>   >  運営型ゲームのノウハウ開示を通して新しいゲームづくりの礎にしていきたい~CEDEC AWARDS 2019著述賞 セガ・インタラクティブ 松永 純氏
運営型ゲームのノウハウ開示を通して新しいゲームづくりの礎にしていきたい~CEDEC AWARDS 2019著述賞 セガ・インタラクティブ 松永 純氏

運営型ゲームのノウハウ開示を通して新しいゲームづくりの礎にしていきたい~CEDEC AWARDS 2019著述賞 セガ・インタラクティブ 松永 純氏

2013年にリリースされ、スマートフォンRPGの概念を変えた『チェインクロニクル』。同タイトルの開発について記した書籍が『チェインクロニクルから学ぶスマートフォンRPGのつくり方』だ。運営型ゲームの企画・運営ノウハウを余すところなく開示した点が評価され、CEDEC AWARDS 2019で著述賞を受賞した。著者であり、『チェインクロニクル』の開発を主導した松永 純氏に受賞の感想や、ゲーム業界の現状などについて聞いた。

INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

『チェインクロニクル』
スマートフォンで楽しめる本格王道RPG。ワンタッチで必殺技を放つ爽快なタワーディフェンスバトルと、アニメ化もされた圧倒的なボリュームのシナリオ、800体を超えるキャラクターたちとの出会いがプレイヤーごとにちがった「冒険」を生み出す。2013年に第1弾がリリースされ、2016年11月からは最新作『チェインクロニクル 3』が展開中
© SEGA

受賞と聞いて「嘘だろ」と思った

CGWORLD(以下、CGW):改めてCEDEC 2019での著述賞受賞、おめでとうございます。月並みですが、感想を教えてください。

松永 純氏(以下、松永):ありがとうございます。最初に知ったときは正直、「嘘だろ」と思いました。初めて書いた本ですし、かなり自由に書いてしまったので、まさか表彰されるとは思ってもいませんでした。実際、過去の著述賞をみると、しっかりとした技術書ばかりでしたからね。

松永 純/Jun Matsunaga
株式会社セガ・インタラクティブ 第四研究開発部 部長、チェインクロニクルシリーズ総合ディレクター

2002年にSEGA入社。アーケードゲーム市場にて『三国志大戦』シリーズ、『戦国大戦』シリーズの企画原案、メインゲームデザイン、ディレクションを務める。その後、モバイルゲーム市場で本格RPGジャンルの草分けとなる『チェインクロニクル』をリリース。このタイトルでは、企画原案、ゲームデザイン、ディレクションに加えて、キャラクター・世界観設定、シナリオ制作を担当。現在は同タイトルの運営開発を行うとともに、各モバイルタイトルの総合ディレクションに従事している

CGW:ただ、その中でも『チェインクロニクルから学ぶスマートフォンRPGのつくり方』は、非常にユニークな内容だったと思います。あまりに印象的だったので、Amazonのカスタマーレビューに投稿してしまいました。「ブーメランを恐れずに良く書いてくれました! すばらしい!」と見出しにつけたところ、著述賞の受賞理由に「ブーメラン」という文句があり、またまた驚きました。

2019年現在、数多くのスマートフォン RPG がリリースされており、その内容は多岐に渡る。その様な状況の中で、タイトルに「スマートフォンRPGの作り方」という普遍的なタイトルをつけることは著者にとって勇気の必要な選択となるが、本書はそのリスクに見合うだけの内容を備えている。どのような信念をもってユーザーを楽しませるか、それを予算と人員の範囲内でどのように実現するかということが具体的かつ平易な表現で余すところなく書かれており、現役開発者、ディレクター初心者、ゲーム開発者志望の学生など多くの層に響く内容であることは間違いない。自分にとってのブーメランになる可能性についても触れられているが、それを理解した上であえて一歩を踏み出す姿勢には、見習うべき点が多くある。

松永:自分もCEDEC運営委員の方から「スマートフォンの運営型ゲームで、企画や運営ノウハウについて書かれた本が少ない」、「スマートフォンRPGが市場に溢れる中で、改めてこういった内容について書いたこと自体が評価に値する」などと説明を受けて、納得しました。本書のような内容の書籍が、もっと出版されてしかるべきだというお話もいただき、自分も同じように思うところがあったので、なるほどなという思いはありました。



  • 『チェインクロニクル』(2013年7月~)



  • 『チェインクロニクル~絆の新大陸~』(2014年7月~)

『チェインクロニクル3』(2016年11月~)

CGW:これまで本を書かれたり、雑誌やWebメディアに連載されたり、ブログを書かれたりといった経験はありましたか?

松永:まったくありません。仕様書を作成したり、シナリオを書いたりといったことは、プランナー出身なので当然ありましたし、文章を書くことも苦手ではありませんでした。ただ、実際にこれだけの分量の本を書いたのは初めてでした。

CGW:もともと、どういったかたちで企画が進んだのでしょうか?

松永:版元の星海社さんには、『チェインクロニクル』のリリース直後からたいへん気に入ってもらって、画集『チェインクロニクル1st season イラストレーションズ』を出版いただいた経緯がありました。そうしたご縁で、本を書きませんかというオファーも、すぐにいただいていたんです。ただ、ゲームが出たばかりのタイミングでは、自分の中で考えがまとまっていませんでした。それで、いったんお断りしていたんです。

CGW:ただ、それから現在まで運営を続けられて、結果的にスマートフォンRPGのながれを変えた作品になりましたし、CEDECでも2年連続で登壇されましたね。CEDEC 2016では「スマホゲームにおけるゲーム性と物語性の"運用で摩耗しない"基礎設計手法 ~チェインクロニクル3年の運用と開発の事例を交えて」。CEDEC 2017では「スマホゲームで物語を更新し続けること。4年間のストーリー制作コンセプトの変遷をファクトに重ねて」というタイトルで講演されて、高く評価されました。

松永:CEDECでの発表は、自分のこれまでのやり方を整理する上でも、非常に大きな意義がありました。そうした活動も踏まえて、次第に本にまとめられるだけの内容がたまってきたんです。それまでも折につけて編集部から打診をいただいていて、そのたびに「無理っす」とお断りしてきたんですが、ようやく「今からでも良ければ、お願いできますでしょうか?」と、お引き受けすることができました。

CGW:松永さんの中でも、機が熟してきたという感じだったんですね。

松永:はい、その頃には内容がある程度まとまっていました。週末にわっと集中して、1ヵ月くらいで書き上げました。

CGW:書きたいことを書ききったという感じですか? 本の終盤では「現役の開発者がゲームをつくりながら本を書くことを、周りの何人かに止められました」と書かれていますよね。「絶対、どうやっても、ブーメランになるからと。『あなたが本でかくあるべしと書いていることと、逆のことを運営やアップデートでやってしまっても、誰もあなたを守れないよ』と」あり、実際にそうした側面もあったかと思います。

松永:それはそうなんですよね。運営中のタイトルですので、内容も変わっていきますし。ガチャについてもデリケートな部分が多いので、書くだけ損だという話は、周りから言われました。ただ、だからこそ実際のところどうなのかという話は、特に開発や運営をしている若い人たちなら、みんな知りたいと思います。自分自身も他社のゲームを遊びながら、一番気になるところでもあるので。そういったところを書かなければ、本を出す意味はないんだろうなと思っていました。

ゲームのサービス化によって産まれた変化

CGW:興味深いですね。同じく終盤で「個人的に、(チェインクロニクルを企画していた)当時の市場は嫌いでした。(中略)ゲームが好きでもないのにゲームをつくっている人がたくさんいるのが嫌だったんです。(中略)そして『舐めたつくりのゲームが減って、市場にもっと面白いゲームがあふれろ!』と願っていました」というくだりがあります。個人的にも共感した部分でしたが、なぜこうした内容を盛り込まれたんでしょうか? 単にゲームのふり返りを行うだけなら、不要な印象も受けます。

松永:うーん、なんでこんなことを書いたんでしょうね(笑)。たぶん2つ理由があって、第一に『チェインクロニクル』をつくるにいたった動機を、あますところなく書かせていただいた方が良いだろうと。自分も他のゲームを遊んでいて、そういったことが気になる性質なので。どういう感情でこれつくったんだろう? って。

第二に運営型のスマートフォンゲームをつくっている若手と話をしていると、自分の理想のゲームがつくれないという愚痴を聞くことが多いんですよね。会社でつくる以上、売上を上げなければいけないし、運営の施策を途切れなく回さなければいけない。そのためには、どうやっても型みたいなものが決まってくる。もっと自由につくりたいけど、会社から許諾が出ない。そのうちに青臭いことを言ってるほうが間違いという空気になってくる。そんなふうに悶々としている人たちに、君たちが間違ってるわけじゃない。そういう気持ちをもってて良いんだって。ちょっと偉そうな言い方かもしれませんが、そんな風な思いがありました。

CGW:なんだか懐かしいですね。お話を伺っていて、昔のセガを思い出しました。昔といっても、20年近く前になりますが。自分が良く取材でお伺いしていたのは、まだドリームキャストが現役の時代で、開発部署が分社する前だったので。

松永:ああ、そうなんですね。僕はセガが分社してから入社したので。そういう意味では、セガの遺伝子を継いでいる人間の中でも、わりと若造の方ですね。

CGW:あれ? 松永さんって、おいくつなんですか?

松永:39歳です。

CGW:自分は1971年生まれで48歳なんです。自分の方が年上なんですね。改めて驚きました。

松永:セガには僕より社歴が長い方がたくさんいらっしゃいますしね。一緒に仕事をしていくなかで、そういった遺伝子が自然に伝わってくるんだろうなあと思います。もちろん僕らのゲームを遊んでセガを志してくれたさらに若い層もいて、時代が変わっても脈々とそういう文化の伝承が続いています。

CGW:実際、これまでのゲームの歴史の中で、いくつか転機がありましたよね。アーケードからコンシューマへの変化もそうでしたし、スマートフォンの運営型ゲームも転機のひとつだと思います。その上で何でもそうですが、変化には良い面と悪い面があると思うんです。

良い面でいうと、ユーザー層が一気に広がりましたよね。メディア側からすれば、ゲームってこういうものだと、いちいち説明しなくても済むようになりました。昔は新聞などでゲームについてコラムを書く際、「RPGとは」的なところからかみ砕く必要がありました。しかし、今ではタップやスワイプといった専門用語でも、普通に使うことができます。市場も広がって、新規参入した会社が増えて、業界が活性化して、ゲーム開発者も増えました。ただ、その一方でつくっている人の顔が見えにくくなってきたのも、事実だと思うんですね。

松永:そうですね。作家性のようなものは......。

CGW:ゲームにはっきりした作家性は不要だというのが、スマートフォンの運営型ゲームにおける一般的な風潮で、それはそれで正しいと思います。ただ、個人的にはちょっと寂しいなという感じもしていて。だからこそ、本の中でああいったメッセージが発せられていたことに驚きました。

松永:ゲームがサービス化していったことで起きた変化ですね。僕もそんなふうに、誰がどんな風につくっているのか、つくり手の顔が見えにくくなっていくのは、ちょっと寂しいなと思っているところがあって。実際は、開発者の想いが詰まってるゲームは多くあるんですけど、サービスのさらに奥にあるから、伝わりづらいんですよね。だから抜き出して説明するしかないんですが、スマートフォンの運営型ゲームで、あまりそういった内容の本がないから、書きたかったという点はあります。

CGW:運営型ゲームを否定するものではありませんが、企画やディレクションの知見が共有されにくいという問題は、避けられない面がありますよね。運営型ゲームは開発者が外部からわかりにくいですし、「中の人」が入れ替わることも少なくありません。そのため開発者インタビューなどがやりにくい。ゲームの運営が終了するのも、人気の低下が原因であることが多いので、書籍化の企画も通りにくくなります。

実際、ゲームエンジンやネットワークなどの技術書はたくさんありますが、運営型ゲームのゲームデザインに関するものは少ないですよね。CEDECでも関連する講演は数えるほどしかありません。

松永:ゲームデザインが得意な人間と、運営が得意な人間は異なることが多いので、運営が軌道に乗ってヒットしている頃には、中の人が変わるケースが多いですよね。また根っこのところで、エンジニアリングに比べてゲームデザインは個々のタイトルに紐付く部分が多く、体系化が難しい側面もあると思います。

ネットワークの構築や、3DCGのレンダリングなどであれば、どんなプロジェクトでも応用が利くと思いますが、ゲームデザインの、ユーザーに魅力として映っている商品性の部分は、単純なゲームデザインのインゲーム(いわゆるバトルシステムやパズルゲーム部分)の設計だけで成立していることはほぼなくて、キャラクターやゲームサイクルなど様々な要素がからまって表現されるので、一点ものに見えるんだと思います。

CGW:見えてしまいますよね、確かに。

松永:逆にプランナー向けの技術書は一昔前に比べると、ずいぶん潤沢になりましたよね。3Dゲームにおけるゲームルールの設計、いわゆるメカニクスの組み立て方や、気持ち良く遊べるようにするためのつくり込みの工夫など、ちょっと前だと各社の秘伝のタレみたいな内容でも、技術書で紹介されるようになりました。それ自体はすごく良いことだと思うんです。

ただ、そこから一段先にある、タイトルごとの個別の価値みたいなものを、どのように共有していくかといったことについては、まだまだ難しいのかな、とも思います。個人的にはベースのメカニクスに乗っかるもの、例えばキャラクターや世界観、それからレベルデザイン、サイクルデザインなどのノウハウについても、汎用化できるはずだと思うんですけどね。

また、現場で仕事をしていると、ほとんどの判断はそういった部分によるものなんです。運営型ゲームでは、ゲームデザインのメカニクスに関する議論は、開発における最初の5%くらいの話になります。残りの95%は、運営を見越したゲームサイクルの設計、世界観やキャラクターの魅力づくり、継続性を高めるための序盤の体験の設計とか、そして実際の運営計画の練り込み、さらには現場が正しく動くためのマネジメント的な動き、そういったものに費やされます。

CGW:痛し痒しですね。

松永:そうなんですよね。実際にそういった本があれば僕も読みたいです。

CGW:この本が出る前と後とで、何か反響があったり、社内で変化が起きたり、といったことはありましたか? できれば、こういった本がどんどん出てくると嬉しいんですが。

松永:いろいろな方から愛のあるツッコミをいただきました(笑)。ただ、「俺も書こうと思った」みたいな話は、なかなか聞かないですね。

CGW:松永さんが言われたように、ゲームデザインに関する本は増えてきましたが、ディレクターやプロデューサーが読んで役立つ本は、これからなんでしょうね。

例えばチームメンバーに対して同じ指示を出すのでも、ときと場合、それから言い方で、ずいぶん受け止められ方がちがうじゃないですか。本の中でも開発中、「ピリカ問題」(※1)と「ボス戦におけるマナ不足問題」(※2)という2つの問題を一気に解決した施策(※3)について、飲み会を通して上手く指示を出したエピソードが、具体的に語られていました。ああいった、ディレクションの機微に触れるようなノウハウが共有されることは、他になかったような気がします。

※1 ピリカ問題:パーティのガイド役をつとめる妖精ピリカが、開発バージョンではゲームプレイで活躍する場がなかったため、プレイヤーにとって浮いて感じられた問題
※2 ボス戦におけるマナ不足問題:本作の戦闘シーンでは通常バトルを経て、ボス戦をクリアすれば勝利となる。マナは各々のキャラクターのスキルを発動させるために必要な要素となるが、開発バージョンではボス戦で回復させる手段がなく、一度マナ不足に陥るとじり貧になってしまっていた
※3 ボス戦でピリカがマナをもってパーティのもとに飛んできてくれるように改良された

『チェインクロニクル』より

松永:だとしたら良かったです。世の苦しんでいるディレクターさんが、何かしらヒントを得てくれたら、本当に嬉しいなと思うので。

CGW:松永さん自身は、そういったノウハウは業務を通して、自然に学ばれていった感じでしょうか。

松永:完全にそうですね。たぶん、世の中にいるディレクター以上の人間は、みんなそうじゃないかなあ。失敗の中から自然に学んでいく感じで。他人にコツを体系的に教えてもらった人は、たぶんいないと思います。ただ、本当は失敗する前に知っておいた方が良いことって、たくさんありますよね。そういったノウハウの共有が書籍を通して増えると良いなと、すごく思います。

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ユーザーの開発者に対する捉え方が変わってきた

Profileプロフィール

松永 純/Jun Matsunaga

松永 純/Jun Matsunaga

株式会社セガ・インタラクティブ 第四研究開発部 部長、チェインクロニクルシリーズ総合ディレクター
2002年にSEGA入社。アーケードゲーム市場にて『三国志大戦』シリーズ、『戦国大戦』シリーズの企画原案、メインゲームデザイン、ディレクションを務める。その後、モバイルゲーム市場で本格RPGジャンルの草分けとなる『チェインクロニクル』をリリース。このタイトルでは、企画原案、ゲームデザイン、ディレクションに加えて、キャラクター・世界観設定、シナリオ制作を担当。現在は同タイトルの運営開発を行うとともに、各モバイルタイトルの総合ディレクションに従事している

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