After EffectsPremiere Proなどの一般的なコンポジットツール向けに、プロクオリティのエフェクトを平易に手軽に使えるプラグインを多数開発するRed Giant Software。2019年11月13日(水)から15日(金)にかけて開催されたInterBEE 2019(国際放送機器展)では、フラッシュバックジャパンのブースにて、昨年6月に発売されたプラグイン集「VFX Suite」のデモンストレーションが行われた。デモのために来日した同社のシニアトレーニングマネージャー、サイモン・ウォーカー/Simon Walker氏に、お話を伺った。

TEXT_安藤幸央(エクサ)/ Yukio Ando(EXA CORPORATION)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

<1>大作映画からYouTuberまで、様々なユーザーに貢献するRed Giant製品

CGW:今回InterBEEでたくさんの展示・デモが行われていますが、サイモンさんのイチ押しは?

サイモン・ウォーカー氏(以下、サイモン):SONYの超巨大ディスプレイ(440型Crystal LED)には驚きました。ラグビーの試合がながれていて、コンテンツとしてグッドチョイスだと思いました。もちろん私のデモンストレーションもオススメです(笑)。

CGW:Red Giant Software(以下、Red Giant)で扱っているプロダクト、ツールにはどのようなものがありますか?

サイモン:Red Giantの主力製品は、ポスプロ(ポストプロダクション)の作業効率を上げるためのものです。After EffectsやPremiere Proといったホストアプリケーションの性能を拡張させ、問題を解決するためのツールです。

サイモン・ウォーカー/Simon Walker
Red Giant Software シニアトレーニングマネージャー

サイモン:例えばAvid Media Composerで編集している際、Avid上ではグラフィック(エフェクト)の編集ができないため、修正が必要な場合いったんAfter Effectsに戻って作業しなければいけません。そのような場合、いったんエクスポートしてまたインポートするといった作業をくり返さなければならず、非常に効率が悪いです。そういう無駄な作業のながれは、とても効率が悪いと思っています。

Red Giant製品を使ってもらえれば、そういったグラフィックの修正が編集ツールの中で完結します。例として挙げたのはAvid製品でしたがDaVinci ResolveやPremiere Proでも同じようなケースがあります。

CGW:サイモンさんの現在のお仕事について教えてください。

サイモン:私はシニアトレーニングマネージャーとして、Red Giantのトレーニングを世界中で行なっています。Red Giant製品専門のトレーナーとして、お客様の要望に合わせてカスタマイズしたトレーニングを提供しています。セミナーなどでのトレーニングの他にもお客様先に訪問してトレーニングすることもあります。また既存のユーザーの使い方を改善するためのトレーニングも行なっています。放送業界、スポーツプロダクション、eスポーツ、YouTuberなどあらゆる業種が対象です。

CGW:Red Giantは2002年の創業以来、17年にわたって様々な製品を販売し続けていますが、最近のVFX業界では何が変化してきていると考えますか?

サイモン:最近エキサイティングだと認識していることは、テレビ制作会社がドラマや番組において映画品質(フィルムクオリティ)の作品をつくり始めていることです。ごく普通のスポーツ放送であったとしてもグラフィックやエフェクトを足して、以前よりも面白い演出をするようになってきているのがとても大きな変化だと思っています。

CGW:Red Giantの製品は、どのような映画、テレビ、映像制作に使われていますか? 事例を教えてください。

サイモン:最近の作品では、映画『ターミネーター:ニュー・フェイト』(原題 Terminator: Dark Fate)で、当社の「Red Giant Universe」というプラグイン集が多数使われています。Universeのv3.1には82種類のエフェクトが含まれており、その中でもカメラシェイクが多くのショットで使われました。監督のTim Miller氏とリードエディターのJulian Clarke氏がカメラシェイクエフェクトをとても気に入っていたと、カラリストのJason Bowdach氏がツイートしてくれました。本作のエンドロールにはRed Giantのロゴがながれますよ!

Red Giant Universeのカメラシェイクエフェクト(綺麗にブレなく撮影された映像に、後から手もちカメラや、地面の揺れのような自然なカメラの揺れを付加するエフェクト)
www.redgiant.com/user-guide/universe/camera-shake

CGW:Red Giantのライセンス形態は?

サイモン:リーズナブルで価格と機能のバランスが良いのが特徴です。企業向けのライセンス形態やサブスクリプション契約もあります。個別の製品を購入してもらう以外にもサブスクリプション契約を選ぶこともでき、そうすれば全種類のエフェクトが使えるようになります。

我々はつねづね金額と製品はバランスが大事だと思っており、良いものでも高すぎると良くないですし、逆に安すぎるのも良くない。利用者がちょうど買えそうな適切な値段を考えて価格を設定しています。また、企業に所属する全員が使えるサイトライセンスも、アカデミックライセンスも提供しています。

CGW:ちなみに「Red Giant」の社名の由来は何でしょう?

サイモン:Red Giantとは天文用語で「赤色巨星」のことです。Red Giant Universeの名前も宇宙から来ています。

赤色巨星が描かれたRed Giant TシャツのSimon Walker氏

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<2>ハイクオリティのコンポジットを後押しする新製品「VFX Suite」

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<2>ハイクオリティのコンポジットを後押しする新製品「VFX Suite」

CGW:Red Giantが今後拡充したいと考えているエフェクトの分野、領域、新エフェクトの予定があれば教えてください。

サイモン:新しく「VFX Suite 1.0」を2019年6月に販売開始しました。コンポジターのためのツールが集められた製品です。ハイエンドコンポジットのクオリティを、簡単にこのVFX Suiteで実現できます。シャドウやフォグなどの一般的なエフェクトの作業を、まとめてVFX Suiteの中で完結できるようになっています。After Effectsはユーザーが多いですが、一方でFlameNUKEを使いこなしている人はあまりいません。なのでAfter Effectsユーザー向けにFlameやNUKEで行なっているような高度なエフェクトが平易に実現できるよう考えています。

CGW:最近ではYouTuberやゲーム実況など、今までとは少し異なる分野の映像制作者が生まれてきていますが、どう感じていますか?

サイモン:YouTubeは素晴らしいプラットフォームです。簡単に使えるので映像制作者の年代が低くなってきています。Red Giant製品はゲーム実況やYouTuberにも向いていると考えます。若い人たちは学習能力が素晴らしく、すぐにツールを使いこなせるようになります。とてもクリエイティブな人たちだと思うので、彼らが面白い映像表現をしてくれるのを楽しみにしています。

CGW:今回InterBEEでデモした製品について、注目ポイントをいくつか教えてください。

サイモン:3日間にわたり、VFX Suiteの機能を全て紹介しました。中でも複雑な合成をシームレス、リアルに実現することできるVFX Supercompが今回の目玉です。とても素早く作業することができます。

CGW:ブラグインやツールの開発にはどこからインスピレーションを受けていますか? 映画から? 綿密なリサーチから?

サイモン:Red GiantのWebサイトに "FILMS" という映画事例の紹介ページがあります。Red Giant製品は多くの映画で使われており、このページに掲載されているような映画を制作している人に、制作において困っていることなどを聞きながらツール開発に活かしています。

Red Giant公式サイトの「FILMS」

サイモン:また、ショートフィルムや広告映像を手がけるSeth Worley監督にはRed Giantとして何作品か制作協力をしています。現在制作中の『Darker Colors』という映画の制作にもRed Giant製品が使われています。

Seth Worley監督のショートフィルム『Old/New』

CGW:Red Giant製品に限らず、VFX全般でオススメのチュートリアルやサンプル、教本などがあれば教えてください。

サイモン:『Color Correction Handbook』ですね。とてもお気に入りの本で、著者のAlexis Van Hurkmanさんも良い方です。

『日本語版:カラーコレクションハンドブック第2版 -映像の魅力を100%引き出すテクニック』
www.borndigital.co.jp/book/5090.html

また、「befores & afters」というVFX情報サイトもオススメです。また、このサイトを運営している映像ジャーナリストIan Failes氏の書籍『Masters of FX』も非常に勉強になりますよ。

もちろん、私が行なっている「カラーグレーディング&コンポジットテクニックの講座」もオススメですよ。

CGW:日本の映像制作者、アーティストのみなさんにひとことメッセージ、アドバイスを。

サイモン:みなさんが良い作品をつくるためには必ずしもRed Giant製品が必要ではないかもしれませんが、まずは「とりあえずつくる」ことが重要です。iPhoneのカメラでも手もちのカメラ機材でも、何でも良いのでまずは制作する。学習するにはそれが一番の方法です。習うだけではなく、実際に自分でつくることがとても大切です。また自分が学んだことを誰かに伝えたり教えたりすることで、自分の役にも立つようになります。これは何かをつくる人への昔からのアドバイスですね。