クリーク・アンド・リバー社の社内CGスタジオであり、ゲームの3DCGグラフィックス制作を中心に手がけているCOYOTE 3DCG STUDIO。本連載では、同社のTAチームによる制作に役立つ技術TIPSを紹介していく。
はじめに
おはようございます!!(居酒屋では、1日で初めて会う人にはおはようございます!だぞ!!ってことで......)。COYOTE 3DCG STUDIO テクニカルアーティスト(以下TA)の中村です。
前回「【Maya】COYOTE流 骨打ち! ~キャラクターの骨の設計と配置(1)」では、
・骨打ち前のプランニング
・背骨の骨打ち
......について紹介いたしました。
「COYOTE流骨打ち!」第2回の今回は、前回に引き続き、当スタジオのMonyが作成したVRChat向けモデルのミュリシア-Mulicia-ちゃんを使用して、体のメイン部分(腕・手・脚・頭)の骨打ちを完了させたいと思います。ミュリシアちゃんのデータは以下サイトより購入・ダウンロードが可能です。
では、「COYOTE流骨打ち!」開店でございます。
※注:今回紹介するセットアップ内容は、当連載のために書き下ろしたものになります。販売中データの骨構造とは異なりますので、ご了承ください。
Step 01:知識編
骨打ちに際して、まずは人体の骨に関する基礎的な知識を確認していきましょう。
(イラスト提供:イラストAC)
◆性別による肩幅・鎖骨のちがい
・男性
鎖骨が長く・肩幅が広くなる傾向にあります。
また、鎖骨は逆ハの字になり、いかり肩になりやすいです。
・女性
鎖骨が短く・肩幅が狭くなる傾向にあります。
また、鎖骨は外側に開き、なで肩になりやすいです。
◆手首の骨打ちで間違えやすい箇所
尺骨の突起している骨位置ラインでは手首は回転しておらず、回転している場所は手根骨(8個の骨の集まり)になります。実際に自分の手で尺骨の突起している所を押さえ、手首を回転させてみてください。ほぼ影響がないことがわかると思います。
◆手の甲~指先までは、弓なりになりやすい
手の甲は、手をリラックス状態にしたりグーにして握り拳を作ったりした際に、中手骨と基節骨(第三関節)が弓なりになっているのがわかります。
・指(第一関節~第三関節)も同様に弓なりになります。
・甲を上から見た際には、左右の骨との上下の高さが異なります。
・手首を後ろから見た際には、骨の凹凸頂点部分を線で結ぶと、小指側~親指側へ弓なりになっていることがわかります。
◆性別による骨盤のちがい
・男性
正面から見て骨盤が縦長。上から見てハート型になっており、骨盤中央の角度が約60度と内側寄りになりやすいです。それにより、狭く深い型をしています。
・女性
正面から見て骨盤が横長。上から見てたまご型になっており、骨盤中央の角度が約80度と外側寄りになりやすいです。それにより、広く浅い型をしています。
・骨盤がなぜ違うのか?
女性には、子宮や卵巣などといった内臓器官が男性よりも多くあること。また、妊娠・出産に適した骨の形になっているため、男性・女性で骨盤にちがいがあります。これにより、男性・女性で股の可動域に大きな差があったりします。
◆性別によるシルエットのちがい(肩幅・骨盤のちがいを踏まえて)
・男性は、肩幅が広く、骨盤が横に狭いので、逆三角型になりやすい。
・女性は、肩幅が狭く、骨盤が横に広いので、三角型になりやすい。
Step 02-1:実践編・②clavicle~handの骨打ち
前回はこちらの画像で、①にあたる「背骨」の骨打ちまで進めました。
今回は②の「腕」以降を進めていきます。さて、②~はシルエットで確認する際には非常に見分けづらい部分が多々あります。なので、ワイヤーフレームも表示しながら見ていきます。
Tスタンス・Aスタンスとスタンスが変わると、肩の位置が把握しづらかったりしますので、適切な位置を見分けていきましょう!!
制作された骨は以下の通りです。
1.claveicele:
胸鎖乳突筋(胸骨寄り)と鎖骨の間、鎖骨寄りへ配置
2.shoulder:
鎖骨から見てほぼ横一直線で、脇より若干鎖骨側へ配置
3.elbow:
左右は肘の中心より若干肩寄り、上下は肘よりに配置
4.hand:
手根骨の中心付近に配置
●どこを基準に骨打ちをしているのか?
◆鎖骨
鎖骨にあたる部分は、ミュリシアちゃんは鎖骨の骨がしっかりとわかるモデルになっているため、鎖骨がウェイトによって伸び縮みしてしまうとキャラクターのシルエットが悪くなることから前方寄りに配置しています。今回は解剖学的に正しい位置に配置していますが、CG制作では肩と同じライン上に配置することも非常に多くあります。
例:鎖骨周りと肩甲骨周りの伸びを同等にするため、補助骨に扱える骨数が多くないため、前後の動きを同等にするため、鎖骨のねじれを使用するため、など
◆肩
肩にあたる部分が少し内側に寄っているのは、肩を上げ下げする際にウェイトによる変な凹みをなるべく避けるためです。本来は、腕を下げ、脇下から真っ直ぐに上がった付近が回転の中心になります。
例:補助骨による制御の場合は、解剖学に沿った位置がとても良いです。
◆肘
肘にあたる部分は、肘の形状を保つよう、なるべく外側の肘にあたる部分に寄っています。また肩側に寄っているのも同様の理由になります。本来は、中心に近い位置で回転するのが正しいです。
例:肘が関係ないキャラクターなどは、なるべく解剖学に沿った位置。補助骨による制御の場合は、中心の方が扱いやすい場合が多いです。
◆手首
手首にあたる部分が手根骨の中心にある理由は、上下左右の動きの際にキレイに曲がる位置だからです。
例:可動域を取る際にはもう少し後ろへ、手を反らした際に内側の形状を保つ場合は前へ、というように調整します。
Step 02-2:実践編・②thumb~pinkyの骨打ち
手は、骨数が多く非常に間違えやすい場所なので、注意して骨位置を見分けていきましょう。STEP 01:知識編 にて、手の骨位置が弓なりになることを紹介しました。その点も、モデルで見ていきましょう。
※オレンジの○はend骨想定箇所になります。
制作された骨は以下の通りです。
1.thumb_A~C:
Aは大菱形骨~CM関節の間、B~CはMP関節、IP関節付近へ配置
2.index_A~D:
Aは小菱形骨~CM関節の間、B~DはMP関節、PIP関節、DIP関節付近へ配置
3.middle_A~D:
Aは有頭骨~CM関節の間、B~DはMP関節、PIP関節、DIP関節付近へ配置
4.ring_A~D:
Aは有鈎骨(薬指寄り)~CM関節の間、B~DはMP関節、PIP関節、DIP関節付近へ配置
5.pinky_A~D:
Aは有鈎骨(小指寄り)~CM関節の間、B~DはMP関節、PIP関節、DIP関節付近へ配置
※関節の名称
DIP関節:指の第1関節
PIP関節:指の第2関節
IP関節:親指の第1関節
MP関節:指の付け根にある指の第3関節
CM関節:手の甲の中にある指の第4関節
●どこを基準に骨打ちをしているのか?
◆指
各指、Aの位置は指の可動領域を広げるための配置です。特に指をすぼめる動きなどを取る際には、非常に重要になります。また、今回親指のAが弓なりより外れた位置にありますが、これは、内側に曲げた際と外側に広げた際にキレイに開く位置に配置してあります。
例:表現の可動域を広げる際には、親指にA~Dを入れることもありますし、A~Bの間に補助骨を追加することも多々あります。
各指、B~Dの位置は、サイドから見た際に中心より上にくるよう配置してあります。上に配置してある理由は、指をグーした際に骨格の形、手のシルエットをキレイに見せるためです。また、回転する位置が少しだけ後ろへ移動してあるのは、拳の凹凸をキレイに表現するためです。本来は、指の中心より少しだけ上に来ます。回転に関しても骨と骨が筋肉によりキレイに合うように回っています。
例:よりリアルな表現をする際には解剖学に沿った位置に配置し、各指の筋肉の膨らみ・凹みや骨の凹凸などを表現するために補助骨を追加することもあります。
Step 02-3:実践編・③neck~headの骨打ち
首の動きには、大きく分けて根本の動き、頭の動きの2種類があります。根本の骨を上に配置しすぎると、根本が潰れてしまう、変に折れてしまう等のトラブルが起きる場合がありますので、そこも見分けていきましょう。頭部分は、前後・上下がズレると、変に首で曲がってしまったり、頭単体の動きができなかったりということになりますので、こちらも注意していきましょう。
制作された骨は以下の通りです。
1.neck_A~B:
Aは胸椎2番~頚椎7番の間、Bは頚椎7番~5番の間付近へ配置
2.head_A~B:
Aは頚椎3番~2番の間、Bは頚椎1番~後頭骨(耳裏付近)の間付近へ配置
●どこを基準に骨打ちをしているのか?
◆首
首の骨が2本ある理由は、首だけをグッと前に出したり、首を反ったりする際にA骨がないと可動領域が狭まるからです。B骨によって、首を前に曲げアールを表現したり、首を反り返したときに、頚椎骨の表現をするために入れてあります。
◆頭
頭の骨が2本ある理由は、Aは頚椎の曲げ・反りの表現や左右にひねる際にS字表現をするなど、表現の幅を広げるために必要と考えるからです。Bは頭蓋骨と首の付け根付近の細かい動き、首を引いた際のシャクレを表現するために入れてあります。本来は、首の骨は緩やかなCカーブをしていることが多いのです。
例:表現上、首と頭の骨をそれぞれ1本にして、取り扱いを行いやすくすることが多いです。また、位置もぐっと下へ移動して、首の可動域を増やしたり、もう少し中心にして、首をひねる表現をキレイに見せたりする場合もあります。逆に頭までの間に補助骨を追加して、回転をキレイに見せたり、首周りの筋肉表現をすることもあります。
Step 02-4:実践編・④pelvis~toesの骨打ち
制作された骨は以下の通りです。
1.pelvis:
股関節の大腿骨頭付近へ配置
2.knee:
膝の膝蓋骨~大腿骨(膝関節寄り)の間付近へ配置
3.ankle:
距骨(距踵関節)~(距骨下関節)の間付近へ配置
4.toes:
中足骨(MP関節寄り)~基節骨の間付近へ配置
●どこを基準に骨打ちをしているのか?
◆足
股の骨は、回転した際に股下の広がる位置、骨盤の出っ張り部分、前後した際の前方の骨盤、お尻の凹みなどを補える位置に配置してあります。
例:お尻の膨らみや伸び縮みを保つための補助骨、股の動きを綺麗に保つ骨や骨盤を保つ骨などを入れる際には、解剖学的にしっかりした位置へもっていく方が、綺麗に曲がるようになります。
◆膝
膝の骨は、曲げる際に膝蓋骨の形状を保ちつつ、膝裏の凹み(膝窩)・ハムストリングス筋を保てる位置に配置してあります。
例:膝の動き、膝裏の凹みやハムストリングス筋を表現する骨を追加する場合は、適切な位置で回転する方が良い場合もあります。
◆足首
足首の骨は、上下(上20~30度程度、下45度程度)する際に足の甲(距骨や長趾伸筋・長母指伸筋)が保てる、アキレス腱をキレイに保てる位置へ配置しています。
例:高めのハイヒールを履いているキャラクターなどは、足の甲を綺麗に保つ骨、アキレス腱の動きを再現した骨などを追加することもあります。
◆つま先
つま先の骨は、中足骨(特に親指)の大きい骨部分から先が持ち上がる位置、つま先立ちをさせた際に、綺麗に荷重を支えられる位置などを見極めて配置してあります。
例:土踏まずのラインを綺麗に見せる際には、補助骨を追加することがあります。今回は紹介しておりませんが、足の指で物を挟んだり掴んだりする際には、各足先にも手の指と同様の骨を追加します。
完成
まとめ
今回は、「男性・女性による骨格のちがい」「②clavicle~handから④pelvis~toes」の基本的な体感骨の設定を行いました。全2回の骨打ちは、いかがだったでしょうか? 少しでも、骨打ち作業への苦手意識を解消していただけたら幸いです。
CG制作においてキャラクターの骨打ちは、なかなか「これが最適解!」といったものが存在せず、各スタジオ間やスタッフ間でも流儀が分かれて、非常に難しい分野だと思います。それは、現実では骨以外にも筋肉や脂肪などの動きも関連して体の形状を作り出しているためで、この複雑な形状の変化の表現は大変困難なためだともいえます。
また、キャラクター全てが同じような骨格ではなく、いかにキャラクター性を崩さない骨打ちにするか? ということであったり、システム的に骨の使用数に限界があったりなど、現実世界とはちがった問題で多々悩むことが多くあります。
ですが、「カッコいい!」「かわいい!」キャラクターが、さらにキャラクター性をもって自由に動き回っている姿を見たい!......などと思いながら骨打ちをしてみることで、自然と
「このキャラクターはコレが最適な骨打ちだ!」
......という答えにたどり着けると思います。
また、今回は触れることができませんでしたが、フェイシャル、セカンダリ、ウェイト調整、コントローラにも、いずれどこかで紹介できればと思います。
ではでは、良い骨打ちを。またいずれの臨時開店まで、お疲れ様でした~!!
中村元太 / Genta Nakamura(COYOTE 3DCG STUDIO)
デザイン会社、映像会社にて、アニメーション・リギングなど映像寄りの制作を経験後、テクニカルアーティストに転身。現在は、株式会社クリーク・アンド・リバー社COYOTE 3DCG STUDIOにてリガーとして映像系の経験を基にリアルな骨設計、ウェイト調整など映像のクオリティをゲームに落とし込むことを目的に様々なプロジェクトに従事。若手の育成・社内サポートなどにも関わりながら勤務中!