ZBrushマスターとして独特の存在感を放つVillard・岡田恵太が、ZBrushを用いた勢いのある造形テクニックを毎月紹介していく本連載。今回は、日本神話に登場する八岐大蛇と須佐之男命の戦いをモチーフに、迫力ある造形をつくっていきます。

記事の目次

    日本神話をモチーフに洋風の要素も採り入れてアレンジ

    少しの期間休載していましたが、今回は久しぶりの作品づくりということで、第一印象として迫力のあるものを造形したいと考えました。そこで思いついたモチーフが、日本神話に登場する「八岐大蛇(やまたのおろち)」です。

    八岐大蛇(やまたのおろち)



    『古事記』『日本書紀』に記されている大蛇。出雲国簸川 (ひのかわ。斐伊川 ) の上流にすみ,八つの頭,八つの尾,そして真赤な目をもつと伝わる。スサノオノミコト (素戔嗚尊)に退治され,尾から出た天叢雲剣 (あめのむらくものつるぎ。草薙剣 ) はアマテラスオオミカミ (天照大神)に献上された。八つの支流をもつ河川の神格化と解する説もある。



    出典:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

    ▲『日本略史 素戔嗚尊』(月岡芳年、1887)より、スサノオノミコトが高天原から追放されて出雲国・簸の川の上流でヤマタノオロチを退治する場面

    八岐大蛇が須佐之男命(すさのおのみこと)と対峙している印象に加え、筆者の好きなドラゴンなどの洋風の印象も採り入れた作品にしようと構想しました。

    主要な制作アプリケーション

    ZBrush 2022
    Substance 3D Painter
    Adobe Photoshop
    ・Maya Arnold

    STEP 01:八岐大蛇の頭部の印象を固める

    八岐大蛇は蛇がベースなので、重要な頭部のイメージをまずつくりこんでいきます。

    ▲日本の蛇や龍というより、西洋のドラゴンの顔を意識して進めます
    ▲筆者の場合は、まず口を閉じた状態でつくり進めていきます
    ▲イメージが固まってきたら、口を開いて造形していきます
    ▲口の中も大まかに彫り進めていきます
    ▲正面は睨みをきかせているような印象を意識します

    STEP 02:ポリペイントを交えながら造形を進める

    頭部がある程度できてきたら、ポリペイントで簡単に色を付けていきます。部分的な質感の描き分けをわかりやすくする目的なので、色味もざっくりで問題ありません。

    ▲ポリペイントすることで、モチーフもイメージが固まりやすくなります。歯も足していきます
    ▲身体を伸ばして作成していきます。最終的にあまり見えないと思うのでざっくりで問題ありません
    ▲狂暴な感じを意識していきます
    ▲顎の周辺に棘などのディテールを足していきます
    ▲アルファなどは使わず、手彫りで鱗を作成していきます。手彫りの方が多少時間はかかりますが、顔により馴染むような鱗にできます
    ▲顎にも鱗を作成していきます
    ▲身体に大まかな皺を加えていきます
    ▲鱗はアルファを使用して作成していきます
    ▲頭や首の上あたりのディテールを足していきます

    STEP 03:リトポやUV展開をして仕上げる

    ZBrushのZRemesherやUVマスターを使用して、リトポやUV展開を行なっていきます。コンセプトモデルなのでスピード感のあるやり方で進めていきます。

    ▲ZRemesherで大まかにリトポを行います
    ▲歯も同様にリトポします
    ▲MayaでUDIM形式にUVを整理します(これは身体部分です)
    ▲データ整理が済んだらポリペイントをより細かくし、ディテールを加筆していきます
    ▲ポリペイントでどんどん色味を足していきます
    ▲口元や頭部にも色味を足していきます
    ▲全体的に色の加筆も行いました
    ▲ここで、口の中のディテールが足りないと思ったので加筆しました
    ▲どれくらい口が開くかまだ決まっていないので、ある程度奥までディテールを入れます
    ▲これで、八岐大蛇のZBrushでの作業は完了です

    STEP 04:須佐之男命を作成する

    続いて、八岐大蛇と対峙する須佐之男命を制作します。最終的に小さく表示されるためあまり細部が見えないことと、後ほどPhotoshopで上から加筆するので、大まかなボリュームやシルエットにフォーカスして造形していきます。

    ▲須佐之男命が乗るベースを作成します。岩肌はアルファを使ってスピーディに作成しました
    ▲須佐之男命は後ろ姿なので、引き目に見て雰囲気が出ればOKくらいの感覚で作成します。モデルができたら八岐大蛇と同じようにUVなどのデータ整理を行なっていきます

    STEP 05:Substance 3D Painterでテクスチャを作成する

    ZBrushのポリペイントで作成したテクスチャを、Substance 3D Painterで最終的に仕上げていきます。ラフネスや細かな溝のディテールなどの作成がメインになります。

    ▲鱗がはっきりわかるように、隙間の溝などに明るい皮膚の色を乗せていきます
    ▲鱗などのスペキュラがしっかり乗るように調整します
    ▲須佐之男命は、白っぽい印象になるように意識し、ベースと本体ごと一気に進めます
    ▲白色ですが、ある程度色幅は乗せます

    STEP 06:構図を決め、レンダリングする

    八岐大蛇の頭部を8頭分複製し、Mayaで最終的なレイアウトを制作していきます。レンダリングしては構図を調整しつつ、自分の中で気持ちのいい構図になるように進めていきます。構図が決まったらレンダリングし、Photoshopでレタッチして仕上げます。

    ▲一度、首ひとつの状態でレンダリングして、結果を確認します
    ▲八岐大蛇のモデルを8つに複製し、構図を決めていきます。ただ複製するだけではなく、より口を大きく開けて迫ってくるモデルなどバリエーションをもたせます

    完成

    八岐大蛇と須佐之男命を、黒と白の対比にすることで、視認性を高めました。また、洋風なイメージなので、須佐之男命も白髪にし、自分の思う西洋のテイストに近づけていきました。なかなか迫力ある1枚になったのではないでしょうか。

    今回はゼロから作って大体3日くらいでしたが、最初から完成のイメージをしっかり頭に描いているかそうでないかでスピードは大きく変わると思います。イメージをしっかりもつことは非常に重要ですね。

    岡田恵太/Keita Okada(Villard Inc.)

    デジタルスカルプター、3Dコンセプトアーティスト。株式会社Villard代表取締役。

    国内外の造形に関わる仕事をメインに活動しており、カプコンフィギュアビルダー クリエイターズモデル『モンスターハンター』シリーズのフィギュア原型や『バイオハザード:インフィニット ダークネス』『ELDEN RING』を始め、『シャザム!〜神々の怒り〜』『65/シックスティ・ファイブ』などにも参加している。ジャンルを問わず映像やゲーム、CMなどの主にクリーチャーのコンセプトアート、モデル作成などを多数手がける。

    www.artstation.com/artist/yuzuki
    www.villard.co.jp

    TEXT_岡田恵太 / Keita Okada(Villard)
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)