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シリコンスタジオが2015年8月25日から販売を開始したリアルタイムレンダリングエンジンMizuchi。実写と見紛うようなデモムービーは、CG映像関係者の注目を集めている。そんなMizuchiの性能をいち早く体感したWise 代表取締役/ディレクターの尾小山良哉氏と、シリコンスタジオのスタッフに、同製品の未来を語ってもらった。
CEDEC2014での発表後に話題を呼んだリアルタイムデモ「Museum」ではMizuchiの実力がいかんなく示されている。
Wise 尾小山氏が語るMizuchi
リアルタイムレンダリングを活用したCG映像制作の動向に注目しているという尾小山氏に、Mizuchiの可能性を伺った。
レンダラを変更するだけでリアルタイムCGを実現
尾小山氏とMizuchiの出会いは、約半年前にさかのぼる。「技術検証に協力してほしいとシリコンスタジオの方から依頼され、当社のテクニカルアーティストと一緒に使ってみたのです」。その当時からMizuchiのポテンシャルに大きな期待を抱いていたという尾小山氏。シリコンスタジオの開発スタッフが今夏につくった自動車のリアルタイムデモを見て、その進化に目を見張っていると語る。「半年前の時点でも、圧倒的に美しいボケ味や、軽快なリアルタイムレンダリングを体感して"すごいな!"と感じていました。その表現力がさらにパワーアップしているわけですから、販売開始を本当に待ち望んでいました」。
尾小山氏は、90年代からVFXを主体としたプリレンダーのCG映像をディレクションしてきた。一方で、ここ最近は積極的にゲームエンジンを使用しており、リアルタイムCGのR&Dにも力を入れている。今回の検証は、プリレンダーとリアルタイムCGの双方を熟知している尾小山氏だからこそもちえる、俯瞰的な見方を期待されてのものだったようだ。尾小山氏は、ゲームエンジンのことを、ゲームをつくるためのミドルウェアだとは考えていないと語る。「基本的に、私にとってのゲームエンジンはリアルタイムCGを生成するための表現ツールなのです。近い将来、ゲーム以外の分野にもリアルタイムCGが浸透すると確信しています」。
リアルタイムレンダリングの機能だけを切り取ってエンジン化したMizuchiは、尾小山氏のようなCG映像制作者にとって、非常に使い勝手の良い存在だという。「Mizuchiを導入すれば、既存のプリレンダーワークフローのレンダラを変更するだけで、リアルタイムCGを実現できます。ゲームエンジンをレンダラとして導入することと比較すれば、はるかにしきいが低いですね」。
MizuchiによるリアルタイムレンダリングとV-Rayによるプリレンダリングの比較
▲左はMizuchi、右はV-Rayでレンダリングされている。なお、両者は同じテクスチャ、同じスカイマップによるライティング環境が適用されている。MizuchiとV-Ray間での設定方法や解釈の仕方のちがいをカバーするためパラメータを調整しているが、それほど大きな工数を要する作業ではないという。
「物理ベースレンダリングという共通言語を使っている限り、リアルタイムCGであろうと、プリレンダーであろうと、少ない工数でほぼ同じような見た目を実現できるのです」(尾小山氏)
自然な画を生成できる物理ベースレンダリング
しかもMizuchiは物理ベースレンダリングという業界標準の約束事に則って設計されているため、これまでアーティストたちが培ってきたノウハウや経験値の多くが、そのまま流用できるという。「物理ベースではない、独自性の高いレンダラは、例えるなら絵の具のようなものです。使い方を修得しなければ思い通りの絵が描けないのと同様に、レンダラ独自の癖を理解し、使い方を修得しないことには、やりたい表現ができないのです」。Mizuchi登場以前のリアルタイムレンダラは、このような独自性をもったものが多かったという。
一方で、物理ベースのレンダラは、デジタルカメラのようなものだと尾小山氏は続ける。「基本的に、物理ベースのレンダラは現実世界の光のふるまいを再現しています。そのため、現実世界での写真撮影の常識に即した数値を入力すれば、必ず自然な画を生成できるのです」。例えば画を明るくしたければ、カメラの絞りを開けばよい。ただし、絞りを開けるほどに、被写界深度は浅くなる。それが現実世界の法則であり、物理ベースのレンダラであるMizuchiは、その法則を忠実に再現する。もしも不自然な画がレンダリングされた場合は、自分が入力した数値の方が間違っているというわけだ。
「物理ベースレンダリングという共通言語が、プリレンダーの世界でも、リアルタイムCGの世界でも使えるようになったことで、大きく離れていた2つの世界に橋がかかりました。近い将来、われわれ制作者は両方の世界を自由に行き来できるようになるでしょう。この変化がもたらすインパクトは非常に大きいと感じています」。最終的には、プリレンダーとリアルタイムCGが統合されて、共通のワークフローの中で扱えるようになることを期待していると尾小山氏は語る。そんな未来の一翼を担うであろうMizuchiの進化に、今後も注目していきたい。
▲Mizuchiでレンダリングされた自動車のエクステリアとインテリア。現実の光のふるまいをシミュレーションしているため、金属、革、ゴムといった様々なマテリアルをフォトリアルに表現できる。
[[SplitPage]]シリコンスタジオ開発スタッフが語るMizuchi
ここからはシリコンスタジオのMizuchi開発スタッフへのインタビューも交えつつ、Mizuchiが目指すゴールや、具体的な導入方法などを紹介していこう。
先発のレンダラを研究し最適解を実装したMizuchi
Mizuchiの開発が始まったのは2年前。シリコンスタジオのスタッフが感じた危機感がきっかけだったと、同社エンジニアの川瀬正樹氏は語る。「GDCなどで北米のゲーム会社による講演を聞き、"これはまずい。日本のゲームグラフィックスのレベルを引き上げなければ"と感じたのです。社内の有志に声をかけ、プロジェクトチームを結成しました」。当初、このチームは会社非公認だったというから驚きだ。チームメンバー全員が別の案件を抱えていたが、それと並行しつつ地道にプロジェクトを推進したという。「その時点で、当社はゲームエンジンのOROCHIや、ポストエフェクトミドルウェアのYEBISを販売していました。しかし、世界最先端のグラフィックスレベルに追いつくためには、レンダリング機能をさらに強化する必要があると感じたのです」とアーティストの武藤洋介氏はふり返る。
Mizuchi Editorを用いた高品質な画づくり
▲Mizuchi付属のオーサリングツールであるMizuchi Editor(左)を用いれば、導入直後から高品質な画づくりを実践できる。(右)は、アングル・色・背景・ライトなどをリアルタイムに操作できるカービューワーアプリ。質感の設定はMizuchi Editorで行なっている
前述の経緯から始動したMizuchiのプロジェクトは、徐々に規模を拡大し、現在にいたっている。最新のMizuchiに触れた尾小山氏は、"日本人らしい几帳面さを感じるレンダラに仕上がっている"と評する。「丁寧に、真面目に、物理ベースのレンダリングだけに特化させているので、すごく効率的に、すごく綺麗な画づくりができるのです。長年増改築をくり返してきた先発のレンダラやゲームエンジンを相当研究して、最適解を実装したのでしょう」。Mizuchiが目指してきたのは"綺麗な画をつくる"という非常にシンプルなゴールだと、エンジニアの井口雄介氏は語る。「綺麗な画づくりを目指した結果、行き着いたのが"物理ベースレンダリングを極める"という方針でした。現実の光のふるまいや、カメラのしくみを逐一理解して、ひとつひとつ律儀に再現していけば、高品質な画づくりが実現すると確信したのです」。
例えば、現実のカメラの絞り値(F値)は、F1、F2、F3、F4......のように等間隔に変化するのではなく、F1.4、F2、F2.8、F4......といった値で変化する。また、絞りを開けばボケの形は丸に近づき、絞れば多角形に近づく。Mizuchiと、Mizuchiに搭載されているYEBISを使えば、同じ効果を再現できるという。このような執念と言っても過言ではない几帳面な描画処理が、Mizuchiの真髄なのだ。「現実のカメラのレンズで起こる様々な光学現象をシミュレーションしてくれるので、圧倒的な空気感や臨場感のある画を生成できます。"よくぞここまでつくり込んだな"と感心します」(尾小山氏)。
YEBISによるレンズシミュレーション
▲YEBISによるリアルタイムポストエフェクトを適用した画像。YEBISを用いることで、実写のような描写が可能になる
▲YEBISを使えば、カメラの絞り羽根の枚数ちがいに由来する、ボケの形のちがいを再現できる。現実のカメラでは、絞りを開けばボケの形は丸に近づき、絞れば多角形に近づく。もちろん、YEBISならこの現象も再現できる
▲YEBISによるレンズシミュレーション。現実のレンズのような収差によるボケ味を再現できる
開発スタッフがきめ細かいサポートを提供
最後に、Mizuchiの具体的な導入方法を紹介しよう。例えば、リアルタイムCGの開発実績がないCGプロダクションが導入するとなった場合、どうすればよいだろうか?
「Mizuchiの販売開始に合わせて、SDKもご提供します。エンジニアを抱えているプロダクションであれば、自社のワークフローに合わせて自由自在にカスタマイズしていただけます」と川瀬氏は語る。もちろん、エンジニアがいないプロダクションであっても、導入を諦める必要はない。「都内に本社があり、日本語でのきめ細かいサポートを提供できることも、Mizuchiの強みです。まずはわれわれにご相談ください。プロダクションごとのニーズや事情に合わせて、ソリューションを提案させていただきます」。
例えば、"自社の既存のワークフローのレンダラをMizuchiに切り替え、リアルタイムCGも生成できる体制を構築したい"というリクエストがあれば、Mizuchiの使い方を熟知したシリコンスタジオのエンジニアとアーティストを派遣し、インストールはもちろん、アセットのつくり方やパラメータの設定方法まで、細やかにレクチャーしてくれるという。「われわれは、単純にソフトウェアを販売するだけではなく、コンサルタントとしてプロダクションをサポートする体制も整えています。お客様がどのようにMizuchiを使いたいのか、丁寧にヒアリングし、最適な提供方法を提案させていただきます」。
さらに、YEBISについてもサポートを充実させていくと井口氏は続ける。「YEBISは2007年の販売開始以来、ゲームやTV番組など、多数のインタラクティブコンテンツに導入されています。Mizuchiには最新のYEBIS 3 が組み込まれていますが、YEBIS 3単体での ご提供も可能です。年内にはYEBIS for Maya も販売を開始します。こちらはMayaのビューポートでリアルタイムにポストエフェクトを適用できるプラグインです」。速度重視のゲーム開発者はもちろん、品質重視の映像制作者も満足するような、高品質リアルタイムポストエフェクトを提供していくという。
リアルタイムCGの活用範囲は広がっており、その表現力は日々向上している。プリレンダーとの垣根は益々低くなっていくだろう。"リアルタイムCGの経験値は低いものの、自分たちのフィールドでの活用方法を模索してみたい"というCG映像制作者は多いのではないだろうか。ぜひ、この機会にMizuchiの導入を検討してほしい。
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充
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