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お題その28:「とても幸せ」

お題その28:「とても幸せ」

Sony Pictures Imageworksのアニメーターであり、オンラインスクールAnimationAidの講師も務める若杉 遼氏がTwitter上でお題に沿ったポーズ画を募集する「エイド宿題」。本連載では、その企画で集まった作品をピックアップし、若杉氏がドローオーバーによる添削とそのポイントを解説する。

TEXT_若杉 遼 / Ryo Wakasugi(Sony​ Pictures​ Imageworks
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE



今回のお題

こんにちは、海外でCGアニメーターをやっている若杉(@ryowaks)です。今回は、「とても幸せ」というテーマでポーズの添削をさせていただきます。

「とても幸せ」というお題では、前回の「すこし幸せ」というお題に対して「とても」というニュアンスをどのように出していくのかという点がポイントとなります。また、気をつけたい点として、「とても」を強調しすぎてしまうと大げさな演技になってしまうので、バランスが難しいところでしょう。アニメーションにおいて「わかりやすさ」は、「バランスの良さ」だと考えています。アニメーションでは、ふり切ってしまった大きいポーズや押しつけがましい演技は、逆にわかりにくくなってしまうということが多々あります。

そういう意味では、最初に提出してもらったポーズはかなりバランスの取れた良いポーズでした。今回は、そこからどのように「よりわかりやすくしていくか」を解説していこうと思います。


作品01:「とても幸せ」

投稿作品


Point 1:ネガティブスペースの使い方

ポーズをつくるときには、「ネガティブスペース」の扱いがかなり大切です。そもそも、「ネガティブスペース」とは何かというと、シルエットで切り取ったキャラクターのポーズの部分を黒とすると、その黒い部分以外の余白部分のことをネガティブスペースと言います。

ネガティブスペースがなぜ重要かというと、ネガティブスペースとポーズ本体(黒い 部分)は相対的な関係なので、ネガティブスペースをどのように扱うかによって、「ポーズ自体の明確さ」の印象が大きく変わってきます。特に、ネガティブスペースが大切になってくるのが、指先などの少しごちゃごちゃする部分です。こういった部分でネガティブスペースがないと、ポーズの印象が抽象的になってしまい、どのようなポーズなのかが読み取りづらくなってしまいます。添削前の作例では、シルエットで見ると「指先で持っているピザ」と一対のシルエットになってしまっているので......

・どこまでが指なのか?
・何を持っているか?
・どのように持っているのか?

といった疑問が残ってしまいます。もちろん、シルエットやネガティブスペースだけでその全てを明確にするのは難しい場合もありますが、なるべくそのような疑問を払拭しておく ことは、より明確で具体的なポーズをつくるためには必須です。

指先に上手く余白をつくることで、指の形や持っている物との境界線が明確になり、 より「物を持っている」ことがわかりやすくなったと思います。ここで勘違いしないよう注意したいのが、やはりここでもバランスが大切ということ。必ずしも「ネガティブスペースをつくる=良いポーズ」ということではないので、「あえてネガティブスペースを取らずにシンプルなデザインにする」ことで、不必要に疑問を残さないわかりやすいポーズにすることが必要となる場合もあります。 簡単に言うと、ネガティブスペースをつくるということは具体性が増すということので、そこに視線が集まりやすくなるというわけです。例えば、その部分がポーズの重要なポイントだったり見てほしい部分ではない場合だったりする場合は、綺麗なシルエットとして出す必要はないと思います。


Point 2:ブレークと重さ

先ほど指のポーズについて解説しましたが、ここでも指と関連する話をします。キャ ラクターが物を持っていたり何かにもたれかかっていたり、外部の力が手首にかかる場 合に「ブレーク」という考え方を採り入れることで、力の入り方を上手に表現できるようになります。ブレークというのは、言葉の通り「折れる」と言う意味です。ポーズやアニメーションにおいては、「方向が変わって曲がる」というイメージで覚えておくと良いでしょう。

キャラクターのポーズをつくる際、角ばった印象のポーズは硬い印象をつくってしまうと思われがちなため、避ける人が多いです。確かに人間や動物のような有機的なキャラクターの場合「柔らかさ」は大切な要素の1つで、「硬いポーズ」は悪い意味でCGっぽいと言われてしまう原因ともなるので避けてしまうのも理解できるのですが、場合によっては「角ばった印象」がないと力が弱く感じてしまう場合があるので、この点を意識しておくと良いでしょう。

一般的に何かに力が加わるとそれによって"形が変わる"と言うことが起こるはずなので、 ポーズの流れが"折れる"ことでその力が加わったという表現につながるということです。 上の2つのポーズを見比べると右のポーズの方が力が入っているように見えると思いま す。

ここでも、ブレークをつくること自体が大切というわけではなく、ブレークの具合によって そこにかかる力や重さを表現できるという点が重要です。今回のポーズで少し気になったのが、お皿を持つ手首の角度でした。添削前のポーズでは腕から手首にかけてのラインがまっすぐすぎて、手首に重さがかかっているように見えませんでした。少しだけ手首をブレークすることで、お皿の重さが表現できたらもっと良くなるかなと思いました。


添削前のポーズ


添削ノート


添削後のポーズ

今回は添削前のポーズがとても良くできていたので、それほど大きな修正がありませんでした。ということで、今回はポーズの意図や伝わりやすさに焦点を絞り、よりわかりやすく、より伝わりやすくするためのブラッシュアップに関する解説でした。

アニメーションでも、「ブラッシュアップ(ポリッシュ)」という工程はそういった認識です。新たに要素を加えるのではなく、すでにあるポーズを「よりわかりやすく」、「より伝わりやすく」するにはどうすれば良いか、という点に着目するということです。細かい部分と認識されがちな指のポーズですが、、ちょっとした形のちがいでニュアンスが大きく変わって見えるので、ブラッシュアップの際には真っ先に手をつけたい部分ですね。

また、本稿の冒頭でも解説した「バランス」についても、アニメーションの工程においてそれぞれ少しちがった捉え方になるかもしれませんが、とても大切な考え方ではないかと思います。どのテクニックにしても、「これが正しい」という絶対的な正解があるわけではなく、毎回ケースバイケースの対応が必要です。このポーズやアニメーションで、「何を伝えるのか」と「観客がどう捉えるか」、それらがしっかりと噛みあっているか、相対的な答えがあるということです。

今回の添削はこんな感じ