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No.019:北海道大学 大学院 情報科学研究院 情報メディア環境学研究室

No.019:北海道大学 大学院 情報科学研究院 情報メディア環境学研究室

興味の中心は、逆問題などの応用研究

私の興味の中心は、単にリアルなCG画像の生成よりも、高速化や逆問題、音の計算、デジタルファブリケーションなど、応用研究にあります。主な研究成果は、情報処理学会のCGVI研究発表会や、CG関係の国際会議で発表しています。大きな成果が得られた場合には、SIGGRAPHなどのトップカンファレンスへ投稿することもあります。おおむね、1年間に5件~10件程度の研究発表や論文発表を行なっています。

高速化は、学生時代から継続して研究してきたテーマです。いわゆるPRT法と呼ばれる研究で、光源や材質情報など、輝度計算に関連する関数を基底関数展開して事前計算することで超高速に画像を生成するアプローチを研究しています。事前計算を導入することで、照明条件や材質が変化した場合の画像を瞬時に生成できます。また、GPUを利用した並列計算による高速CG画像生成に関する研究も行なっています。セルオートマトンを利用した雲の動きの簡易シミュレーション法と高速表示法は、私がSIGGRAPHで初めて発表した研究です。その後、この手法を発展させ、水面の屈折・反射による光の集光パターンの高速表示やスポットライトによる光跡の高速表示など、各種の高速計算法を開発しています。

CG映像の逆問題に関する研究は2007年頃から着手しています。通常はユーザーが与えたパラメータからCG画像を生成しますが、逆に、目的とする画像に関する情報を与えてパラメータを求める研究です。例えば、数値流体解析に基づく雲のアニメーション生成において、目的の形状となるようパラメータを自動制御する手法や、実写の雲の色合いを再現するレンダリングパラメータを逆算する研究、煙・炎の変形や形状制御を行う手法、1枚の画像から煙・炎などの流体の3次元密度分布を逆算する手法に関する研究を行なっており、いずれもSIGGRAPHまたはSIGGRAPH Asiaで発表しています。

また、これらの研究の一部はJST CRESTプロジェクトの一環として実施したもので、一連の成果に対して平成26年度文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)を受賞することができました(OLMデジタル・安生健一氏、九州大学・落合啓之先生と連名)。ごく最近では、流体シミュレーションによって得られた速度場を再利用し、微細な渦を効率的に表現する手法や大規模な煙のアニメーションを効率的に生成する手法を開発しています。

ここ数年は、デジタルファブリケーションに関する研究にも着手しており、目的の投影パターンが表示されるようレンズ形状を逆算する研究や、観察方向によって異なる画像が提示される特殊印刷に関する研究を行なっています。このほか、科研費・新学術研究領域プロジェクト「多元質感知」の総括班メンバーとして、CGの新たな可能性も探っています。

GPUによる高速レンダリングの研究

▲雲や霧などのレンダリングは、視線上に沿った散乱光の積分処理が必要なため、時間がかかります。GPUによる並列計算を活用し、リアルタイムにこの計算を行う手法を開発しています[3]

[3]Y. Dobashi, K. Kaneda, H. Yamashita, T. Okita, T. Nishita, "A Simple, Efficient Method for Realistic Animation of Clouds," Proc. SIGGRAPH2000, 2000-7, pp. 19-28

インタラクティブな家具配置システム

▲家具同士の位置関係や部屋の機能を考慮して、インタラクティブに配置できるシステムを開発しています[4]

[4]T. Yamakawa, Y. Dobashi, M. Okabe, K. Iwasaki, T. Yamamoto, "Computer Simulation of Furniture Layout When Moving One House to Another," Proceedings of the 33rd Spring Conference on Computer Graphics, 2017

流れ場の補間に関する研究

▲煙の流れ場の一部分をコピーしたり、カットしたりできる手法を提案しています[5]

[5]S. Sato Y. Dobashi, T. Nishita, "Editing Fluid Animation using Flow Interpolation," ACM Trans. on Graphic, ACM Transactions on Graphics, Vol. 37(5), Article No. 173, 2018

乱流合成に関する研究

▲左の低解像度の煙のシミュレーションに対し、中央に示す別途計算した高解像度の煙の乱流成分のみを転写し、右の映像を作成しています。本手法を用いると、煙の全体的な動きと、詳細な乱流成分を別々にデザインできます[6]/画像提供:佐藤周平先生(富山大学)

[6]S. Sato, Y. Dobashi, T. Kim, T. Nishita, "Example-based Turbulence Style Transfer," ACM Transactions on Graphics, Vol. 37(4), Article No. 84, 2018

複数枚の画像を提示できる特殊印刷

▲手前にある1枚の印刷物を4枚の鏡に映すと、全ての鏡において異なる画像が提示されます[7]/画像提供:櫻井快勢氏(ドワンゴ)

[7]K. Sakurai, Y. Dobashi, K. Iwasaki, T. Nishita, "Fabricating Reflectors for Displaying Multiple Images," ACM Trans. on Graphics, Vol. 37, No. 4, Article 158, August 2018


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