昨年11月に日本でも公開され、現在ディズニープラスで配信中のディズニーの長編アニメーション映画『ミラベルと魔法だらけの家』。ご覧になられた読者も多いと思うが、この作品にエフェクト・アーティストとして参加されたのが、堀 グレイス氏だ。LAでの就職活動では返事が1通も来ずショックを受けたという堀氏が、そこからどうディズニーでポジションを獲得したのか。そのキャリア・パスを伺った。

Artist's Profile

堀 グレイス / Grace Hori Reaves(Walt Disney Animation Studios / Effects Animator)
大阪府出身。早稲田大学国際教養学部を卒業後、約3年間の広告営業職を経て株式会社Kino.にCGデザイナーとして入社。その後、2017年よりデジタルハリウッドとGnomonで3DCGを学ぶ。卒業後はLAのIntel StudiosHoudiniアーティストとして AR/VR/MR コンテンツの制作に携わる。2021年1月、Walt Disney Animation StudiosにEffects Traineeとして入社し、現在は同社でEffects Animatorとして長編アニメーション映画やDisney+コンテンツの制作に携わる
disneyanimation.com

<1>映像を通して「感情」を共有することの面白さに気付き、3DCGの道へ

――子供の頃や、学生時代の話をお聞かせください。

昔からとにかくジッとしていられず、次々と新しいことにチャレンジするタイプでした。良く言えば好奇心旺盛、悪く言えば飽き性。新たな興味を発見する度に「これ習いたい! あれ習いたい!」と親にお願いしたのですが、大抵は3ヵ月ほどで飽きていました。その中でも長期間続いた数少ない習い事の1つが、絵画教室だったのです。4歳から通い始めた絵画教室では、時間を忘れるほど夢中で絵を描いていました。

小学校から中学校に上がる頃、親がノートパソコンを買ってくれたのを切っ掛けに、私のお絵かき媒体は紙からデジタルにシフトしました。この頃にレイヤー、マスク、 RGBAなど、その後の仕事で重要になる知識をたくさん学んだのですが、これが後々大活躍することになるなど当時は思いも寄りませんでした。

この頃からなんとなく「将来はクリエイティブな仕事がしたいな」と思うようになったのですが、具体的なイメージはついていなかったと思います。その後、高校受験に向けての勉強が忙しくなり、絵を描く頻度は激減してしまいました。

転機は高校2年生の秋、情報の授業で映像編集を学んだときでした。この頃にはもうすっかり絵を描かなくなっていたのですが、行き場を失ったクリエイティブ欲がこの授業で爆発したんだと思います。学校のパソコン室に何度も居残りし、修学旅行の映像を無我夢中で編集しました。

今で言うVLOGのようなものです。明るい音楽に合わせ、旅先で起こるハプニングをおもしろおかしくカットで繋げてみたり、帰路に就くシーンはバラードでしんみりさせてみたりと工夫を凝らしました。

その結果、クラスメイトや先生からの評判がとても良く、全校集会で上映されることになりました。数百名の生徒と先生が注目する中、講堂の大画面に自分の作品が映し出されたときの興奮は今でも忘れられません。ハプニングのシーンでは笑い声が響き、終盤に近づくにつれ、ちらほらと鼻をすする音が聞こえてきました。

そのとき、映像を通して「感情」を共有しているんだと初めて気付き、衝撃を受けたのを覚えています。この体験の後、18歳の誕生日にAfter Effectsを親から貰い、更に凝った映像の制作にのめり込んでいったのがCG映像への興味の始まりです。

――留学時の話をお聞かせください。

学生時代に1年間、カリフォルニア大学リバーサイド校に留学しました。当時はテレビCMに携わる仕事を目指していたため、メディア学やマーケティングに関する授業を受け、メディアや広告の歴史を基礎からしっかり学びました。

また、留学中の思い出を綺麗に残したくてミラーレス一眼カメラを買ったのですが、これを切っ掛けに写真にもハマりました。当時はただの趣味でしたが、このときに学んだカメラや構図の知識は3DCGを学び始めたときにも役立ちました。

――日本でお仕事されていた頃の話をお聞かせください。

まず新卒で広告代理店に入社しました。配属先は営業職で、第1希望のクリエイティブ職ではなかったのですが、これはこれで業界の全体像を掴む良い機会だと前向きに捉えました。

実際、クライアントへのヒアリングと提案、制作会社とのやりとり、撮影現場への同行、メディア会社への交渉、広告出稿後の効果検証など、信じられないくらい幅広い業務に携わることができ非常に刺激的でした。

そしてしばらく働いてから気付いたのですが、やっぱり制作会社にお邪魔して、映像制作している様子を見ているときが1番幸せだったんです。なので早速、空いている時間に自主制作を進め、完成した作品を制作会社に送り始めました。本格的に就職活動を始めてから3ヵ月程でkino.への転職が決まり、CGアーティストとしてのキャリアがスタートしました。

転職先は音楽関係の映像に強い会社で、ミュージックビデオやコンサート演出映像の案件が多かったです。仕事が楽しいのはもちろんのこと、同僚と映像制作やAfter Effectsについて話せることも楽しくて仕方ありませんでした。広告会社の営業フロアでAfter Effectsの話をしても「何それ?」状態でしたので。繁忙期は会社に寝泊まりするほど忙しくなることもありましたが、それも含めて夢のような時間でした。

映像の仕事に少しだけ慣れてきた頃、3DCGの需要の高さに気付き始めました。何度か独学での習得を試みたのですが2DCGとは比べものにならないくらい難しくて……。1年ほど挑戦と挫折を繰り返した後、「これは学生に戻って学び直すしかない」と思い、仕事を辞め、デジタルハリウッドで3Dを学ぶ決意をしました。

――海外での就職活動は、いかがでしたか?

デジタルハリウッドを卒業したタイミングで「とりあえず3ヵ月間、Gnomonに通いながら就活してみよう」という軽い気持ちで渡米しました。すでに日本での実績があり、Mayaもある程度使えるので就職に困ることはないだろうと踏んでいたんですが……これが大誤算。

LAの各スタジオにデモリールを送ったものの、返信は1通も来ませんでした。当時はショックを受けましたが、今思い返すと当然の結果です。LAのCG業界、特に大規模なスタジオでは分業制が進んでいるため、ジェネラリストよりスペシャリストが求められる傾向にあり、その分、各専門分野のレベルが高いのです。当時の私のリールは専門分野がブレブレで、どのポジションに応募するにも実力が足りていませんでした。

3ヵ月を予定していたGnomonでの勉強期間を延長し、最終的には1年かけてHoudiniを学びました。エフェクトに特化したデモリールもつくり、いよいよ就活再チャレンジです。

ちょうどSIGGRAPHがLAで開催されていたので、でき立てほやほやのリールを片手に、Job Fairや交流会などで様々な人と話をしました。そのときに知り合ったIntel Studios(2020年10月末を持って閉鎖)のHoudiniアーティストの方から後日連絡をいただき、その方の社内推薦でついに渡米後初の面接が決まりました。そこからのスピード感は凄まじく、連絡をいただいた翌週に面接、さらにその翌週には勤務を開始しました。LAでの就職はコネが全て、とまでは言いませんが、やはり社内からの推薦があると採用の可能性や採用までのスピードは相当アップすると思います。

Intel Studiosでの仕事は技術的な要素が強く、学生時代は苦手だったHoudini上でのVEXによるプログラミングを習得する絶好のチャンスでした。ただしクリエイティブスキルの向上も怠りたくなかったので、仕事外の時間はほぼ全て自主制作に費やしました。仕事では左脳、仕事外では右脳をフル稼働する生活を1年ほど続けたある日、Walt Disney Animation Studiosの採用情報を発見。「このチャンスを逃すまい」と、自主制作をまとめたデモリールを送り、採用に至りました。採用情報を見つけてから自主制作を始めていては到底間に合わなかったので、突然訪れるチャンスをものにするためにも、日頃からスキルを磨き、定期的にアウトプットし続ける大切さを痛感しました。

自宅でリモートワーク中の堀氏

<2>学び続ける必要がある3DCGの世界は、飽きる暇がない

――現在の勤務先はどんな会社でしょうか。簡単にご紹介ください。

Walt Disney Animation Studiosは、ロサンゼルスの少し北、バーバンクに位置するアニメーションスタジオです。入社時からずっとリモートワークのため、まだ1度もスタジオに行けていないのですが、オンライン会議はとてもオープンな雰囲気で数十人いるような会議でも基本的にほぼ全員カメラオンで和気あいあいとしています。デイリー(制作の進捗を共有する定例会議)で、各々の報告が終わる度に全員で拍手する文化があるのですが、どうやらこれもディズニー特有らしく、他スタジオから入社してきたばかりの人は戸惑うことが多いらしいです(笑)。

――最近参加された作品について印象に残るエピソードはありますか?

入社直後の研修で学んだのですが、ディズニーではエフェクトがキャラクターの顔に被ることは基本的にNGなんです。『ミラベルと魔法だらけの家』では花びらを舞うエフェクトをいくつか担当したのですが、顔の近くに花びらが舞うシーンは1フレームずつ確認し、顔に被ってしまった花びらを地道に消していきました。キャラクターの表情をしっかり見せるため、こういった細やかな作業が必要になることを知れたのはとても貴重な経験でした。

『ミラベルと魔法だらけの家』
© 2022 Disney
ディズニープラスで配信中

――現在のポジションの面白いところは何でしょうか。

エフェクト・アーティストの仕事にはパズルを解くような楽しさがあります。例えばボールを床に落とすエフェクトをつくる場合、重力加速度9.8でシミュレーションを走らせることもあれば、sin波を使って上下に動かすこともあります。もちろん、キーフレームを使って手動で調整することも可能です。

シミュレーションは物理的に正しい結果を得られる分、情報量によっては計算に時間がかかります。sin波だと計算は速いものの、自由が少なく、機械的な動きになりやすい。キーフレームは自由自在にコントロールできるのですが、後から修正するのが大変。このように、どの手法も一長一短です。正解や不正解はないので、リファレンスを見ながら1番適切なアプローチを考えることがパズルのようで結構楽しかったりします。

また、私は冒頭でも話した通り飽き性な性格なのですが、3DCGの世界ではどんどん新しい技術が生まれるので常に学び続ける必要があり、飽きる暇がありません。

『ミラベルと魔法だらけの家』
© 2022 Disney
ディズニープラスで配信中

――英語や英会話のスキル習得はどのようにされましたか?

幼少期から家庭内公用語が英語だったため、英会話は自然とできるようになりました。ただし語彙力が圧倒的に低かったので、英語力を強化するために英単語を重点的に勉強しました。

勉強法はとてもシンプルで、新しい単語を100個丸暗記した後、英語のニュースをしばらく見ます。すると覚えたての単語が次々登場するので、リアルな用例も込みで覚えられます。これを何度も繰り返し、自信がついたら次の100個に進みます。今は流石に単語100個丸暗記はしませんが、日常生活で知らない単語や面白い言い回しに気付いたときはすぐにメモするようにしています。

――将来、海外で働きたい人へのアドバイスをお願いします

海外就職の夢を叶えるには、すでに海外で活躍している人や、同じ目標を持った人たちと積極的に交流することをオススメします。類は友を呼ぶと言いますが、逆に類になりたい人を友にする作戦です。あと、目標はどんどん声に出していってください。個人的な経験なのですが、海外就職を検討し始めた頃、会う人会う人に「海外で働きたい」と伝えてみたところ、「じゃあ海外で働いてた友達を紹介するよ」と言ってくださった人が何人もいたんです。結果的に海外で活躍する知り合いが増え、就職に向けた具体的なアドバイスもたくさんいただけました。言霊の力は侮れないです。

『ミラベルと魔法だらけの家』
© 2022 Disney
ディズニープラスで配信中

【ビザ取得のキーワード】

①米国人の家庭に生まれる
②日本国内のスタジオで経験を積む
③学生に戻り3DCGを習得
④Walt Disney Animation Studiosに入社

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TEXT_鍋 潤太郎 / Juntaro Nabe
ハリウッドを拠点とするVFX専門の映像ジャーナリスト。著書に『海外で働く日本人クリエイター』(ボーンデジタル刊)、『ハリウッドVFX業界就職の手引き』などがある。
公式ブログ「鍋潤太郎☆映像トピックス」
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada