Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。
TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony Pictures Imageworks)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)、小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
今回のお題
こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。今回は、第4期2週目のお題から、「あれ、おかしいなあ」というテーマでのポーズの添削をさせていただきます。
「あれ、おかしいなあ」というお題は、実は少し難しい部分があります。というのも、アニメーションにおける演技の観点から見た話になるのですが、いい演技をつくるためには「気づき」の表現を上手くつくることがとても大事です。今回のお題は、そのあたりが具体的に求められるお題になっています。とはいえ、そのポイントがしっかりと押さえられていたら、なかなか良いポーズになっているのではないでしょうか。今回は、そのあたりを踏まえて添削したので、ポイントとなる部分を解説していきます。
作品01:「あれ、おかしいなあ」
投稿作品こちらは最初に出してもらったポーズですが、キャラクターの表情もポーズもとても良くできていたと思います。どちらも魅力的でわかりやすい表情です。 特に良くできていたポイントは、「眉の力の入り方」と「下まぶたの扱い方」です。この2つのポイントは、意外としっかりとつくり込むのが難しいポイントだったりします。初心者のアニメーターは、ここを甘くつくりがちです。せっかくなので、前半ではこの2つのポイントについて解説していこうと思います。
Point 1:眉の上下の動きと力の入り方①
~眉の力の入り方~
アニメーションやイラストでポーズをつくる際、「力が入ったポーズ」と口で言うのは簡単ですが、実際につくってみると見ている人に「力が入っている」とちゃんと伝わるようにつくるのはかなり難しいです。
このポーズの場合、「力が入ったポーズ」が眉の形から十分伝わってきます。 眉の形において力が伝わるかどうかは、大きくふたつのポイントがあります。 ひとつは「眉間のシワ」です。
リグの性能にも関わってくるのですが、もし可能であればできる限り眉間のシワをつくることをオススメします。眉の動きは「上下」ではなく「斜め」に動くのが人体構造的に正しいです。眉は、下に下がるときには同時に内側に入り込みます。この「内側への入り込み」を表現するために眉間にシワを付けると、「力が入ったポーズだな」と見ている人にわかりやすくなります。
Point 2:眉の上下の動きと力の入り方②
~眉のへこみ部分~
眉に力が入っているかどうかは、眉間のシワ以外にもうひとつポイントがあります。それは「眉にへこみ部分が入っているか」です。初心者のアニメーターは、眉の形を単純でシンプルな形につくりがちですが、「力が入っている」ことをしっかりと伝えるためには、筋肉の流れや動きが見えるような形にする必要があります。そのひとつが「眉のへこみ部分」です。
このポーズでもうひとつ良くできていたポイントは、「下まぶたの扱い方」です。下まぶたは、顔のパーツの中でも特にポーズをつくるのが難しいです。というのも、他のパーツに比べて単独で動く筋肉が非常に少なく、動きやポーズを上手く表現しないと違和感のあるデザインになりがちだからです。
Point 3:下まぶたの扱い
今回つくってもらったポーズでは、その下まぶたの扱いがとても上手く表現されていました。僕が下まぶたのポーズをつくる際に気をつけている点は、先ほどお話した筋肉と関わりがあります。下まぶたには単独で動く筋肉がほとんどないため、頬をはじめとする周辺の筋肉を使い、下まぶたを動かすための補助をするような動きやポーズをつくると良いです。
とはいえ、実際にポーズをつくるとなると結構難しいかもしれません。カメラのアングルによっては、頬がしっかりと下まぶたを押し上げているように見えるか、ポーズだけで伝えるのが難しい場合があるからです。そういった意味でも、今回のこのポーズはとても良くできていたと思います。
最後に今回のポーズに対して添削したポイントを解説します。くり返しになりますが、表情のデザインをはじめ基本的にはとても良くできていました。一点だけ気になったのは、演技的な面です。このサブテキストを読み解くと、「あれ、おかしいなあ」と頭の中で思っているはずなのに、表情がやや具体的すぎるように感じました。
Point 4:感情変化のルール
キャラクターが感情変化する際、 基本的には「AからB」のように単純に変化することはありえません。僕がいつも気をつけているのは、「気づき」と「思考」です。まず「あれ?」と気がついてそれから考え、この過程を経て次の感情へと移る......、といった段階を踏むのが感情変化の基本的なルールだと考えています。
さらに、「あれ? おかしいなあ」というサブテキストを読み解くと、「あれ?」と言っているので段階的には「気付き(まだ具体的な感情には入っておらず迷いが見える)」表情にすると説得力が増すはずです。
演技の話になると少し難しいかもしれませんが、これまでの話を踏まえた上でこのポーズを改めて見てみると、すでに「具体的に困った表情」になっているように見えますよね。
前回の記事で少し触れましたが、 「感情の度合い」は緊張と緩和によって表現することができます。 今回は眉にとても力が入っているように見えるので、 感情の度合いもより強く見えます。それが「具体的に困った表情」に見える原因となっているようです。
では、「あれ?」というまだ気づきの段階であることを表現するためには、 逆にその力を弱めることで少し曖昧さを入れることができるのではないでしょうか。さらに口元がキュッと締まっているところも力が入っているように見えてしまう原因となっているので、少しだけ緩めてみました。以上のポイントを踏まえて僕が添削した画像がこちらです。
添削前のポーズ
添削ノート
添削後のポーズ
今回は良くできていたポーズだったので良かった部分を解説していきました。僕の添削ポイントとしては、普段よりも少し難易度の高い演技に踏み込んだ話だったので、少し難しかったかもしれませんね。演技は様々なルールが組み合わさっているので、今後ひとつひとつ噛み砕いて解説していこうと考えています。
今回の添削はこんな感じです。最後に、いつもエイド宿題に参加してくださってありがとうございます! 皆さん本当に素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させていただいています。ぜひまた今後も参加してくださると嬉しいです!
「エイド宿題」とは?
「エイド宿題」はTwitterで始めたクリエイターの皆さんへ向けた新しい企画です。オンラインスクールAnimationAidのクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。
●参加方法とやり方
・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。
・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう。
・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。
・エイド宿題とは?
https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/
・エイド宿題 これまでのお題
https://ryowaks.com/category/aidshukudai/
Profile.
-
若杉 遼/Ryo Wakasugi
2012年にサンフランシスコの美術大学Academy of Art Universityを卒業後、Pixar Animation StudiosにてCGアニメーターとしてキャリアを始める。2015年にサンフランシスコからカナダのバンクーバーに移り、現在はSony Pictures Imageworksに所属。CGアニメーターとしての仕事の傍ら、CGアニメーションに特化したオンラインスクール「AnimationAid」を創設、現在も運営のほか講師としてクラスも教えている。これまでに参加した作品は『アングリーバード』(2016)、『コウノトリ大作戦!』(2016)、『スマーフ スマーフェットと秘密の大冒険』(2017)、『絵文字の国のジーン』(2018)、『スモールフット』(2018)、『スパイダーマン:スパイダーバース』(2019)など
●若杉遼 ブログ わかすぎものがたり
ryowaks.com
●AnimationAid
animation-aid.com