーツ)&北田栄二(ModelingCafe福岡スタジオ)

鈴木卓矢(フォトン・アーツ)&北田栄二(ModelingCafe福岡スタジオ)

スペシャルインタビュー