設立20周年目に突入した株式会社サイバーコネクトツー(以下、CC2)の求人広告が、CGWORLD200号に掲載された。

CGWORLD 200号(2015年3月10日発売)に掲載された同社求人広告

ひときわ目を引く「新挑戦。」の文字と、その周囲を取り囲む「Unreal Engine 4」「物理ベースレンダリング」「フォトリアル」「RPG」「新規プロジェクト」などのキーワードを見て、多くの人が意表を突かれた。『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズなどの超アニメ表現で知られるCC2がフォトリアルに挑戦する......? この宣言に込められた思いを、代表取締役の松山 洋氏に伺った。

少年漫画的なテイストを含んだ"CC2 流のフォトリアル"

CC2では、20周年プロジェクトと称し、今後さまざまな新挑戦をやっていくと松山氏は語る。

「まだ詳しく発表できませんが、次世代機向けの新規タイトルの開発を進めています。求人記事に散りばめたキーワードは、その新規タイトルに関連するものなのです」。

つまり、同社ではUnreal Engine 4を使った、物理ベースレンダリングによる、フォトリアルなルックのRPGゲームを開発中というわけだ。

「新規タイトルの開発ではモデリングにはスカルプトツールを使っていますし、アニメーションは1秒60フレームで計算しています。でも当社の求人に応募してくれる人は、アニメ超好き、マンガ超好きという人ばかり。セルルックのモデリングが得意で、1秒24フレームのタメツメ表現を追求してきた人たちです。そういう人も歓迎しますが、一方で、フォトリアルな表現をやってきた人にも来てほしい。それを伝えたくて、今までのCC2のイメージとはちがうキーワードを散りばめた広告を作成しました」。

この広告の反響は大きく、掲載直後から多数の問い合わせを受けているという。

  • 「"CC2 がフォトリアルを作るなんて意外だ!"と、馴染みの人たちからも問い合わせがありました(笑)。だからこそ、声を大にしていっておきたい。皆さんが想像しているフォトリアルではないです。海外のゲーム会社が作っているような、誰が作っても同じようなフォトリアルを、弊社がやると思いますか......? やるわけありません!」。

新タイトルは『NARUTO−ナルト− ナルティメット』シリーズのような超アニメ表現であったり、『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのような超マンガ表現ではない。どちらかといえばフォトリアルだが、普通のフォトリアルとはちがう。少年漫画的なテイストを含んだ"CC2流のフォトリアル"を開発中だという。

「おもしろいことをやり、お客様にふりむいていただく。そのための試行錯誤をひたすら繰り返しています」と松山氏は語る。

フォトリアルな新規タイトルと並行して、『NARUTO−ナルト− 疾風伝 ナルティメットストーム4』(PS4向け)やといった既存タイトルの続編や、『ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン』(PS4&PS3向け)といった新規タイトルも開発中だと松山氏は続ける。

「これまで積み上げてきた超アニメ表現も、間違いなくがんばって、さらに向こう側を目指します」。

『NARUTO−ナルト− 疾風伝 ナルティメットストーム4』
2015年秋発売予定
機種:PlayStation®4
発売元:株式会社バンダイナムコエンターテインメント
開発:株式会社サイバーコネクトツー

©岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ
©劇場版NARUTO製作委員会2014
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

『ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン』
発売日:未定
機種:PlayStation®4/PlayStation®3
発売元:株式会社バンダイナムコエンターテインメント
開発:株式会社サイバーコネクトツー

©荒木飛呂彦/集英社・ジョジョの奇妙な冒険製作委員会
©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険SC製作委員会
©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

「私もスタッフも、日本のアニメと漫画が大好きで、アニメーターや漫画家の方々を尊敬しているのです。彼らが切磋琢磨しながら生み出している表現を細かく分析し、それをゲームというインタラクティブなメディアで表現していけば、日本国内はもちろん、世界中のお客様に喜んでいただけると確信しています」。

CC2の社内ライブラリには、アニメや映画のDVDやBlu-rayが8,000本以上、漫画も数千冊あるという。それらを研究しつくして生み出された『NARUTO−ナルト− 疾風伝 ナルティメットストーム3』は、世界累計出荷数が200万本を超えている。

「新規タイトルと続編タイトルのチームメンバーは固定ではありません。毎月編成を見直して、すべてのチームでノウハウが共有されるように工夫しています。全社一丸となって、さらなる高みを目指していきます!」。

スマートフォンもがんばるが、それ以上に家庭用をがんばる

これまでCC2では、家庭用ゲームとスマートフォン用ゲームの開発ラインの数の割合を5:5 としてきた。この"どっちも同じくらいがんばる"という姿勢を、20周年の節目で改めると松山氏は語る。

「これからは家庭用が7、スマートフォン用が3のバランスに切り替えていきます。スマートフォンも引き続きがんばりますが、それ以上に家庭用もがんばります」。

国内外を問わず、家庭用ゲームの市場は縮小傾向が続いている。その一方でスマートフォン用ゲームの市場は拡大しており、スマートフォンの比重を増やすゲーム会社が増えている。その流れに逆行し、家庭用の開発人員を増強していくと松山氏は明言する。

「私の周りの多くのゲーム会社が、"家庭用は売れない"といっています。実際に、日本国内はもちろん、世界で売れていたものまで売れなくなっています。でも"家庭用だから売れない"という考え方が私は気に入らないのです。"家庭用だから"じゃない。"おもしろいものを作っていないから"売れないのです」。

お客様のせいにしてはいけない、お客様の求めているものを作れない我々が悪いと松山氏は語る。

いつの時代も、どんなプラットフォームでも、お客様に選んでいただける1本を作ることに情熱を傾けなければいけない。この信念は20年前から変わらないし、今後も変わることはないという。

「精魂込めて作ったとしても、めちゃくちゃ売れるとは限りません。そこそこのときも、全然のときもある。今は全然売れないゲームが多いことは確かです。だからといって、家庭用ゲームに未来がないとは思えません」。

現在のゲーム業界の状況を見ていると、20年前の映画業界を思い出すと松山氏は語る。各家庭にビデオデッキが普及し、レンタルビデオで映画を楽しむ習慣が根付いた結果、映画館まで足を運ぶ人が減少した。

「数百円でビデオが借りられるのだから、1,800円も払って映画を見る人はいなくなると、多くの人がいいました。でも、今も映画館は健在です。『るろうに剣心』だって『アナと雪の女王』だって、大ヒットしました。おもしろい映画であれば、お客様はわざわざ予約をして、映画館に足を運んでくださるのです」。

映像コンテンツは、家で見るものと映画館で見るものとに差別化されてきた。ゲームも同じように差別化の道をたどると、松山氏は予想しているそうだ。

「映画館で見る映画が特別なように、私にとって、パッケージゲームは特別な存在です。私が子供のときに感じたアニメや漫画に対するドキドキ......、パッケージゲームには、同じドキドキをお客様に提供できる力があると信じています」。

今のCC2の状況を思うと、漫画『覚悟のススメ』(山口貴由氏 著)の主人公の姿が脳裏に浮かぶと松山氏は語る。

「いつの時代も、皆が走っているのとは逆の方向に1 歩を踏み出す人間が格好良いと思っています。逃げ惑う人々を横目に、逆方向へ1歩を踏み出す。それがカクゴであり、そういう戦い方がカッチョイイ(笑)。だから我々は家庭用をやりますと、高らかに宣言することにしました」。

指名買いされる"歌って踊れるデベロッパー"を目指してきた

前述したように、"誰もが作れるようなゲームは作らない。お客様に選んでいただける、CC2ならではのゲームを作る"という同社の信念は20年前から変化していない。その一方で、この20年で一番変化したのは会社の知名度だと松山氏はふり返る。

「まだまだという思いはありますが、設立当初と比較すれば、CC2という会社に期待してくださるお客様は凄く増えました」。

2002 年の初代『.hack//感染拡大 Vol.1~絶対包囲 Vol.4』シリーズ発売以降、会社の方針を180 度変えたことが大きな分岐点だったという。

『.hack//感染拡大 Vol.1~絶対包囲 Vol.4』
発売日:2002年6月~2003年4月
機種:PlayStation®2
発売元:株式会社バンダイ(現:株式会社バンダイナムコエンターテインメント)
開発:株式会社サイバーコネクトツー


©Project.hack
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

「他で変わりのきかないゲームを作って、指名買いされる会社になれ。"歌って踊れるデベロッパー"を目指せと、スタッフを鼓舞してきました」。

例えば映画の場合、東宝や東映といった配給会社の名前で見る映画を決める観客はいない。ピクサーだから、北野 武監督だから、お客様は興味をもち映画館に足を運んでくれる。作っている人間の顔が見えることは大きな安心感につながるからであり、それはゲームも同じだと松山氏は語る。

「作り手の顔がぼんやりしているタイトルは、プロモーションがやりづらいです。CC2の最初の10年は、たくさんのお客様に我々を知っていただき、ふりむいていただくための10年でした」。

その努力が実り、CC2は海外でも一目置かれるデベロッパーへと成長した。例えばフランスのジャパンエキスポ会場を松山氏が歩くと、来場者から"ヒロシ−!" "マツヤマさーん!"といった声をかけられるという。

「ウィッグをかぶって、メイクをして、ナルトのコスプレをしていても、私だとわかってくれる(笑)。彼らから見ると日本人は全員同じ顔に見えるっていわれがちなのに、よくわかるなと感心します。もちろん最初の頃は、誰も私のことを知りませんでした。けれど、フランス人もアメリカ人も同じ人間ですから、伝える努力をすればきっとふりむいてくれると、楽しんでくれると信じてやってきました」。

フランスのジャパンエキスポ会場で「NARUTO−ナルト−」のコスプレをする松山氏。"歌って踊れるデベロッパー"として、全力で自社のゲームの魅力をアピールしている

最近では、CC2で働くことを希望する海外出身のスタッフも増えているそうだ。

「うちは外国人を積極的に採用するとWebサイトで明言しているため、それを見て応募してくる人が多いですね。英語しか話せなくても、飛び込んできます」。

そんな外国人スタッフに日本語を学んでもらうため、CC2では定期的に"ジャパニーズランチ"と称する有志による勉強会が開かれているという。

「ランチを食べながら日本人スタッフが日本語を教えてあげる会を、有志が自発的に始めたのです。一方で日本人スタッフが英語を習う"イングリッシュランチ"の日もあって、普段は口数の少ない外国人スタッフが、しゃべりまくる姿が見られます(笑)」。

フル3DCG 映像の人とゲームの人が交わりやすくなってきた

CC2の最初の10年は、会社の知名度をあげるためにあった。では、次の10年の課題は何だったのだろうか。

「後半の10 年は、私のバトンを他のスタッフに渡していくための10年でした。これは今も完了しておらず、20周年以降も継続して挑戦しなければいけない課題です」。

自身に続く、CC2の2人目、3人目の顔を育てたいと松山氏は語る。

「私以外の、歌って踊れるディレクターを育てたい。そう思って、ここ数年は私が開発に入りすぎないように、なるべく大胆に任せるように心がけてきました。お陰で"目覚める"スタッフが増えてきましたね。漫画『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博氏 著)の念能力に例えると、やたらと強化系が多いです(笑)」。

今後も経歴、年齢、男女、国籍を問わず、意表を突く大抜擢をしてスタッフの目覚めを促していきたいという。

インタビューの最後に、今後のゲーム開発における3DCGの展望を伺った。

「最近はフル3DCG映像を作ってきた人たちと、我々のようなゲーム会社の人たちが、ちょっとずつ交わりやすくなってきたと感じますね。以前はやっていることがちがいすぎて、お互いに驚くことが多かったのです。映像の人たちは大量のポリゴンを使い、高解像度のテクスチャを使い、足し算に足し算を重ねて映像美を追求してきました。我々の場合はデータをメモリに常駐させないと動かないので、できるだけポリゴンを減らし、テクスチャの解像度も下げ、快適に動くことを追求してきました」。

PS4の時代になっても、快適に動かすために削れる要素は削るという作り方は変わらないが、徐々に表現できることが増えてきたという。一方で、映像制作にリアルタイムCGの技術が導入され、制作の効率化が図られるケースが増えてもいる。

「これから先はお互いに影響を与えながら、一緒に進化していくようになると思います。ノウハウの共有や人の行き来がさらに活発になるでしょう。技術力の進化に合わせて、1 本のゲーム制作にかかる時間、お金、人員はどんどん増えているので、軽い気持ちで適当なものを作れない時代になっています。その分お客様の期待を裏切るゲームが減るので、お客様にとっては凄く良いことだと思います。カクゴをもった珠玉の1本をお届けするべく、CC2はさらにがんばります。ご期待ください!」。

設立20 周年目の「新挑戦。」は今まさに始まったばかりだ。
今後予定されている数多くの新挑戦で、お客様にどのような"おもしろい"を提供するのか、引き続きCC2の活動に注目していきたい。

TEXT_尾形美幸(EduCat)