“派手”とは何か。遊技機メーカー出身で、これまで遊技機映像を数多く手がけてきたエゴ・ワンが、メーカー内での開発実務から得た知見をもとに、その概念を体系的に整理する。本連載では、遊技機の派手な演出を構成する要素を整理する考え方を「派手学」と呼び、After Effectsでの作例を交えながら紐解いてきた。

最終回となる第4回では「色」を取り上げる。色相や明度、彩度といった基本的な考え方を整理した上で、同じ画の差し色だけを変えた比較を通して、色相差と明暗差が派手さにどう作用するのかを見ていこう。

記事の目次

    プロフィール

    株式会社エゴ・ワン

    2022年設立の映像制作会社。「楽しませることに妥協しない!」をモットーに、デジタルとアナログの二刀流で、遊技機やゲームの企画からプリプロ映像をメインに手がける。昨今は内製の作画アニメも好調で、これまでにない新しい試みにチャレンジし続けている

    日比野辰彦/Tatsuhiko Hibino

    エゴ・ワン立ち上げ前は遊技機メーカー2社に在籍し、開発歴は25年ほど。過去には電機メーカー、ゲームメーカーを渡り歩き、遊技機メーカーの仕事に流れ着く。版権周りから映像制作、電機ハードまで広い範囲に知見がある

    中尾椋介/Ryosuke Nakao

    2022年からエゴ・ワンに在籍。もともとはYouTubeの動画制作会社で野球コンテンツ制作に従事。遊技機ファンであり、未経験ながらも独学でエゴ・ワンへ移籍。遊技機愛を軸としつつも、幅広い興味と知見を活かし日々業務に取り組んでいる

    齋藤琉花/Ruka Saito

    2024年からエゴ・ワンに在籍。学生時代にCGを専攻していたが、遊技機については、まったくの未経験で入社。最近はホールへ足を運び、最新の演出の研究に励んでいる。一人前の2Dクリエイターなれるよう日々勉強中

    派手演出における色表現

    さて、4回目となる今回は色表現について、皆さんと紐解いていきたいと思います。デジタルにおける色を突き詰めると非常に深い話になりますので、ここでは「派手学」に活かせる範囲に絞って進めていきます。

    これまでの回でも色にはたびたび触れてきました。第2回では光と影、第3回では柄を扱いましたが、それらの見え方にも色は大きく関わっています。今回は、色を単体の要素として見るのではなく、周囲との“差”をつくるための要素として考えていきます。

    色は単体ではなく「差」で考える

    人の視覚では、色味の違いだけでなく、明暗の差が見え方に大きく影響します。映像でも、近い色同士をわずかに変えただけでは印象の差が小さい一方、明るい部分と暗い部分の差が大きいほど、輪郭や前後関係を認識しやすくなります。

    例えば、同じ赤でもRGB値でR=245とR=240では数値としては異なりますが、見た目の差はごく小さいものです。これに対して、明るい暖色の中へ暗い紫を置くなど、色味と明るさの両方に差をつくると、互いの存在がはっきりしてきます。

    派手学における色も同じです。1色の成分差だけを追うのではなく、複数の色を組み合わせたときに「どの色を目立たせたいのか」「そのために周囲へどの色を置くのか」を考え、色の差によって誇張表現をつくっていきます。

    暖色で構成した空間のイメージ。個々のRGB値よりも、赤〜橙〜黄のまとまりが先に「暖かい」印象をつくる。
    近いRGB値の比較例。数値として差はあっても、見た目の変化は小さい。

    色相と補色・対照的な配色

    色には、色味そのものを表す「色相」があります。色相同士の関係を把握するために便利なのが色相環です。まずは、色が環状にどのように並んでいるかを確認してみましょう。

    色相環のイメージ。色同士の距離を見ることで、近い配色と離れた配色を捉えやすくなる。

    色相環上で向かい合う位置にある2色は「補色」と呼ばれ、互いを強く際立たせやすい組み合わせです。例えば黄系に対しては、青紫〜紫系が反対側に位置します。

    ただし、実際の映像では単独の純色だけを使うことは少なく、グラデーションや発光、質感によって色に幅があります。そのため実制作では、厳密な1点の補色だけでなく、その周辺にある対照的な色相も含めて検討すると扱いやすくなります。本稿では、こうした色相環の反対側にある色域を「反対側の色」として捉えていきます。

    選択色と、その反対側に位置する補色の関係。実制作では周辺の色相まで含めて配色を検討する。

    色相・明度・彩度によるコントラスト

    色を考える上では、色相のほかに「明度」と「彩度」も重要です。
    ・明度:色の明るさの度合い
    ・彩度:色の鮮やかさの度合い

    明度が下がると色は暗くなり、黒に近づいていきます。一方、彩度が下がると色味が弱くなり、同程度の明るさをもつ無彩色(グレー)に近づいていきます。

    明度と彩度のちがい。彩度は鮮やかさ、明度は明るさを表す。

    派手学では、色相環の反対側にある色を使うことだけがコントラストではありません。鮮やかな色とくすんだ色を組み合わせる「彩度差」、明るい色と暗い色を組み合わせる「明度差」も、主役を際立たせるための重要な手段です。

    つまり、色を目立たせたいときには「色相差」「明度差」「彩度差」のどこで差をつくるかを考えることがポイントになります。ここまでが今回押さえておきたい色の基本です。では、実際の画を比較しながら見ていきましょう。

    ※ここでいう「明度」と、後半で扱う「相対輝度」は厳密には別の指標です。本稿では、色を明るい/暗い方向へ調整する要素を明度、RGB値から見た画面上の明るさを比較する目安を相対輝度として使い分けます。

    ハンズオン:差し色による見え方の違いを比較する

    第4回のハンズオンは、After Effectsを開いて手順を追う内容ではなく、色についてさらに深掘りしながら、色の組み合わせによる見え方の違いを確認していきます。色は、それ単体で良し悪しを判断するのが難しい要素です。周囲にどんな色があるか、明るさがどれだけ違うかといった比較が重要になります。

    そこで今回は、同じ絵の色違いを見比べながら、差し色によって何が変わるのかを目で確認していきます。後半では、プラグインによる色の出方の違いについても触れていきますので、ぜひ読後はご自身の環境でも色の見え方について研究してみてください。

    比較用として、第3回のために弊社の齋藤が制作した画像が、派手さと色表現の両方を説明しやすいと思い、許可をもらって使用させてもらいました。なんて頼りになる後輩なんでしょう! では、さっそく画像をご覧ください。

    まずは基準となる画像を見る

    まず、ぱっと見の印象は「金!」ではないでしょうか。その後、全体を見渡すと、紫も使っているな、オレンジ色のフレアもあるな、といった情報が目に留まると思います。

    この画面をざっくり分けると、主に次の3色で構成されています。

    ・金色
    ・紫色
    ・橙色

    ※今回は説明をわかりやすくするため、金色は1色として扱います。

    金色は黄〜橙系、紫はその反対側に位置する青紫〜紫系で、互いを引き立てやすい関係にあります。色相差を活かした王道の組み合わせと言えるでしょう。

    良い感じに派手に見えるのではないでしょうか?

    差し色だけを変えて比較してみる

    では、差し色を緑色・水色・赤色に変えた画像で、それぞれの印象を見ていきましょう。

    • 紫(元)
    • 水色

    ここで重要なのは、4枚とも適用しているプラグインも、プロパティの値もすべて同じという点。違うのは差し色だけです。

    それでも、画面の印象はかなり違って見えるはずです。こうして比較してみると、色の違いが画面全体にどれほど大きく影響するかがよくわかります。

    4枚を比べたとき、見やすさと派手さを最も両立できているのは紫ではないでしょうか。その理由は、金色に対して「色相差」と「輝度差」の両方を確保できているからです。

    色相差:ベースの色と十分に離れているか?

    差し色を選ぶとき、まず重要になるのが色相差です。つまり、ベースの色とちゃんと違う色として認識できるかどうか、ということです。

    今回の画面では、ベースとなる金色が黄〜橙系に寄っています。そこに赤を差し色として使うと、赤は強い色ではあるものの、金色と同じ暖色側に寄っているため、差し色としての分離が弱くなります。画面全体も赤〜オレンジ系へ寄りやすくなります。

    一方で、紫は黄〜橙系から十分に離れた位置にあるため、色相差がはっきり出ます。その結果、金色をベースにしながらも、差し色としてしっかり存在感を出すことができます。

    輝度差:明るい部分と暗い部分の差をつくれるか?

    もうひとつ重要なのが輝度差です。同じ鮮やかさの色であっても、実際の見え方としての明るさは異なります。

    今回の比較では、緑や水色は差し色としては成立していても、金色との明るさの差が小さく、画面全体が同じくらいの明るさに寄って見えます。そのため、派手ではあっても、ややのっぺりした印象になりやすいのです。

    反対に、今回使用している紫は比較的暗く見える色です。そのため、画面の暗い部分を暗いまま残しながら、金色や光源などの明るい部分とのコントラストをつくることができます。

    これまでの回でも度々触れてきましたが、派手さは明るさの量だけでは決まりません。明るい部分と暗い部分の差が重要です。今回の比較でも、その考え方がよく表れているのではないでしょうか。

    4色比較を整理すると

    今回の比較を整理すると、次のようになります。

    :色相差と輝度差の両方を確保でき、派手さと見やすさを両立しやすい
    :色相差はあるものの、金色との明るさの差が小さく、のっぺり見えやすい
    水色:色相差はあるものの、明るく見えやすいため、光の部分との差が弱くなりやすい
    :明るさの差はつくれるものの、金色と色相が近く、差し色として分離しにくい

    差し色を選ぶときは、単に「目立つ色」を選ぶのではなく、ベースの色との関係で考えることが重要です。

    • 紫:色相差・輝度差ともに大きい
    • 緑:色相差はあるが輝度差が小さい
    • 赤:金色と色相が近く分離しにくい
    • 水色:明るく、光との差が弱くなりやすい

    フレアやグローは色とセットで考える

    「エゴ・ワン」ロゴのライン部分に置いてあるフレアを見ると、差し色によって光り方の印象も変化していることがわかります。このフレアは、もともと紫を前提に明るさを調整したものです。

    フレアやグローは、画面を明るくする方向に働く合成を使うことが多いため、元の色が明るいほど白に寄りやすくなります。そのため、同じ設定のまま緑や水色のような明るく見える色に変更すると、光が広がりすぎたり、白っぽく見えたりしやすくなります。

    つまり、色だけを変えて、光に関する設定をそのまま使い回すと、見え方のバランスが崩れることがあるということです。差し色を変更したときは、フレアやグローの強さ、白の入り方、にじみ方まで含めて再調整する必要があります。色バリエーションを大量につくる遊技機映像では、特に意識したいポイントです。

    「赤カットイン」「緑カットイン」といったバリエーションをつくる場合でも、単純に色だけを差し替えるのではなく、色に合わせて光の設計まで見直すことで、演出としての完成度を高めることができます。

    • 水色

    紫・緑・水色・赤の各パターンで、同じ位置のフレア部分を拡大比較。フレアやグローの設定値は同一だが、差し色の違いによって白く見える範囲や光のにじみ方が変化している。特に明るく見える緑や水色では、紫に比べて白に寄る範囲が広くなっていることがわかる。

    After Effectsで色を付ける方法は大きく2系統

    After Effectsで色を付ける方法は、大きく分けて2系統あります。

    (1)元素材の段階で色を付ける
    ひとつは、素材やプラグイン自体が持っている色設定を使い、最初から色を付ける方法です。

    例えば、
    ・Element 3Dのマテリアルやテクスチャ
    ・Optical FlaresのColorプロパティ

    などがこれにあたります。素材そのものの発色をコントロールしやすく、設計段階から色を考えられる方法です。

    (2)あとから色を付ける
    もうひとつは、白やグレー、グラデーションの素材に対して、あとからエフェクトで色を付ける方法です。

    例えば、
    ・塗り
    ・Tritone
    ・VC Color Vibrance
    ・コロラマ

    などがあります。素材を共通化しながら、複数の色バリエーションを展開しやすい方法です。

    おすすめプラグイン:VC Color Vibrance

    色を表現するプラグインはたくさんありますが、VC Color Vibranceは特にオススメです。標準の「塗り」では、素材全体を1色に置き換える使い方になりやすいため、場合によってはベタっとした表現になります。

    一方、VC Color Vibranceは、元の明暗感を活かしながら色を乗せやすく、明るい部分の白い芯を残した表現をつくりやすいのが特長です。そのため、光り物の「白い芯」を活かしながら、高彩度な色を手軽に出すことができます。高彩度の映像を求められることの多い遊技機の映像制作にもピッタリです!

    また、白い芯が残ることで、グロー系のプラグインとも相性が良くなります。同じ素材でも、どの方法で色を付けるかによって、色の乗り方や光の見え方は大きく変わります。

    ぜひ「塗り」とVC Color Vibranceだけでなく、ほかのプラグインでも色の出方の違いを探してみてください。そのうえで、どのプラグインがどのような場面や方向性に適しているのかを検討してみてはいかがでしょうか。

    今回の比較画像で使用した主なプラグイン

    今回の比較画像の色調整・補正では、以下を使用しています。

    VC Color Vibrance(無償プラグイン)
    Optical Flares(有償プラグイン)
    ・塗り(標準エフェクト)
    Element 3D(有償プラグイン)内のマテリアル設定

    仕上げには以下を使用しています。

    Magic Bullet Looks(有償プラグイン):ディフュージョン、ハレーション、ビネット、グレイン、色収差、シャープ
    ・高速ボックスブラー(標準エフェクト)

    まとめ:色表現編

    これまでの内容をまとめると、色表現ではまず色を単体ではなく、周囲との関係で考えることが重要です。

    色相環の関係を押さえたうえで、色相差だけでなく、明度差や彩度差も意識することで、目立たせたい色と馴染ませたい色をコントロールしやすくなります。演出制作やエフェクト制作では、目立たせたい要素に対して対照的な色を配置し、さらに明暗や鮮やかさの差を組み合わせることで、より強いコントラストをつくることができます。

    また、色を変更したときには、フレアやグローなど光に関する設定もあわせて見直すことが重要です。昨今の演出では、色そのものが移り変わっていく表現も多く使われています。その際、前景だけでなくバックグラウンド側の色もあわせて変化させることで、よりダイナミックな見た目につなげることができます。


    さて、4回にわたって「派手学」を学んでまいりましたが、皆様の知的好奇心を少しでも刺激できていたら幸いです。エゴ・ワンでは、デジタル表現の遊び以外にも、映像を“体験”として届けるための試みに数多くチャレンジしております。皆様がどこかでエゴ・ワンのコンテンツを体験する機会がありましたら、ぜひ「派手学」を思い出していただけたらと思います。

    長らくのご支援、ご助言をいただきました方々にお礼を申し上げます。読者の皆様におかれましても、ご一読いただきありがとうございました!

    INFORMATION

    エゴ・ワンでは現在、メンバー募集しております。熱い思いをもっている方、映像を“体験”として届けることに興味がある方の応募をお待ちしております。詳しくはエゴワンHPまで!

    https://www.ego-one.jp/