各社の教育・研修の取り組みに迫る連載企画「クリエイターの学びの現場」。第9回では、『ベヨネッタ』シリーズや『NieR:Automata』などを手がけるプラチナゲームズを取り上げる。同社の開発文化の根底にあるのが、「全員ゲームクリエイター」という考え方だ。前編では、若手へ大胆に裁量を委ねる育成方針や、専門領域を越えてゲームづくりへ関わる文化、その背景にある考え方を紹介する。
※記事内の所属や役職はインタビュー当時のものです。
※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.335(2026年7月号)掲載の「クリエイターの学びの現場 第9回 プラチナゲームズ」を再編集したものです。
プラチナゲームズ株式会社
大阪に本社を構え、東京・福岡にも拠点を置く。約200名規模の開発部門を擁し、自社開発と受託開発の両軸で事業を展開。『ベヨネッタ』シリーズや『NieR:Automata』など、世界市場に向けた3Dアクションゲーム開発を手がけている。
Webサイト:www.platinumgames.co.jp
「全員ゲームクリエイター」の考え方が根づく開発文化
CGWORLD(以下、CGW):まずは、プラチナゲームズの開発体制を教えてください。
中尾裕治氏(以下、中尾):当社では、自社開発と受託開発の両方を行なっています。開発グループ全体では200名ほどいて、タイトルごとにチームを編成しています。規模は案件によりますが、通常は30〜50名程度、大きい案件では外部スタッフも含めて100名近い体制になることもあります。そんな中で、私は開発グループのマネージャー業務を担当しながら、プロジェクト単位ではプロデューサーやディレクターも務めています。『THE WONDERFUL 101: REMASTERED』や『ベヨネッタ3』ではプロデューサーを担当し、『NINJA GAIDEN 4』でプロデューサー兼ディレクターを務めました。
▲開発グループ マネージャー/プロデューサー・中尾裕治氏
CGW:CGWORLDの読者からすると、『ベヨネッタ』シリーズや『NieR:Automata』の印象もあり、プラチナゲームズは“緻密に設計された3Dアクションゲームの会社”という認識が強いと思います。
中尾:ありがたいことに、そういう声をいただく機会は多いです。私たち自身も、「世界に向けて、最先端の面白い3Dアクションゲームをつくり続ける」というところは強く意識しています。その根底にあるのが、「全員ゲームクリエイター」という考え方です。
CGW:それは、職種を問わずゲームづくりに関わる意識をもつ、ということでしょうか。
中尾:そうです。自分の専門領域だけを見るのではなく、「ゲームをつくる」意識をもつことが大事なんです。新入社員にも、その考え方は伝えています。例えば、今回のインタビューに参加している阿部と百瀬の専門はエンバイロンメントですが、彼らの仕事は単に背景をつくるだけに留まりません。「その背景がゲーム内でどんな役割を果たすのか?」、「それをつくると、なぜゲームが面白くなるのか?」まで考えることが求められます。
阿部雄大氏(以下、阿部):実際、当社ではアーティストでもゲーム内容に対して意見や考えを発信します。指示された仕様をそのまま再現するのではなく、コンセプトや意図を汲み取った上で、「こうした方が面白さに貢献できる」と思えば提案する文化があります。
▲アーティスト・阿部雄大氏
CGW:阿部さんは2020年新卒入社とのことですが、どういうことをやりたくてプラチナゲームズへ入られたのですか?
阿部:私は学生時代から、「ゲームに深く関わりたい」という気持ちが強かったんです。アーティストとして画づくりをするだけでなく、ゲーム開発そのものへ踏み込みたい思いがありました。そんな中で、プラチナゲームズには「アーティストの提案を受け入れてくれる会社」という印象があったんです。実際に入社してみると、本当にそういう開発文化が根づいていました。新人の自分が「こうした方がいいのでは?」と勝手に変更を提案したものであっても、面白ければ肯定してくれる。そういう空気の中で、さらに引き上げてもらった感覚があります。
CGW:もともとはコンセプトアーティストや2Dアーティスト志望だったとのことですが、エンバイロンメントに転向した理由も教えてください。
阿部:入社前にはイラスト関連のアルバイトをしていたこともあって、当初は2Dを専門にするつもりでした。でも入社後にゲーム開発の工程を学ぶ中で、「ステージをつくりたい」という思いが強くなり、エンバイロンメント領域へ進みました。その後、企画領域にも関わるようになっていきました。
CGW:3Dは未経験だったのですか?
阿部:そうです。3Dは入社後に学びました。「ゲームが好き」、「アートが好き」という根本的な素養が認められれば、必要な技術は学ばせてもらえる環境があったので、それに助けられました。
CGW:プラチナゲームズには、業務時間外に会社のスペースや機材を使って、自主的な学習や研究を行える制度もありましたね。
百瀬一真氏(以下、百瀬):私の場合は学生時代から3Dによる背景制作を学んでおり、2023年にエンバイロンメント志望の新卒として入社しました。ただ実は最初から「ゲームづくり全体に関わりたい」という明確な意識があったわけではなく、実際に開発現場に入ってから、「自分は背景制作だけでなく、ゲームづくりそのものに関わることが好きなんだ」と気づきました。
▲アーティスト・百瀬一真氏
阿部:百瀬は、背景制作をベースにしながらも、ゲームの遊びやステージの見え方に自然と興味をもっていました。私自身、いろいろなセクションの人と関わりながら、トータルの見え方を考えることに興味があります。背景だけではなく、サウンドやキャラクターの見せ方、カメラアングル、ゲーム全体の演出にも関心があるんです。
中尾:全員が「ゲームを面白くする」という目的を共有していれば、自然と自分の専門領域の外にも目が向く。その結果として、領域を越えた関わり方が生まれているのだと思います。当社には、そういう「越境」を歓迎する文化が根づいているんです。
若手に裁量を渡し、セクション間の「越境」を促す育成方針
CGW:そうした開発文化があったから、阿部さん自身の担当領域も大きく変化していったのでしょうか。
阿部:かなり変わりましたね。『ベヨネッタ3』では、基本的にはエンバイロンメントのアーティストとして背景制作を担当していました。でも『NINJA GAIDEN 4』では、ステージディレクター兼エンバイロンメントアーティストのリードとして、かなり広い範囲を任せてもらっています。
CGW:具体的には、どのような役割を担ったのでしょうか。
阿部:背景制作だけではなく、ステージ全体の仕様や画づくり、遊びの設計、ナラティブとの接続まで含めて、一次判断を担当しています。アーティストと企画の中間に立ちながら、ステージ全体を見ていました。
レベルデザインまで視野に入れた『NINJA GAIDEN 4』のステージ制作
▲『NINJA GAIDEN 4』の開発時につくられたホワイトボックス。プレイヤーの移動時の動線、高低差を活かした戦闘空間などが設計されており、ワープゲートからのエネミー出現位置も書き込まれている
▲先のレベルデザインを基に完成した実機画面。阿部氏や百瀬氏は、背景表現だけでなく、こういった遊びや視線誘導まで含めてステージ全体を設計している
©/™/® 2025 Microsoft/©2025 コーエーテクモゲームス. Team NINJA All rights reserved./© PlatinumGames Inc.
CGW:かなり大きな裁量ですね。
阿部:はい。ステージを最初から最後まで見る立場になったことで、「ゲームの芯に関わっている」実感が強くなりました。
CGW:阿部さんは、もともとコンセプトアーティスト志望だったわけですよね。そう考えると、「世界をつくること」と「遊びをつくること」の両方へ自然に関心が向いていった感じなのでしょうか。
阿部:まさにそうですね。背景を綺麗につくるだけではなく、「ここでどう戦うのか」、「どう進むと気持ちが良いのか」といったレベルデザイン的なしくみまで含めて設計したかったんです。
CGW:世界をつくりつつ、遊びもつくる。両方を理解している人が設計すれば、ゲームがより面白くなりそうですね。
阿部:『NINJA GAIDEN 4』のステージは、そう願いながら設計していました。ビジュアル側だけ、あるいは企画側だけで考えるよりも、両方を横断しながらつくった方が、最終的な体験の密度は上げられると思っています。
CGW:中尾さんは、なぜ阿部さんにそこまで大きな裁量を渡したのでしょうか?
中尾:単純に、私が提案する以前からやりたそうだったんですよ(笑)。阿部は、新人の頃から「もっとゲームに深く関わりたい」という意志が強かった。だったら、実際にやらせた方が伸びるだろうと思ったわけです。もちろん、全部を丸投げしているわけではありません。最終的な防衛ラインはディレクターである私が確保した上で、その中で自由に挑戦してもらっていました。
CGW:若手・中堅が越境していく際、「ここまでならやっていい」という明確な基準はあるのでしょうか。
中尾:「ここから先はダメ」というような、明確な線引きは設けていません。結局、やりたい人は私が提案する前に自発的に行動するんですよ。なので、ルールで制御するのではなく、「この人は、今どこまで踏み込めそうか」を個別に確認しながら、少しずつ後押しするようにしています。
CGW:特に新卒や若手の場合、「どこまで踏み込んでいいのかわからない」というケースもありそうです。
中尾:かなりあります。なので、最初は「どう思う?」、「君ならどうする?」と問いかけるところから始めることが多いですね。その人の考えを聞きながら、「ここまで意見を言っていいんだ」、「ここまで考えていいんだ」という感覚を少しずつ広げていく。ある程度自分で考えられるようになってきたら、まとまった単位で任せるようにしています。
CGW:越境させるというより、“扉を開いていく”感覚に近いですね。
中尾:そうですね。いきなり「自由にやっていい」と言われても、逆に動けない若手の方が多いです。だから踏み込むタイミングや領域に悩んでいる人には、こちらから積極的に問いかけ続けます。「どう思う?」、「もっとこうできない?」と言い続けることで、徐々に視野が広がっていくんです。
阿部:実際、『NINJA GAIDEN 4』ではかなり挑戦させてもらいました。自分が「面白い」と思うものをまず提案して、不足している部分や脇の甘い部分は、周囲の先輩たちが補完してくれる体制になっていたので、安心感もありました。
中尾:そうやって、こぼれそうな玉を拾い合う関係性も「越境」の一種だと思います。
CGW:その育成方針は、阿部さんから百瀬さんにも受け継がれているのでしょうか。
百瀬:そうですね。「一子相伝」のような感じで、阿部から私へと段階的に裁量が移譲されています。現場配属当初は小さなアセット制作から始めたんですが、「ステージをやりたいです」と言ったり、自分で勝手に試したりしているうちに、徐々に任せてもらえる範囲が広がっていきました。『NINJA GAIDEN 4』のDLC開発時には、背景制作だけでなく、地形づくりやエネミーの配置、ステージ進行など、企画寄りの領域にも関わっています。
INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.335(2026年7月号)
特集:『スマスロ ミリオンゴッド-神々の軌跡-』
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2026年6月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota