>   >  撮影した写真が即座に3Dモデルに――背景アーティスト中村基典に聞くフォトグラメトリの活用法とVRへの展望
撮影した写真が即座に3Dモデルに――背景アーティスト中村基典に聞くフォトグラメトリの活用法とVRへの展望

撮影した写真が即座に3Dモデルに――背景アーティスト中村基典に聞くフォトグラメトリの活用法とVRへの展望

日本人ならよく見慣れた神社の姿。しかしそれがフォトリアルなCGとして現れると俄然、目を引く。ましてやそれがUnreal Engineのアセットとして置かれるとなおのこと世界の耳目を集める。このCGモデルは写真から3DCGを生成するフォトグラメトリの手法によって制作されたもの。そのチュートリアル動画はCGWORLD Online Tutorialsにて『フォトグラメトリーを活用したフォトリアルな神社アセット制作』として公開されている。制作者の中村基典氏に本作を制作した意図とフォトグラメトリの今後の活用法について聞いた。

TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru HIrota

フォトグラメトリーを活用した
フォトリアルな神社アセット制作
(CGWORLD Online Tutorials)
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神社のCGアセットが海外メディアの注目を集める

CGWORLD(以下、CGW):中村さんがフォトグラメトリで作られた「神社アセット」(Shinto Shrine)は、Unreal Engine 4(以下、UE4)のマーケットプレイスで販売されているアセットの中でも一際目を引くもので、多くの海外ユーザーから注目を集めています。

中村基典氏(以下、中村):外国の方が日本文化の建物を作ると、どうしても違和感があることが多い中、日本人が神社のような本格の日本文化のアセットを作って販売することで、より注目を集めたのかもしれません。これは販売する前、もともとは個人制作としてTwitterにアップしていたんです。そうしたら外国の方から特に大きな反響をいただき、イギリスの雑誌「3D Artist」から取材のお声がけをいただいたり、「ArtStation」のPicsというスタッフが選ぶコーナーに選ばれたり、Unreal Engineのランチャーに2週間連続で載せていただいたりと、予想以上の反応をいただきました。そこで、せっかくなので試しに販売してみたという次第です。


  • 中村基典/Motonori Nakamura

    CG専門学校卒業後、都内のゲーム開発会社に就職。モバイル/コンシューマーゲームのリアルタイムレンダリング3D背景制作全般に携わる。CGWORLD vol.244(2018年12月号)にて「フォトグラメトリを活用したフォトリアルな神社アセット」を寄稿。Unreal Engineマーケットプレイスにて神社アセットを販売中
    motonak.jp
    Twitter:@motonak_jp

神社アセットが完成したときの中村氏のツイート

CGW:これはどのような経緯で制作されたのでしょうか?

中村:元々は習作のつもりで作ったんです。私は現在ゲーム開発会社に勤務していますが、リアルタイムレンダリングで岩などを作る際、イチからZBrushで作ると非常に時間がかかるという問題を抱えていました。これを作ったのは約2年前になりますが、その頃からフォトグラメトリという手法が広まり、前職でも廃墟を作るときなどに使用していました。ちょうど前職を退職するにあたり有給休暇を消化する時間があり、PhotoScanと相性の良い石造りの建物として神社を思いつき、約1ヶ月間で制作を行いました。


CGW:現地での取材・撮影はどのように?

中村:自分の場合はプリレンダーに使うわけではないので、APS-Cサイズで市販10万円しない程度のデジカメで十分です。撮影の際に注意する必要があるのは天気です。晴れた日は日差しの分、影も色濃く残ってしまうのでフォトグラメトリをするのに適さないんです。そのため狙い目は曇りの日になります。ロケハン場所は家の近所です。

その次は、周囲に余分なモノがないこと。フォトグラメトリは360度撮影しますので、障害物がないことが必須となります。被写体を見つけるまでには相当な時間がかかります。

CGW:360度撮るとなると、撮影枚数はどのくらいになるのでしょうか?


中村:この狛犬の場合、70~80枚くらいです。他のオブジェを撮るときもだいたい同じくらいですね。手前の手水鉢、地面の石畳や砂利、灯籠など石でできたものは全てPhotoScanで作成しています。屋根の下は光量が足りなかったりカメラから遠かったりしたので拝殿の場所は部分的です。それでも全体の形を取る上では非常に有効な手法と言えます。


狛犬のフォトグラメトリー用写真(CGWORLD vol.244より)

中村:特に屋根の部分は微妙にカーブしていて、目分量では難しいものも、この方法を使えばずっと早く作れます。狛犬は普通に作ると早くて3日から1週間くらいかかります。フォトグラメトリなら撮影後UEにもっていける状態まで半日くらいですね。

PhotoScan上で写真から構築したメッシュ(左)、その後OBJ形式でZBrushに読み込み、ポリゴンを整理・リダクションしたモデル(右)(CGWORLD vol.244より)

PhotoScan上で生成した社殿のハイポリゴンモデル(左)。欠けがありそのままではアセットとして使用できないため、このモデルを基に形を取りモデリングした(右)(CGWORLD vol.244より)

CGW:それは大幅なスピードアップになりますね。社殿の彫刻部分はいかがでしたか?

中村:社殿を撮影する際の難点は、下からしか撮れないことです。ただ、3D化することである程度は正面から見ることができるので、パーツを上からトレスして正確な形を取ることができます。こちらは上からPhotoshopでトレスしてバラしたものに厚みをつけてモデルにしまして、ZBrushでパーツ単位で彫り込んでいきました。

彫刻部分の写真(左)と、PhotoScanで3D化したモデル(右)

彫刻の構成パーツごとにPhotoshopでトレスしてバラし(左)、ZBrushに読み込んで厚みをつける(右)


ZBrushで彫り込んだ彫刻モデル
(CGWORLD vol.244より)

中村:ZBrushは特に装飾や彫刻に強いのでPhotoscanで生成したモデルを補完するのに非常に適したソフトだと思います。物理的に全ての場所をスキャンできるわけではありませんが、ガイドを基に作ることができますので、それでも十分なスピードアップにはなります。

CGW:フォトグラメトリの活用の仕方としてはどのようなことが思い浮かびますか?

中村:フォトグラメトリは背景アーティストと相性が良いんですよ。例えば木の板を貼ったり、竹垣などの自然物を使ったものも写真を撮るだけで立体になりますし、後で加工すればループテクスチャとしても使えたりして便利。何よりリアリティに溢れています。

反面、ノンフォトリアルのゲームやアニメとは相性が良くありませんね。情報量が多すぎるのである程度間引かなくてはならず、その意味でジャンルによる向き不向きがある方法だと思います。

フォトグラメトリを始めてからはとくに日常風景を取材目線で見るようになりました(笑)。駅の構造はどんな風になっているのかとか、どの柱がどう支えているのか、錆びているところはどこに水が溜まっているか、コンクリートはどんな場所が風化しやすいのかとか、つい見てしまいます。


CGW:中村さんがCGを始めたきっかけは?

中村:高校のときに映画『ジュラシックパーク』(1993)を見て感動して、同時期ぐらいに『バーチャファイター』(1993)で興味をもったのが最初ですね。3DCGに限らず、Photoshopなどの2D系でも要はパソコンでCGソフトを使って何かを作るという行為が面白かったんです。当時油絵ををやっていたことも大きいです。色の豊かさや拡大・縮小などのデジタルならではの技術的な部分に惹かれたんですね。

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自主制作をするのは自らの腕を試し続けるため

Profileプロフィール

中村基典/Motonori Nakamura

中村基典/Motonori Nakamura

CG専門学校卒業後、都内のゲーム開発会社に就職。モバイル/コンシューマーゲームのリアルタイムレンダリング3D背景制作全般に携わる。CGWORLD vol.244(2018年12月号)にて「フォトグラメトリを活用したフォトリアルな神社アセット」を寄稿。Unreal Engineマーケットプレイスにて神社アセットを販売中
motonak.jp
Twitter:@motonak_jp

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