画にプラス要素を。

画には法則があります。

それは長い年月をかけて、様々な先人たちにより研鑽されてきたものです。CGという分野においても非常に有効な法則で、きっとあなたの知恵と技術になってくれることでしょう。 永く、そして楽しくこの仕事をし続けるために。

そして願わくば貴方の人生に+画を。

今回もWeb連載の強みを活かし、動画チュートリアル『CGWORLD Online Tutorials』と連携してお届けします。

記事の目次
    【+画 ONLINE】vol.027: 椅子 / 「心理」を理解してパターンを用意する

    心理の法則:より良いものを認めてもらうために

    今回は「画創 8項目」初の「心理の法則」。

    この業界で仕事をしていると、当然ですが「チェック」というものがあります。
    上司のチェック、クライアントのチェック、お客様のチェック……と様々ですが、
    どれもより良いもの、あるいはニーズに合っているものを作り出すために
    関係者の意見を交換するものですね。

    しかし私たちが人間である以上、その日の気分、体調、環境……等々により
    少なからず影響されることがあります。
    これは決して悪いことではなく、
    見て下さったり購入してくださったりする方々も含め、
    誰にでも心境の変化や気持ちの浮き沈みはあることでしょう。

    書籍等で散見する様々な心理学の法則がありますが、
    今回紹介する「心理系」のお話はそういったものではなく、
    より良いものを認めてもらう、
    またはアピールするときに少し手を貸してくれるものです。
    もちろん本来の「画」がしっかりできていてこそ、効果をさらに発揮します。

    例えば私は会社員時代、上司に何度もチェックをしていただきましたが、
    あるとき、チェックが通りやすいときとにくいときがあることに気が付きました。
    修正前と後で大して変わってない画でも、
    チェックが通りやすかったり、あるいはなかなかOKが出なかったり……。

    詳細は動画の方で話しましょうか(笑)。

    デザイン

    自分の連載を見返して、「建物」特に「室内」をあまり作っていないことに気が付きました。仕事で「背景」を作成することは多いのですが、部屋はだいたいセットで作られているので、その奥の風景等の制作が多いですね。

    時々フルCGだったりもしますが、その場合は現実では実現できないような空想的なイメージが多いです。この作品も室内ではありますが、ちょっと空想的な感じに仕上げています。

    今回は新しいスキャン法「NeRF」を使用して、私の相棒であるアーロンチェアをスキャンしてみました。20年ほど使用している強者(つわもの)です。CGは毎年のように新しい技術が出てきて本当に新鮮ですね。

    初歩的なチェックに対応するパターンの出し方

    CGの作業はやはり大変なので、「何か作ってくれ」と言われたときには1つだけ作ってしまうものです。しかし、これはもう完全にデザインなどが決まっていて、寸分の狂いもなく作業する場合ですよね。まだあまり決まってない部分があるケースでは、1つだけ作るというのは非常に非効率です。やり直しが多くなりますからね。

    では自分が何かを注文する立場になた場合を考えてみましょう。あなたがお店に行って買いたいものが1種類しかなかったら? それしか買うものがなかったらそれを買うと思いますが、「他にもあるかも」と他のお店に探しに行ってしまうかもしれません。アパレルなどでは、同じものでもパターンや色が異なるなど「選ぶ楽しみ」もありますし。

    つまり「パターンを選んでもらう」という行為はクライアントに対する真心でもあります。ということで「チェック3=必ず3つ作る」ということを念頭に置いています。そのときの雰囲気もありますけどね。主には「本命パターン」「量のパターン」「大きさのパターン」などがあります。例えば「本命パターン」でいくとすると、

    1:クライアントのほぼ要求通りの無難なパターン
    2:奇をてらった極端なパターン(ブラフ)
    3:本命(これが通ってほしい!)

    という具合になります。ということで、「3つの椅子を並べた商品広告用の画像をお願いします」というオーダーを受けてみましょう。

    オーダーされた言葉の通りの表現で作るとするならば、このように3つの椅子を均等に真ん中に並べて、商品用として見やくレイアウトすることも「1:ほぼ要求通りのデザイン」ということになります。しかしブックレット内の商品カタログなのであればこれでも良いかもしれませんが、ビジュアル的なインパクトはありません。

    そこで「2:奇をてらう」ものを2つ目に投入してみます。「こんな感じで躍動感があるのも目を惹きますよね」……的なプレゼンをします。しかしながら、これはこちらの狙いではありません。

    そして3つ目にようやく「3:本命」である、デザイン的にかっこ良く見映えがすると思えるベストなものを提示します。

    1で「安心」を
    2で「頭を柔らかく」して
    3で「決定」してもらう

    という方向にもっていきます。もちろん100%セオリー通りに行くわけではないので(広告にもいろいろありますから)、いきなり「2」の案が選ばれるケースもないわけではありません(笑)。ですので、3つのパターンはいい加減なものではなく、どれも平均以上のものを作っておく必要があります。たとえどれが選ばれても成果が出るように。

    量的なパターン

    もう1つは「数のパターン」です。これは経験のある方も多いと思うのですが、量的な談義になるとだいたい「もうちょっと多く」とか「もっともっと」とか「もっと少なく」とか、割と漠然としたイメージで皆さんお話しされます。中には「75%ほど小さくして…」などと言われる方もいらっしゃいますが、想像とズレていることが多いです。人によってイメージしている数と実際の見え方が乖離しているからですね。これも誰が悪いというわけでなく、あえて言うならば「明確に提示できていないプレゼンミス」ということになります。ということで、

    1:本命
    2:多い
    3:少ない

    といった順番で3パターン提案してみると良いでしょう。また2パターンのときは「多い or 少ない」で提案するのが有効です。ほぼ「この中間くらいで」という答えに誘導することができます。つまり我々の目的は「完ぺきに量を決めるのではなく、範囲を限定すること」ということなんです。

    本命の数がこのくらいのバランスだとすれば……、

    2つ目の提案では極端に多く、「わっ!」とびっくりするくらいの数に。

    そして3つの提案では、「え?」というくらい極端に少なく。こういったギャップを見せることで「中間くらいがちょうど良い」と思えてくるのが人間の心理なので、結局は最初に提案した「本命案」に落ち着くケースが多いです。そして、この「数」と似ているのが「大小のパターン」です。これも、

    1:本命
    2:大きく
    3:小さく

    が王道ですね。

    この案が本命だとするならば……、

    唐突に大きいものを提案して頭をリラックスさせる。

    次に小さいものも提案してさらにリラックスしてもらいます。結果、だいたいは中間の案に落ち着くことでしょう。「最初に大きなものから見せた方がインパクトが」とか「小さいものからの方が」とか意見は様々だと思います。確かに状況に寄りますからね。ですが大切なことは「適切なものを選んでもらうこと」です。

    またこの方法は、不条理にサイズを変えられそうになったときにも有効です。例えば……、

    「ちょっと数字が小さすぎない?」と言われた場合に、

    極端に大きくして「ちょっと大きいかな」と感じるものを見せてみる。

    さらに極端に小さいものを見せ「ちょっと小さいかなと」思わせて、

    最後に「ではこのくらいで」と、いかにも調整したかのように元の大きさのものを見せれば、変わったとしても「じゃあちょっとだけ」程度の比較的範囲の小さい誤差で収まります。ですが、例えば「前後の関係」だったりマーケティングだったりと、様々なバックボーンがある場合はこういった王道は通用しないので、事前の情報収集は不可欠です。

    少々記憶があいまいで申し訳ないのですが、「必ず良いものが選ばれるということではないが、私たちは(デザイン的に)良いと思われるものを提案することも仕事だ」と、どこかの上司に言われたことを覚えています。人間には完ぺきはない、ということでもあります。ですので広告のように万人が見るメディアは、多くの試行錯誤が必要なのですね。

    コンポジット

    少し映画っぽい、浅いダーク&クールな印象を心がけました。ベースの画はこんな感じで、後から色を載せやすいような感じにしています。

    こういった湿気のある雰囲気には、「王道・フレア」は必須ですね。

    そしてカラコレでクールな印象に寄せていきます。基本的には3ds MaxのV-Ray上で調整したので、After Effects上ではLUTを適用して微調整で済ませています。「心理の法則」は、決して「相手をコントロールしてやる」といった不穏な使い方をするためのもではありません。心理の法則は「でき得る限り、良いものを良い状態で世に出したい」というクリエイティブな心掛けが根底にあります。クライアントも視聴者も、そして自分自身も。全ての人が納得できる「三方よし」のデザインができると良いですね!

    今月の動画チュートリアルも、オープンに話せないこと(笑)など盛りだくさんの内容となっています。本稿と合わせてぜひご覧くださいね。

    CGにはいつも夢があります。

    CG制作を望む全ての方が素敵なCGに触れられるよう、オンラインで活動の幅を広げております。オンラインセミナーやオンライン教材を用意しているほか、講演なども承っておりますのでお気軽にご連絡ください。

    本来の画をつくる楽しさをいつまでも忘れずに。

    チュートリアル収録内容

    <画創の法則>
    ・心理の法則:バリエーションの操作

    <メイキング>
    モデリングからコンポジットまで
    使用ソフト:3ds Max、After Effects、Luma AI/NeRF

    長年、セミナーや授業でお話してきた生な感じをぜひ体感いただけたら嬉しいです。動画チュートリアルによる解説ではさらに詳しく内容をご説明しております。

    【+画 ONLINE】vol.027: 椅子 / 「心理」を理解してパターンを用意する

    3ds Max『3DCGクリエイター講座』講座(デジタルハリウッド)

    CGに初めて触れる方や新人教育用の教材「CGオペレーション基礎講座」として、基礎固めに効果を発揮しています。3ds Maxの機能をひとつずつ詳細に解説。豊富な作例から楽しく機能を学んでいただけます。
    online.dhw.co.jp/course/3dcg

    3ds Max『画龍点睛オンライン』講座

    文章だけでは語りつくせない詳細をオンライン形式でお届けします。実践で役に立つ「基本と応用」をCGWORLDの連載『画龍点睛』で制作した作品を通じて解説します。ゼネラリストとしての作品づくりに対する考え方で、さらなるステップアップを。
    tutorials.cgworld.jp

    早野海兵/Kaihei Hayano

    画龍 / Garyu
    ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・コンピュータエンタテインメントを経て創作活動の世界へ。現在、CGWORLD.jpにて「+画」連載中。アートディレクターを務めながら講師や執筆等、幅広くCG業界に貢献している。
    #3dsMax, #adobe aftereffects, #zbrush, #substancepainter

    <代表作>
    ゲーム『鬼武者』シリーズ
    『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ
    『EXILE LIVE TOUR 2018-2019 "STAR OF WISH"』
    著書『テクスチャイリュージョン』シリーズ
    連載「+画」、「画龍点睛」

    早野海兵公式サイト:kaihei.net
    画龍公式サイト:garyu.mystrikingly.com
    Twitter:@Kai_ryu_Kai

    TEXT_早野海兵 / Kaihei Hayano@Kai_ryu_Kai
    EDIT_みむらゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE