映画、アニメ、ゲーム、イラスト……。クリエイティブな画づくりの基礎をCGWORLD.jpで学ぼう!
この連載では、画づくりの基礎を学びたい、復習したい人に向けて、有名な映画やTVドラマシリーズからシーンをピックアップして、そのセオリーを解説していきます。紹介する内容は、「画」が関わる全てのクリエイティブに通じるもの。登場する映画やTVドラマを研究しながら、基礎を一緒に学んでいきましょう!
第2回となる今回は、『ブレイキング・バッド』シリーズの視線誘導テクニックの後編です。
栗田 唯/Yui Kurita
高知県出身、ストーリーアーティスト。
2016年にサンフランシスコの美術大学アカデミーオブアートユニバーシティ大学院を卒業。Blizzard Entertainmentにてキャリアをスタートし、『Overwatch』など数々の短編アニメ作品のストーリーボードを手がける。日本に帰国してからは、MARZA ANIMATION PLANETで映像作品『ニンジャラ/Ninjala』などに関わり、その後、Tonko HouseにてNetflixアニメーション作品『ONI 〜 神々山のおなり』に参加。
現在はストーリーアーティストの専門チーム「ソイフル」を立ち上げ、クリエイティブ・ディレクターを務める。2017年より、オンラインクラス「アニメーションエイド」ジェスチャードローイング、ストーリーボード講師。2021年より、京都芸術大学イラストレーションコース ビジュアルストーリーテリング講師。
2023年に著書「カフェスケッチ / CAFE SKETCH感じることはタカラモノ」(ボーンデジタル刊)を発売。
・X(Twitter):@yui_kurita
・Instagram:@yui_kurita
今回の題材
●『ブレイキング・バッド』(2008〜2013)
各シーズンデジタル配信中/ブルーレイBOX全巻セット復刻版27,280円(税込)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2008 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.
●『ベター・コール・ソウル』(2015〜2022)
シーズン1~4 デジタル配信中/シーズン1~2 ブルーレイ&DVD発売中
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2015 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.
●『エルカミーノ: ブレイキング・バッド THE MOVIE』(2019)
ブルーレイ&DVDセット5,280円(税込)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2019 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.
手法4:三分割
画面に縦横2本ずつ線を引いて3×3=9コマに分けて、交差する場所(点)や線上にフォーカルポイントを置くという手法です。バランスが取れた構図になるということで、絵画から写真、映像へと広く用いられるようになりました。
これは前回のシェイプの例(図3-4)として紹介したショットで、実は三分割の視線誘導でもあります。
これは点ではなく線で考えた例。縦の三分割線上にフォーカルポイントがあります。
これも三分割の交差点にフォーカルポイントがあります。
ややネタバレです。縦の三分割線上に顔がある、優れた構図になっています。
手法5:デッドセンター(センターフレーム)
次はど真ん中を意味するデッドセンター、あるいはセンターフレームと呼ばれる手法です。真ん中に置かれた被写体はやはりパワフルに映ります。
これはなかなか面白い画面づくりです。手前のふたりがこれから、真ん中の男性に対して何かをするぞというシーン。手前のふたりをしっかり見せつつ、デッドセンターにあえて次に対象になる人物を置いています。上手な撮り方ですね。
クラウドショットでも、フレームの真ん中がパワフルで、そこに目が行ってしまいます。こんなに人がいっぱいいても、見せたい人物がど真ん中にいるので迷いません。この作品や俳優さんのことを知らない人が見ても、この人に注目するんだなとすぐにわかります。
こちらも画面は忙しいですが、見せたい部分がど真ん中にあるので視聴者は迷いません。照明も上手く使っていて、デッドセンターのふたりがライティングされるように工夫しています。わかりにくい場合は、目を細めて見てみると良いでしょう。
栗田先生のちょっとコラム:巨匠の画づくりは基礎あってのもの
ウェス・アンダーソンやスタンリー・キューブリックは、デッドセンター、センターフレームを上手く利用する映画監督として知られています。センターフレームかつ左右対称(シンメトリー)による印象深い映像で、ファンも多いです。
ただし、これはストーリーテリングのための方法で、セオリーから見ると型破りであることは覚えておきましょう。型破りは型を知っているからこそできる技です。突出した画づくりができる監督の作品を見ると、真似したくなってしまうものですが、基礎をスキップしてそういった名匠の画づくりをモノにすることはできません。
ピカソだって、80歳にして「ようやく子どものような絵が描けるようになった」と言ったくらいです。基礎を身につけてから、ひとつひとつを捨てていくことで、はじめて独創的な絵にたどり着けるということでしょう。
手法6:ハイコントラスト
次はコントラストによって視線を集中させる手法で、究極は白と黒、明暗で見せたいものをパキッと割ることです。
明るい日中の開けた場所で、日陰にいる人物を映せば、シルエットが際立ちます。
見事なショットです。逆光でシルエットが浮かび上がり、自然に人物に視線が誘導されます。
床の光も、道を辿っていくように伸びていて効果的です。低い位置にカメラを置いていることがこの構図のミソですね。
栗田先生のちょっとコラム:コントラストは白黒映画で学ぼう
アマチュアの作品にありがちなのが「コントラストがはっきりせず、どこを見たら良いかわからない画」。そこから脱却するためには、1940~50年代の白黒映画からコントラストの付け方と、照明の使い方を学ぶのがオススメです。フィルムノアールなら『ビッグ・コンボ』(1955)、邦画ならやはり黒澤映画が良いでしょう。
手法7:トライアングル(3つの点)
「良い構図には良い三角形ができる」と言われます。画面内にある3つの点を結んだときに、フォーカルポイントとなる三角形ができるというものです。1点なら手法1のポイント、2点なら手法2のライン、そして3点ならこの手法7のトライアングルということです。
僕の敬愛するブラッド・バード監督(『Mr.インクレディブル』、『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』などを手がける)も構図の鬼で、よくこのトライアングルを使っています。
3名の頭をポイントと捉えて結ぶと、手前の男性に向かう辺が短辺の二等辺三角形になります。この中がフォーカルポイントです。
こちらは目線だけなら左下への見えないラインですが、右の角、目線の先を加えて3点を結ぶと、左下に向かう2辺が長辺となる二等辺三角形になります。
個人的な推測ですが、こうすることで、視線を顔から左下へわかりやすく誘導していて、安定感のある構図になっていると思います。そうでなければわざわざ下から撮らないと思うので、やはり三角形を意識しているはずです。
手法8:ハイブリッド
最後に、これまで登場した7つの手法を組み合わせて使っているショットをいくつか紹介します。
前回紹介した手法2のライン、手法3のシェイプと、今回紹介した手法5のデッドセンター、手法6のハイコントラストを組み合わせた印象深いショットです。
これは少し難しい例で、フォーカルポイントは顔なのですが、腕の曲がり方が拳銃へのリーディングラインとして機能しています。さらに、天井部分がシェイプとして拳銃に作用しつつ、ハイコントラストも組み合わせてあります。めちゃくちゃ上手いです。
もし拳銃の上に天井の黒い部分が重なっていたらハイコントラストになりませんから、それを避けてカメラが上手に撮ったんですね。
演者のジェスチャーによるリーディングラインや、照明によるハイコントラストが上手く効いています。センターフレームも相まって、吸い込まれるように2人の顔の間に視線が向かいます。
背景や照明など何から何までプランされた、文句なしの最高のステージングです!
栗田先生のちょっとコラム:心に残る画づくりをするには?
視線誘導の手法を複数組み合わせたハイブリッドタイプの画づくりをすることで、確実に美しい構図をつくることはできます。では常にどのショットもリッチな画づくりを心がけるべきなのでしょうか?
映画制作の本来の目的はストーリーテリングなので、時には重要な物語展開を伝えるためにあえて簡略化されたショットを選ぶこともあります。意外と「名シーン」と言われるものはとてもシンプルな構図が多かったりしますよね。
例えば前回紹介した、図3-1のシェイプを使ったショット。これはストーリー上特に重要なシーンです。カメラを真下に見下ろすユニークなかたちで撮影していますが、レイアウト的には四角形のフレームだけでかなりシンプルです。シンプルですが、フレーム一点に集中していて、これがかえってパワフルな画面を生み出しているのです。
映像的な強弱のリズムを意識して、ここぞというときにインパクトの強い画づくりをする。そうすることでオーディエンスの心に残る構図をつくることができるのではないでしょうか。
いかがでしたか? 構図に強くなるためには、視点誘導に注目して映画やTVドラマを観るのがオススメです。勉強になりそうな作品を挙げておきますので、ぜひチェックしてみてください。
●栗田先生オススメ映画・TVドラマ「視点誘導」編
・『アイアン・ジャイアント』(ブラッド・バード監督/1999)
・『Mr.インクレディブル』(ブラッド・バード監督/2004)
・『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(ジョージ・ミラー監督/2015)
・『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(クリストファー・マッカリー監督/2018)
・『007 スカイフォール』(サム・メンデス監督/2012)
・『ダークナイト』(クリストファー・ノーラン監督/2008)
次回もまた映画から画づくりを楽しく学びましょう!
Informaion
ストーリーアーティストが教える画面演出の技術
ストーリーボードは物語(脚本)を具現化するための設計図です。ストーリーアーティストはその物語の流れやキャラクターの感情などを画で演出します。本講座では、ストーリーアーティストの栗田 唯が画面演出する技術として、ショットの種類や視線誘導、レンズとの関係性について解説します。
開催日時:2024年3月29日(金)19:00〜22:00
講義時間:180分 ※休憩も含みます
アーカイブ配信:あり
価格:10,000円(税抜)
カフェスケッチ / CAFE SKETCH 感じることはタカラモノ
著者:栗田 唯
定価:3,080円(本体2,800円+税10%)
発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
ISBN:978-4-86246-579-5
総ページ数:168ページ
サイズ:200 × 220 mm
TEXT _kagaya(ハリんち)
ILLUSTRATION_栗田 唯 / Yui Kurita
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)