ModelingCafe福岡支社代表の北田栄二氏と、フォトン・アーツでスーパーバイザーを務める鈴木卓矢氏。ともにスクウェア・エニックス出身で、海外での勤務経験もあるCGアーティストだ。もっとも、前者はモデリング専門の特化型スタジオで、後者は映像制作全般を手がける汎用スタジオ。さらには福岡と東京で勤務地も異なるなど、対照的な存在でもある。この両社で若手スタッフを3ヶ月間、互いに出向研修させるという前代未聞の取り組みが行われた。そのねらいや成果とは?

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono、西原紀雅 / Norimasa Nishihara(CGWORLD)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

「海外でスーパーバイザーになれる人材を育てたい」という思いから実現した交換研修

CGWORLD(以下、CGW):若手同士を交換して研修するというのは、過去になかなか例がないと思うのですが、どういった経緯で始まったのでしょうか?

北田栄二氏(以下、北田):最初に話が出たのは飲み会の席だったよね。

鈴木卓矢氏(以下、鈴木):もともとは、お互いのスタジオで何か一緒にプロジェクトをやりたいね、という話でした。受けられるプロジェクトの規模って、会社の規模で決まってくるじゃないですか。それが次第に「若手を交換して研修しよう」という風になっていって。

北田:それ自体は良いアイデアだと思いました。ただ、会社対会社の関係になるので、法務的な処理も含めて調整に1~2年かかったよね。

  • 北田栄二/Eiji Kitada
    コンピュータ総合学園HAL 大阪校を卒業。大阪の映像プロダクションを経て上京、Modeler/Texture Artistとしてスクウェア・エニックス ヴィジュアルワークスへ移籍。2009年10月に同社を退社し、以降フリーランスのDigital Artistとして国内外で活動を開始。2010年から活動の場をオーストラリアに移し、シドニーのAnimal Logic、Dr. D StudiosでSurfacing Artistとして勤務。2011年11月よりシンガポールのDouble Negative Visual Effectsへ移籍し、2014年11月に帰国。2015年1月からModelingCafe福岡支社代表に就任。幸せな家庭を築くため、世界に通用するDigital Artistを目指して武者修行中
    cafegroup.net/modelingcafe/ja/index.php
    eijikitada.blogspot.com/

鈴木:時間がかかってもやるべきだと思っていたんです。というのも、弊社に新卒で入って僕の知識や技術しか学べていない若手が、社内で増えてきたんですよ。最近では積極的に他の企業に出向させたりもしているんですが、言われたことだけをこなして帰ってきちゃう例が多いんです。もっと先方のアートディレクターから、いろいろと吸収してもらえれば良いんですが、もじもじしちゃって......。だったら、お互いの企業間で一度、人材を交換してみてもいいかなと。

北田:それに、僕も鈴木君も海外での勤務経験はありますが、どちらもシニア止まりで、スーパーバイザーになったわけではありません。実際、言語や文化的な面も含めて、「スーパーバイザーの壁」ってあるんですよ。だからこそ、海外でスーパーバイザーになれる人材を育てたいという目標があって。今回の若手交換プロジェクトも、そこが最大のねらいでした。

鈴木:そういうことをいざやろうと思って周りを見たら、僕にとっては北田さんしかいなかったんですよね。同じ背景モデラー出身の海外経験組でも、自分はBlizzard Entertainmentでゲームシネマティクスを担当し、北田さんはDouble NegativeなどでVFXを手がけてこられた。同じ山手線でも上野と品川くらい方向性がちがうので、若手にとっても学ぶことが多いと思いました。

  • 鈴木卓矢/Takuya Suzuki
    1980年生。大学卒業後スクウェア・エニックス ヴィジュアルワークスに入社。その後、アメリカに渡りBlizzard EntertainmentのCinematics Divisionでシニアアーティストとして背景のデザインからモデリングまでを担当。2014年に活動の場を日本に移し、現在は都内のCG制作会社フォトン・アーツにてEnvironment&Propsのモデリングスーパーバイザーとして勤務。自身のさらなるスキルアップのためにフリーランスの背景モデラーとして、実写、フルCG、アニメなど幅広く活動中
    photonarts.co.jp/

CGW:今回は1名ずつ、3ヶ月間の出向でしたが、これは最初から決まっていましたか?

鈴木:最初は「1年間で3人ずつ交換」とか言ってましたよね。

北田:ただ、ModelingCafe福岡は12人いるけど、鈴木君のところは6人しかいないから、半分が入れ替わっちゃったら通常業務に差し支えてしまう。最終的に希望者の中からスキルとキャリアが近しい人を選び、1人で3ヶ月になりました。3月から5月まで、1案件をこなして帰るというイメージですね。

鈴木:こういうのはタイミングもあるじゃないですか。面白い案件がある時期とそうでない時期というのは、どうしてもありますし。今回はたまたま、お互いの利害が一致する案件が揃って、実現に漕ぎ着けた感じです。

CGW:お互いにどういった作業をさせましたか?

鈴木:いきなり実務をやってもらいました。逆に言えば実務しかしていないというか。

北田:それはうちも同じですね。今日からこのプロジェクトをやってね、という。

鈴木:けっこう、最初からすっと馴染んでくれて。

北田:僕も違和感はなかったです。ただ、終わった後で鈴木君と2人で話し合ったんですが、どちらも「もう少しやらせてあげられたし、やらせてあげたかった」という反省点がありました。最初はやはり、どのくらいのスキルのもち主か、わからないじゃないですか。

鈴木:お互いのスタジオで業務を調整して、3ヶ月で収まるような仕事をお願いしたんですが、もう少し踏み込めたな、という部分はありましたね。

データ納品と映像納品、それぞれの会社の事情によるちがい

CGW:それぞれ難しかったところは、どんなところでしたか?

鈴木:これはお互い同じだと思いますが、北田さんのところでは若い子をどんな風に扱っているのか、最初は見えませんでした。褒めて伸ばすべきか、厳しく指導するべきか......。実際、1回仕事をしてみなければ見えてこないところって、あるじゃないですか。

北田:うちも同じところで迷いました。「鈴木君のところでは、これってどうやってるの?」とか、ヒアリングしたりして。

鈴木:これは会社の業務のちがいもあったと思うんですよ。研修が終わった後で、2人で総評を書いて共有したんですが、まさに綺麗に指摘されていて。うちはクライアントから絵コンテをもらって、CGで映像をつくり、フィニッシュまでもっていって、映像で納品する。だから1本のムービーを同じチームで丸々手がけるんですよね。そのためにはアニメーション、エフェクト、キャラクターなど、各チームで密接なコミュニケーションが必要になる。密接なコミュニケーションを取るには、パイプラインの理解が必須になる。

三ヶ月見てきて気づいたこと。これからやったほうがいい事を教えます。

まず前東君は映像を作るパイプラインの経験が浅いなと思いました。自分のモデルがどのように映像化されていくのかについて、自分の前後の作業工程をふまえた上で、どういった点に配慮すると、他の工程がスムーズに行くのか、もう少し経験したほうが良いかなと。

学生のころに卒業制作で映像を作ると、レイアウト、モデリング、アニメーション、リギング、エフェクト、ライティング、コンポまで自分でやることになるので、どういうモデルを作ればほかの工程で楽なのかを知ることができ、そこをステップに現場でも生きてくるんだと思うけど。静止画しか作ってないと、流れに対する知識がピンポイントでしか理解できないのかもしれない。

それと他のセクションとの密なコミュニケーションをとるという経験も必要。(とくに今回のプロジェクトでは他セクションのケアをしないといけない部分があったかなと思う)

モデリング以外のセクションで、この場面ではどういったモデルが必要になるかについて、もっとコミュニケーションをとり、スムーズなワークフローに必要なモデルは何かを知るのが良い。

実際に海外ではもっとシステマチックなパイプラインになっていて、そこの経験がないとでは理解度が違う。基本的な流れは一緒だから、その流れがわかっていたほうが良い。

鈴木:実際に弊社ではModelingCafeとちがって、究極までモデルを詰める必要がないんです。実際にモデルにはエフェクトが乗り、ライティングが当たるわけだから、演出に合わせて力を入れるところと抜くところが出てくる。ここは70%で良い、逆にここは100%、あそこは120%までつくり込む、といった具合ですね。だから、どこか物足りなく感じる背景ショットがあったかもしれません。そんな風に作業を進めるにあたり、シーンに合わせたペース配分について、最初に教える必要がありました。

北田:うちはModelingCafeらしい案件を任せたので、真逆でした。どこまで技量があるのか、コミュニケーションを取るところからはじめました。その結果、究極までモデルを詰めた経験がないことがわかりました。そのため実務の上で、対象に対する観察力不足を感じたところはありました。

僕も鈴木くんも背景モデラーを育てたいのではなくて、背景アーティストの育成をめざして、今回の研修を行っています(モデリング含めた背景デザイン、演出的な構図、デザイン、シルエット作成、ライティング含めた絵作りができる背景屋の育成)

そういうプロセスの中で山下くんに足りないのは「観察力」です。これは山下くんに限った話だけじゃなくて、うちのスタッフにも言えることなんだけど、絵やコンセプトアートからモデリングすることが多いので、どうしても自分の頭の中にあるイメージ「思い込み」で作ってしまう点。

観察力って一言で言っても、「見た物をそのまま再現する観察力」と「見た物から構造や仕組みを読み取る観察力」があって、山下くんに不足しているのは前者の方の観察力です。ちなみに後者は絵やコンセプトアートからアセットを起こす際に必要な観察力です。

絵やコンセプトアートから形状を起こすのではなく、実際にある写真や素材データから形状を起こす場合は、逆のアプローチが必要になってきます。リファレンスや写真を見て作っているつもりでも、やはり細かい部分で似せ切れていない点は、経験不足という点もあるけど、主な理由としては観察力不足、思い込みでモデリングをしてしまっている点です。

芸大出身の子は、デッサンで鍛えられているので、この辺が思い込みで形状を作らない。クライアント側のアーティストは芸大出身者が多いので、特にバランスや形状のちがいにすぐ気が付きます。これは観察力が高いからです。

鈴木:結局、ModelingCafeはデータ納品、フォトン・アーツは映像納品というちがいなんですよね。

北田:まさにそうで、映像制作だと前後のセクションで吸収してくれる部分があると思うんですが、うちはデータ納品だからデータに非常に気を遣っているんですよね。実際、「ここまで細かくやったことがない」という話も出ました。ただ、そこは慣れの問題だから、もう一度同じ人同士で交換研修をしたら、もっと踏み込んでいけると思います。

CGW:他に仕事の進め方や、社風などでちがいを感じたところはありましたか?

北田:ModelingCafe福岡では周りの先輩に聞きながら作業を進めていく感じで、僕が作業途中で直接口出しすることはあまりないんですよ。途中、「チェックなしで進めて良いんですか?」と驚かれました。いやいや、最後にしっかりチェックしますよと。

鈴木:ModelingCafe福岡は間に先輩社員が挟まるツリー構造ですよね。逆にうちは全て僕が直接チェックするフラット構造で、そこも大きくちがうところだと思います。いわば縦社会と横社会というか。実際、ModelingCafe福岡はお互いが切磋琢磨している感じですよね。うちはその点、ハングリー精神に乏しいかもしれない。

北田:実際、鈴木君がすごく丁寧にアートディレクションをしていることが伝わってきました。だからこそ、早く「師匠離れ」した方が良いともアドバイスしましたね。

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両社で異なる自主制作の位置づけ

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両社で異なる自主制作の位置づけ

CGW:先ほど「海外で活躍できる人材を育てたい」というお話がありましたが、デモリールなどに載せる自主制作については、どのように指導されているのでしょうか?

北田:共通しているのは、どちらも自主制作を奨励しているところ。それ以外は大きくちがいました。ModelingCafe福岡にとって自主制作は「ストレス発散」の機会なんです。弊社の特徴として、19時30分以降は特別な理由がない限り、残業申請を行わないと作業をすることができないんですよ。決められた時間内で集中して仕事をするのが海外のやり方だからです。その上で、最終成果物については僕が細部までチェックする。クライアントは個人ではなくて、会社宛に仕事を発注するわけですからね。そこは妥協できない。そのかわり、自主制作はつくりたいものをつくれる時間、純粋にCG制作を楽しむための時間です。もちろん、何か質問されたらアドバイスはします。しかし、あえて自分から言うことはありませんね。

鈴木:うちも残業はしていないと思うんですよね。というのも、自分が一番最初に帰ってしまうので。そのかわり、みんな早朝に来て自分の作品をつくったりしていますね。実際、海外で仕事をしたいなら、自分の作品をつくれと言っています。というのも、弊社は会社の規模的に背景モデラーが多いので、自分がやりたいと思った案件にアサインされないこともあります。そのため、仕事だけでは、デモリールが充実していかない。仕事よりもクオリティの高いデモリールをつくらないと、海外では就職できないと良く言っています。


鈴木:また、うちは仕事でModelingCafe福岡ほどモデルを詰めることがないので、そこがアキレス腱になってしまうリスクがあるんですよ。さっきも言いましたが、カメラによってライティングやエフェクトが乗ると、70%のクオリティでも十分に画として成立する場合があります。ただ70%のクオリティで画が成立することがあるのを知ってしまうとそれに慣れてしまうときがあります。そのため、自主制作では100%の力を発揮して自分の限界はどこなのか、日頃から僕が話していることがきちんと実現できているか、ちゃんとチェックしています。

CGW:聞けば聞くほどちがいが際立ってきますね。

北田:でも、ちがいがあるからこそ、このプロジェクトが成り立つんですよね。どっちも同じだったら、わざわざ交流させる意味がないわけで。

鈴木:業務以外でも、せっかく福岡から来てくれたんだからと、海外から知り合いが来たときにはよく食事に連れていったりしました。この前もバンクーバーから一時帰国した知り合いがいたので、連れていって紹介して。東京にいると海外の生の情報が得られやすいメリットはあると思うんです。

北田:みんな海外に行きたいと目をギラギラさせている一方で、東京には行きたくないという子も多いんです。それではダメだと、どんどん東京の会社に出向させるようにしています。


鈴木:海外と言っても、ふわっとしたイメージしかもっていない場合も多いですからね。体験者に聞いてはじめて、わかることもある。それに最近では僕らが行っていたころより、状況がかなり厳しくなっているし。「それが現実なんですか?」と、良くも悪くも理解してもらえたんじゃないかなと。

北田:海外といっても、会社によってVFXなのか、ゲームのシネマティクスなのか、それともインゲームのカットシーンなのかバラバラだし、やっていることが全然ちがう。当然、その会社にあったデモリールをつくらないと、採用に結びつかないんです。それが今は猫も杓子も海外、海外で、何だか記念受験みたいになっていますよね。一方で海外で求められているのは「兵隊」だという現実もあって。せっかく海外に行っても、つくっているのが椅子や机だったり、遠くの群衆だったり。それで「海外で仕事をした」と言えるのか......。

鈴木:僕らのときは海外に行けば新しい知識を覚えることができたけど、今はリードアーティスト以上にならないと意味がないと思うんです。日本にいる間に、そのことをしっかりと学んでほしい。せっかく海外に行っても、5年経ってもリードになれないというのではなく、2年でリードになって、3年で面白い仕事をしてほしいですね。

CGW:逆に東京の若手が福岡で学べることはありますか?

北田:「東京にいなくても最先端の面白い仕事ができる」ことが体感できるところでしょうね。そのために道を切り拓いてきました。実際、僕が海外で仕事をして日本に戻ってきたとき、子育てなどいろいろなことを考えると、東京に住むという選択肢はなかったんです。ModelingCafe福岡では同じように、東京から移住したスタッフが3~4名います。

鈴木:福岡は住みやすそうですよね。

北田:特に弊社では東京のModelingCafeと給与水準が同じだから、その分だけ生活水準が上がるんですよ。物価も安いし、家から職場までの距離も近い。日本を離れて海外に行って、また戻ってきたときに、働く場所の選択肢が広がるというのは、良いことだと思います。

出向研修に出した若手がひと皮むけて帰ってきた

CGW:ただ、そんな風に優秀な若手を海外に放出してしまうと、社内リソースの低下にもつながりませんか?

鈴木:そこはあんまり気にしていないんですよね。

北田:最初はあまり気にしていませんでしたが、だんだんとプロジェクトが大きくなってきて、じわじわと感じるようになりました。ただ、人数が減れば業務を減らせば良いだけなんですよ。早い段階で海外に行ってもらって、いろいろなものを吸収して、また戻ってきてくれるとありがたいですね。もちろん、そのまま海外で上り詰めてもらっても構いませんが。いずれにせよ業界還元はしてほしいなと。


鈴木:我々が前に勤めていたスクウェア・エニックスにはスクウェア ホノルルスタジオで働いていた人も多くて、海外に行くことに寛容な文化があったんです。実際、僕のときも「数少ないチャンスだから、行ってこい」と快く送り出してもらえました。僕らもそういう風に若手を育てたいですね。

北田:まさにそうだよね。

CGW:先ほど「第2回もやりたい」というお話がありましたが、他社を巻き込んで展開していくという考えはありますか?

鈴木:できればそうしていきたいんですが、現実問題として敷居が高いなと感じていて。経営陣も現場もゴールを共有できていないと、ただ若手を交換して、管理コストだけが上がって、ということになりかねないですから。

北田:今回フォトン・アーツから参加してくれた山下君は、入社3年目でしたが、うちの3年目と比べても優秀な部分がかなりありました。それでも最初の1週間くらいはコミュニケーションに気を遣いましたが、その後は良くも悪くもうちのスタッフと変わらない扱いをしてしまったんですよね。もう少し細かく見てあげた方が良かったかも、とは思いました。次回の課題ですね。

鈴木:逆にModelingCafe福岡から参加してくれた前東君は、本人の性格もありますが、自分とすごくマッチしたんですよ。最初は自分でガンガンやる子かなと思いましたが、わからないときはちゃんと質問してくるし、自分なりに理解できるまで質問を続けてくれたので、やりやすかったですね。一方で福岡から帰ってきた山下君も、ひと皮むけた印象でした。前は1人で集中して仕事をするタイプでしたが、研修を終えて視野が広がったというか。

福岡での研修を3ヶ月間終えての感想になります。まず良かった点については、これまでの出張とは違った仕事環境の変化を味わうことができたということです。

福岡オフィスには自分と同世代のモデラーが多く、彼らには自分がこれまでフォトン・アーツで得てきたものとは、また違ったスキルをそれぞれ持っていました。それを同じ環境で仕事をしたり、会話をすることで身近に感じることができ、仕事へのモチベーションに繋がりました。

仕事・プライベートの両方を福岡オフィスの方々と過ごせ、何気ない会話から「その人の自分には無いスキルはどうやって培ってきたのか」のヒントを得ることもでき、なにより今後CGという仕事をやっていく上で大切な"人との繋がり"を得ることができました。これは研修に行かなければ得られなかったものだと思います。

そして3ヶ月間、福岡オフィス代表の北田さんのもとで仕事ができたことも自分にとって大きく得たものとなりました。

仕事面ではきれいなデータ作りのアプローチ、UVやテクスチャの小技などを教えていただき、また、福岡での仕事のやり方を通して、福岡メンバーがどのように成長していったのかなど、今後の自分の指標となることもたくさん教えていただきました。

その一方で、自分に足りないと感じたのは資料を集めたり見たりすることによって得る情報力でした。福岡ですごす日々の中で、福岡オフィスの方々は何気ないデザイン、リファレンスに敏感で、常に自分の中に吸収しようとする姿勢がありました(仕事外のプライベートな時間であっても。)それを身近で体感し、自分にはまだ足りないと感じました。

また、これは北田さんから指摘していただいたことでもありますが、自分にはまだモデラーとして秀でた特徴がはっきりと無いことです。誰にも負けない武器を持った、また持つための努力をしている福岡メンバーの中で過ごしたからこそ、それを身をもって感じています。
3か月の交換研修は、自分にとってメリットでしかありませんでした。特に自分の場合、交換研修はもちろんのこと出向さえ初めての経験でしたので、その効果は非常に大きなものでした。

一つ目は会社そのもののワークフローのちがいを肌で感じられたことです。ModelingCafeは、その名の通りモデリングに特化した営業形態のため、モデリングやテクスチャリングで作業が完結することがほとんどです。

しかし、当然フォトン・アーツを始めとするほとんどのCG制作会社は、動画を作るまでの一連の作業が完結できる環境を持っているため、各業種別の担当者が連携を取り、スムーズにデータを受け渡しすることを心がけています。"次の工程に渡せるデータづくり"というものを実際に作業者と連絡を取りながら実感できました。

二つ目は多くの情報に触れられたことです。会社や場所が変われば人が変わり、得られる情報も変わります。交換期間中にフォトン・アーツの方々に別会社の方や海外就労されている方を紹介していただいたおかげで、業界の情報に触れる機会はかなり多かったです。これは、福岡から東京に場所を移したことにも大きく関係していると思います。

三つ目はスーパーバイザーが変わることで普段とは違った視点からのアドバイスが得られることです。これが今回の交換研修においての要だったのではないでしょうか。スーパーバイザーが違えば、作業者の雰囲気も仕事の仕方も変わってくるので、そういう意味では、ModelingCafeとフォトン・アーツのちがいは顕著なものでした。

データを商品として扱い、クライアントのニーズに応えたエラーの少ない、扱いやすいデータを作成することに注力する北田さんに対し、鈴木さんはクライアントの提示した工数や指示の範囲内で、いかに"かっこいい絵を作るか"ということに重きを置いていたような気がしました。今回は交換期間中に動画の案件を任されていたこともあり、カメラに対しての絵作りや、場面の移り変わりを意識した作り方に関して多くのアドバイスを頂けました。これは普段の環境ではなかなか得られないアドバイスであり、今後の仕事に生かされる重要な要素になったと思います。

実際には、ここでは書ききれないほどの細かい変化や気づきがこの交換研修中に存在しましたが、そのどれもが自分の仕事に対する姿勢を変えるものでした。

北田さんに鈴木さんという第一線で活躍されてきた二人のアーティストに、それぞれの違った視点から指導していただく機会というのは本当に貴重なので、今回のプロジェクトはこれからも続けていってほしいです。

北田:うちは会社が起ち上がって3年しか経っていないので、フォトン・アーツと比べて同世代の子が多いと思うんですよ。そんな中で周りがいいものをつくっていたら、悔しい思いをすることもあると思うんですよね。僕自身も今の若い子に負けたくないですし。

CGW:逆に優秀な若手を選びすぎたんじゃないですか?

北田:いやいや、どちらもいろんな条件が適合した結果なんですよね。

鈴木:最初に立候補させて、そこから条件を見て選びました。まあ、行きたいというからには、それ相応の実力や自信、それにハングリー精神もあったでしょう。だからマッチしたんだと思います。

CGW:逆に「行かせたかったけど、行かせられなかった」こともありましたか?

鈴木:そういう意味では、女性スタッフからは早々に辞退されました。「1人では嫌だ」と。

北田:実際、ModelingCafe福岡は男性スタッフしかいないんですよ。なかなか女性の応募がなくて、たまにあったとしても、東京勤務を希望する子ばかりなんですよね。

鈴木:男ばかりの集団で1人だけ女性というのは厳しいかもしれないけれど、逆に熱心に教えてもらえるかもしれない......。


北田:実際、いろいろな感性があった方が良いので、女性モデラーを増やしたいんですけどね。今後の課題です。

CGW:次回は春までに開催という話でしたが、やはり期間は3ヶ月程度になりそうですか?

北田:そこも案件次第なんですよね。ただ、1人で完結する仕事という意味では、3ヶ月は良い期間かもしれない。今後はグループで回す案件に加わってもらっても良いかな、と思うし。でも、そこも案件次第ですね。

鈴木:2人とも長いスパンでこの取り組みを続けていくつもりなので、可能性としてはありますね。お互いにやり方がこなれて来たら、必ずしも交換ではなくて、ある案件を任せるために、片方から送り込むといったこともあり得るだろうし。

CGW:そうした中で、1人でも早く海外に挑戦してくれる若手が出てくると良いですね。ありがとうございました。