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No.019:北海道大学 大学院 情報科学研究院 情報メディア環境学研究室

No.019:北海道大学 大学院 情報科学研究院 情報メディア環境学研究室

RESEARCH 1:雲および炎のシミュレーションの制御

・研究目的

CG分野において、流体現象のシミュレーションは重要な研究課題のひとつで、様々な手法が提案されています。ナビエ・ストークス方程式と呼ばれる流体の動きを表す方程式を数値的に解析することで、非常にリアルな表現が可能で、映画やゲームなど、エンターテインメントへの応用が進んでいます。映画などの映像制作を行う場合には、演出に応じたビジュアルエフェクトの作成が求められることが多々あり、演出者の意図に沿った形状や動きを表現しなければなりません。

しかし、流体解析は複雑で、目的のビジュアルエフェクトが表現されるようシミュレーションのパラメータを調整することは困難です。計算時間もかかることから、非常に手間のかかる作業となってしまい、大きな問題となっています。本研究はこの問題の解決を目指したもので、雲および炎のシミュレーションの制御法を開発しました[1][2]。この制御法を用いることで、物理法則に則った自然な動きを保ちながらもユーザーの意図した形状や動きを表現することができます。


・先行研究とのちがい

流体シミュレーションを制御する研究はこれまでにも行われていますが、その多くは煙や水を対象としており、雲や炎は対象としていません。これまでの研究では、人工的な外力を加えることによって煙や水の動きを制御し、文字や動物などのユーザーが指定した形状を作成します。実際にはありえない形状や動きの煙や水を表現できる、CGならではの研究です。しかし、人工的な外力によって無理やりに目的の形状や動きへと変化させるため、自然さが損なわれてしまうという問題があります。そこで、私たちは雲や炎のシミュレーションに使われるパラメータを調整することで、自然な動きを保ちながらも目的の映像を表現する手法を開発しています。


・研究方法

雲のシミュレーションを制御する手法について、少し詳しく説明します。雲は太陽熱によって地面が温められ、地上付近の空気塊が熱浮力によって上昇することで発生します。空気塊が上昇すると、その温度が低下し、ある高度になると空気塊に含まれる水蒸気が水滴へと相転移を起こします。この水滴が雲の正体です。私たちはこれらの物理過程を数値的にシミュレーションするプログラムを開発しました。そして、このシミュレーションを制御して目的の形状の雲を生成するしくみを開発しました。本システムでは、まず、ユーザーが雲の目的形状をスクリーン上に直接描きます。その後、目的形状の雲が自動生成されるよう、フィードバック制御を用いて雲のシミュレーションを制御します。

様々な実験を通して、潜熱量というものを調整することで雲の形状を制御できることがわかりました。潜熱というのは、水蒸気から水滴(雲)への相転移の際に放出される熱のことで、雲の鉛直方向への発達を促す浮力を生み出します。そのため、潜熱量を制御することで、雲の高さを調整することができます。この制御には、PID制御と呼ばれる自動制御の分野で用いられている手法を利用しています。

私たちの手法の特長は、人工的な外力を用いていない点にあります。人工的な外力ではなく、潜熱量という物理パラメータのひとつを制御することによって、雲が発生する力学的なメカニズムを破壊することなく、雲の自然な成長を促しながら、目的の形状へと収束させることができます。

▲雲のシミュレーションの制御。潜熱量と水蒸気をコントロールすることで、鉛直方向の雲の成長を促し、指定された形状の雲を生成しています


▲目標形状に2つの穴を設け、ドクロ形状の雲の生成を促した例


この物理パラメータを制御するという考え方を炎のシミュレーションにも応用しています。炎のシミュレーションの場合は外力を用いていますが、それだけでは非常に不自然な流れが発生することがわかりました。そこで、炎の発生源の温度を制御し、足りない部分を外力で補うようにしています。

▲炎のシミュレーションの制御。熱源の温度と外力を組み合わせ、ユーザーの指定した動きや形状の炎を生成することができます。左下の画像のように、ユーザーは炎のインタラクティブなデザインが可能です


・実用の可能性と今後の課題

流体に限らず、物理シミュレーションを制御して目的のビジュアルエフェクトを表現する研究は、映像制作現場で実用できる可能性がおおいにあると考えています。本研究を論文としてまとめる際には、映像制作現場の方々にも意見を伺っており、本研究に対して、一様に興味をもっていただけました。

現場への応用を考えたとき、今後の課題として最も重要なのは、インタラクティブ性ではないかと考えています。流体現象は、動きの計算だけでなく、その画像化にも非常に時間がかかります。私たちの研究によって、目的の形状や動きを生成するための制御はできますが、最終的なレンダリング結果を確認するまでには長い時間がかかります。そして、必ずしもユーザーが満足する結果が得られるとは限りませんし、良い作品をつくる上では様々な表現を試行錯誤することが重要です。そのためには、ユーザーの指示が即座に結果に反映される手法を構築する必要があります。


・参考文献

[1]Y. Dobashi, K. Kusumoto, T. Nishita, T. Yamamoto, "Feedback Control of Cumuliform Cloud Formation based on Computational Fluid Dynamics," ACM Trans. on Graphics, Vol. 27, No. 3(Proc. SIGGRAPH2008), 2008-8, Article 94
[2]S. Sato, K. Mizutani, Y. Dobashi, T. Nishita, T. Yamamoto, "Feedback Control of Fire Simulation based on Computational Fluid Dynamics," Computer Animation and Virtual Worlds(Proceedings of CASA 2017), Vol. 28(3-4), e1766, 2017-5


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