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プログラマとアーティストに共通言語を届けたい~書籍『キャラクタアニメーションの数理とシステム』出版記念インタビュー

プログラマとアーティストに共通言語を届けたい~書籍『キャラクタアニメーションの数理とシステム』出版記念インタビュー

ゲームグラフィックスの進化と共に、キャラクタの自然な振る舞いの表現が、重要な課題になっている。特にプレイヤーが直接操作しない、NPC(ノンプレイヤーキャラクタ)の制御では、キャラクタアニメーションとゲームAIの高度な連携が求められる。この両者の関係性について焦点を当てた技術書が『キャラクタアニメーションの数理とシステム- 3次元ゲームにおける身体運動生成と人工知能 -』(コロナ社)だ。過去に例を見ないユニークな内容となった本書の出版を記念して、3名の著者に合同インタビューを行なった。

※編集注:本稿では、書籍『キャラクタアニメーションの数理とシステム- 3次元ゲームにおける身体運動生成と人工知能 -』内での表記に合わせ、「キャラクター」を「キャラクタ」と表記いたします

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
© Tomohiko Mukai, Katsuaki Kawachi, Youichiro Miyake 2020

ゲームAIとキャラクタアニメーションに特化した一冊

CGWORLD(以下、CGW):今日はよろしくお願いします。皆さんスクウェア・エニックスのテクノロジー推進部で同僚だったんですね。

向井智彦氏(以下、向井):そうですね。僕だけ大学の方に戻っていますが。

三宅陽一郎氏(以下、三宅):僕が入ったときには、向井さんはすでに在籍されていらっしゃいましたね。その後、半年くらい遅れて川地さんが入って来られて。

川地克明氏(以下、川地):向井さんが退職された後も、三宅さんとは『FINAL FANTASY XV』(2016)の開発でご一緒しました。その成果の一端はCEDEC 2015とCEDEC 2017で発表しています。

  • 向井智彦/Tomohiko Mukai
    東京都立大学システムデザイン学部インダストリアルアート学科准教授
    豊橋技術科学大学大学院を卒業後、同大学、スクウェア・エニックス、東海大学、首都大学東京を経て2020年より現職。博士(工学)

  • 川地克明/Katsuaki Kawachi
    株式会社スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 シニアアニメーションリサーチャー
    東京大学大学院を卒業後、独立行政法人産業技術総合研究所を経て、2011年より現職。プロシージャルなキャラクタアニメーション生成に関する研究・開発を担当する。博士(工学)

  • 三宅陽一郎/Yoichiro Miyake
    株式会社スクウェア・エニックス・AI&アーツ・アルケミー 取締役CTO
    株式会社スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャー
    京都大学、大阪大学大学院を卒業、東京大学大学院を単位取得満期退学後、2004年よりゲーム業界で活躍。2011年にスクウェア・エニックスに入社し、『FINAL FANTASY』シリーズをはじめ、多数のゲーム開発にかかわる

CGW:さっそくですが、本書はどういった経緯で企画されたのでしょうか? 本書はゲームのキャラクタアニメーションに特化した、他に類を見ない内容になっていますが、それだけに対象読者を絞り込みすぎてしまう嫌いもあると思いまして......。

三宅:実は本書の前に『ゲーム情報学概論 ー ゲームを切り拓く人工知能 ー』(コロナ社)という書籍を、電気通信大学の伊藤毅志先生と、同大学の保木邦仁先生との共著で、2018年に出版させていただいた経緯がありました。この本も囲碁や将棋といった伝統的なゲームAIから最新のものまでを1冊の本で解説した、他に類を見ない内容でした。おかげさまで高い評価をいただきまして。

CGW:CEDEC 2018で著述賞も受賞されましたね。

三宅:ありがとうございます。それもあって、編集さんから「また何か企画があったら、提案してください」と言われたんですね。その社交辞令を真に受けまして、そういえば「キャラクタアニメーションとAIについて書かれた技術書はなかった」と思い至りました。実際、僕の専門分野であるゲームAIは、キャラクタアニメーションと密接に関係する割には、両者の関係について書かれた文献がなかったんですね。そのため、何かわからないことがあったら、お2人に聞くしかありませんでした。

CGW:なるほど。

三宅:そういった本があれば僕も読みたいし、ゲームAIを研究開発している人も読みたいし、ゲーム業界全体でも需要があると思ったので、編集の方に提案しました。そうしたらすぐに「じゃあつくりましょう」と回答をいただけて。そこから向井さんと川地さんに相談しました。

CGW:お2人は三宅さんから企画提案があったとき、どう思われましたか?

向井:売れるのかなって、まず心配しましたね。教科書として書いて良いのかという点も、編集の方に確認しました。というのも、自分は大学でデザイン系の学生に対して授業を行なっているので、たとえ出版できたとしても、教科書として採用することが難しいことが予測されましたので......。ただ、一方でこういう機会がないと書けない本でもありますので、いったんGOが出た後はノリノリで書かせていただきました。

川地:本当にその通りですね。編集側で企画にOKが出たのだから、そこは信用して、自分も内容に集中しました。あとは三宅さんが言われたように、キャラクタアニメーションでまとまった文献がこれまでなかった、という点があります。『ゲームエンジンアーキテクチャ』のように網羅的な本はあるんですが、網羅的なだけにキャラクタアニメーションに関する内容が薄まってしまうんですね。そのため、キャラクタアニメーションについてひと通り説明されていて、自分でより深く勉強するための道しるべになるような教科書があれば、確かに良いなと思ったところはありました。

ゲームエンジン内での処理を逆に辿る構成

CGW:書籍の構成は下記のようになっていますね。どのようにして決められましたか?

第一章 概論
第二章 形状変形アニメーション
第三章 スケルトンアニメーション
第四章 アニメーションシステム
第五章 環境への適応
第六章 連携と疎通
第七章 キャラクタアニメーションと人工知能

川地:個々の技術について説明しながら、最後にゲームAIに集結するようなながれにしています。そもそも論として、キャラクタを動かす技術は、ゲームが発明された当初から必要なものでした。プレイヤーがコントローラを操作すると、画面上のキャラクタが動くという技術は、ゲームと切っても切れない関係にありますよね。

その後、ゲームが進化して複雑になっていくにつれて、開発者の分業化が進んでいきました。それを体系立てて、全体の制作工程が成立するようにまとめられているのが、今のゲームエンジンの役割のひとつと言えます。そのため、ゲームエンジンのコンポーネント分けが、そのまま今の分業体制に反映されています。AIコンポーネント、グラフィックスコンポーネント、アニメーションコンポーネント、といった具合です。

このように考えるとアニメーションコンポーネントの役割は、プレイヤーの入力信号やAIコンポーネントからの指令を、グラフィックスコンポーネントに翻訳して伝えることだと言い換えられます。こうした一連のプロセスを経て、最終的に各々のオブジェクトの頂点の位置が変化して、画面に表示されるわけです。

本書ではこのプロセスを逆向きに説明しています。まず、キャラクタを構成するオブジェクトの頂点は、どのようにして計算されるのか。それがキャラクタ全体の動きと、どのように連携するのか。そうして表現されたキャラクタが、世界全体とどのような相互作用をもつのか。その上でキャラクタの行動がどのように意思決定されるのか......という感じです。こんなふうにデータの源流をさかのぼるようなイメージで構成を考えました。

向井:最初に3人でラフに話をしたものを、川地さんにカチッと固めていただきました。

書籍より

CGW:ゲームAIの立場からみると、この構成はいかがでしょうか?

三宅:開発現場だとゲームAIとキャラクタアニメーションで摩擦が発生したり、変にお見合いしちゃったりすることが多いんです。例えば狭い通路をキャラクタが横向きで進むようなシーンを想像してみてください。このような動きは、ゲームAI側から見るとキャラクタアニメーションの方でつくってほしいと思いがちです。

一方でキャラクタアニメーションの側からすれば、ゲームAIから体を横向きにして移動させるような指示を出してほしいと考えます。その結果、作業が手つかずの状態で残ってしまいがちです。実際、ゲームAIとキャラクタアニメーションの接続部分をどのようにするかは、ケースバイケースになってしまって、正解がないんですね。

CGW:ああ、なるほど。

三宅:アカデミックの側ではAIとアニメーションが別個で研究されていて、それはそれで良いんですが、ゲームだとインタラクティブかつリアルタイムに両者を束ねなければいけないので、なかなか大変です。その際にみんなが統一して使えるフレームワークがあれば良いんですが、残念ながらまだ存在していません。であれば、暫定的なかたちでも良いので、まずそれをやろうと。第七章はそんなふうに、キャラクタアニメーションの問題がゲームAIと密接に結びついていることを言語化したい......そういった思いを込めて書きました。

CGW:逆にこれまでそういった本がなかったのは、そこまでハードウェアの性能が高くなかったから、という言い方ができるのでしょうか? それが今になって問題が顕在化してきて、さらに今後はますます問題が大きくなりそうだと。実際に年末には次世代ゲーム機の発売も予定されていますね。

三宅:まさにそういったところがあると思います。キャラクタアニメーションとゲームAIが、何となく見よう見まねで進化してきて、それがこの10年で急速に精密化されていって、お互いが関係し合うようになってきた。ちょうど今がそのタイミングだと思います。

ゲームのキャラクタアニメーションとロボティクスのちがい

CGW:今の話を伺いながら、NINTENDO64向けに発売された、ある釣りのゲームを取材したときのことを思い出しました。3D視点の釣りゲームなので、腕があってロッドがあってラインがあって、その先にルアーがあるわけです。

その一方で当時はまだ3Dゲームの開発ノウハウが乏しく、特に開発を担当した会社にとっては、初の3Dゲームでした。そのため最初はロボティクスの教科書を基に、3D空間内で腕を振り、その動きがロッドに伝わって、ラインが投射され、ルアーが着水するようなプログラムが書かれました。

でも、それだと実行速度が遅すぎて、ゲームになりませんでした。そのため、まずルアーを飛ばして、その位置に合わせてラインを描写し、そこからロッドと腕の動きを表現するように修正したところ、上手くいったそうです。

川地:すごく本質的なエピソードですね。当時と今とではゲーム機の性能が段ちがいですが、それでもルアーの位置から逆算していくのが、ゲームのつくり方としては正解だと思います。ゲームのアニメーションはグラフィックスを表現するために存在するわけで、アニメーションの結果グラフィックスが表現されるのは事実でも、その先にはお客様がいるわけですからね。

つまり、ゲームの場合はプレイヤーを楽しませるために、ゲームデザイナーが工夫を凝らしたゲームプレイを実装することが求められます。そのためには、ロボティクスの教科書に書かれている、シミュレーション的な考え方と摩擦が生じることがあります。腕を振ると、その動きが伝わってルアーが飛ぶのは、ワールドシミュレータとしては正解なんですが、結果をコントロールするのが非常に難しい。そのためゲームとして成立しなくなる恐れがあります。

そのために多くのゲームでは、ルアーの位置の制御が先にあって、それを実現するために、逆向きに全てを組み上げていく。ゲームAIとの関係で言えば、まずゲームAIの意思決定があり、それを実現するためにアニメーションがあり、グラフィックスがある。こんなふうに、ロボティクスとキャラクタアニメーションは似たところがありますが、実は順序がまったく逆で考えられている点に特徴があります。

CGW:面白いですね。ただ、これまでそうした視点で書かれたキャラクタアニメーションの本はなかったように思います。

向井:そうですね。もともとキャラクタアニメーションの研究はニッチな分野で、国内では私を含めて、研究者は数えるほどではないでしょうか。もちろん、海外まで視野を広げれば多くの研究者がいますが......。それもあって、自分自身もロボティクスの文献などを読んで勉強したところがあります。

CGW:そんなふうに、エンジニアやアーティストの方がキャラクタアニメーションについて勉強しようと思ってロボティクスの教科書を読むと、すっと頭の中に入ってこないことがあるのではないでしょうか。読み手がゲームの事情をふまえて、情報を翻案しながら読み進める必要がある。それが本書ではゲームオリエンテッドな視点で書かれているため、よりスムーズに読み進められるように感じました。これから次世代ゲーム機が発売されるにあたって、ますます重要な本になりそうですね。

三宅:そうですね。手前味噌ですが、類書がまったく存在しないので、まずこの本を読んでもらって、考える足場にしてもらえればと思います。少なくとも、僕がゲーム業界に入った15年前に、こうした本があれば、こんなに苦労しなくて済んだというか。少なくとも第一章から第六章の内容については、それだけでもこんなふうに、体系立てて説明されている本が欲しかったです。本当に「リグ」という言葉の意味すら知らずに、ゲーム業界に入ったので。

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向井智彦✕川地克明✕三宅陽一郎

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