次世代の3DCG技術「リアルタイムレイトレーシング」が、いよいよ身近なものになってきた。鍵を握るのがNVIDIAのRTXテクノロジーだ。「パソコン工房」で知られるユニットコムの協力の下、スタジオブロスに、リアルタイムレンダリング向けPCの実力を検証してもらった。

▲パソコン工房 CG・映像制作者向けブランド「CG・MOVIE GARAGE」販売サイト。本企画でブロスが監修したPCが紹介されている。各ラインナップともに、目的に合わせて余分な構成は省き高いコストパフォーマンスを実現している。今後さらなるラインナップが登場予定だ >>>製品紹介ページはこちら

プリレンダーと見まがうほどの表現力をリアルタイムで実現

パソコン工房スタッフ:今回はUnreal Engine 4(以下、UE4)とRTXテクノロジーの組み合わせで検証していただきましたが、感想はいかがでしたか?

田村耕一郎氏(以下、田村):興味深いですね。GPUの性能のちがいが作業時間に大きく影響しました。ここ1年でUE4を用いた案件が増加しているので、導入を前向きに検討したいです。





  • 田村耕一郎氏
    株式会社スタジオブロス 映像開発部リアルタイム3DCGディレクター

パソコン工房スタッフ:リアルタイムレンダリングの増加には、どういった背景があるのでしょうか?

田村:映像クオリティの向上もさることながら、4K・8K映像コンテンツが増加したことで、プリレンダーではリテイク時の対応に時間がかかりすぎるようになりました。それまでは目立たなかったレンダリング時のエラーも解像度が上がると目立ちますし、修正にも時間がかかりますからね。最近はクライアントさんも事情を良く理解されていて、最初からリアルタイムCGでお願いしますと言われるくらいです。

パソコン工房スタッフ:主に使われる機材はどういったスペックになりますか?

田村:当社の機材はスペックがバラバラなんですよ。社員は10名で、それぞれが異なったスペックのPCを使用しており、必要に応じてメモリやグラフィックカードを増設しています。それだけ、いろんな種類の案件が来るということなんです。また、UE4案件で意外に重要なのがストレージのアクセス速度です。UE4ではシーンの初回起動時にGPUキャッシュを作成しますが、これだけで数時間かかったこともありました。2回目以降は迅速に起動するようになるのですが......。



▲UE4リアルタイムレイトレーシング検証シーンについて、カメラアングルを任意に変えたもの。プリレンダーと見まがうほどの表現力をリアルタイムで実現している。 検証結果については後述するが、反射や映り込みを忠実に再現している。フレームレートはマシンスペックに大きく依存する

リアルタイムレイトレーシングで制作ワークフローが変わる

パソコン工房スタッフ:そこで今回はGPUにGeForce RTX 2070、Quadro RTX 5000、TITANRTXを搭載したモデルを用意しました。ストレージもNVMe M.2 SSDとOptane SSDの2種類を用意しています。

田村:やはりTITAN RTXとOptaneの組み合わせは強力ですね。TITAN RTXの高い処理性能と、高速な読み書きが行えるOptaneのメリットが反映されていると思います。UE4はアンチエイリアスの精度が低いため、最初から2倍の解像度でデータを制作し、縮小して納品することが多いんです。そうした作業でもストレスなく対応できそうですね。一方でQuadro RTXの健闘ぶりにも驚かされました。

パソコン工房スタッフ:リアルタイムレイトレーシングに対する期待感はありますか?

田村:ものすごくありますね(笑)。だからこそ、RTXテクノロジーには期待しています。ただ、Windows 10でなければ、その恩恵が活かせない点には注意が必要ですね。

パソコン工房スタッフ:今後リアルタイムレイトレーシングで挑戦したい表現はありますか?

田村:建築業界などで増加しているのが、アセット制作にレーザースキャンを用いた案件です。これにより、今や億単位の点群データをプレビューする時代になっています。これとリアルタイムレイトレーシングを組み合わせれば、より完成度の高いプリビズが短時間で作成可能になるので、ぜひ挑戦してみたいですね。

パソコン工房スタッフ:そのためには、ますます高性能な機材が求められますね。当社でもRTXシリーズを搭載したPC「SENSE∞シリーズ」が、より身近な存在になるよう努力していきます。

Point1 検証モデル:リアルタイムレンダリング向けPC

※価格および各パーツのスペックは2019年5月時点の情報です。予告なく変更される場合があります。
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Point2 リアルタイムレイトレーシング フレームレート検証

検証条件

検証はNVIDIAが2019年5月に開催した「The DXR Spotlight contest」向けに制作された作品を活用して行われた。アセットはMayaで制作され、総ポリゴン数は72万ポリゴン(うち自動車は38万ポリゴン)が費やされている。その後、Mayaのカメラアニメーション(2個設定)をUE4のシーケンサーに変換し、24fpsで300フレームのアニメーション(12.5秒)を制作する想定でリアルタイムレンダリングを実施。終了後にHDRのexrシーケンスファイルで出力するまでの時間が計測された。最終的な成果物は1フレームあたり28MBとなっており、レンダリングとストレージに対する書き込み速度の双方が求められる検証となっている。なお、アセット制作はスタジオブロスの関連企業で、モデリングを専門に行う「モデリングブロス」が担当している。

検証結果

グラフを見ればわかるように、全ての検証でTITAN RTXモデルの高性能ぶりが目立った。特に4Kレイトレーシング再生時のフレームレート(GIなし)では、TITAN RTXモデルがQuadroRTXモデルの約2倍のスコアを記録している。ただし、GIをONにした場合のフレームレートでは、両者のフレームレートは拮抗しており、Quadro RTXモデルの健闘が光った。これに対してGeForce RTXモデルは2機種と比較して最大で2倍程度の差が見られるなど、低いスコアに止まった。

総評

今回の検証から、TITAN RTXモデルで非常に高速なリアルタイムレンダリングが可能であることがわかった。ただし「画質面ではTITAN RTXモデルとQuadro RTXモデルとの明確な差が見られなかったこと」、「静音性が最も高かったのはQuadro RTXモデル」、「Quadroの高い耐久性と信頼性」などの理由から、Quadro RTXモデルも捨てがたいという。また、スタンダードモデルは半分ほどの速度しか出なかったものの、十分実用的な範囲だと補足された。他にTITAN RTXを2枚挿ししたモデルも用意されたが、UE4.22のレイトレーシングでは複数GPUでの動作に対応しておらず、検証には至らなかった。もっとも、レイトレーシングをOFFにすれば複数GPUを使用でき、非常に軽快に動作したことや、UE4のバージョンアップで複数GPUの対応も予定されていることから、今後に期待できるという。このほか、今回の検証趣旨とはずれるが、Quadro RTXモデルによる低解像度のレンダリング時間についても補足検証が行われた。1,280×720で18秒、1,920×1,080で36秒と非常に高速にレンダリングが終了し、低解像度で作成したプリビズの内容確認にも向くことが、改めて確認された。



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TEXT_小野憲史
PHOTO_弘田充