TVアニメ『ゴールデンカムイ』のエンディングテーマが好評を博したロックバンドTHE SIXTH LIE(ザ・シクスライ)。彼らが4月に公開したMV『Everything Lost』は、フルCGの背景にメンバーを実写合成した映像で、ドラムスのRay(涌井 嶺)氏が1人で制作を手がけたものだ。Ray氏によるメイキングはTwitterでも話題となったため、ご存知の方も多いかもしれない。完全に独学でBlenderを習得したった1人でMVを作り上げ、クオリティも折り紙付きというのだから、驚きの声が上がるのも無理はないだろう。今回、Ray氏とバンドメンバーにMV制作の舞台裏を伺ったのでお伝えしよう。
構成_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎぞうデザイン)
INTERVIEW&EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)
全ては「こういう作り方だったら、自分にもできるかもしれない」から始まった
CGWORLD(以下、CGW):ミュージシャンへのインタビューがCGWORLDに載るのは珍しいので、今日はひと味ちがった取材で新鮮です(笑)。みなさん、どうぞよろしくお願いいたします。
THE SIXTH LIE:よろしくおねがいします。
CGW:ドラムスのRayさんがたったお1人でミュージックビデオ(以下、MV)『Everything Lost』を制作されたと伺い、今回取材させていただくことになりました。まずはRayさんにお伺いしますが、映像制作はこれまでも手がけられてきたのですか?
Ray氏(以下、Ray):はい。音楽活動と並行して、映像ディレクターとして6年ほど様々なアーティストのMVを制作してきました。これまではAfter Effectsを使ってMVを制作してきたのですが、『Everything Lost』では初めてBlenderに挑戦して、3DCGと実写の合成でMV制作をしてみました。
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THE SIXTH LIE( 左から、Ryusei、Ray、Arata、Reiji)
最先端のトレンドを採り入れたサウンドと近未来をイメージさせる世界観が特徴の国内外をボーダレスに活動する4人組ロックバンド。TVアニメ『ゴールデンカムイ』第一期・第三期のEDテーマを担当し、「Hibana」(2018)、「融雪」(2020)をリリース。TVアニメ『とある科学の一方通行』OPテーマ「Shadow is the Light」(2019)はSpotifyで300万回再生を突破。パリほか各国のJapan ExpoやロンドンのHyper Japanへの出演実績などもあり、海外ファンが多い。
thesixthlie.jp
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Ray(涌井 嶺)
THE SIXTH LIE(ドラムス)、VFXアーティスト、映像作家。ほぼ全曲の作詞と、全ミュージックビデオ・ライブ映像などの監督・編集、アートの制作(ほとんどの作品がほぼ自主制作である)を務める傍ら、プロの映像作家として他アーティストの作品も制作している。東京大学工学部、同大学院出身。在学中は航空宇宙工学を学ぶ(ドローンや人工知能、宇宙機)。
CGW:ハイクオリティな仕上がりはさすが映像ディレクターですね。Blender初挑戦に加えてお1人での制作となったわけですが、制作期間はどれくらいでしたか?
Ray:実は『Everything Lost』は新曲ではなく、2年前にすでにリリースした楽曲なんです。本当は楽曲のリリースと同時に発表しないといけないんですけどね。今回は「半ば自主制作というかたちで作らせてもらえないか」と相談して作らせてもらいました。だからといって、こんなに時間をかけて制作するつもりはなかったのですが、作っていくうちにBlenderの使い方も覚えていき「せっかくこんなにがんばって作るんだったら、もっと良いものにしたいな」とこだわり始めてしまって。それで何度も同じシーンを作り直すうちに、結局完成に1年ほどかかってしまいました。
CGW:撮影もRayさんがご自身でされたのでしょうか?
Ray:僕自身も映像の中に登場するため、撮影だけはカメラマンにお願いしました。
CGW:Blenderの勉強はいつ頃から始められたのですか?
Ray:2019年11月に撮影が終わった直後くらいから勉強を始めました。
CGW:ちょっと待ってくださいね(笑)。ということは、『Everything Lost』のMV制作プロジェクトがスタートした時点では、Blenderや3DCGに関する知識と経験がまったくない状態だったということですか?
Ray:はい(笑)。「やったら何とかなるかな」と完全な見切り発車でした。むしろそれくらい自分を追い込まないと、真剣に勉強しないなと思ったので。
CGW:3DCG制作自体が初めての挑戦だったとのことですが、漠然とでも自信があったのでしょうか?
Ray:Ian Hubertさんというデジタルアーティストが実写合成で作った『Dynamo Dream』という作品があるのですが、その方のチュートリアルをちょこちょこと観ていたんですよ。それで「こういう作り方だったら、自分にもできるかもしれない」と影響を受けて挑戦することにしました。そういえばちょうど先ほど、Episode 1が公開されていましたね。
CGW:『Dynamo Dream』は、Blenderの個人制作で「ここまでできるのか」と話題になりましたよね。でも、実際に作り始める人はなかなかいない気がします。『Everything Lost』のMVメイキングに関しては、Rayさんのnoteで詳細に紹介されていますが、制作工程について改めてお聞かせください。
Ray:撮影した素材をグリーンバックのままでPremiere Proでオフライン編集して、次にAfter Effectsでキーイングします。その撮影プレートをBlenderにインポートしてトラッキングし、さらに板ポリに貼ります。人物以外はBlenderで3DCGモデルを制作して、人物と合わせてレンダリング。After Effectsに戻ってエフェクトを足して、最後にPremiere Proでカラーグレーディングして完成です。こうやって今ふり返ってみると、効率の悪かったところがハッキリとしているので、次はもっと手早く作れるだろうなと思います。
CGW:Blenderの板ポリにシークエンスを貼り付けて、人物も一緒にレンダリングしているんですか?
Ray:はい、人物も一緒にレンダリングしています。Blenderでの画が完成の見え方とほとんど同じといった感じですね。人物は後から合成するのが一般的な工程かと思いますが、Ianさんのチュートリアルでこの手法が紹介されていたので「こういうものなんだ」と思って制作していました。
CGW:撮影は企画当初からグリーンバックを使うことが決まっていたのでしょうか。
Ray:はい。壮大なテーマの曲だったので、普通のMVを作っても「曲負け」してしまうと思い、「俺を信じて撮らせてくれ」と説得してグリーンバックでの撮影をさせてもらうことにしました。ただ予算もあまりなかったので、他のMV撮影の "ついで" として2〜3時間程度の撮影でした。グリーンバックを立てて、各メンバーの演奏シーンをそれぞれ一発撮影してとバタバタでしたが、ボーカルだけは演技シーンが必要だったので少し時間をかけて撮影しました。
CGW:ずいぶん短時間の撮影だったんですね。事前に撮影リストのようなものを準備されていたのですか?
Ray:ショットリストだけは用意していましたが、画コンテやVコンテまでは切っていなかったので、後になってところどころで欲しい画が撮れていないということがありました。今回の反省点です。
CGW:メンバーのみなさんは、撮影前から仕上がりのイメージが掴めていましたか?
Arata氏(以下、Arata):曲も歌詞もすでに出来上がっていたし世界観も完成していたので、そのイメージに沿った映像になるんだよねとは話していました。あとは撮影現場でRayの指示に従って演技をするといった感じです。
Ray:『Everything Lost』は「誰もいなくなった世界」がテーマの曲なんですが、メンバーには「人間がいなくなって何年か経った荒廃した世界」を舞台にしたMVにしたい、とイメージを伝えていました。
CGW:Rayさんが「CGでMVをつくりたい」と言ったとき、メンバーの皆さんはどのように思われたのでしょうか。
Arata:4年前にRayが作ったMV『The Walls』が少しCGっぽさの目立つ映像だったので、実はちょっとだけ心配でした。だからこんなに写実的になるとは思ってなくて、完成した映像を観たときはびっくりしました。
Ray:そうですね、今回はひたすら「CGっぽさをなくす」ということに重点を置いて制作しました。というのも、『The Walls』は「ありえない世界観の曲」だったので、「ありえない世界ならCGっぽさが出ても良いかな」という言い訳も成り立つのではと考えていた節があったんです。でも『Everything Lost』では、「がんばったらCGを使わなくても作れるんじゃないか」というギリギリの映像を目指すことにしました。
CGW:CGと実写を馴染ませる作業には苦労するものですが、とてもきれいに馴染んでいますよね。
Ray:これまでAfter Effectsでのコンポジット作業を長くやってきたので、「馴染ませ」や「キーイングをきれいに」といった作業は得意でした。やはりCGっぽさが目立ってしまうと、気になって音楽や映像に入り込めませんからね。
CGW:Arataさんはボーカルとして演技力が求められたかと思いますが、こういった撮影は慣れていたのですか?
Arata:いえ、慣れていなかったので、とにかくRayの指示どおりに動いていました。「今落ちてるから」とか「ここから床が崩れるからその感じでお願い」と言われても、どうなるのかよくわからず大変でした(笑)。
▲「落ちてるから」というRay氏の指示で演技するArata氏
CGW:なかなかハードルの高いオーダーですね(笑)。
Ray:そうですよね(笑)。グリーンバックでの撮影って、演技している人にとっては最終的にどんな感じになるかイメージしにくいですからね。カメラも三脚で固定で撮っていたりするので、ボルテージがなかなか上がらなくて「パフォーマンスが出ない」と他のアーティストのMV制作ではよく言われるんですが、ウチのメンバーは結構慣れていると思います。
CGW:グリーンバックは、ある程度イメージが共有できていないと難しいですよね。今回、また一段とグリーンバックスキルが上がりましたね。
Ray:あとリファレンスとして、Imagine Dragonsの『It's Time』を見てもらっていたのも、多少は参考になったのかな。「最終的にはこれくらいいくよ」と(笑)。
CGW:確かに、映像としてイメージが共有できていると演技しやすくなるかもしれませんね。
Ryusei氏(以下、Ryusei):僕はグリーンバックでの撮影が初めてで、正直どんな感じで完成するのかわからなかったんですよ。とりあえずいつものライブのようなイメージで演奏しましたが、内心ではワクワクと不安が入り混じっていました。「CGってこんな感じで作れちゃうの?」って、本当に素人の意見なんですけどね(笑)。
Reiji氏(以下、Reiji):そうそう、フルCGの撮影現場などは設備や機材がかなりしっかりとしているイメージがあったので、スタジオに入ってグリーンバックとカメラマンだけで撮影が始まって「これだけで作れるの? どうなるんだろう」と思いました。
Ray:過去最高に「ついで感」のある撮影だったよね(笑)。自分のバンドだからこそできたことです。
CGW:疑惑が渦巻きつつも撮影が終わって、合成された映像世界の中に自分がいるというのはどんな気分なんですか?
Ryusei:びっくりしましたよ。完成した映像を見たら、崩れていくビルの屋上で演奏させられていて「恨みでもあるのかな」って(笑)。それは冗談として、実際の撮影では不可能なシチュエーションなので、とても不思議な体験でした。
Arata:合成後の映像を見せてもらったときは、本当に驚きましたよ。「さすがTHE SIXTH LIEのドラマーだな」と感心しました。
CGW:音楽も映像も、全てメンバーだけで制作されたわけですが、この方法で制作した方がアーティストとして思い通りの作品ができるのでしょうか?
Ray:「自分たちでできることはやってしまおう」というスタイルでずっと作ってきたので他の作り方と比較ができないのですが、「アーティストとして100%を発揮する」という点では、自分たちで全て作ってしまった方が納得がいくのかもしれませんね。
CGW:映像制作と音楽制作、そしてCGの間には何か通じるものがあるのでしょうか。
Ray:「編集」と「音楽」は似ている気がしていて、楽曲への理解やタイミングなどには通じるものがありますね。CGに関しては、音楽をやる人は職人気質だったりするので、意外とCG制作にも向いているかもしれません。
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目標から逆算して必要なことから身につける
CGW:さて、Blenderでの制作についても少しお聞きしたいのですが、ビルやプロップなどのモデリングも全てご自身で制作されたのですか?
Ray:遠くのビルはアセットで購入しましたが、それ以外は自分で制作しています。「テクスチャからモデリングしていく」という方法で、ビル1つあたり15〜20分程度で作れてしまうんですよ。簡単に説明すると、ビルを正面から撮った画像を板ポリに貼って刻みながら作っていくという手法なんですが、これもIan氏のチュートリアルで学びました。
▲左:画像テクスチャを板ポリに貼ったところ/右:画像に合わせてループカット
▲左:ベランダの部分を押し出す/右:マテリアルを設定
▲左:4面コピーする/右:1階部分をモデリング・テクスチャマッピング
▲完成画と基のテクスチャ。テクスチャはTextures.comを利用
CGW:カメラマップのような手法ですね。なるほど、かなり要領良く制作されているんですね。Rayさんは映像制作について専門学校等で学ばれたのですか?
Ray:いえ、完全に独学で「広く浅く」勉強しました。大学では航空宇宙工学(※1)を学んでいたので、プログラミングには多少親しみはありましたが、映像に関しては独学です。
※1:Ray氏は東京大学/大学院で航空宇宙工学を専攻し、主にドローンや人工知能などを研究した
CGW:『Everything Lost』の制作で苦労したのはどういったところでしたか?
Ray:ボーカルが歌っている冒頭のシーンは、室内が暗い上に外が霧に包まれ、さらに窓ガラスの水滴を通して光が入ってくるという「CG的に難しいシーン」でした。それなのにそのシーンから制作を始めてしまい、何度も納得いくまで作り直し、その結果半年ほどかかってしまいました。
▲なかなか思い通りにいかなかった冒頭のシーン。上:EeveeとAfter Effectsのコンポジットで作成したファーストシーンのNGカット/下:Cyclesで制作した完成画
CGW:カット数はどれくらいですか? ビルの倒壊シーンは特に印象的でした。
Ray:全部で200カットほどになりました。背景はほぼ全てCGで制作しています。ビルが崩れるシーンはCG的にも見応えがありますよね。でも、制作は見切り発車でした(笑)。
CGW:ライティングに関してはいかがですか? 最初から多少は計算されていたんですか?
Ray:両サイドと上からのライトだけで撮影したので、それに合わせてCGを作っていきました。シーンによっては少し嘘をついてごまかしています。ライティングだけは編集で変更することができないので、撮影のときからもっと綿密に考えておくべきだったと反省しています。
CGW:マネージャーさんに伺いますが、このクオリティのMVを外注して制作する場合、どのくらいの費用がかかるものなんでしょうか?
マネージャー:数百万円から、今回のように1人で1年間の作業となると数千万円かかってしまうかもしれませんね。それほどのものを自分たちで作れてしまうということに驚いています。通常リリースする楽曲は発売時にプロモーションをするため、発売と同タイミングで映像を公開するケースが多いのですが、今回制作したMVはリリースから2年弱経過しているという、従来の考え方とはちがうプロモーションとなったことも類をみない挑戦となりました。
CGW:TwitterでもRay氏の投稿がバズっていましたよね(※2)。
※2:4月22日(木)、ツイバズにて日本のTOP13にトレンド入りした
Blenderで1年かけて作ってきたMVがついに完成...!
— Ray Wakui / 涌井嶺 (@Ray_T6L) April 21, 2021
人物以外は全て3DCGで、誰も居なくなった世界を表現しました。
すべてグリーンバックだけで撮影してます。コロナ禍に、世界中どこでもバーチャルロケができる技術を目指して作りました。#b3d #blender pic.twitter.com/J3LumgtKRK
Ray:Blender自体が注目を浴びていますし、バズりやすかったのかもしれません。
CGW:noteでも丁寧にメイキングが紹介されているので、「自分たちもできるかもしれない」という夢が広がります。実際は、誰にでもできることではないんですけどね。
Ray:今回は「自分たちのMVをCGで作る」という明確な目標があったのが良かったです。Blenderの全ての機能を使いこなすには到底時間が足りていませんが、目標から逆算して「必要なことだけ」を効率的に学んでいきました。
CGW:学び方も合理的ですね。「目標から逆算して必要なことから身につける」というのは上達の秘訣かもしれません。ただ無闇に努力すれば良いわけではありませんからね。
Ray:そうですね。Blenderに挑戦したい、上手くなりたいという人は多いと思いますが、覚えることを目的にしてしまうとなかなか前に進めないかもしれませんね。あくまでも「手段」として身につけるという方法で身につけていかないと。僕はロボットや車といった「作ってみたいモチーフ」がなかったのですが、そういったものがある人はそこを目指して挑戦すると良いと思います。
CGW:技術的にこだわった点はどういったところでしたか?
Ray:「キーイング」です。CGっぽさが出てしまう原因の7割はキーイングの甘さだと思っています。特に顔の周りには目がいくので、髪の毛のディテールには気を遣いました。マスクも手で切っています。このときはReijiの髪が銀髪で、本当に苦労しました。
Reiji:ことあるごとに「なんで銀髪なの?」って聞いてきたよね。4〜5回聞かれた覚えがあるよ(笑)。
CGW:想定外のトラブルはありましたか?
Ray:当初はEeveeを使ってレンダリングしていたのですが、全然リアルにならないので焦りました。どうしようかと思っていたらCyclesの存在を知り、スイッチを入れたら途端にリアルになって驚きました。今見るとEeveeも悪くない気がするんですけどね。
▲Eevee(上)とCycles(下)の各レンダラでのレンダリング結果を比較。ただしこれはCycles用に最適化したシーンであるため、Eeveeでも詳細に調整していけば似た仕上がりにすることも可能。「Eeveeの進化のおかげもあり、最近は実写合成の案件ではEeveeを使っています」(Ray氏)
CGW:noteで紹介されているメイキングですが、とても興味深い内容ですね。面白かったです。そういえば、落ちていくときの風の演出にはドライヤーを使っていましたね。
Ray:ブロワーすらないという低予算ぶりで(笑)。ライティングもCGでむりやり合わせて整合性をとっています。
CGW:コンセプトアートは用意されなかったのですか?
Ray:冒頭でArataが歌っているシーンと、Reijiがギターを弾いているシーンだけは描きました。その2枚でコンセプトアートを描くことに満足してしまったというか......。やっぱり大切ですよね。
▲Ray氏によるコンセプトアート
CGW:制作期間中は、いつもどおり映像ディレクターのお仕事をしつつバンド活動をして、空いた時間を見つけて制作されたんですか?
Ray:はい。フルタイムで制作できたらもっと早く完成していたと思うのですが、正直ここまで大変だとは想定していませんでした。「グリーンバックだから、後でどうにでもなるか」と簡単に考えていたんですよね。でも実際はまったく簡単なことではなくて、ライティングやレンズのことなどもしっかりと考えておかないとダメでしたね。
CGW:プリプロの大切さが身にしみた瞬間ですね。次回作の制作は決まっているんですか?
Ray:はい。実はもう撮影は終わっていて、「Arataがサイバーパンクの世界を歩くだけ」のショートムービーを自主制作として制作中です。自分でアップロードして満足するために制作しているだけなんですけどね。
Arata:本当に短いムービーなので、演技も「立ち上がって右折するだけ」でした(笑)。でも今回はコンセプトを事前に伝えてもらっていましたし、僕もSFの世界が大好きなので、Rayの思い描く世界観を意識して演技できたと思います。完成が楽しみです。
CGW:出演はArataさんだけなんですか?
Ray:そうですね。完全に僕の自主制作なので、メンバー全員に出演をお願いするのは悪いなと思ったので、今回はArataだけです。2分程度の映像になる予定ですが、それでも6時間ほどスタジオを押さえて撮影しました。Arataもプレビューを確認しつつ修正を入れたりと、今回の反省を活かして制作しています。
CGW:それでは最後に、MV『Everything Lost』制作に挑戦した感想をお聞かせください。
Reiji:自分たちでいろいろできるということがわかったので、今後は自分たちからも「こういうことができないか」と提案しやすくなったかなと思います。まあ、俺は映像作らないんですけど(笑)。
CGW:完成した今となって、もっと提案できたなと思うことはありますか?
Reiji:提案ではありませんが、もっと協力すれば良かったかな(笑)。
Ray:協力って? 黒髪にするとかってこと?
Reiji:いやいや(笑)、演技しているときに「何やってるんだろう、どうなるんだろう」という感じだったけど、今となってはもっとできたなって。
Ray:わかりにくかったよね。プリプロをしてなかった僕が悪かったところだな。
CGW:RyuseiさんとArataさんはいかがですか?
Ryusei:この曲が完成した2年前、僕はまだメンバーではなかったんですね。作詞・作曲の表現ってその時代を投影していると思っているのですが、僕がメンバーとして入る前のTHE SIXTH LIEが表現したかったことに、今回のMV制作を通して関わることができて良かったです。
Arata:そうですね、ずっと温めてきた曲だっただけに、集大成としてMVが完成したのはアーティストとして嬉しいです。あと、Rayが映像でどんどん進化しているから、僕も演技力を磨かないとなぁと。
Ray:演技力か!
Arata:あ、歌唱力もしかり(笑)。
Ray:でも実際、これまでいろんなアーティストのMVを制作してきて思うのですが、演技ができるというのはディレクターからするととても助かります。
Arata:がんばります(笑)。
CGW:Reijiさんは今回のMV制作を通して、今後挑戦したいことや新たなアイデアなど、インスパイアされたことはありますか?
Reiji:THE SIXTH LIEの作曲は全て自分が担当しているのですが、今後は「映像ありき」で曲を作っていくのも面白いなと思いました。曲と映像のコンセプトを作った上で、Rayと相談して作曲と映像を組み上げていくというのも良いんじゃないかな。
▲(左から)Arata氏、Reiji氏、マネージャー、Ryusei氏
▲Ray氏
CGW:音楽と映像の双方向からのアプローチで、新しい表現が生まれそうですね。音楽制作と映像制作の両方作れるアーティストだからこそできることですよね。
Ray:曲が良くないとMVも良くならないんですよね。バンド的な目線で言うと、MVって音楽に合わせて作るものであって、あくまでも脇役であり音楽を引き立たせるためのものなので、映像作家のエゴや映像単体で話題になるものを作るのが難しいコンテンツだと思っています。そういう意味で、今回、実写合成で自分たちのバンドのMVを制作したというのは、付加価値のある映像になったのかなと。
マネージャー:目標を定めてその目標から逆算し、必要なことを習得して物事を進めていくという考え方自体は、社会人にとっても必要なスキルだと思うのですが、まさかこれを自分たちの事務所に所属しているアーティストが実現させてしまったということに驚いています。
今、MV制作は価格破壊していて、10万円を切るような金額で制作されるケースも見かけますが、そのような中で今回Rayが作ったMVは、価格競争とは別のベクトルの、真似の難しい付加価値の加えられた映像となっているため、とても新鮮でした。
CGW:低予算かつとてもシンプルに作られていますが、Rayさんがやりたいことやバンドとしてのメッセージがとても伝わってくる映像だと思います。本当に楽しんで制作されている様子が感じられました。最後にRayさんも感想をお聞かせください。
Ray:あくまでも3DCGは「表現のための1つの手段」ですが、こんなに楽しいとは思っていませんでした。これまで3DCGに対する興味と憧れがあったもののなかなか踏み込めずにいたのですが、今回のMV制作をきっかけに3DCGも実写合成も面白いなと実感しています。しばらくは3DCGを使った実写合成をメインに制作していきたいと考えているほどで、映像クリエイターとしても1つの転換点となったMVになりました。
CGW:皆さん、今日はとても楽しいお話をありがとうございました。今後の活躍を期待しています!