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お題その26:「とても悲しい」

お題その26:「とても悲しい」

Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。

TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony​ Pictures​ Imageworks
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE



今回のお題

こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。今回は、「とても悲しい」というテーマでポーズの添削をさせていただきます。

「とても悲しい」というお題では「悲しい」という感情表現に加えて、「とても」という具体的なニュアンスを表現しなければなりません。かなり強烈な感情なので、いかに印象を演出していくかがポイントになってきます。映画でのアニメーションの仕事でも、こういった強烈な悲しさを表現するシーンは「マネーショット」と呼ばれ、特に重要なシーンとして凄腕のアニメーターや経験豊富なアニメーターに任されるケースが多いです。つまり、それだけ難易度の高いお題ということです。

アニメーションにおいて、こういった強烈な印象のポーズを付けるのが難しい理由のひとつとして、「ポーズが大きい=強烈な印象」というわけではないという点が挙げられます。大きなポーズの方がより強い印象を与えるというのはまちがいではないのですが、ある点を超えると(必要以上に大げさになるため)逆に弱く見えてしまうこともあり、「大きさ=強さ」の関係が成立しません。例えば、実写でもアニメーション映画でも往々にしてポーズや仕草が大きかったり、大きなことを言うキャラクターの方が実は強くない......みたいなことってよくありますよね「弱いキャラクターが強がっている」というのも、そういった演出の一部なのかもしれません。アニメーターとして、キャラクターの心情を観客に正確に届けるというのは、思っている以上に難しいものです。

さて、今回のお題で最初に出してもらったポーズも大きな仕草でした。悪いポーズではなく、意図もしっかりと伝わるのでこのままでも問題ないのですが、今回は「とても」という言葉が付いています。このポーズに、さらに強い「悲しい」という印象とニュアンスを加えるためにはどうすればいいのかを考えていこうと思います。


作品01:「とても悲しい」

投稿作品


Point 1:Less is more(余計なものは無い方がいい)

アニメーション業界で有名なおしえのひとつとして、「Less is more(余計なものはない方が良い)」というものがあります。これは、特に初心者のアニメーターがおちいりやすいミスのひとつです。初心者のアニメーターは、演技にしてもアクションにしても、表情にしても全身にしても、「ポーズをつくりすぎてしまう」傾向があります。これでは伝わらないかもしれない......という不安からなのか、あるいはポーズをつくるときに視野が狭くなってしまうからなのか、大げさなポーズだったり必要以上にポーズの数を増やしてしまったり。結果として、ポーズが大げさになったりポーズ数が多すぎたりと、逆に伝わりづらくなってしまいがちです。 こんなときに「Less is more」という考え方が役に立つんですね。「最低限、ここまで見せたら観客には分かってもらえるライン」を見極めるため、自分がつくったポーズやアニメーションを客観的に観ることが必要になってきます。

今回のポーズでも、「実は悲しい」という印象をつくるためにはそこまで大きなポーズは必要なく、むしろ小さいポーズで強い悲しさが表現できるのではないかと考えました。また、アニメーションでポーズをつくる際は、表情が見えるようにつくるのが基本ではあるのですが、今回は僕からの提案ではあるのですが「あえて裏技をつかってみる」ことで、顔を隠すことで悲しんでる様子を強調させるという意図により、キャラクターの顔は下を向いています。このあたりは、かなり賛否が分かれるところかと思います。

ただ、どのような状況においても、こういった判断は「明確な意図と理由」をもって決めるべきだと思います。結果として修正を強いられたとしても、少なくとも監督やクライアントにはなぜこのポーズにしたのか、ちゃんとした理由を説明して提案できるようにしておくのがプロフェッショナルの仕事です。そして、この下を向くというポーズも「情報量を減らす=Less is more」のおしえをちゃんと守っています。


Point 2:フォアグラウンドとバックグラウンド

レイアウトを考える上で重要となる要素として、「フォアグラウンド」と「バックグラウンド」があります。フォアグラウンドとは「最前面」のことで、バックグラウンドとは「背面」のことです。ちなみに、フォアグラウンドとバックグラウンドの間に入ってくる「ミッドグラウンド」というのもあります。

レイアウト考えるときには、この3つの要素を考えて組み立てると奥行きのあるよりドラマチックな構図をつくることができます。


Point 3:3つの要素と大きさ

この3つを要素は、それぞれカメラからの距離がちがいます。距離がちがうということは、当然ではありますがそれぞれの要素の画面内での相対的な大きさも変わってくるということです。この相対的な大きさのちがいを意識する、もしくは場合によって誇張することでこの奥行き感をさらに強調できるので、「より奥行きを感じる=よりドラマチックな演出」をすることができるようになります。

今回のポーズでは、手前に手首が見えています。この構図はとても良くできていて、個人的にもとても好きだったので、3つの要素(今回はミッドグラウンドはありませんが)を意識して、手前にある手首をより大きく見せることでさらにダイナミックさが表現できるのではないかと思いました。


Point 4:ポーズと奥行き感

この発想は、単独のキャラクターのポーズだけでも応用可能です。日本では「外連味(けれんみ)」という言葉で表現したりしますが、アニメーションでは頻繁に使われる誇張の方法ですね。考え方としては、「フォアグラウンド」、「ミッドグラウンド」、「バックグラウンド」と同様です。カメラから見てより近いものを大きく、遠くの物を小さく見せることでダイナミックさを強調します。

ふたつのポーズを比べると、より誇張されているのがわかると思います。ただし、ここでふたつほど注意点があります。ひとつはこのダイナミックさはとても有効に使えるのですが、有効だからこそ「本当に必要かどうか」を自問してから使うようにしましょう。これもやはり、Less is moreという考えとあわせて考えると、やりすぎは良くないということになります。激しいアクションシーンなどではもちろん使えるかと思いますが、場合によってはここまでの表現は必要ではない場合もあります。

ふたつめは「ごまかしに使わないこと」です。ごまかしというのは、例えば「そもそもキャラクターの立ち位置がまちがっている」とか「ポーズが人体構造的におかしい」といった場合に、それを「ごまかす」ためにこの誇張を使うというケースです。誇張表現は、あくまでも元のままでも成立している場合に「それをより強く表現するため」のものなので、まずは上側の作例のポーズをつくり、それからその上で必要であれば少し誇張表現をしてみましょう。

ちなみに、ここでいう誇張表現とはオブジェクトや体のパーツの大きさを少し大きく拡大、もしくは縮小するということです。


添削前のポーズ


添削ノート


添削後のポーズ

今回は、特にレイアウトに関することを含めての解説になりました。「ポーズをつくる」ということを考えると、キャラクターのポーズだけに意識を向けてしまいがちですが、どのように見せるかといった構図やカメラアングルもとても重要な要素になってきます。また、前半では、アニメーションの話になると良く出てくるキーワード「Less is more」についての解説もしました。この考え方は、ポーズのみならずどのような映像表現にも共通して言えることではないでしょうか。今回の記事を通して、そういった考え方が少しでも広めることができたら嬉しいです。

今回の添削はこんな感じです。最後に、いつもエイド宿題に参加してくださってありがとうございます! 皆さん本当に素晴らしいポーズをつくってくださるので、僕も勉強させていただいています。ぜひまた今後も参加してくださると嬉しいです!


「エイド宿題」とは?

「エイド宿題」はTwitterで始めたクリエイターの皆さんへ向けた新しい企画です。オンラインスクールAnimationAidのクラス内で出している「ポーズをつくる」という課題を、Twitterでみんなでやってみようというとってもシンプルな企画です。

●参加方法とやり方

・毎週月曜日にTwitter(@ryowaks)でその週のお題を発表するので、そのお題に沿ったポーズをつくってみましょう。
・CGでつくった、もしくは絵で描いたポーズにハッシュタグ(#エイド宿題)をつけてTwitterに上げましょう。
・ぜひハッシュタグで検索して、他の人がつくったポーズも見てみましょう。

●参考

・エイド宿題とは?
https://ryowaks.com/what-is-aidshukudai/

・エイド宿題 これまでのお題
https://ryowaks.com/category/aidshukudai/

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