昨夏Kickstarterに登場し、瞬く間に目標額を達成した新しいタイプの裸眼立体視ディスプレイ「Looking Glass」。最初に登場したのは 8.9インチ(約23cm)のスタンダードバージョン、15.6インチ(約40cm)のラージバージョンで、VR HMDとはまったく異なるアプローチで立体視を実現した新デバイスとして注目を浴びた。日本においても今年2月、クラウドファンディングサイトMakuakeにて提供が開始され、目標金額の10倍もの支援を達成したのは記憶に新しい。
そのLooking Glassの新たな製品として、エンタープライズ向けコンピュータ一体型ホログラムワークステーション「Looking Glass Pro」が発表された。発表時期にあわせて来日した開発元Looking Glass Factoryの共同創業者兼 CEO、ショーン・フレイン/Shawn Frayne 氏に同社のビジョンや新製品の魅力について話を聞いた。
TEXT_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
Looking Glass Pro: All-in-one Holographic Workstation from Looking Glass on Vimeo.
<1>HMDなしで立体視を楽しめる未来を実現したい
CGWORLD(以下、CGW):Looking Glass Factoryのことを紹介してください。
ショーン・フレイン/Shawn Frayne氏(以下、ショーン):裸眼立体視ディスプレイ Looking Glass を開発・販売する Looking Glass Factory は、2014年より、米国ニューヨーク、ブルックリンをベースとし、香港にもハードウェアラボを構える総勢30名ほどの会社です。ここ5年くらい、ディスプレイを開発し続けています。
-
-
ショーン・フレイン/Shawn Frayne
Looking Glass Factory 共同創業者兼CEO
もともとは環境保全技術、3Dプリント技術などに関わる。マサチューセッツ工科大学で物理学の学士号を取得
lookingglassfactory.com
ショーン:一般の人は、立体視ディスプレイのことを「ホログラフィック」と呼び、Looking Glass もホログラフィックディスプレイと呼ばれることが多いですが、正確には「ライトフィールドディスプレイ」と呼んでいます。Looking Glass Factoryが最も実現したいのは、「ヘッドマウントディスプレイなしで、立体視を楽しむ」ことです。
The Looking Glass: the first desktop holographic display designed for 3D creators from Looking Glass on Vimeo.
ショーン: 丸一日VRHMDを被っているような生活を描いている人たちもありますが、それはとてもネガティブな未来だと考えます。20年後には家の中にも学校でもどこにでもホログラフィックディスプレイが存在し、ヘッドセットなしで、立体視を楽しめる時代になっていると信じているのです。
Looking Glass Factoryが思い描く未来の歯医者
ショーン: 『ベイマックス』(2014)などの映画の中ではよくホログラフィックディスプレイが使われていますが、現実世界ではまだまだ映画のような技術は実現していません。けれどもここ5年皆でがんばって、やっとこの製品までたどりつきました。
Looking Glass Factoryのタイムライン
<2>「Looking Glass」でできること
CGW:「Looking Glass」の名前の由来は?
ショーン:ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』です。もともとは鏡だけれど、魔法みたいなもので、いろんなものを入れられる「魔法の鏡」だと思っています。いまはLooking Glassに映像を入れている感じですが、これからは世界中のありとあらゆるところにある映像をLooking Glassで表示して、遠くにあるものをまるで手に取るような感じになると考えています。
Looking Glassに、大きさも質感もリアルなカエルが表示されている様子
CGW:どういったしくみで裸眼立体視を実現しているのでしょうか?
ショーン:Looking Glassは先ほども言った通り、いわゆるライトフィールドディスプレイで、同様の裸眼立体視ディスプレイに比べかなり解像度が高いものです。50度の視野角の間に、45方向からレンダリングした映像、もしくは実写の場合は45方向から撮影した映像を表示することで立体的に見せています。特別なカメラに限らず、iPhoneXでも工夫すれば撮影できます。また、Leap Motionと組み合わせることで表示された映像をインタラクションすることもできます。
Looking Glassの内部構造
Looking Glass+Leap Motionによるインタラクション
ショーン:Looking Glassがワクワクするのは、建築物や部屋の内装デザイン、ホログラフィックなビデオ通話など、様々な映像を見ながら繋がることができる点だと考えています。360度カメラで撮影した映像を表示しているユーザーもいて、何だかパソコンが初めて登場した黎明期のように、皆が工夫しながらいろいろなものを作っているような状況になっています。
Mayaで制作したリアルな拳銃モデル。歴史的資料として博物館等での展示に活用することも可能
ショーン: ここ数ヶ月、先行してリリースされているLooking Glassの開発キットを使って多くのアプリケーションが開発されてきました。オーロラを撮影した実写データをLooking Glassで見られるようにしているアーティストもいます。
実写のオーロラ画像を表示させた様子
次ページ:
<3>オールインワンで用途が広がる「Looking Glass Pro」
<3>オールインワンで用途が広がる「Looking Glass Pro」
CGW:今回、新製品として「Looking Glass Pro」をリリースされますが、従来のLooking GlassとProとのちがいを教えてください。
ショーン:Looking Glass Proは、コンピュータも内蔵したオールインワンタイプのディスプレイです。別にPCを接続する必要がなく、一体型として扱うことができます。フルカラーで60fps、従来のLooking Glassと同じように45視点からの画像を表示することで、3Dビューを実現しています。
Looking Glass Proに、SIMULIAによる心臓の拍動シミュレーションを表示させたもの
ショーン:ディスプレイ表示はLooking Glassのラージタイプと同じですが、2点タッチパネルとコンピュータ、7インチの操作パネルを内蔵しています。視野角は50度、複数人で同時に立体映像を見ることができます。USBポートがあり、マウスやキーボードを使うこともできます。タッチパネルも便利に使えますが、より細かい操作が求められる場合はマウスと併用できます。内蔵PCのスペックはアプリケーションを動かすために必要十分なハイエンドのもので、パフォーマンス的にはNVIDIA GTX 1050、1060と同等です。
Looking Glass Proのタッチパネル操作
ショーン:操作パネルを必要としない展示などの用途の場合は、パネルを後ろに折りたたんで隠し、ディスプレイ部分のみで使うことができます。
7インチ操作パネルが後ろに折りたためる様子
ショーン:Looking Glass Pro の利点としては、複数台の扱いが容易になるところです。例えばアニメーション会社が何分かのアニメーションを作り、一度に10台で展示したいといったニーズにも応えられるようになります。また内蔵のコンピュータだけでなく、外部のコンピュータのHDMI出力を繋いで外部ディスプレイとしても使うことができます。電源ケーブルは1本にまとまりますので、取り回しもしやすいです(デモ機は暫定版につき2本の電源ケーブルが出ていた)。
歯のスキャニングデータ提供: OrthoScience
ショーン:価格は6000米ドルで、運搬用のケースとジェスチャ入力用の Leap Motionもセットで提供します。また、商用のUnity SDK、Unreal Engine プラグイン、three.jsライブラリが付属します。企業向け、ビジネス向けには最適な価格、最適なセットだと思います。
ショーン:もちろん、リリース済みの開発者向けLooking Glassも販売・サポートを続けます。多くの人たちが Looking Glass Factoryはハードウェアの会社だと考えていますが、実はソフトウェアや開発者コミュニティのサポートにも力を入れています。6月3日(月)までは500ドル引きの特別価格で先行販売を行います。ワールドワイドに発送しているので、日本からの注文も受け付けます。出荷開始は2019年7月中旬を予定しています。
日本の開発者を積極的にサポートしていきたい
CGW:Looking Glass のこれからの展開は?
ショーン:Looking Glassは、開発者コミュニティも大切にしています。現在東京で200人ぐらいの開発者コミュニティがあります。3月末に東京で第1回Looking Glassハッカソンが開催され、50名もが参加してくれました。これからもハッカソンを予定しています。日本の開発者はとても良いものを作っているので、引き続き日本の開発者の皆さまをサポートしていきたいと考えています。
Japan Hackathon (Full Video) from Looking Glass on Vimeo.
ショーン:今開発しているものとしては、CTスキャンの結果をすぐにLooking Glassで立体的に見られるようになるアプリケーションが数ヶ月後にはリリースされる予定です。現在実際に歯医者が患者とのコミュニケーションに使っている事例もあり、Looking Glassは医療用として重宝されています。またリアルな時計や古代の遺跡など、特定の博物館でしか見られないものを世界中のLooking Glassで見られるようになるなど、夢が広がります。
Looking Glass Pro
Looking Glass Pro
製品仕様
Intel NUC 8 VR NUC8i7HVK 組み込みコンピュータ内蔵
サイズ:L14.5×W6.9×H9.6インチ(約37×17.5×24cm)
重量:11.4kg
ライトフィールドディスプレイ:15.6インチ(約40cm)
入力解像度:3,840ピクセル×2,160ピクセル(4K)/60fps
対応ファイル形式:OBJ、glTF、GLB、STL
価格:$6,000(6月3日(月)まで$5,500)
look.glass/lkgpro