画にプラス要素を。
画には法則があります。
それは長い年月をかけて、様々な先人たちにより研鑽されてきたものです。CGという分野においても非常に有効な法則で、きっとあなたの知恵と技術になってくれることでしょう。 永く、そして楽しくこの仕事をし続けるために。
そして願わくば貴方の人生に+画を。
今回もWeb連載の強みを活かし、動画チュートリアル『CGWORLD Online Tutorials』と連携してお届けします。
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「流れ」を意識する
新年あけましておめでとうございます。
本年も「+画」および関連の作品達をよろしくお願いいたします。
2023年、気が付けばこの業界に関わって30余年。
なかなかの古株状態になってきました(笑)。
連載(テクスチャイリュージョンも含め)を開始して以来、
年賀状は干支をモチーフに毎年作成しています。
2020年からは「流れシリーズ」として、
画創の「流れの法則」を意識して制作しています。
初めてデッサンを習ったとき、「流れを意識しろ」と教えいただきました。
この「流れ」はどんなものにも当てはまり、
およそ「物と物とのつながりの表現」となるものですね。
意識しなければ何も感じないものですが、
注意深く身の周りを観察していくと「流れ」はそこかしこに存在しています。
2020年、2021年、2022年と「線のつながりと人のつながり」をイメージして制作。ここ数年、新型コロナにより人と人とのつながりを再認識されることになりました。
月日が経ち、さらに多くの幸せなつながりがまたできますように。
2023年の干支は「卯=ウサギ」ですので、模様のどこかに紛れています。
ぜひ探してみてください。
デザイン
柄を探して
干支モチーフも4回目になるとちょっと変化を付けてみたいところです。そのままウサギをつくるのではなく、「柄の中にウサギを入れ込む」といったことをおぼろげながら考えていました。
そんなときにふとネットで目に止まったのが、編み物を使用したランプシェード。そもそもランプは暖かいイメージですが、そこに人の温もりが感じられる編み物がプラスされてさらに温かみが増すイメージに。この柄をつくるためにいろいろと検証しました。
ランプシェード自体はどことなく西洋のイメージがあるので、ここに日本の干支をミックスさせるために和のテイストの画柄を探しました。その過程で、最近ますます盛況なAIでイラストを描いてもらったりしたのですが(「AIに描いてもらう」というのは正しい表現かわからないですが)……、
いやー、すごいですね。私のスケッチなんかより数百倍上手い(笑)。ただ凄すぎて、柄模様にはちょっと使いづらいかな……。模様もいくつか試しましたが、とても簡素なものをイメージしていたので(影絵ですからね)手描きになりました。
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創造する過程は楽しいものですね。ちなみに、そのままいけるのでは? とプロンプトしてみましたが……、
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球の形をした手編みのランプシェード、ウサギ模様……。何となく合っていますかね。
気を取り直して、次にランプシェードの形を決めましょう。球体になる幾何学的パターンがポイントになります。となると多面体になりますが、正多面体は5パターンしかありません。この中で最も近いのは「正十二面体」です。
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真ん中の形はサッカーボールなどによく使用されますが、少しカクカクとして固い印象ですね。右の形は情報量が少なめ。
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……ということで、左の「情報量が多め」のものをベースに、編み込みをしてみました。しかしちょっと固い?
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よく見えるよう五角形パターンのものも作成。こちらの方が「それっぽい」ですが、いまいちディテールが足りていない気がしますね。
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まずは最初のものでレンダリング&ライティングして確認してみます。やや繊細すぎて、毛糸っぽさが感じられないかな。
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毛糸の質感を出すためにディテールを増やしてみます。柔らかい印象にはなりますが、何が何だかわからない形になってしまいました。これはディテール過多なのかもしれません。
ここで、以前「画創の法則」でご紹介した「穴」の法則を使ってみましょう。空気が通る穴を空ける。ディテールはあり過ぎても良くないということです。
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適度に穴をあけた状態で、(実際にはあり得ませんが)二重構造にしてディティールを追加。モデルはこれでいきましょう。実際の工程は動画チュートリアルでご覧いただけます。
画創の法則:「色の法則/寒暖」
ここで画創の法則です。今回は「色の法則」について。「寒色」「暖色」とよく聞きますが、青から緑傾向を「寒色」、赤から黄色傾向を「暖色」とすると、「寒い」「暖かい」といった色の感情を表現できます。また黄色くすると「古く」、蒼くすると「新しく」など、寒色と暖色にはさまざまな表現の意味が含まれますね。
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例えば、このように同じ画でも寒色(画像/上)と暖色(画像/下)では印象がかなり変わってきます。寒色は爽やかな海のブルーで透明感があり、暖色は暖かく夜~夕方にかけてのライトアップのイメージです。
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これら3枚も同じ画ですが、色を変えることにより全く別の表情を見せてくれます。
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青は寒い氷の下(画像/上)、赤は熱い火山の下(画像/下)といった印象ですね。
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さらに青と赤の2つをミックスすることでファンタジックなイメージに。寒色と暖色はそれぞれ単体で使用しても効果的ですが、反対色をミックスさせることで未知のイメージを与えることができます。ご自身のイメージでぜひ試してみてください。
コンポジット
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後で締めることを前提に、かなり露出を高くレンダリングしています。下部の光の表情が良く出るように調整したものです。
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こういった光モノは、フレアの素材がなかなか大切になってきます。今回はV-RayとAfter Effectsの2つをミックスしてみました。
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より一層模様のディティールが見えて、また光が魅力的に映るよう光の加減を調整していきます。
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一応ウサギを編み込んでいるのですが分かりづらくなってしまったので、このような素材を……、
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……最終的に、こんな感じで合成。干支の年賀状なので、ウサギのモチーフは少々嘘っぽくても強調してみました。
3DCGはモデリングやレンダリングした状態でフィニッシュしてしまう方も多いですが、作品として描き出した後にも調整をする楽しみ方もあります。同じ画でも様々な印象を与えることができるので、ぜひ試してみてください。
それでは、本年もよろしくお願いいたします。
今月の動画チュートリアルも、オープンに話せないこと(笑)など盛りだくさんの内容となっています。本稿と合わせてぜひご覧くださいね。
CGにはいつも夢があります。
CG制作を望む全ての方が素敵なCGに触れられるよう、オンラインで活動の幅を広げております。オンラインセミナーやオンライン教材を用意しているほか、講演なども承っておりますのでお気軽にご連絡ください。
本来の画をつくる楽しさをいつまでも忘れずに。
チュートリアル収録内容
<画創の法則>
・流導の法則「空気と穴」
・色の法則「寒暖」
<メイキング>
モデリングからコンポジットまで
使用ソフト:3ds Max、After Effects
長年、セミナーや授業でお話してきた生な感じをぜひ体感いただけたら嬉しいです。動画チュートリアルによる解説ではさらに詳しく内容をご説明しております。
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3ds Max『3DCGクリエイター講座』講座(デジタルハリウッド)
CGに初めて触れる方や新人教育用の教材「CGオペレーション基礎講座」として、基礎固めに効果を発揮しています。3ds Maxの機能をひとつずつ詳細に解説。豊富な作例から楽しく機能を学んでいただけます。
online.dhw.co.jp/course/3dcg
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3ds Max『画龍点睛オンライン』講座
文章だけでは語りつくせない詳細をオンライン形式でお届けします。実践で役に立つ「基本と応用」をCGWORLDの連載『画龍点睛』で制作した作品を通じて解説します。ゼネラリストとしての作品づくりに対する考え方で、さらなるステップアップを。
tutorials.cgworld.jp
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早野海兵/Kaihei Hayano
画龍 / Garyu
ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・コンピュータエンタテインメントを経て創作活動の世界へ。現在、CGWORLD.jpにて「+画」連載中。アートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。
#3dsMax, #adobe aftereffects, #zbrush, #substancepainter
<代表作>
ゲーム『鬼武者』シリーズ
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ
『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
著書『テクスチャイリュージョン』シリーズ
連載「+画」、「画龍点睛」
早野海兵公式サイト:kaihei.net
画龍公式サイト:garyu.mystrikingly.com
Twitter:@Kai_ryu_Kai
TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano(@Kai_ryu_Kai)
EDIT_みむらゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE)