Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。
TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony Pictures Imageworks)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
今回のお題
こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。1月から新しい学期のエイド宿題が始まりました! 一昨年から始めて4期目となります。今期は「サブテキスト」を使ってテーマを作っていて、全体的に実は少し難しい内容になっています。
サブテキストというのは、キャラクターの本心やキャラクターのポーズから伝わってくる「言葉」のようなもので、ポーズを見てそのサブテキストが伝わってくるか? というのが今期のポーズの出来の基準になってきます。
サブテキストのセリフに関してはかなり具体的ですが、それ以外のシチュエーションやキャラクター設定などは逆に自由度が高いので、皆さんの自由な発想やアイデアを楽しみにしています。そこで今回の連載では、新しい学期の1週目のお題から「もうやだ、、、」というテーマでのポーズの添削をさせていただきます。
「もうやだ、、、」というお題は、基本的にはかなりネガティブで力が抜けたような印象ですので、「緊張と緩和」という観点から見ると緩和にかなり寄ったポーズになると思います。 この緩和の要素をどれくらい具体的に表現できるかというのがキーポイントになります。
作品01:「もうやだ、、、」
投稿作品先ほどもお話しした通り、このお題でポーズを作る場合、体の力は抜けたような印象になります。このポーズは、キャラクター全体の印象としてそのあたりとても良くできていると思いました。また表情もすごく具体的でまさに「もうやだ、、、」と言うサブテキストがしっかりと伝わってくる素晴らしいポーズでした。今回は良くできていたポイントと、僕の方で少しだけフィードバックさせてもらった「力の入れ方」、「表情のデザイン」について少し補足的に解説していこうと思います。
Point 1:緊張と緩和の使い分け
「緊張と緩和」の表現においては、「緊張」のポーズは全てのパーツがバラバラにならないように全て緊張にするのが定石なのですが、眉に関しては感情表現にも関わってくるので「体は緩和、表情は緊張」というようなことが起こります。このポーズの場合もそのようなケースで、体を見てもらうと全体的に力が抜けている印象なのですが眉にはすごく力が入っています。
眉に力が入っている(緊張)ということは、感情の度合いが強いということです。この場合は「悲しい」という感情がかなり強いということになります。
このように同じ「悲しい」という感情でもその度合いによって表情への力の入れ方を変えると、豊かで具体的な感情表現ができるようになります。体は緩和で力が抜けている印象であるのに対し、表情は緊張で感情表現の強さを表現している、というような構造になっています。
Point 2:力が入っているかどうか
CGでは、体の重さや力の入り具合の表現はかなり大事なポイントです。なぜかというと、当たり前ですがCGのアニメーションでは、重さなどは自動で表現されるものではないので、自分たちで動きの説得力を生み出さないとならないからです。そのときに大事になってくるもののひとつは、単純な形と、その形が作る印象です。今回のポーズでは、地面に着いている両腕の形をみてみましょう。
腕が真っすぐ=力がかかっていない
腕に角度がついている=力がかかっている
腕をまっすぐにするとコンタクトフレームに見え、体重がかかっているように見えなくなってしまいます。そこで少し曲げることで腕が体重を支えているような感じにしています。コンタクトフレームについては、次回以降の連載で詳しくお話しできればと思いますので、今回は筆者のブログを参照してください。
Point 3:眉の形でデザイン
眉のデザインに関しては何回かお話ししていますが、個人的にはしっかり筋肉の構造が見えるようなデザインにするのが一番理想的なと思っています。
今回のポーズの眉もそこまで悪くはないのですが、少しだけ形がシンプルすぎるかなと思ってしまいました。形がシンプルすぎるとどうしても記号的になってしまうので、本来の筋肉の構造が見えなくなってしまいます。
添削前のポーズ
添削ノート
添削後のポーズ
今回からお題がサブテキストということで少し難しかったかもしれないですが、とても良くできているポーズでした。特に体と表情の緊張と緩和の使い分けでポーズに具体性が増していました。力の入り具合や眉のデザインなど、細かい部分を少し変えるとさらに良くなるかなという印象でした。
今回の添削はこんな感じです。最後に、いつもエイド宿題に参加してくださってありがとうございます! 皆さん本当に素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させていただいています。ぜひまた今後も参加してくださると嬉しいです!
「エイド宿題」とは?
「エイド宿題」はTwitterで始めたクリエイターの皆さんへ向けた新しい企画です。オンラインスクールAnimationAidのクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。
●参加方法とやり方
・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。
・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう。
・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。
・エイド宿題とは?
https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/
・エイド宿題 これまでのお題
https://ryowaks.com/category/aidshukudai/
Profile.
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若杉 遼/Ryo Wakasugi
2012年にサンフランシスコの美術大学Academy of Art Universityを卒業後、Pixar Animation StudiosにてCGアニメーターとしてキャリアを始める。2015年にサンフランシスコからカナダのバンクーバーに移り、現在はSony Pictures Imageworksに所属。CGアニメーターとしての仕事の傍ら、CGアニメーションに特化したオンラインスクール「AnimationAid」を創設、現在も運営のほか講師としてクラスも教えている。これまでに参加した作品は『アングリーバード』(2016)、『コウノトリ大作戦!』(2016)、『スマーフ スマーフェットと秘密の大冒険』(2017)、『絵文字の国のジーン』(2018)、『スモールフット』(2018)、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)など
●若杉遼 ブログ わかすぎものがたり
ryowaks.com
●AnimationAid
animation-aid.com